横紋筋融解症

激しい運動後の筋肉痛や、夏の日の熱中症。誰もが経験する症状の裏に、「筋肉が溶ける」という恐ろしい病気が隠れていることをご存じでしょうか。それが「横紋筋融解症」です。

この病気は、壊れた筋肉の成分が血液中にあふれ出し、腎臓に深刻なダメージを与えます。ある報告では、患者の10〜65%もの方に「急性腎障害」という命に関わる状態が見られたとされています。原因は交通事故だけでなく、普段飲んでいるコレステロールの薬や急な運動など、私たちの日常に潜んでいます。

この記事では、見過ごされがちな横紋筋融解症の危険なサインや原因、そして腎臓を守るための治療法を解説します。コーラ色の尿や強い筋肉痛など、気になるサインがあれば自己判断は危険です。ご自身の状態と見比べてみてください。

横紋筋融解症の概要

横紋筋融解症(おうもんきんゆうかいしょう)は、 体を動かすための筋肉(骨格筋)が壊れ、 とけてしまう病気です。

筋肉の細胞が壊れると、その中にあった成分が 血液の中に大量に流れ出してしまいます。 特に「ミオグロビン」という赤い色素が重要です。

血液は腎臓というフィルターできれいにされますが、 ミオグロビンの量が多すぎると目詰まりを起こします。 その結果、腎臓に大きな負担がかかってしまうのです。

重症化すると、急に腎臓の働きが悪くなる 「急性腎障害」を引き起こす危険があります。 ある報告では、この病気の10〜65%の方に 急性腎障害が見られたとされています。

この病気は、救急の現場でも診断が難しいことがあります。 筋肉の痛みや力の入りにくさといった症状が、 他の病気とよく似ているためです。

そのため診断が遅れることも少なくありませんが、 腎臓を守り、体を回復させるためには、 できるだけ早く診断し、治療を始めることが大切です。

この病気のポイントは以下のとおりです。

  • 筋肉がとける
  • 体を動かすための骨格筋の細胞が壊れてしまいます。
  • 成分が血液中に漏れる
  • 筋肉の中のミオグロビンなどが血液にあふれ出します。
  • 腎臓に影響が出る
  • 漏れ出た成分が腎臓に負担をかけ、急性腎障害の原因になります。

気になる症状があれば、自己判断せずに 医療機関を受診するようにしましょう。

横紋筋融解症の種類

横紋筋融解症は、原因によって大きく2つの種類に分けられます。 けがが原因で起こる「外傷性」と、 それ以外の原因で起こる「非外傷性」です。

外傷性横紋筋融解症

交通事故や高い場所からの転落、がれきの下敷きになるなど、 体に強い力が加わって筋肉が直接壊されることで起こります。

特に、大量に出血するような大きなけがをした場合は注意が必要です。 ある研究では、大量の出血をともなう重いけがの患者さんで、 この病気が重症化した場合、命の危険性が約4%高まると報告されています。

重症化すると腎臓だけでなく、他の臓器の機能も悪くなったり、 感染症にかかりやすくなったりと、 集中治療が必要な状態になることも少なくありません。

非外傷性横紋筋融解症

けが以外のさまざまな原因で起こるタイプです。 日常生活の中に潜む原因も多くあります。

原因の種類

具体的な例

薬によるもの

コレステロールを下げる薬や一部の抗菌薬、<br>心の病気の治療薬などが原因になることがあります。

過度な運動

普段あまり運動しない人が急に激しい<br>トレーニングをしたときなどに起こります。

高温によるもの

熱中症などで体温が異常に高くなり、<br>筋肉の細胞が壊れてしまうことがあります。

感染症

インフルエンザや新型コロナウイルスなどの<br>ウイルス感染、細菌感染がきっかけになることもあります。

その他

体の中の電解質バランスの乱れや、<br>まれに遺伝的に筋肉が壊れやすい体質も考えられます。

このように原因は多岐にわたるため、 気になる症状があれば自己判断せず、医師に相談することが大切です。

横紋筋融解症の原因

横紋筋融解症は、1つの原因だけでなく、 いくつかの要因が重なって起こることがあります。 原因の中でも、特に多いのはお薬によるものです。

お薬が原因の場合

  • コレステロールを下げる薬と感染症の薬 この2種類を一緒に飲むときは特に注意が必要です。 ある研究によると、これらの薬を一緒に使って 横紋筋融解症になった人の8割以上が60歳以上でした。 腎臓の病気がある方もリスクが高まります。
  • 心の病気の治療薬 抗うつ薬などが原因になることもあります。 例えば「ベンラファキシン」という抗うつ薬は、 他の薬と一緒でなくても、単独でこの病気を 引き起こす可能性が報告されています。

お薬以外の主な原因

  • 過度な運動 普段あまり運動しない人が急に激しい運動をすると、 筋肉に大きな負担がかかり、原因となることがあります。
  • けがや長時間の圧迫 交通事故のような大きなけがだけでなく、 長時間同じ姿勢で動けない状態が続くと、 筋肉の細胞が壊れてしまうことがあります。
  • 熱中症や脱水 体温が異常に高くなったり、体の水分が不足したりすると、 筋肉の細胞がダメージを受けて発症します。 特に高齢者の方が、ご自宅で気づかないうちに この状態になり、動けなくなって発症するケースもあります。
  • 感染症 インフルエンザや新型コロナウイルスなどの ウイルス感染が引き金になることもあります。

このほか、まれに遺伝的な要因が関係していることも考えられます。 原因は多岐にわたるため、自己判断はせず、 気になる症状があれば必ず医師に相談してください。

横紋筋融解症の症状

横紋筋融解症の症状は、筋肉の細胞が壊れることで起こります。 代表的な症状は3つありますが、人によって現れ方が異なります。 自分にも当てはまるか、チェックリストで確認してみましょう。

主な症状のチェックリスト

ご自身の状態と見比べるための参考にしてください。

分類

具体的な症状

筋肉の症状

・手足、特に太ももや腕に強い筋肉痛がある<br>・筋肉がパンパンに張って硬くなる<br>・手足に力が入りにくく、立ち上がれない

尿の色の変化

・お茶やコーラのような赤褐色の尿が出る

全身の症状

・体が重くだるい、吐き気がする<br>・熱が出る<br>・意識がぼーっとする、呼びかけへの反応が鈍い

筋肉の痛みは、運動後の筋肉痛とは違う強い痛みが特徴です。 また、尿の色が変わるのは、壊れた筋肉の成分「ミオグロビン」が 尿に混ざるためで、この病気の重要なサインの一つです。

原因によって現れる他の症状

原因によっては、上で挙げた症状以外にも注意が必要です。 特に熱中症が原因の場合、次のような症状が強く出ます。

ある研究報告によると、熱中症の患者さんでは、 40℃を超える異常な高熱や、意識がもうろうとすることが よく見られるとされています。 吐き気や下痢を伴うことも少なくありません。

熱中症が引き起こす横紋筋融解症は、 腎臓や肝臓など複数の臓器に影響が出る危険な状態です。 迅速な治療ができない場合、命に関わることもあります。

症状が進行するとどうなる?

この病気の最も怖い点は、腎臓への影響です。 筋肉から漏れ出た成分が腎臓に詰まってしまい、 急に腎臓の働きが悪くなる「急性腎障害」を起こします。

さらに、血液中のミネラルバランスが崩れることもあります。 特にカリウムという成分が増えすぎると、 心臓のリズムが乱れる不整脈を引き起こす危険があります。

症状が全くない、あるいは軽い筋肉痛だけという場合もあります。 しかし、体の内側では深刻な事態が進んでいるかもしれません。 気になるサインがあれば、自己判断せず医療機関に相談しましょう。

横紋筋融解症の検査・診断

横紋筋融解症は、早く診断し治療を始めることが非常に大切です。 診断が遅れると腎臓の機能に大きな影響を及ぼすためです。 この病気は他の病気と症状が似ているため、 救急の現場でも診断が難しいことがあります。

「急に筋肉がひどく痛む」「尿の色がコーラのように濃い」など、 気になるサインが見られたら、自己判断せずに すぐに医療機関を受診してください。 診断は主に血液検査と尿検査で行います。

血液検査

血液検査では、筋肉の細胞が壊れたときに 血液中に漏れ出てくる物質の量を調べます。 これにより、筋肉のダメージ具合を客観的に評価できます。

【血液検査で調べる主な項目】

  • クレアチンキナーゼ(CK) 筋肉に多く含まれる酵素です。 この数値が基準値の何十倍、時には5,000U/L以上という 異常な高さになると、この病気が強く疑われます。
  • ミオグロビン 筋肉の色素で、尿が赤くなる原因の物質です。
  • 電解質 カリウムなどのバランスが崩れていないか調べます。 特にカリウムが高くなると心臓に影響が出ます。

特に、コレステロールを下げる薬(スタチン系)を飲んでいる方は、 感染症の治療で使う一部の抗菌薬(キノロン系)を一緒に飲むと、 横紋筋融解症のリスクが高まることが報告されています。 定期的な血液検査で体の状態を確認することが大切です。

尿検査

尿検査では、尿の中に筋肉の成分である ミオグロビンが含まれていないかを調べます。 この検査で、尿の色が濃くなった原因を特定できます。

その他の検査

腎臓や心臓に合併症が起きていないか調べることも重要です。

  • 心電図検査 血液中のカリウムが増えすぎたときに起こる 危険な不整脈がないかを確認します。
  • 血液ガス分析 体が酸性に傾く「代謝性アシドーシス」という 危険な状態になっていないかを評価します。

これらの検査結果と、最近の運動歴や服用中の薬、 けがの有無などのお話を総合的に判断して、診断を確定します。

横紋筋融解症の治療

横紋筋融解症の治療は、2つの大きな柱で成り立っています。 1つは原因を取り除くこと、もう1つは腎臓を守ることです。 この2つを同時に進めることが、回復への近道となります。

まず、治療の第一歩は原因をはっきりさせ、それを取り除くことです。 例えば、お薬が原因の場合、その服用を中止することが考えられます。 抗うつ薬の「ベンラファキシン」が、単独でもこの病気を 引き起こす可能性があるという研究報告もあります。

原因となっている薬をやめ、適切な治療を行うことで、 筋肉のダメージを示す血液検査の数値(CK値)は 改善することが期待できます。 ただし、ご自身の判断で薬をやめるのは絶対に避けてください。 必ず医師に相談し、指示に従うことが重要です。

治療の最大の目的は、腎臓の機能を守り抜くことです。 そのために、以下の治療を中心に行います。

  • 点滴による水分補給 たくさんの水分を点滴で補い、尿の量を増やします。 これにより、腎臓に詰まりかけた筋肉の成分を 洗い流し、腎臓への負担を軽くします。 基本的には入院して行う、とても大切な治療です。
  • 腎臓の働きを助ける治療 腎臓の働きが著しく悪化してしまった場合(急性腎障害)、 血液透析という専門的な治療が必要になることがあります。 これは、機械を使って血液をきれいにする治療法です。
  • 血液中のバランスを整える治療 血液中のカリウムなどのミネラルバランスが崩れた場合は、 お薬を使って正常な値に戻します。 特にカリウムの値が高いと、心臓に影響が出ることがあります。

特に、交通事故のような大きなけがが原因の場合、 治療はより慎重に行う必要があります。 ある研究では、出血を伴う重いけがの方がこの病気を合併すると、 命に関わる危険性が約4%高まると報告されています。

これは、腎臓だけでなく他の臓器も機能しなくなる「多臓器不全」や、 重い感染症で血圧が下がる「敗血症性ショック」といった 危険な合併症を引き起こしやすいためです。 そのため、集中治療室(ICU)で全身の状態を厳しく管理しながら 治療を進めていくことが必要になります。