慢性肉芽腫症
お子さんやご自身が「慢性肉芽腫症」と診断され、聞き慣れない病名や繰り返す感染症に戸惑いや不安を抱えていませんか。これは生まれつき免疫の働きに異常がある「原発性免疫不全症候群」の一つとされています。
この記事では、慢性肉芽腫症がどのような病気なのか、その原因や症状、診断方法から治療の選択肢までを網羅的に解説します。特に治療法については、感染予防から根本的な治療まで3つの柱に分けて紹介します。
病気の全体像を正しく理解することで、今後の治療に対する漠然とした不安が和らぎ、医師と相談しながらご自身やご家族にとってより良い一歩を踏み出すための知識を得られます。
慢性肉芽腫症の概要
慢性肉芽腫症は、生まれつき免疫の働きに異常がある「原発性免疫不全症候群」の中で、最も報告数の多い病気です。細菌やカビといった病原体に対する抵抗力が弱くなるという特徴があります。
私たちの体を異物から守る免疫細胞の一つに「好中球」があります。好中球は、体内に侵入してきた病原体を殺菌するための「活性酸素」を作り出す重要な役割を担っています。
しかし、この病気では遺伝子の異常により、好中球が持つ酵素「NADPHオキシダーゼ」が正常に働きません。その結果、活性酸素を十分に作り出すことができず、病原体を殺菌する力が失われてしまいます。
このため、体は病原体に対して無防備な状態となり、主に以下の3つの問題が引き起こされます。
・繰り返す感染症
肺炎やリンパ節の腫れ、皮膚の下に膿(うみ)がたまる膿瘍などを何度も繰り返します。
・肉芽腫(にくげしゅ)の形成
体のさまざまな場所に、炎症細胞が集まってできた「こぶ」ができます。これが肉芽腫で、周りの臓器を圧迫して機能障害を引き起こす原因となります。
・慢性の腸炎
患者さんの約半数で、下痢や腹痛が長く続く「肉芽腫性腸炎」という病気を合併します。
一般的に男性に多く見られる病気ですが、遺伝子変異を持つ女性(保因者)でも、まれに重い症状が現れ、造血幹細胞移植が必要になる場合があることも報告されています※。
慢性肉芽腫症の種類
慢性肉芽腫症は、原因となる遺伝子の異常箇所によって、いくつかの種類に分類されます。
この病気の根本的な原因は、体内に侵入した細菌などを殺菌する「活性酸素」を作り出す「NADPHオキシダーゼ」という酵素が、正常に機能しないことです。この酵素は、複数の異なるタンパク質がパズルのように組み合わさって働く「酵素複合体」であり、一つの部品(タンパク質)が欠けても正しく機能しません。
それぞれの部品の設計図である遺伝子に異常があると、酵素がうまく組み立てられず、活性酸素を作れなくなってしまいます。どの遺伝子に異常があるかによって、主に以下の2つのタイプに分けられます。
種類 | 遺伝形式 | 頻度 | 主な特徴
X連鎖型 | X染色体上の遺伝子異常 | 約7割 | ・主に男性に発症する ・一般的に症状が重い傾向がある
常染色体劣性遺伝型 | X染色体以外の遺伝子(常染色体)の異常 | 約3割 | ・性別に関係なく発症する
患者さん全体の約7割を占めるのがX連鎖型です。
一般的にX連鎖の病気は男性に症状が現れますが、まれに遺伝子を持つ女性(保因者)でも重い症状が出ることがあります。その場合、唯一の根治療法である造血幹細胞移植(HSCT)が必要になるケースも報告されています※。
症状のあらわれ方には個人差が見られるものの、どの種類であっても感染症を繰り返しやすくなるという点は共通しています。
慢性肉芽腫症の原因
慢性肉芽腫症は、体を守る免疫細胞の設計図である「遺伝子」に、生まれつき変異があることが原因で起こる病気です。
私たちの体内では、細菌やカビなどの病原体が侵入すると、「好中球」という免疫細胞が戦います。好中球は、病原体を無力化するための強力な武器として「活性酸素」を放出します。
この活性酸素を作り出すために不可欠なのが、「NADPHオキシダーゼ」という酵素です。
しかし、慢性肉芽腫症の患者さんでは、この酵素を正しく作るための遺伝子に生まれつき変異があるため、活性酸素を十分に生成できません。
その結果、好中球が病原体と戦うための武器を持たない状態となり、体内に侵入した細菌やカビを殺菌する力が著しく弱まってしまうのです。
この病気は遺伝性であり、どの遺伝子に異常があるかによっていくつかのタイプに分かれます。
一般的に、X連鎖型と呼ばれるタイプでは男性にのみ症状が現れると考えられていますが、遺伝子変異を持つ女性(保因者)であっても、まれに重い症状が現れることがあり、その場合は造血幹細胞移植が必要になる可能性も指摘されています※。
このように、特定の遺伝子変異によって免疫システムの根幹をなす殺菌機能が失われることが、この病気の本質といえます。
慢性肉芽腫症の症状
慢性肉芽腫症の症状は、免疫細胞が細菌やカビを殺菌できないために起こる「感染症」と、体を守ろうとする反応が裏目に出てしまう「肉芽腫(にくげしゅ)」という2つの問題に大別されます。
1. 繰り返す重い感染症
この病気の最も中心的な症状は、治りにくく、何度も繰り返す感染症です。
体内に侵入した細菌やカビを殺菌するための武器である「活性酸素」を作れないため、免疫細胞が素手で敵と戦っているような状態に陥ります。
その結果、健康な人であれば問題にならないような弱い菌にも感染しやすくなり、重症化する傾向が見られます。
主な感染症が起こる場所と症状
・肺(肺炎): 発熱や長引く咳
・リンパ節(リンパ節炎): 首やわきの下、足の付け根などが腫れる
・皮膚・肝臓など(膿瘍): 皮膚の下や肝臓、肛門の周りなどに膿(うみ)がたまる
・骨(骨髄炎): 骨に菌が感染し、強い痛みや腫れを引き起こす
これらの感染症が重症化すると、血液の中に細菌が入り込んで全身に広がる「敗血症」という、命に関わる危険な状態に至ることもあります。
2. 体のあちこちにできる「肉芽腫」
肉芽腫とは、殺菌しきれない病原体を体内に閉じ込めるために、免疫細胞が集まってできた「こぶ」のようなものです。異物を排除しようとする防御反応が、かえって組織に塊を作ってしまいます。
この肉芽腫が、肺や肝臓、消化管など体のさまざまな場所にできる可能性があります。
肉芽腫自体はがんのような悪性のものではありません。しかし、大きくなると周りの臓器を圧迫し、正常な働きを妨げる原因となります。
特に、患者さんの約半数では消化管の壁に肉芽腫ができ、「肉芽腫性腸炎」という病気を合併します。これにより、数週間以上続く下痢や血便、腹痛といった症状が現れるのです。
症状の現れ方には個人差があり、一般的に男性に多い病気ですが、原因遺伝子を持つ女性(保因者)でも、まれに重い症状が現れることがあります。その場合、唯一の根治療法である造血幹細胞移植が必要になるケースも報告されています※。
慢性肉芽腫症の検査・診断
慢性肉芽腫症の診断は、主に血液検査によって、免疫細胞である「好中球」が細菌などを殺菌する能力を調べることで進められます。
この病気の根本的な原因は、好中球が病原体を攻撃するための武器「活性酸素」を十分に作れないことにあります。そのため、検査ではこの活性酸素の産生能力が正常かどうかを精密に評価します。
好中球の働きを調べる主な検査法を、下表に整理します。
検査法 | 特徴
DHR(ジヒドロローダミン)試験 | ・現在の診断で主流となっている検査 ・フローサイトメーターという特殊な機械を使い、好中球一つひとつの活性酸素産生能力を数値で精密に測定する
NBT(ニトロブルーテトラゾリウム)試験 | ・古くから行われている検査法 ・活性酸素に反応して色が変化する試薬を使い、その色の変化を目で見て判断する
これらの機能検査で異常が確認された場合、診断を確定するために遺伝子検査が行われます。
遺伝子検査は、どの遺伝子に異常があるのかを特定し、病気のタイプを正確に診断するために不可欠です。
さらに、この検査はご家族、特に女性が病気の遺伝子を持っているか(保因者であるか)を調べる上でも重要な意味を持ちます。まれに女性の保因者であっても重い症状が現れ、唯一の根治療法である造血幹細胞移植が必要になるケースも報告されています※。
このように、正確な診断はご本人だけでなく、ご家族の将来的な健康管理を考える上でも大きな助けとなります。
慢性肉芽腫症の治療
慢性肉芽腫症の治療は、①感染症を未然に防ぐ「予防的治療」、②起きてしまった症状を抑える「対症療法」、そして③病気の根本にアプローチする「根治療法」という3つの大きな柱で進められます。
1. 感染症の予防(予防的治療)
この病気と付き合っていく上で最も基本となるのが、重症化しやすい感染症をいかに防ぐかという点です。そのために、以下のような薬を毎日服用し、体を守ります。
・抗菌薬(ST合剤など)の内服
細菌による感染症を防ぐための「お守り」のような薬です。
・抗真菌薬の内服
特にアスペルギルスといった、健康な人には問題となりにくいカビ(真菌)から体を守るために欠かせません。
・インターフェロン・ガンマの注射
免疫細胞の働きそのものを助け、感染への抵抗力を高める目的で使われることがあります。約3割の患者さんで有効とされています。
2. 症状のコントロール(対症療法)
予防策を講じても、感染症にかかったり、体のあちこちに「肉芽腫」というこぶができてしまったりすることがあります。その場合は、症状を和らげるための治療が必要です。
・感染症が起きた場合
入院の上、強力な抗菌薬や抗真菌薬の点滴治療を行います。
・肉芽腫による症状が強い場合
臓器の圧迫などが見られる際には、ステロイド治療で炎症を抑えたり、外科手術で肉芽腫を取り除いたりすることを検討します。
こうした症状のコントロールは、次に説明する根治療法を安全に行うための土台作りとしても、非常に重要な意味を持ちます。
3. 根本的な治療(根治療法)
現在の医療で、慢性肉芽腫症を根本的に治す唯一の方法は、健康なドナーから血液を作る元となる細胞を移植する「造血幹細胞移植(HSCT)」です。
造血幹細胞移植は、この病気のような先天性の免疫疾患に対する治療法として、近年急速に進歩している分野です※。
正常な活性酸素を作る能力を持った細胞を体内に根付かせることで、病気の原因そのものを取り除くことが期待できます。
また、この病気は主に男性に発症しますが、まれに遺伝子変異を持つ女性(保因者)でも重い症状が現れるケースが報告されています。その場合も、造血幹細胞移植が必要になる可能性があります※。
なお、治療を進める上で一つ、重要な注意点があります。
生きた菌を弱毒化して使う「生ワクチン」、特にBCGワクチンは、重篤な副反応を引き起こすリスクがあるため、接種することはできません。





