挫滅症候群
地震や事故でがれきの下敷きになった人が、救助された直後は元気そうに見えても、数時間後に容体が急変し命の危機に瀕することがあります。この、助かったはずの命を脅かす恐ろしい状態が「挫滅症候群(クラッシュ・シンドローム)」です。
圧迫から解放された途端、壊れた筋肉から流れ出た有害物質が全身を巡り、心臓や腎臓に深刻なダメージを与えます。海外の地震報告では、重症患者の約4人に1人が手足の切断に至り、6割以上の方に透析治療が必要な急性腎障害が起こったとされています。
なぜ救助後にこのような事態が起こるのでしょうか。この記事では、挫滅症候群のメカニズムから具体的な症状、そして命を守るための治療法までを詳しく解説します。ご自身や大切な人を守るための知識として、ぜひ最後までご覧ください。
挫滅症候群の概要
挫滅症候群は、地震や事故で長時間、体が圧迫された後に起こる、命に関わる非常に危険な状態です。クラッシュ・シンドロームとも呼ばれます。
圧迫で血流が止まった筋肉の細胞は、次第に壊れていきます。この壊れた細胞から、カリウムやミオグロビンといった有害物質が放出されます。救助されて圧迫から解放されると、血流が再開します。すると、これらの有害物質が血液に乗って一気に全身へ巡ります。
これが心臓や腎臓に深刻なダメージを与え、次のような危険な状態を引き起こすのです。
- 高カリウム血症 血液中のカリウム濃度が異常に高くなり、危険な不整脈や心停止の原因になります。
- 急性腎障害 ミオグロビンが腎臓に詰まり機能が低下します。おしっこが出なくなり、体内に毒素が溜まります。
海外の地震報告では、挫滅症候群で集中治療室に入った患者さんのうち、約4人に1人が手足の切断に至ったとされます。また、6割以上の方に急性腎障害が起こり、透析治療が必要となりました。
この病気の怖い点は、救助直後は元気に見えることもある点です。しかし数時間後に容体が急変する危険があるため、迅速な対応が重要です。
挫滅症候群の種類
挫滅症候群は、体のどこが、どれくらいの時間圧迫されたかで、その後の経過が大きく変わります。特に、命に関わる合併症に注目すると、主に2つのタイプに分けられます。
1. 腎臓が働かなくなるタイプ(急性腎障害)
最も警戒が必要なのが、腎臓の機能が急に悪化する「急性腎障害」を伴うタイプです。
壊れた筋肉から出た有害な物質が血液に流れ込み、腎臓に詰まってしまうことで起こります。
2023年のトルコの地震災害では、挫滅症候群を発症した大人の患者さんの65%に、この急性腎障害が見られました。また、子どもの患者さんでも約6割が発症したと報告されています。
腎臓の働きが極端に落ちると、血液を機械できれいにしなければなりません。これを「透析治療」と呼び、急性腎障害になった方の約4割が、この治療を必要としました。
2. 手足に重いダメージが残るタイプ
圧迫された手足の筋肉や組織が、直接ひどいダメージを受けるタイプです。
血流が止まった組織が壊れ、救出後に血が再び流れても、ひどい腫れでさらに傷つきます。
トルコの地震の報告では、集中治療室に入った患者さんのうち**77%**もの方が、腫れた筋肉の圧力を下げる手術(筋膜切開など)を必要としました。
残念ながら、手足の損傷が激しい場合は、その部分を**切断せざるを得ないこともあり、その割合は24%**にのぼったと報告されています。
これら2つのタイプは、どちらか一方だけでなく、両方が同時に起こることも珍しくありません。特に、お子さんの場合はお腹のケガを合併していると重症化しやすいという報告もあり、より慎重な対応が求められます。
挫滅症候群の原因
挫滅症候群は、地震や事故などで長時間、体が強く圧迫されることで起こります。特に筋肉がたくさんある手足などが圧迫されると危険です。
体の中では、次のような恐ろしい変化が順番に起きています。
- 血の流れが止まる 重いものに挟まれると血管が押しつぶされ、筋肉に血が通わなくなります。
- 筋肉の細胞が壊れる 血が来ないと筋肉の細胞は死んでしまいます。これを「横紋筋融解症」といいます。
- 危険な物質が漏れ出す 壊れた細胞からカリウムやミオグロビンといった物質が漏れ出します。
- 血の流れが再び始まる 救助されて圧迫がなくなると、止まっていた血が一気に流れ始めます。
- 危険な物質が全身に広がる この血流に乗り、筋肉から漏れ出た危険な物質が全身へと運ばれます。
この結果、心臓の動きを止める「高カリウム血症」や、腎臓の働きを悪くする「急性腎障害」という命に関わる状態を引き起こします。
近年の大地震の研究では、特に重症化しやすいケースが分かってきました。体の複数の場所を同時にケガする「多発外傷」は、重症化のリスクを高めます。
また、2023年のトルコの地震災害の報告によると、お子さんの場合、年齢が高いほど、またお腹にケガをしていると、重い腎臓の障害が起こりやすいことが示されています。
挫滅症候群の症状
がれきの下などから助け出された直後は、元気そうに見えることがあります。しかし、命に関わる重い症状が後から現れるのが、この病気の怖い特徴です。
症状は、圧迫された手足などに出る「局所症状」と、全身に及ぶ「全身症状」に分けられます。
症状セルフチェックリスト
【圧迫された場所の症状】
- 手足がパンパンに腫れる 筋肉が傷つき、血液の水分が漏れ出すことで起こります。
- 皮膚が紫色っぽく変色する 血の流れが悪いサインです。
- 強い痛みや、しびれ、感覚がなくなる 神経がダメージを受けている可能性があります。
これらの手足の症状がひどくなると、筋肉の腫れでさらに血流が悪くなる「コンパートメント症候群」という状態になることがあります。
【全身にあらわれる症状】
- 尿の色が赤黒い(コーラのような色) 壊れた筋肉の成分「ミオグロビン」が尿に混ざった危険なサインです。
- 尿の量が減る、または出なくなる 腎臓がダメージを受けている可能性があります。
- 脈が乱れる、息苦しい 心臓に負担がかかっているサインです。
- 意識がぼんやりする、ぐったりする 全身の状態が悪化していることを示します。
特に危険な合併症
腎臓のダメージ(急性腎障害)
壊れた筋肉から出た有害物質が腎臓に詰まり、急に機能が低下します。2023年のトルコの地震災害では、集中治療室の患者さんの**65%**に急性腎障害が見られました。
また、子どもでも約6割が発症したとの報告があります。重症になると、機械で血液をきれいにする「透析治療」が必要になります。
手足の切断に至ることも
手足の腫れ(コンパートメント症候群)を放置すると、組織が死んでしまいます。これを防ぐため、皮膚を切って筋肉の圧力を下げる緊急手術(筋膜切開)が必要になることがあります。
トルコの地震の報告では、重症患者さんの77%が手術を必要とし、残念ながら約4人に1人(24%)が手足の切断に至ったとされています。
見た目が元気でも、体内では命に関わる変化が進んでいる可能性があります。早期の対応が非常に重要です。
挫滅症候群の検査・診断
がれきの下などから助け出された直後は、普通に話せることもあります。しかし、体の中では命に関わる変化が起きている可能性があるため、すぐに詳しい検査が必要です。見た目だけで判断できないのが、この病気の怖いところです。
医療機関では、挫滅症候群を疑い、主に血液検査と尿検査で体の内部を調べます。
血液検査
注射で少しだけ血を採って、目に見えない危険なサインを見つけます。
- 筋肉のダメージを調べる 筋肉が壊れると血の中に増える「クレアチンキナーゼ(CK)」という数値を測ります。この数値が高いほど、筋肉のダメージが大きいことを示します。
- 腎臓の働きを調べる 「尿素窒素(BUN)」や「クレアチニン」を調べ、腎臓の機能を確認します。2023年のトルコ地震の報告では、重症患者さんの**65%**に急性腎障害が見られました。特にBUNの値は、その後の経過を予測する重要な情報となります。
- 血液のバランスを調べる 壊れた筋肉から漏れ出る「カリウム」の量を測ります。カリウムが増えすぎると、心臓の動きに異常をきたし、命に関わるため注意深く監視します。
尿検査
おしっこを調べて、腎臓へのダメージを予測します。
- 尿の色や成分を調べる 壊れた筋肉の成分「ミオグロビン」が尿に混ざっていないか調べます。ミオグロビンは腎臓に詰まり、働きを悪くする原因となります。
これらの検査結果を総合的に見て、診断を行います。特にお子さんの場合、年齢が高いことやお腹のケガが、重い腎臓の障害につながる危険因子と報告されています。そのため、より慎重な経過観察が求められます。
挫滅症候群の治療
挫滅症候群の治療は、まさに時間との戦いです。 助け出された後の対応が命を左右するため、多くの場合、集中治療室(ICU)で専門的な管理を行います。
治療の大きな目的は、次の2つです。
- 心臓や腎臓など、全身の臓器を守ること
- 圧迫されていた手足のダメージを最小限にすること
全身を守るための治療
体へのダメージを食い止めるため、以下の治療を行います。
- 大量の点滴(輸液療法) 筋肉から漏れ出た有害物質を薄めるために行います。 また、血圧を安定させ、有害物質をおしっことして体の外に出す手助けをします。
- 腎臓を守る治療 挫滅症候群で最も警戒すべき合併症は、腎臓の機能が急に悪くなる「急性腎障害」です。 2023年のトルコの地震災害では、集中治療室の患者さんのうち、大人の65%、お子さんの約6割がこの状態になったと報告されています。 点滴だけでは改善しない場合、血液を機械できれいにする「血液透析」という治療が必要です。 この治療は、急性腎障害になった大人の**40%**が受けたとされます。
手足を守るための外科的治療
圧迫された手足の腫れがひどいと、血の流れがさらに悪くなり、組織が死んでしまう危険があります。
これを防ぐため、皮膚を切って筋肉の圧力を下げる緊急手術(筋膜切開)が行われることがあります。 トルコの地震の報告では、集中治療室の患者さんのうち、**77%**もの方が何らかの外科手術を必要としました。
残念ながら、手足の損傷が激しい場合、その部分を切断せざるを得ないこともあります。 この割合は**約4人に1人(24%)**にのぼったとされ、非常に厳しい現実を示しています。
大規模な災害時は、現地の医療体制だけでは対応が難しくなります。 そのため、設備が整った他の地域の病院へ、一刻も早く搬送することが非常に重要です。





