自己免疫性溶血性貧血

「体がだるい、少し動いただけでも息が切れる…。」その原因不明の不調、もしかしたら単なる疲れではないかもしれません。実は、私たちの体を守るはずの「免疫」が、誤って自分の赤血球を攻撃してしまう「自己免疫性溶血性貧血」という病気のサインかもしれないのです。

この病気は国の指定難病の一つで、令和3年度の国内患者数は1,178人と報告されています。この記事では、なぜ自分の免疫が敵に変わってしまうのか、その不思議なメカニズムから、見逃しやすい症状、そして最新の治療法までを詳しく解説します。あなたの体の謎を解き明かすヒントが、ここにあるかもしれません。

自己免疫性溶血性貧血の概要

自己免疫性溶血性貧血は、英語名を略して「AIHA」と呼ばれます。 私たちの体には、細菌などから体を守る「免疫」という仕組みがあります。 しかし、この免疫が誤って自分の赤血球を敵と判断し、攻撃してしまう病気です。

赤血球は、体中に酸素を運ぶという大切な役割を持っています。 その赤血球が免疫に壊されると(これを「溶血」といいます)、数が減ってしまいます。 結果として貧血が起こり、だるさや息切れといった症状が現れるのです。

この病気は、国の「指定難病」の一つに定められています。 令和3年度の統計では、日本での患者さんの数は1,178人と報告されました。 このように比較的まれな病気であるため、不安を感じる方もいるかもしれません。

原因がはっきりしない「特発性」と、他の病気が原因の「続発性」があります。 例えば、膠原病の一種である全身性エリテマトーデス(SLE)の患者さんです。 ある研究では、50歳より前にSLEを発症した方のほうが、AIHAを起こしやすいことが示されています。

自己免疫性溶血性貧血の種類

自己免疫性溶血性貧血は、赤血球を攻撃する「自己抗体」の性質で分類されます。 自己抗体がどのくらいの温度で元気になるかによって、種類が分かれているのです。 主に、体温に近い温度で働く「温式」と、冷たい温度で働く「冷式」があります。

温式自己免疫性溶血性貧血(温式AIHA)

  • 自己抗体が活発になる温度 体温と同じくらいの約37℃で最も活発になります。
  • 主な特徴 自己免疫性溶血性貧血の中で、一番多くみられるタイプです。

冷式自己免疫性溶血性貧血

体温よりも低い温度で活発になる自己抗体が原因で、さらに細かい種類があります。

  • 寒冷凝集素症(CAD)
  • 自己抗体が活発になる温度 体温より低い温度で活発になります。
  • 主な特徴 体が冷えることで赤血球が壊されやすくなるタイプです。 寒い日に手足が冷たくなると、症状が出やすくなります。
  • 発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)
  • 自己抗体が活発になる温度 一度体が冷えた後、温まるときに赤血球が壊れます。
  • 主な特徴 とてもまれなタイプの貧血で、診断が難しいこともあります。 ある研究レビューによると、特に風邪などのウイルスに感染した後です。 そのあとにお子さんが発症しやすいことが報告されています。

混合型

温式と冷式の両方の性質を持つ自己抗体が存在するタイプです。 このように原因となる自己抗体の性質によって、症状の出方や治療も変わります。

自己免疫性溶血性貧血の原因

なぜ免疫が自分の赤血球を「敵」と見なすのか、その原因は大きく2つに分けられます。 原因がはっきりしない「特発性」と、他の病気などがきっかけの「続発性」です。

特発性(とっぱつせい)

特別な原因が見当たらないタイプで、免疫のブレーキがうまく効かなくなる状態です。 温かい環境で症状が出やすい「温式AIHA」では、約半数がこのタイプです。 もともとの体質や免疫のバランスの乱れが関係すると考えられています。

続発性(ぞくはつせい)

他の病気や感染症、薬剤などが引き金となって発症するタイプです。 主なきっかけは以下の通りです。

きっかけとなるもの

具体的な例

他の病気

・膠原病(全身性エリテマトーデスなど)

・悪性リンパ腫、慢性リンパ性白血病など

感染症

・マイコプラズマ肺炎

・ウイルス感染

薬剤

・一部の薬

特に、膠原病の一種である全身性エリテマトーデス(SLE)が原因となることがあります。 約19,000人のSLE患者さんを対象とした研究の分析では、一つの事実が示されました。 50歳より前にSLEを発症した方のほうが、AIHAを起こしやすいことがわかっています。

また、お子さんの場合、ウイルス感染がきっかけになることがあります。 ある研究レビューによると、風邪などのウイルスに感染した後で発症しやすいです。 これは「発作性寒冷ヘモグロビン尿症」という特殊なタイプでよく見られます。

自己免疫性溶血性貧血の症状

症状は、赤血球が足りなくなる「貧血」と、赤血球が壊れる「溶血」が原因です。 病気がゆっくり進むか、急に進むかによって症状の現れ方も大きく異なります。

体のサインを見逃さないで

ご自身の体調をチェックしてみましょう。

【貧血による主な症状】

  • □ 体がだるく、以前より疲れやすくなった
  • □ 階段を上るだけで動悸や息切れがする
  • □ 周りの人から「顔色が悪い」と言われる
  • □ 急に立ち上がると、めまいや立ちくらみがする
  • □ 原因がわからない頭痛が続く

【溶血による主な症状】

  • 黄疸(おうだん) 白目や皮膚が黄色っぽく見えます。 壊れた赤血球の色素が原因です。
  • ヘモグロビン尿 尿の色が赤褐色やコーラのように濃くなります。
  • 脾臓の腫れ お腹の左上が張ったように感じられます。

タイプによって異なる症状の特徴

自己免疫性溶血性貧血は、タイプによって症状の出方に特徴があります。

病気のタイプ

主な症状の特徴

温式AIHA

症状は人それぞれです。ゆっくり進むこともあれば、急な発熱や呼吸困難を伴うこともあります。

寒冷凝集素症

(CAD)

寒さに当たると手足の指先や耳が冷たくなります。白や紫色に変わる「レイノー現象」がみられます。

発作性寒冷ヘモグロビン尿症

(PCH)

風邪などのウイルス感染をきっかけに、お子さんが発症しやすいです。寒さに当たって数時間後に、悪寒や発熱、背中・手足の痛みなどが急に現れます。

また、他の病気が原因で発症することもあります。 例えば膠原病の一種である全身性エリテマトーデス(SLE)です。 ある研究では、50歳より前にSLEを発症した方のほうが、この貧血を起こしやすいことが示されました。 気になる症状があれば、ためらわずに医療機関へご相談ください。

自己免疫性溶血性貧血の検査・診断

自己免疫性溶血性貧血の診断は、パズルを解くようなものです。 いくつかの検査を組み合わせ、原因を正確に突き止めていきます。 主に血液検査が中心ですが、他の検査を行うこともあります。

貧血と溶血を調べる血液検査

まず、貧血があるか、そして赤血球が壊れているかを確認します。 血液検査では、赤血球の数や新しく作られる赤血球の割合を調べます。 骨髄という血液工場が、頑張って新しい赤血球を作っているかも大切な情報です。

診断の決め手となる直接クームス試験

この病気の診断で、特に重要になるのが「直接クームス試験」です。 赤血球の表面に、自分の体を攻撃する「自己抗体」が付いているかを調べます。 この検査で陽性が出ることが、診断の大きな手がかりになります。

病気のタイプを特定する検査

自己免疫性溶血性貧血には、いくつかの種類があります。 タイプを特定するために、次のような特別な検査を行うことがあります。

タイプ

追加されることがある検査

検査で調べること

寒冷凝集素症

(CAD)

寒冷凝集素価の測定

冷たい温度で働く自己抗体の量を調べます。

発作性寒冷ヘモグロビン尿症

(PCH)

ドナース・ランドシュタイナー(DL)テスト

このタイプに特徴的な自己抗体があるかを調べます。

特にPCHはまれで、診断が難しいことがあります。 ある研究レビューによると、直接クームス試験の結果も多様です。 約3分の1の患者さんでは、典型的な結果にならないことも報告されています。 そのため、専門的な検査で慎重に診断することが大切です。

自己免疫性溶血性貧血の治療

自己免疫性溶血性貧血の治療は、赤血球を壊す免疫の働きを抑えることが目的です。 原因となる自己抗体の種類や貧血の重さによって、治療法は大きく異なります。 主に、体温に近い温度で活発になる「温式」と、冷たい温度で活発な「冷式」で治療方針を分けます。

病気のタイプ

主な治療法

温式AIHA

・副腎皮質ステロイド(免疫の働きを抑える薬)

・脾臓(ひぞう)を取り除く手術

・免疫抑制薬やリツキシマブ(お薬)

冷式AIHA

・体を温めること(保温)

・リツキシマブ(お薬)

・抗補体薬(新しいタイプの薬)

温式AIHAの治療

まず中心となるのは、免疫の過剰な働きを抑える「副腎皮質ステロイド」というお薬です。 このお薬で効果が不十分な場合、次の治療を考えます。 赤血球が壊される主な場所である脾臓を手術で取り除くことや、他の免疫抑制薬を使うことがあります。

冷式AIHAの治療

冷式の場合は、体を冷やさないように「保温」を心がけることが、何よりも大切な治療の基本です。 それでも貧血が改善しない場合は、リツキシマブというお薬が使われます。

特に「発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)」というまれなタイプは、治療が異なります。 ある研究レビューによると、PCHではステロイドの効果が限定的かもしれないと報告されています。 そのため最近では、「補体」という免疫に関わる物質の働きを抑える新しい薬も注目されています。

その他の治療

貧血が非常に重く、命の危険があるような緊急時には輸血を行います。 また、他の病気が原因で発症している場合は、その原因の病気を治療することも重要です。