「一度ぎゅっと握った手が、なかなか開かない」「理由もなく手足の力が弱くなってきた」——。もし、あなたやご家族にこのような心当たりがあれば、それは単なる疲れではないかもしれません。その症状は、遺伝性の難病「筋強直性ジストロフィー」のサインである可能性があります。
この病気は、筋肉のこわばりや筋力低下が特徴ですが、その本質は全身に影響が及ぶ「多臓器疾患」です。日本では10万人に約7人の方がいるとされ、心臓の不整脈や白内障、日中の耐えがたい眠気など、症状は多岐にわたります。
この記事では、筋強直性ジストロフィーの複雑な病態について、その原因から男女による症状の違いまでを詳しく解説します。ご自身の状態を正しく理解し、向き合うための一歩として、ぜひ読み進めてみてください。
筋強直性ジストロフィーの概要
筋強直性ジストロフィーは、遺伝性の病気です。 主に成人になってから症状があらわれるのが特徴です。 筋肉の病気と思われがちですが、そうではありません。 体中に影響が及ぶ「多臓器疾患」として知られます。
日本では、およそ10万人に7人の方がいるとされます。 これは、全国で約10,000人の方がいる計算です。
この病気には、特徴的な2つの筋肉症状があります。
- 筋強直(きんきょうちょく)現象 力を入れた筋肉がこわばり、すぐには緩められない状態です。 例えば、一度ぎゅっと握った手を、なかなか開けなくなります。
- 進行性の筋力低下と筋萎縮(きんいしゅく) 手足の先や顔、首などから筋肉の力が弱くなります。 そして、時間とともに筋肉がやせて細くなっていきます。
この病気の難しさは、筋肉以外の全身症状にあります。 原因となる遺伝子の異常な情報をもとに作られた物質が、 体の機能を調節する他の遺伝子の働きを乱してしまいます。
これにより、以下のような多彩な症状があらわれるのです。
- 目 白内障(目のレンズが白く濁る)
- 心臓 不整脈(心臓のリズムが乱れる)
- 脳 日中の強い眠気、意欲や集中力の低下
- その他 飲み込みにくさ、糖尿病、前頭部の脱毛など
このように、全身に症状があらわれる可能性があります。 そのため、生活のさまざまな場面で注意が必要になります。
筋強直性ジストロフィーの種類
筋強直性ジストロフィーは、原因となる遺伝子の違いで、 主に「1型(DM1)」と「2型(DM2)」の2種類に分けられます。
体の設計図である遺伝子の、どの部分に異常があるかで、 タイプが分かれるとイメージすると分かりやすいでしょう。
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種類
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1型(DM1)
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2型(DM2)
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原因遺伝子の場所
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19番染色体
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3番染色体
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日本での割合
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ほとんどがこのタイプ
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非常にまれ
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日本の患者さんのほとんどは、このうちの1型です。 そのため、日本で「筋強直性ジストロフィー」という場合、 多くは1型(DM1)のことを指しています。
同じ1型でも、症状のあらわれ方には個人差が大きいです。 最近の研究では、性別によっても出やすい症状が異なり、 治療方針を考える上で重要視されています。
- 筋肉や心臓、呼吸器の重い症状が出やすい傾向があります。
- そのため、女性よりも深刻な状態になることが多いとされます。
- 白内障などの目の病気や、胃腸の不調が出やすいです。
- ホルモンバランスの異常なども報告されています。
また、この病気では心臓への影響も無視できません。 患者さんのおよそ8割に、何らかの心臓の異常が見られます。 筋肉の症状より先に、心臓の問題が見つかることもあります。
このように、種類や性別によっても症状の出方が異なります。 一人ひとりの状態を正確に把握することがとても大切です。
筋強直性ジストロフィーの原因
筋強直性ジストロフィーは、体の設計図である「遺伝子」に生じた、たった一つの変化が原因で起こる病気です。
私たちの体には、たくさんの設計図(遺伝子)をまとめた本棚(染色体)があります。 この病気の原因は、19番目の本棚にある「DMPK」という名前の設計図の中にあります。
具体的には、この設計図に書かれている「CTG」という3文字の言葉が、通常より非常に多く繰り返されてしまうのです。
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状態
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「CTG」の繰り返し回数
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健康な場合
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35回以下
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病気を発症する場合
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50回以上
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症状が重い場合
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数千回以上に及ぶこともあります
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では、なぜこの言葉の繰り返しが全身の症状につながるのでしょうか。 それは、異常に長くなった設計図から作られるコピー(変異mRNA)が、体の中で「毒」のような働きをするためです。
この「毒を持つコピー」は、他の正常な遺伝子が正しく使われるのを邪魔してしまいます。 これを専門的には「毒性獲得機能」と呼びます。
私たちの体は、設計図から必要な部分だけを上手に切り貼り(スプライシング)して、体の各部品を作ります。 しかし、「毒を持つコピー」がこの大事な作業を妨害してしまうのです。 その結果、体中で間違った部品が作られ、全身に影響が及びます。
さらに最近の研究では、この異常なコピーが細胞同士の連絡(シグナル伝達)を乱したり、細胞を早く老化させたりすることも、症状に関わると考えられています。
このように、一つの遺伝子の変化が連鎖的に悪影響を及ぼすことで、筋肉だけでなく全身に多彩な症状が現れるのです。
筋強直性ジストロフィーの症状
この病気の症状は、筋肉だけでなく体のさまざまな部分にあらわれます。 どのような症状が、いつから、どのくらいの強さであらわれるかは、 人によって大きく異なるのが特徴です。
代表的な症状は、主に筋肉に関わるものです。
- 筋強直(きんきょうちょく)現象 筋肉に力を入れた後、すぐに力を抜きにくい状態です。 「ドアノブを握った後、手がなかなか開かない」などが、 よくみられる例として挙げられます。
- 筋力低下と筋萎縮(きんいしゅく) 顔や首、手足の先の方から筋肉がやせていきます。 そして、力が入りにくくなるのが特徴です。 こめかみや頬がこける特徴的なお顔つきになったり、 前頭部の髪が薄くなったりすることもあります。
筋肉以外にも、全身に多彩な症状があらわれます。 最近の研究では、性別によっても出やすい症状が違うことがわかり、 治療方針を考える上で重要視されています。
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分類
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主な症状
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心臓
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患者さんのおよそ8割に心臓の異常が見られます。筋肉の症状より先に、不整脈などが見つかることもあります。
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目
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年齢に関わらず、目のレンズが白く濁る白内障が起こりやすいです。
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脳
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日中に耐えがたい眠気に襲われたり、物事への意欲が低下したりします。
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消化器
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食べ物が飲み込みにくくなる嚥下(えんげ)障害や、便秘などです。
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内分泌
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血糖値が高くなる糖尿病など、ホルモンの異常が見られることがあります。
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また、男女で症状の出やすさに以下のような違いがあります。
- 男性にあらわれやすい症状 筋肉や心臓、呼吸器の重い症状が出やすい傾向があります。
- 女性にあらわれやすい症状 白内障などの目の病気や、お腹の不調が出やすい傾向があります。
このように症状は多岐にわたるため、気になる変化があれば、 早めに医療機関へ相談することがとても大切です。
筋強直性ジストロフィーの検査・診断
この病気の診断は、いくつかのステップを踏んで丁寧に行われます。 まず問診や診察で症状を確認し、病気が疑われる場合に、 詳しい検査を組み合わせて総合的に判断していきます。
診察では、この病気に特徴的なサインを探します。 例えば、手を強く握った後、すぐに開けるかを確認します。 開きにくい場合は「筋強直現象」という重要な手がかりです。 その他にも、お顔つきや筋力が低下している場所を診ます。
病気の可能性が高いと判断した場合、次のような検査に進みます。
- 血液検査 筋肉が壊れると血液中に出てくるCKという酵素を調べます。 また、糖尿病など他の病気がないかもあわせて確認します。
- 筋電図検査 筋肉に細い針を刺し、筋肉の電気的な活動を記録します。 この病気に特徴的な「ミオトニー放電」という波形を探します。
- 遺伝子検査 診断を確定するために行われる、とても重要な検査です。 血液から、原因遺伝子の異常を直接調べることで確定します。
そして、この病気の診断で特に大切なのが合併症の検査です。 中でも心臓は、患者さんのおよそ8割に異常が見つかります。 筋肉の症状より先に、心臓の問題があらわれることもあります。
そのため、心電図検査などに加え、最近では診断の際や、 定期的な検査で心臓MRI(CMR)検査が推奨されています。 この検査で心臓の状態をより詳しく評価できるためです。 その他、白内障などを調べる眼科の検査も欠かせません。