慢性骨髄性白血病

健康診断で白血球の異常を指摘され、「慢性骨髄性白血病」の疑いがあると告げられ、不安な日々を過ごしていませんか。この病気は初期に自覚症状がほとんどなく、患者さんの約半数は健康診断をきっかけに発見されるとされています。

この記事では、慢性骨髄性白血病の基本的な知識から、原因や症状、診断の流れ、そして治療の選択肢までを詳しく解説します。近年、分子標的薬の登場により治療成績は飛躍的に向上しており、病状をコントロールしながら生活を送ることも期待できます。

病気への正しい理解は、今後の治療を医師と共に考える上で重要です。ご自身の状態と向き合い、納得して治療へ臨むための一助として、ぜひ最後までお読みください。

慢性骨髄性白血病の概要

慢性骨髄性白血病(CML)は、血液をつくるおおもとの細胞である「造血幹細胞」の異常により、がん化した白血球が骨髄内で際限なく増え続けてしまう血液のがんです。

多くの場合、「フィラデルフィア染色体」と呼ばれる特殊な染色体異常が原因となって発症します。病気の進行スピードは比較的ゆっくりしており、以下の3つの段階を経て進むのが特徴です。

・慢性期:ほとんど症状がない時期

・移行期:病状が少しずつ進む時期

・急性転化期:急性白血病に近い状態になる時期

初期は自覚症状がほとんど現れないため、約半数の方は、健康診断の血液検査で白血球の異常な増加を指摘されたことをきっかけに発見されます。年間10万人に1〜2人ほどが発症し、成人の白血病全体の約20%を占める病気です。

近年、病気の原因となる遺伝子の働きをピンポイントで抑える「分子標的薬(チロシンキナーゼ阻害薬:TKI)」が登場し、治療成績は飛躍的に向上しました。

TKIには第一世代の薬と、その後に開発された第二世代の薬があります。第二世代の薬は第一世代の薬に比べて臨床効果が高い傾向にありますが、一方で第一世代の薬は比較的安全性が高いという側面も持ち合わせています。

それぞれの薬で副作用の出方も異なり、貧血を起こしやすい薬、血小板が減りやすい薬など、個性があります。そのため、どの薬で治療を始めるかは、期待される効果と副作用のリスク、さらには患者さん一人ひとりの病状や合併症などを総合的に評価し、慎重に決定されます※。

慢性骨髄性白血病の種類

慢性骨髄性白血病の分類で最も基本となるのが、病気の進行度を示す「病期(びょうき)」です。

病期は、血液や骨髄の中に「芽球(がきゅう)」という未熟な血液細胞がどれくらいの割合を占めるかによって判断され、治療方針を立てる上で大切な指標となります。

芽球はいわば血液細胞の“赤ちゃん”であり、これが異常に増えすぎると正常な血液が作られるスペースを圧迫し、貧血や感染症といった深刻な問題を引き起こす原因になります。

各病期の特徴を、下表に整理します。

病期 | 骨髄中の芽球の割合 | 主な状態

慢性期 | 10%未満 | ・病気の初期段階 ・自覚症状はほとんどなく、健康診断などで偶然見つかることが多い ・分子標的薬による治療がよく効く時期

移行期 | 10〜19% | ・慢性期から急性転化期へ移行する中間段階 ・芽球が増え始め、薬が効きにくくなることがある ・貧血の悪化や、脾臓の腫れによるお腹の張りなどが現れる

急性転化期 | 20%以上 | ・病気が最も進行し、急性白血病に近い危険な状態 ・正常な血液が作れなくなり、重い感染症や出血などが起こりやすくなる ・治療が難しくなる段階

また、上記の病期分類とは別に、原因や遺伝子のタイプといった、より特殊な分類も存在します。

多くは原因不明ですが、ごくまれに他の病気の治療がきっかけで発症する「治療関連慢性骨髄性白血病(t-CML)」という種類もあります。

例えば、甲状腺がんの治療で用いる放射性ヨウ素に被ばくした後に発症する可能性が報告されていますが、そのリスクは低いとされています※。

さらに、病気の根本的な原因である「BCR-ABL1融合遺伝子」にも、複数のタイプ(非定型アイソフォーム)があることがわかっています。この遺伝子のタイプによって治療薬(TKI)への反応や病気の経過に違いが出ることがあるため、精密な検査でタイプを特定することが重要です※。

慢性骨髄性白血病の原因

慢性骨髄性白血病は、ほとんどの場合、生まれた後に起こる染色体の異常が原因で発症します。

具体的には、私たちの体の設計図である22番染色体と9番染色体の一部がちぎれて入れ替わってしまう「フィラデルフィア染色体」という異常な染色体が生まれることによります。

この変化によって「BCR-ABL1」という特殊な遺伝子が形成され、がん化した血液細胞を無秩序に増殖させる“暴走スイッチ”が常に入った状態になってしまうのです。

さらに、このBCR-ABL1遺伝子にも複数のタイプ(非定型アイソフォーム)が存在することがわかっています。遺伝子のタイプの違いが、病気の進行のしやすさや治療薬(TKI)への反応性に影響を与える可能性も指摘されており、精密な検査でタイプを特定することが重要になります※。

このような染色体異常がなぜ特定の誰かに起こるのか、その明確な理由はまだ解明されていません。しかし、以下のような要因が発症のリスクを高める可能性が考えられています。

・高線量の放射線被曝

・化学物質(ベンゼンなど)への長期間の接触

例えば、甲状腺がんの治療で100mCiを超えるような高線量の放射性ヨウ素(I131)に被曝した場合、治療に関連してCMLを発症するリスクが高まるという報告もあります。ただし、全体としてそのリスクは低く、治療のメリットが上回ることが多いとされています※。

とはいえ、ほとんどの患者さんでは上記のようなリスク要因に心当たりがなく、なぜ染色体異常が起きたのかを特定できないのが現状です。

そして、この病気は親から子へ遺伝するものではありません。ご自身を責めたり、ご家族に心配をかけたりする必要はないことを知っておいてください。

慢性骨髄性白血病の症状

慢性骨髄性白血病の症状は、病気の進行段階によって大きく異なります。

とくに初期の「慢性期」では、自覚できる症状はほとんどありません。そのため、患者さんの半数以上は、症状がないまま受けた健康診断や人間ドックの血液検査で、白血球の異常な増加を指摘されたことをきっかけに病気が見つかります※。

しかし、病気が「移行期」や「急性転化期」へと進むと、骨髄の中でがん化した血液細胞がさらに増え、正常な血液をつくる機能が圧迫されてしまいます。その結果、体はさまざまなサインを出し始めます。

具体的に現れる症状を、以下に整理します。

・全身にあらわれるサイン

・食事制限をしていないのに起こる体重減少

・原因がはっきりしない微熱や発熱

・休んでも回復しない、強いだるさ(倦怠感)

・夜間のひどい寝汗

・お腹にあらわれるサイン

・お腹が張る感じ(腹部膨満感)

・お腹の左上あたりの痛みや不快感

・血液の異常によるサイン

・動悸、息切れ、顔色が悪い(貧血症状)

・あざができやすい、鼻血や歯ぐきから出血しやすい(出血傾向)

これらのサインは、それぞれ理由があって起こります。

例えば、お腹の張りや痛みは、増えすぎた白血病細胞が血液のフィルター役である「脾臓(ひぞう)」にたまって腫れあがること(脾腫)が原因です。

また、貧血による動悸や息切れは、酸素を運ぶ赤血球がつくられなくなることで発生します。出血しやすくなるのは、血を固める働きをもつ血小板が減少するためです※。

頻度は低いものの、白血球が極端に増えすぎると血液の粘度が高まり、血管を詰まらせる「白血球増多症(はっけっきゅうぞうたしょう)」という状態に陥ることもあります。これは脳梗塞や心筋梗塞につながる危険なサインです。

これらの症状は他の病気でも見られますが、気になるサインが続く場合は決して自己判断せず、お早めに血液内科などの専門医療機関を受診してください。

慢性骨髄性白血病の検査・診断

慢性骨髄性白血病の診断は、血液の状態から病気の根本原因である遺伝子の異常まで、段階的に詳しく調べることで確定します。

多くの場合、健康診断の血液検査で白血球の異常な増加を指摘されたことをきっかけに、より精密な検査へと進みます。

診断を確定するためには、主に以下の3つのステップで検査を進めていきます。

検査ステップ | 主な検査内容と目的

Step 1 血液検査 | ・白血球や血小板の数に加え、血液中に「芽球(がきゅう)」という未熟な血液細胞がいないかを詳しく分析する ・まずは全身を流れる血液の状態から、病気のサインを探す

Step 2 骨髄検査 | ・局所麻酔の後、腰の骨に細い針を刺して骨髄液や組織を少量採取する(骨髄穿刺・骨髄生検) ・血液をつくる“工場”である骨髄の状態を直接観察し、白血病細胞がどれくらい増えているかを確認する、診断に欠かせない検査

Step 3 染色体・遺伝子検査 | ・骨髄の細胞を使い、この病気に特徴的な「フィラデルフィア染色体」や、その結果生まれる「BCR-ABL1融合遺伝子」の有無を調べる ・この特殊な遺伝子の検出が、確定診断の最も重要な決め手になる

特に重要となるのが、病気の“暴走スイッチ”である「BCR-ABL1融合遺伝子」を特定する遺伝子検査です。

実は、このBCR-ABL1融合遺伝子にも複数のタイプ(非定型アイソフォーム)が存在することがわかっています。どのタイプの遺伝子を持っているかによって、分子標的薬(TKI)への反応性や病気の経過に違いが出ることがあるためです。

中には、従来の検査法では見つけにくい、まれなタイプの遺伝子変異も存在します。そのため、次世代シーケンシング(NGS)といった、より高感度な技術を用いた精密検査が、治療方針を決めるうえで重要になるケースもあります※。

これらの検査結果を総合的に評価し、診断を確定するとともに、病気の進行度(病期)を判断します。正確な診断と病状の把握が、一人ひとりに合った適切な治療計画を立てるための第一歩です。

慢性骨髄性白血病の治療

慢性骨髄性白血病の治療は、病気の根本原因である遺伝子に直接働きかける「分子標的薬」が主役です。この薬の登場によって治療成績は劇的に向上し、多くの患者さんが病状をコントロールしながら日常生活を送れるようになりました。

治療の中心となるのは、「チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)」と呼ばれる飲み薬です。この薬は、がん細胞を増殖させる“暴走スイッチ”である「BCR-ABL1」という異常なタンパク質の働きだけを、ピンポイントで抑え込む作用を持っています。

TKIには複数の種類があり、それぞれに個性があります。大きく分けて第一世代と、その後に開発された第二世代の薬が主に使われます。

世代 | 主な薬剤 | 特徴

第一世代 TKI | イマチニブ | ・最初に登場した分子標的薬 ・比較的安全性が高い傾向にあるが、副作用として白血球の一種である好中球が減りやすい[※]

第二世代 TKI | ダサチニブ ニロチニブ など | ・第一世代に比べて、より深く病気を抑え込む効果が期待できる[※] ・薬剤ごとに副作用の個性が異なり、例えばダサチニブは貧血、他の薬では血小板減少などが起こりやすいとされる[※]

第二世代の薬は第一世代より有効性が高い傾向にありますが、一方で第一世代の薬は比較的安全性が高いという側面も持ち合わせています。

どの薬で治療を始めるかは、期待される効果と副作用のリスク、さらには患者さん一人ひとりの病状や合併症、生活スタイルなどを総合的に評価し、医師と相談しながら慎重に決定します※。

分子標的薬による治療が難しい場合や、病気が進行してしまった際には、以下のような他の治療法が検討されることもあります。

・造血幹細胞移植

根治を目指せる治療選択肢ですが、体への負担が非常に大きいため、年齢や全身の状態、そして「HLA」という白血球の型が一致するドナーが見つかるかなど、条件が限られます。

・化学療法

いわゆる「抗がん剤」を用いた治療です。病気が進行し、急性転化期に至った場合などに用いられます。

治療がうまくいっているかどうかは、定期的な検査で客観的な指標をもとに評価します。主に以下の3つの段階で効果を確認しながら、長期的な病状のコントロールを目指します。

検査の種類 | 確認するポイント | 目指す状態(寛解:かんかい)

血液検査 | 白血球や血小板の数が正常範囲に戻っているか | 血液学的寛解

骨髄検査 | フィラデルフィア染色体を持つ細胞が消えているか | 細胞遺伝学的寛解

遺伝子検査 | 原因遺伝子(BCR-ABL1)が検出できなくなっているか | 分子遺伝学的寛解

これらの指標を定期的にチェックし、治療方針を細かく調整しながら病気と長く付き合っていくことが、現在の慢性骨髄性白血病治療の目標です。