病的骨折

わずかな衝撃で骨折してしまい、「なぜこんなことで?」と不安を感じていませんか?
軽く転んだだけ、あるいは咳やくしゃみ、寝返りといった日常的な動作で骨が折れるなど、これまで経験したことのない異常に戸惑うこともあるでしょう。
これは「病的骨折」と呼ばれる状態であり、その背景には骨の強度が低下する病気が隠されています。

本記事では、病的骨折の概要から、がんの骨転移や骨粗しょう症、さらには特定の治療で骨折リスクが増すケースなど、多岐にわたる原因を解説します。
動脈瘤性骨嚢腫(ABCs)と診断された方の約8%に病的骨折が認められるなど、具体的なデータも交えながら、その症状、検査、そして適切な治療法までを詳しく紹介します。

この記事を通じて、ご自身の症状への理解を深め、早期に適切な診断と治療を受けるための手がかりを見つけることができるでしょう。
骨の健康を取り戻し、安心して日常生活を送るための一助となれば幸いです。

病的骨折の概要

病的骨折とは、健康な骨であれば耐えられるはずの、ごくわずかな力や衝撃で骨が折れてしまう状態をいいます。これは、骨そのものに何らかの病気が隠れているために、骨の強度が低下していることで起きる現象です。

本来、私たちの骨は丈夫にできており、ある程度の衝撃には耐えることができます。しかし、骨が病気によってもろくなっていると、たとえば転んだり、ぶつけたりといった軽い衝撃だけでなく、ひどい咳やくしゃみ、あるいは寝返りを打つなどの日常的な動作だけでも骨折に至ることがあります。

病的骨折を引き起こす病気は多岐にわたります。代表的なものとしては、がんが骨に転移して骨が弱くなるケースや、骨粗しょう症、さらには骨にできる良性あるいは悪性の腫瘍などが挙げられます。

特に、骨が溶ける性質を持つ病変として「動脈瘤性骨嚢腫(ABCs)」があります。この病気は溶骨性の非悪性血管病変で、ABCsと診断された方の約8%に病的骨折が認められるという報告もあります※。ABCsは骨の一部が空洞になり、血管が異常に増殖することで骨が弱くなる病気です。

このような骨折は、高齢者だけでなく、若年者や成長期の子どもにも見られることがあります。通常の骨折とは異なり、病的骨折の場合はその背景にある病気を正確に特定し、根本的な治療を進めることが非常に重要です。動脈瘤性骨嚢腫(ABCs)による病的骨折の治療方針については、年齢や、骨の成長に関わる「成長板」が閉じているか開いているか、病変がある場所、そして外科医の専門知識など、患者さん一人ひとりの状態を慎重に評価した上で検討が進められます※。標準的な治療ガイドラインがまだ確立されていないため、個々の状況に応じたきめ細かな対応が求められるといえるでしょう。

病的骨折の種類

病的骨折は、骨が健康な状態であれば耐えられる程度のわずかな力や衝撃で起こる骨折です。この骨折は、骨が弱くなる原因となる特定の病気によっていくつかのタイプに分けられます。それぞれの原因によって、骨折の起こり方や必要な対処法が異なります。

がんや骨の病変による骨折

がんが悪性腫瘍として骨に転移すると、骨は著しく弱くなり、病的骨折を引き起こすことがあります。特に、乳がん、前立腺がん、肺がんなどは、骨に転移しやすいことが知られています。

また、前立腺がんの治療では、男性ホルモンを抑えるアンドロゲン除去療法(ADT)が行われます。これに新しいアンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤(ARSI)という薬剤を追加する治療は、骨折のリスクを約2.32倍、転倒のリスクを約2.22倍に高めることが報告されています※。そのため、ARSIによる治療を受ける患者さんには、骨の状態を詳しく確認し、骨に関連する副作用(有害事象)がないか注意深く見守ることが重要です。

良性の骨腫瘍や骨嚢腫も、病的骨折の原因となることがあります。その一つに「動脈瘤性骨嚢腫(ABCs)」があります。これは「溶骨性(ようこつせい)」と呼ばれる、骨を溶かす性質を持つ病変で、がんではありませんが、血管が異常に増えることで骨に空洞ができ、骨が弱くなります。動脈瘤性骨嚢腫(ABCs)と診断された患者さんの約8%に、病的骨折が起こることがわかっています※。

動脈瘤性骨嚢腫(ABCs)による病的骨折の治療方針は、患者さんの状況に合わせて慎重に検討されます。具体的には、以下の要素が考慮されます※。

  • 患者さんの年齢
  • 骨の成長に関わる「成長板」が閉じているか、まだ開いているか
  • 病変がある場所
  • 担当する外科医の専門知識

これらの要因によって、治療法は個別に対応されるため、標準的な治療ガイドラインはまだ確立されていません。

その他の原因による骨折

病的骨折は、骨粗しょう症による骨折と混同されがちですが、骨粗しょう症以外の特定の病気が原因で起こるものを指すのが一般的です。

例えば、以下のような病気や状態が病的骨折の原因になります。

  • 希少な骨の病気: 骨パジェット病や骨形成不全症など、骨の構造や形成に異常がある病気によって、骨がもろくなることがあります。
  • 特定の薬の副作用: 長期間のステロイド使用など、特定の薬剤が骨密度を低下させ、骨が弱くなることで病的骨折に至るケースもあります。

骨折部位による複雑性

骨折が起こる体の部位によって、その診断や治療の複雑さは異なります。特に股関節の一部である「股臼(きゅうがい)骨折」は、外科的な治療を行う際に、評価すべき項目が非常に多岐にわたることが指摘されています※。

股臼骨折の治療効果を評価する際には、以下のようなさまざまな視点から患者さんの状態を把握する必要があります※。

  • 痛みの度合い
  • 自立して歩ける能力
  • 関節が動く範囲(可動域)
  • 骨がどれだけきれいに修復されたか(整復の質)
  • 本来は骨がない場所に、新しく骨ができてしまう「異所性骨化」の有無

このように評価項目が非常に多様であるため、股臼骨折の治療に関する研究では、研究ごとに評価する項目が大きく異なり、結果を比較することが難しいという課題があります。このため、医療現場では、治療の評価基準を統一するための「コアアウトカムセット(COS)」と呼ばれる標準的な評価項目の開発が求められています。

このように、病的骨折は単一の病態ではなく、その背景にある原因や骨折した部位によって多岐にわたるため、個別の診断と、患者さん一人ひとりに合わせた治療計画が不可欠です。

病的骨折の原因

健康な骨であれば耐えられるはずのわずかな力や日常動作で骨折してしまう「病的骨折」。その背景には、骨そのものの強度を低下させる特定の病気や、その治療が隠されています。なぜ骨が弱くなり、通常では考えられないような骨折につながるのか、その主な原因を見ていきましょう。

  • がんの骨転移
    乳がん、前立腺がん、肺がん、腎臓がんといった悪性腫瘍が骨に転移すると、がん細胞が骨を破壊する物質を放出したり、骨の代謝バランスを崩したりして骨組織が弱くなります。これが病的骨折の原因として最も多く、進行すると骨がスカスカになる、あるいは骨の一部が溶けるといった状態に陥ることもあります。
  • 原発性骨腫瘍
    骨自体に発生する良性または悪性の腫瘍も、骨組織を弱める原因となります。腫瘍が骨の内部で増殖することで、正常な骨構造が破壊され、強度が低下してしまうからです。
  • 骨粗しょう症
    骨粗しょう症は、骨密度が低下して骨の内部がスカスカになり、もろくなる病気です。特に高齢の女性に多くみられるものの、栄養不足や運動不足、あるいは他の病気や特定の薬の影響で若年層にも発生します。骨粗しょう症が進行した骨は、軽い衝撃でも容易に骨折してしまうため、病的骨折の主要な原因の一つです。
  • 代謝性骨疾患
    副甲状腺機能亢進症や腎性骨異栄養症、骨軟化症といった代謝性骨疾患も、骨の形成と破壊のバランスが崩れることで骨を脆弱にし、病的骨折を招きます。これらの病気では、骨の代謝に関わるホルモンやミネラルの異常が骨の質や量に影響を与えやすいと考えられています。
  • 薬剤の影響
    特定の薬剤を長期間使用することで、骨がもろくなる場合があります。例えば、前立腺がんの治療でアンドロゲン除去療法(ADT)に新規アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤(ARSI)を併用すると、骨折のリスクが約2.32倍、転倒のリスクも約2.22倍に高まると報告されています※。このような治療を受ける患者さんには、骨関連有害事象の管理とモニタリングが特に重要です。また、ステロイド薬の長期服用も、骨粗しょう症を引き起こし、結果として病的骨折のリスクを高める要因となります。
  • 放射線治療の影響
    がん治療の一環である放射線治療も、照射された骨の組織に影響を与え、強度を低下させる場合があります。骨転移に対する定位放射線治療(SBRT)では、高い確率で病巣を制御し、痛みを和らげる効果が期待できますが、治療を受けた部位で3.1%の割合で病的骨折が発生したという報告もあります※。これは、がんによる骨の破壊が進んでいる中で治療が行われるため、骨自体の脆弱性が高まっていることと関連していると考えられています。
  • 骨の感染症
    細菌などが骨に感染して炎症を起こす骨髄炎も、骨組織を破壊し、骨の強度が低下することで病的骨折の原因となります。炎症が長期化すると、骨の内部に膿がたまり、骨が溶かされるといった変化が生じるからです。

このように、病的骨折は単に骨が折れたという事実だけでなく、その背景に隠されたさまざまな病気が原因となります。そのため、原因となっている病気を正確に特定し、それに応じた根本的な治療を進めることが、さらなる骨折を防ぎ、患者さんの生活の質を守る上で不可欠です。

病的骨折の症状

病的骨折の症状は、骨がもろくなった原因や、骨折が起こった体の部位によってさまざまです。

最も多く見られるのは「痛み」です。この痛みには、次のような特徴が見られます。

  • 安静時にも続く痛み
    何もしていない時でも、ズキズキとした痛みが感じられることがあります。
  • 動かすと悪化する痛み
    体重をかけたり、体を動かしたりすると、痛みがさらに強くなる傾向が見られます。
  • 一般的な痛みとの違い
    通常の筋肉痛や軽い打撲による痛みとは異なり、骨そのものが破壊されたり、周囲の神経が刺激されたりすることで生じるため、持続的で強い痛みであることが少なくありません。

また、骨折した部位によっては、痛み以外にも次のような症状が現れることがあります。

  • 腫れや変形
    骨折した部分が腫れたり、見た目に変形が生じたりする場合があります。
  • 機能障害
    骨折により、手足を動かしにくくなったり、体重を支えられなくなったりすることがあります。
  • 神経症状
    特に背骨(脊椎)に病的骨折が起こった場合、骨の変形によって脊髄や神経が圧迫されることがあります。この圧迫により、次のような神経症状を引き起こす可能性があります。
  • 手足のしびれ
  • 筋力の低下
  • 感覚の麻痺

さらに、がんが骨に転移した場合の治療として行われる「定位放射線治療(SBRT)」を受けている方も注意が必要です。SBRTは、骨転移による痛みを和らげ、病変の進行を抑える効果が期待できる治療法です。しかし、この治療を受けた後、非脊椎骨(背骨以外の骨)に3.1%の割合で病的骨折が起こる可能性が報告されています※。SBRTで治療した部分に新たな痛みや機能の異常を感じた場合は、治療による効果だけでなく、病的骨折の可能性も念頭に置き、速やかに医療機関にご相談ください。

上記のような症状に心当たりがある場合は、放置せずに早めに医療機関を受診することが、適切な診断と治療につながる第一歩となります。

病的骨折の検査・診断

病的骨折を正確に診断するには、単に骨折の有無を見るだけでなく、その背景に潜む病気を特定し、骨折の状態を詳しく把握することが欠かせません。この診断プロセスでは、患者さんのお話を伺う問診や身体診察に加え、さまざまな画像検査や血液検査などを組み合わせて行います。

検査の種類と目的

病的骨折の診断には、主に次の検査を組み合わせて行います。

  1. 問診と身体診察
    まず、患者さんがいつから、どのような痛みを、どのくらいの期間感じているのかを詳しくお伺いします。これは、痛みの種類や持続期間から、骨折の原因や背景にある病気のヒントを得るためです。同時に、骨折が疑われる部位を実際に触れたり動かしたりして確認し、神経に影響が出ていないか、麻痺やしびれがないかなどを身体診察で丁寧に調べます。
  2. X線(レントゲン)検査
    X線検査(レントゲン)は、骨折の有無や位置、骨全体の状態を大まかに確認するために、最初に行われることが多い検査です。骨が破壊されている部分や、病変が疑われる箇所を画像で捉えることで、病的な変化の兆候を見つけ出します。
  3. CT(コンピューター断層撮影)検査
    CT検査(コンピューター断層撮影)では、X線検査よりもさらに詳しく骨の内部構造や骨折の形態を立体的に捉えられます。これにより、骨の破壊がどの程度進んでいるか、また骨折の原因となっている腫瘍がある場合は、その有無や広がりをより正確に評価できます。
    特に脊椎の病的骨折においては、CT画像診断にAI(人工知能)技術を応用することで、骨折の原因となる脊椎腫瘍の検出や分類だけでなく、病的骨折といった合併症の予測にも役立つ可能性が報告されています※。AIは、診断の精度を高め、治療計画の立案や患者さんの状態変化を予測する上で、医師の意思決定をサポートする有望なツールとして期待されています。
  4. MRI(磁気共鳴画像)検査
    MRI検査(磁気共鳴画像)は、骨の破壊状況だけでなく、骨の内部にある骨髄の状態(例えば腫瘍の浸潤)、さらに筋肉や神経、血管といった軟部組織の状態を詳細に評価できる検査です。特に、骨折によって神経が圧迫されている可能性が疑われる場合や、がんの骨転移がどこまで広がっているかを調べる際に、MRIは非常に有用な情報を与えてくれます。
  5. 血液検査・尿検査
    血液検査や尿検査は、病的骨折の背景にある基礎疾患(がん、ホルモン異常による内分泌疾患、骨粗しょう症など)の診断や、病状の評価に欠かせません。例えば、特定の腫瘍マーカーの値や、骨代謝に関わるカルシウム・リンなどのミネラル値を測定することで、骨折の原因となっている病気の手がかりを見つけ出すことができます。
  6. 骨シンチグラフィー
    骨シンチグラフィーは、ごく微量の放射性物質を体内に注入し、その物質が骨に集まる様子を特殊なカメラで画像化する検査です。この検査は、がんの骨転移が全身のどこに、どの程度広がっているかを一度に評価できるため、特に広範囲な骨転移の有無を調べる場合に優れた情報を提供します。
  7. 骨生検
    画像検査で骨に腫瘍が強く疑われる場合は、骨生検を行います。これは、骨の一部を少量採取し、顕微鏡で詳しく調べる検査です。骨生検を行うことで、その腫瘍が良性か悪性かを明確に区別し、さらに腫瘍の種類を確定診断できるため、その後の治療方針を決定する上で非常に重要な情報となります。

これらのさまざまな検査結果を総合的に判断することで、「単なる骨折」ではない「病的骨折」であるかを正確に見極め、さらにその根本にある原因疾患を特定していきます。これにより、患者さん一人ひとりに合った、最も適切な治療計画を立てられるようになります。

病的骨折の治療

病的骨折の治療は、単に折れた骨を治すだけでなく、その背景にある根本的な病気にも同時にアプローチすることが重要です。患者さん一人ひとりの状態や原因となる病気によって治療法は異なり、大きく分けて「原因疾患の治療」「骨折自体への外科的治療」「放射線治療」が検討されます。

原因疾患の治療

病的骨折の原因となっている病気の治療は、さらなる骨折を防ぎ、生活の質を維持するために最も重要です。例えば、原因ががんであれば、そのがんの種類や進行度に応じて、化学療法、ホルモン療法、分子標的薬、または放射線治療などが検討されます。

特に、前立腺がんの治療において、アンドロゲン除去療法(ADT)に新規アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤(ARSI)を併用すると、骨折のリスクが約2.32倍、転倒のリスクも約2.22倍に高まることが報告されています※。そのため、これらの治療を受ける患者さんには、骨関連の有害事象(副作用)について注意深く管理し、定期的にモニタリングすることが不可欠といえます。

骨粗しょう症が背景にある場合は、骨を強化する薬物療法が治療の中心です。良性の骨腫瘍が原因の場合は、その腫瘍自体の治療と、発生した骨折の治療を並行して進めていくのが一般的です。

骨折に対する治療(主に外科的治療)

骨折そのものに対する治療の主な目的は、骨折部位を安定させ、痛みを和らげ、機能回復を促すことです。特に外科的治療が検討される場合、骨をプレートやスクリュー、髄内釘(ずいないてい:骨の内部に挿入する金属製の棒)といった器具で固定する「骨接合術」が行われます。腫瘍によって骨折が引き起こされている際は、腫瘍を摘出し、同時に骨を補強する手術を組み合わせることもあります。

動脈瘤性骨嚢腫(ABCs)に伴う病的骨折の場合、外科的治療は患者さんの年齢、骨の成長に関わる成長板が閉じているか開いているか、病変がある場所、そして担当する外科医の専門知識などを総合的に考慮して慎重に選択されます※。ABCsの治療では、病巣を掻き出す「掻爬術(そうはじゅつ)」や、病巣を一塊で取り除く「一括切除術」が一般的です。ある調査によると、掻爬術はABCsの治療の約88.6%に、一括切除術は約10.7%に行われているとされています※。また、これらの手術と並行して、約47%の患者さんには骨接合術も実施されているのが現状です※。ただし、ABCsにおける病的骨折の最適な治療法については、まだ標準的なガイドラインが確立されていないため、個々の状態に応じたきめ細かな対応が求められます。

放射線治療

がんが骨に転移して病的骨折が生じた場合や、骨折のリスクが高いと判断される場合には、放射線治療が選択肢となります。特に、背骨(脊椎)以外の骨に転移がある際は、「定位放射線治療(SBRT)」が有効な治療法と考えられています。SBRTは、病変を高い精度で制御し、痛みを和らげる効果が期待できる治療です。重篤な副作用の発生率も0.5%と低いことが報告されています※。ただし、SBRTを受けた患者さんのうち、約3.1%で病的骨折が発生する可能性も示唆されており※、治療効果とリスクの両面を考慮した上で慎重に検討が進められます。