橈骨頭・頚部骨折

転んだとき、とっさに手をつく。誰にでも起こりうるこの瞬間が、ひじの重大な骨折につながる可能性があることをご存知でしょうか。腕の親指側にある橈骨の骨折「橈骨頭・頚部骨折」は、ひじ関節の骨折全体の約3分の1を占めるほど、決して珍しいケガではありません。

ひじの外側の強い痛みや腫れを、「ただの打撲だろう」と自己判断してしまうのは大変危険です。もし治療が遅れたり、不適切であったりすると、ひじが動かしにくくなるなどの後遺症が残り、着替えや食事といった当たり前の日常に支障をきたす恐れがあります。

この記事では、橈骨頭・頚部骨折のサインや原因、そして進歩する最新の治療法までを詳しく解説します。万が一の際に適切な判断ができるよう、ご自身の、そして大切なご家族の体を守る知識としてぜひお役立てください。

橈骨頭・頚部骨折の概要

橈骨頭・頚部骨折(とうこつとう・けいぶこっせつ)は、腕の親指側にある「橈骨」という骨の、ひじに近い部分で起こる骨折です。この骨折は、ひじの関節に起こる骨折の中では比較的よくみられ、全体の約3分の1を占めています。

転んだときに強く手をつくことで起こりやすく、若い方からご高齢の方まで、幅広い年代で見られます。特にご高齢の方は、骨がもろくなる骨粗粗鬆症(こつそしょうしょう)が背景にあると、ささいな転倒が骨折につながる危険があります。

高齢の方にとって、痛みなく自由にひじを動かせることは、食事や着替えといった日常生活を送る上で非常に大切です。近年では手術の方法や、骨を固定するための医療器具(インプラント)も進歩しています。

この技術の進歩により、患者さん一人ひとりの骨折の状態や年齢に合わせた、より良い治療法を選べるようになりました。もし適切な治療やリハビリを行わないと、ひじが動かしにくくなるなどの後遺症が残る可能性があります。ひじを痛めた際は自己判断せず、早めに医療機関を受診しましょう。

橈骨頭・頚部骨折の種類

橈骨頭・頚部骨折は、骨のズレの大きさや折れ方の状態によって、いくつかの種類に分けられます。どの種類の骨折かによって治療法が大きく変わるため、正確な診断がとても重要です。

一般的には、骨折の状態を「Mason-Morrey(メイソン・モリー)分類」という方法で評価することが多いです。骨の壊れ具合によって、主に4つのタイプに分類されます。

分類

骨折の状態

Type I

骨のズレがほとんどない、軽い骨折です。

Type II

骨のかけらが少しズレてしまっている骨折です。

Type III

骨がバラバラに砕けてしまっている複雑な骨折です。

Type IV

骨折だけでなく、ひじの関節が外れてしまう「脱臼」も起きている状態です。

Type IIIのように骨がバラバラに砕けてしまった場合は、手術で骨を元の位置に戻して固定することが多いです。手術では金属の板(プレート)や特殊なネジを使います。最近の研究では、特殊なネジ(ヘッドレススクリュー)で固定する方が、骨がより早くくっつき、手のひらを返す動きの回復が良好になる可能性が示されています。

また、橈骨頭の骨折だけでなく、腕の他の部分の骨折や靭帯の損傷が同時に起こる、さらに複雑な状態になることもあります。このような骨折は「モンテジア骨折」などと呼ばれ、時には現在の分類では分けられないほど複雑なケースもあります。そのため、診断や治療をより慎重に進める必要があります。

お子さんの場合は、成長途中の骨の特性を考慮し、骨のズレの角度で分類する「オブライエン分類」が用いられることもあります。どの種類の骨折なのかを正しく見極めることが、適切な治療への第一歩となります。

橈骨頭・頚部骨折の原因

橈骨頭・頚部骨折が起こる最も多い原因は、転んだときに手をつくことです。 手をついたときの衝撃は、地面から手首を通り、ひじへとまっすぐ伝わります。 このとき、腕に対してかかる強い力(軸方向の力)が骨折を引き起こします。

この強い力は、ひじの関節にある橈骨の頭の部分(橈骨頭)に集中します。 そして橈骨頭が、その上にある上腕骨という太い骨に強くぶつかります。 この衝突によって、比較的弱い橈骨頭やその下の頚部が折れてしまうのです。

特にご高齢の方は、骨がもろくなる骨粗鬆症が背景にあることが少なくありません。 骨粗鬆症があると骨の強度が低下するため、若い方なら何でもないような転倒でも、骨折につながる危険性が高まります。 日常生活を送る上で、痛みのないひじの機能は非常に大切です。

また、お子さんの場合も注意が必要です。 成長期の骨はまだ柔らかく、強い衝撃で複雑な骨折を起こすことがあります。 お子さんは痛みをうまく伝えられないため、ただの打撲だと思われがちですが、ひじの骨折が見過ごされてしまうケースも報告されています。

このように、転倒が主な原因ですが、年齢や骨の状態によって骨折のリスクは変わります。 スポーツや交通事故など、大きなエネルギーが加わる場面でも起こりやすい骨折です。

橈骨頭・頚部骨折の症状

転んだり、ひじを強くぶつけたりした後に、次のようなサインが現れたら骨折の可能性があります。 骨折の症状は、骨が折れたことによる直接的なものと、その周りの組織が傷つくことによって起こるものがあります。

主な症状には、以下のようなものが挙げられます。

  • ひじの外側の強い痛み
  • ひじの親指側あたりに、鋭い痛みを感じます。
  • じっとしていてもズキズキ痛むことがありますが、特にひじを曲げ伸ばししたり、ドアノブを回すように手首をひねったりすると、激しい痛みが走るのが特徴です。
  • 痛みの強さをもし0から10の数字で表すとしたら、いくつになるか考えてみるのも、医師に症状を伝える上で役立ちます。
  • 腫れや色の変化(内出血)
  • 骨折した部分の周りが、だんだんと腫れて熱っぽくなります。
  • これは、骨折による炎症や、傷ついた骨や血管から血液が漏れ出ることが原因です。
  • 時間が経つと、皮膚の下で内出血が広がり、ひじの周りが青紫色や赤黒く変色することもあります。
  • ひじが動かしにくくなる
  • 痛みや腫れのために、ひじの曲げ伸ばしがスムーズにできなくなります。
  • また、手のひらを上に向けたり、下に向けたりする、手首を返す動きも制限されることが多くあります。

まれに骨折だけでなく、ひじを支えるスジ(靭帯)や、腕の他の骨まで同時に傷つけてしまう複雑なケガになることがあります。 このような場合は症状もより重くなり、時には現在の分類では分けられないほど複雑な損傷のこともあります。 もし、これらの症状に当てはまる場合は、ただの打撲だと自己判断せず、すぐに医療機関を受診してください。

橈骨頭・頚部骨折の検査・診断

ひじの骨折が疑われる場合、正しい治療法を選ぶために、まず骨の状態を正確に知ることが大切です。 そのため、医師はお話を聞いたり、写真をとったりして、慎重に診断を進めます。

まず、ケガをしたときの状況や症状について、医師が詳しくお話をうかがいます。 痛い中で大変ですが、診断の重要な手がかりになるため、できるだけ詳しく教えてください。

【おもに確認すること】

  • いつ、どこで、どのようにケガをしましたか?
  • ケガの勢いの強さを知るための質問です。
  • ひじのどのあたりが痛みますか?
  • 痛む場所から、骨折の部位を推測します。
  • どんな動きで痛みが強くなりますか?
  • ドアノブを回すような動きでの痛みは、この骨折に特徴的なサインです。

次に行うのが、ひじの状態を直接みる診察と、骨の中をみるための画像検査です。

検査の種類

目的

診察

腫れや内出血の程度、動かせる範囲を丁寧に確認します。

X線検査(レントゲン)

骨折の有無や骨のズレを確認する基本的な検査です。複数の方向から撮影して詳しく見ます。

CT検査

骨の状態を3D画像のように立体的に見ることができます。レントゲンではわかりにくい複雑な骨折の診断に役立ちます。

MRI検査

骨だけでなく、骨の周りにあるスジ(靭帯)や筋肉など、やわらかい組織の損傷が疑われる場合に行います。

超音波(エコー)検査

小さな骨折や、関節の中に血がたまっていないかなどを確認するのに役立つ検査です。

特に注意が必要なのは、お子さんの場合です。 お子さんは痛みをうまく伝えられなかったり、骨がまだ成長途中であったりするため、診断が難しいことがあります。

まれに、ひじの骨折だけでなく、手首や腕の骨をつなぐ膜など、他の部分も同時に傷ついていることがあります。 このような複雑な骨折は見過ごされやすく、ある研究では誤診率が60%にも達すると報告されています。

これらの検査を組み合わせることで見逃しを防ぎ、一人ひとりの状態に合った最適な治療法を見つけることができます。

橈骨頭・頚部骨折の治療

橈骨頭・頚部骨折の治療法は、骨のズレの大きさによって大きく2つに分かれます。 骨のズレが少ない「手術をしない治療」と、ズレが大きい「手術をする治療」です。 どちらの方法を選ぶかは、レントゲンやCT検査の結果を見て慎重に判断します。

手術をしない治療(保存療法)

骨のズレがほとんどない、軽い骨折の場合に行う治療法です。 ギプスや三角巾という腕を吊るす布を使い、ひじを安静に保ちます。 骨が自然にくっつくのを待つ方法で、固定する期間は3〜4週間ほどが目安です。

手術をする治療(手術療法)

骨のズレが大きい場合や、骨がバラバラに砕けてしまった場合に手術を考えます。 手術には、骨の状態に合わせていくつかの方法があります。

  • 骨接合術(こつせつごうじゅつ)
  • ズレてしまった骨のかけらを、元の正しい位置に戻す手術です。
  • 戻した骨が動かないように、金属の板(プレート)やネジで固定します。
  • 最近の研究では、特殊なネジ(ヘッドレススクリュー)で固定する方法もあります。
  • このネジを使うと、プレートよりも骨が早くつき、手のひらを返す動きの回復が良くなる可能性が示されています。
  • 人工骨頭置換術(じんこうこっとうちかんじゅつ)
  • 骨の壊れ方がひどく、元の形に戻せないときに行う手術です。
  • 壊れた骨の頭の部分を取り除き、金属などでできた人工の関節に入れ替えます。
  • この手術は、ひじが再びスムーズに動くようになるためにとても役立ちます。
  • 人工の関節を正しい位置に入れることが、治療の成功にとって非常に重要です。

どの治療法を選んだとしても、治療後のリハビリがとても大切です。 リハビリをしないと、ひじの関節が固まって動かしにくくなることがあります。 元の生活にしっかり戻るために、根気強くリハビリに取り組みましょう。