赤ちゃんを抱っこした時に「ぐにゃぐにゃと芯がない」と感じたり、ほかの子と比べて「首のすわりが遅いかも」と心配になったりしたことはありませんか。その様子は、もしかすると筋肉の「張り」が弱い「筋緊張低下」という状態のサインかもしれません。
「筋力が弱いこと」と混同されがちですが、筋緊張低下は脳や神経からの重要なメッセージである可能性があります。最近の研究では、新生児の診察だけでは見過ごされ、股関節の脱臼といった問題につながるリスクも指摘されており、生後6週間から6ヶ月の超音波検査が推奨されるケースもあります。
この記事では、筋緊張低下の詳しい原因やご家庭で気づける症状、専門的な治療法について解説します。お子さんの大切な成長を見守るために、まずは正しい知識を身につけましょう。
筋緊張低下の概要
「筋緊張低下(きんきんちょうていか)」とは、筋肉の「張り」が弱い状態です。 健康な筋肉は力を入れていなくても、姿勢を支えるために適度な張りを保っています。
しかし筋緊張が低下すると、この張りが弱くなります。 筋肉がマシュマロのようにとても柔らかく感じられたりします。 赤ちゃんの場合、手足がぐにゃぐにゃとした印象を与えることもあります。
「筋力低下」と混同されがちですが、この2つは意味が異なります。
- 筋緊張低下
安静にしている時の筋肉の「張り」が弱い状態です。
- 筋力低下
筋肉から出る「力(パワー)」そのものが弱い状態です。
筋緊張が低いと筋力も弱いことは多いですが、必ずしも同じではありません。 筋緊張低下は、筋肉や神経、脳のいずれかに原因があるサインとして現れます。
特に、生まれつき筋緊張が著しく低いお子さんは注意が必要です。 股関節がゆるく不安定になり、うまく発達しなかったり(股関節形成不全)、関節が外れたり(脱臼)するリスクが高いことがわかっています。
最近の研究では、このような股関節の問題は新生児の一般的な診察だけでは見過ごされる可能性が指摘されています。 そのため、著しい筋緊張低下があるお子さんには、生後6週間から6ヶ月の間に超音波(エコー)検査が推奨されます。 その後も定期的に整形外科で診察を受け、股関節の状態を確認することが大切です。
緊張低下の種類
筋緊張低下は、原因となっている場所によって、主に3つの種類に分けられます。 体を動かす司令塔である「脳や脊髄」の問題か、現場で働く「筋肉や神経」の問題か、という視点で考えると分かりやすいです。
中枢性(ちゅうすうせい)筋緊張低下
- 原因 脳や脊髄といった、体の動きをコントロールする司令塔(中枢神経)に原因があるタイプです。 司令塔から「筋肉をほどよく張って」という指令が、うまく伝わらない状態です。
- 特徴 全身の筋肉が均等に柔らかい傾向にあります。 関連する疾患には、ダウン症候群やプラダー・ウィリー症候群などがあります。
- 特に注意したい点 中枢性の場合、股関節がゆるくなりやすいことが研究で指摘されています。 関節や靭帯のゆるさも、股関節が不安定になるリスクを高めます。 この問題は通常の新生児健診では見過ごされる可能性もあるため、注意が必要です。 そのため、専門医による定期的な診察や、超音波(エコー)検査などが推奨されます。
末梢性(まっしょうせい)筋緊張低下
- 原因 筋肉そのものや、筋肉へ指令を伝える電線役の末梢神経などに原因があるタイプです。 司令塔からの指令は正常でも、現場の筋肉などがうまく応えられない状態です。
- 特徴 はっきりとした筋力の低下を伴うことが多く見られます。 体の中心から遠い手足など、特定の筋肉が弱くなることもあります。 関連する疾患には、筋ジストロフィーや脊髄性筋萎縮症などが挙げられます。
良性先天性筋緊張低下
- 原因 詳しい検査をしても、はっきりとした原因が見つからないタイプを指します。
- 特徴 多くの場合、お子さんの成長とともに症状が自然に改善していきます。 しかし、他の病気が隠れていないかを確認するための専門的な診断がとても重要です。
どのタイプかによって今後の経過や必要なサポートが変わるため、正確な診断が治療への第一歩となります。
緊張低下の原因
筋緊張低下が起こる原因は一つではありません。 生まれつきのものから、後になって現れるものまで様々です。 原因は大きく、司令塔である脳や脊髄の問題と、現場で働く筋肉や神経の問題に分けられます。
中枢性の原因
体の動きをコントロールする司令塔(中枢神経)に、何らかの問題がある場合に起こります。 司令塔からの「筋肉を適度に張って」という指令が、うまく伝わらない状態です。
- 染色体・遺伝子の変化 ダウン症候群やプラダー・ウィリー症候群などが知られています。 また、クリスティアンソン症候群のように、体の幹となる部分の筋緊張低下が特徴的な、稀な神経発達の病気も原因となりえます。
- 脳の形成異常 お母さんのお腹の中にいる間に、脳の形や構造が作られる過程で問題があった場合です。
- 周産期のトラブル 周産期とは、妊娠中から赤ちゃんが生まれて間もない時期のことです。 この時期に、例えば赤ちゃんの脳に酸素が十分に行き渡らない状態などが起こると、脳性麻痺となり筋緊張低下の原因になることがあります。
末梢性の原因
司令塔からの指令は正常でも、実際に動く筋肉や、指令を伝える神経(末梢神経)に問題がある場合です。
- 筋肉自体の病気 筋肉の細胞がうまく働かない、筋ジストロフィーや先天性ミオパチーなどが原因です。
- 神経の病気 脊髄から筋肉へ命令を伝える神経に異常がある、脊髄性筋萎縮症などが挙げられます。
その他の原因
上記以外にも、筋緊張低下につながる原因はあります。
- 特殊な食物アレルギー 例えば、食物タンパク質誘発性腸結腸炎症候群(FPIES)というアレルギーでは、激しい嘔吐や下痢に続いて、ぐったりとした筋緊張の低下が見られることがあります。
- 代謝の異常 体のエネルギーをうまく作り出せない病気も原因の一つです。
- 関節や靭帯のゆるみ 筋肉だけでなく、関節や靭帯が生まれつき柔らかいことも、体がぐにゃぐにゃとした印象につながります。
原因を特定できない場合もありますが、気になる症状があれば専門医に相談することが大切です。
緊張低下の症状
筋緊張の低下によってあらわれるサインは、お子さんの年齢によって少しずつ違ってみえます。 ご家族が「あれ?」と気づくきっかけになる、代表的な様子をチェックしてみましょう。
新生児・乳児期(0歳〜1歳ごろ)
この時期は、体を支える基本的な力が弱いためにみられるサインが中心です。
- からだの様子 抱っこしたときに、ぐにゃぐにゃと芯がないように感じられます。 手足がだらりと力が抜けている様子も、特徴的なサインの一つです。 また、あお向けに寝かせると、カエルのように足がぺたっと開くことがあります。
- 発達の様子 首のすわりやおすわり、寝返りといった運動の発達がゆっくり進む傾向にあります。
- 哺乳や呼吸の様子 ミルクやおっぱいを吸う力が弱く、飲むのに時間がかかります。 泣き声が小さかったり、か細かったりすることもサインです。 まれに、特定の食べ物を口にした数時間後に激しい嘔吐や下痢を繰り返し、ぐったりすることがあります。 これは食物アレルギーの一種(FPIES)の可能性も考えられます。
幼児・学童期以降
活動が活発になるにつれて、動きにくさや疲れやすさが目立つようになります。
- 長時間おなじ姿勢を保つのが難しく、姿勢が崩れやすいです。
- 歩いているときによく転んだり、つまずきやすかったりします。
- ほかの子と比べて疲れやすく、すぐに「だっこ」と求めることがあります。
- 字を書いたり、お箸を使ったりする手先の動きが少し不器用に見えることもあります。
その他の症状
筋緊張の低下は、体の動きだけでなく、ほかの症状を伴うこともあります。 ことばの発達の遅れや、食べ物をうまく飲み込めない(嚥下障害)などもその一つです。
また、原因となる病気によっては、症状が変化することもあります。 例えば、クリスティアンソン症候群という稀な病気では、体の幹の筋緊張低下に加えて、成長とともに手足の力が弱まることがあります。 気になる様子があれば、まずはかかりつけの小児科医や専門の医療機関へご相談ください。
緊張低下の検査・診断
筋緊張低下が疑われる場合、まず医師が診察で体の状態を詳しく観察します。 目で見て姿勢や動きの特徴を確認し、手で触って筋肉の張り具合を確かめます。 関節がどれくらい動くかなども、大切なチェックポイントになります。
診察で筋緊張低下の可能性が高いと判断されると、原因を特定します。 そのために、さらに詳しい検査を行うことがあります。
【主な検査の種類】
- 血液検査 筋肉に異常があると、特定の物質(酵素など)が血液中に増えることがあります。 このサインをキャッチするために行います。
- 画像検査(MRI・CTなど) 脳や脊髄、筋肉の状態を写真のように画像で詳しく見ます。 体の内部に、形や構造の異常がないかを確認します。
- 筋電図(きんでんず)検査 筋肉や神経に弱い電気を流し、その反応を調べます。 筋肉と神経の間の、指令の伝わり方が正常かを確認する検査です。
- 遺伝子検査 血液などを用いて、体の設計図である遺伝子を調べます。 病気の原因となる遺伝子の変化がないかを確認します。
また、著しい筋緊張低下があるお子さんの場合、特に注意が必要です。 股関節がゆるく、不安定になっている問題が隠れていることがあります。
最近の研究では、この股関節の問題は通常の新生児健診で見逃される可能性も指摘されています。 そのため、生後6週間から6ヶ月の間に超音波(エコー)検査が推奨されます。 その後も定期的に整形外科で診察を受け、レントゲン検査で股関節の状態を確認することが大切です。
これらの検査結果を総合的に判断し、筋緊張低下の原因を診断します。 原因を特定することが、一人ひとりに合った治療やサポートへの第一歩となります。
緊張低下の治療
筋緊張低下の治療は、原因となっている病気に合わせたものが基本です。 しかし、根本的な治療が難しい病気も少なくありません。 その場合でも、お子さんの成長や発達を支えるための治療が重要です。
治療の大きな柱は、日常生活をより良く過ごすためのリハビリです。 お子さん一人ひとりの状態に合わせて、専門家がチームで支えます。
- 理学療法(PT) 「座る」「立つ」「歩く」といった、体の基本的な動きを促します。 関節が硬くなるのを防ぎ、正しい姿勢を保つ練習も行います。
- 作業療法(OT) 食事や着替え、文字の練習など、生活に必要な応用動作を学びます。 遊びを通して、手先の器用さや体の使い方を楽しく身につけます。
- 言語聴覚療法(ST) 言葉の発達を助けるだけでなく、食べ物を上手に飲み込む訓練もします。 安全に食事を楽しむための、大切なサポートです。
これらのリハビリに加え、状態に応じて他の治療も行います。 例えば、脳性麻痺などで股関節の変形が進んだ場合です。 骨の形を整えて安定させる手術(骨盤骨切り術など)を行うことがあります。 多くの研究を分析した結果、この手術は股関節の安定に有効とされます。
また、まれに特定の食物アレルギーが原因で筋緊張が低下することもあります。 「食物タンパク質誘発性腸結腸炎症候群(FPIES)」などがその一例です。 この場合は、原因となる食物を避けることが直接的な治療につながります。