慢性リンパ性白血病

健康診断で白血球数の増加を指摘され、「慢性リンパ性白血病」と診断されたものの、今後の見通しが立たず不安を感じていませんか。進行が緩やかで、すぐに治療を始めないこともあるため、どう向き合えばよいか戸惑う方も少なくありません。

この記事では、近年日本でも増加傾向にある慢性リンパ性白血病について、基本的な特徴から解説します。50歳以降の中高年に発症しやすく、多くは健康診断で偶然発見されます。具体的な症状や検査方法、そして「無治療経過観察」から分子標的薬を用いた治療まで、段階的に紹介します。

ご自身の病状と照らし合わせながら読み進めることで、病気への正しい理解が深まります。漠然とした不安を整理し、今後の治療や生活と前向きに向き合うための、次の一歩を考えるきっかけになるはずです。

慢性リンパ性白血病の概要

慢性リンパ性白血病(CLL)とは、免疫機能の中心を担う「成熟したBリンパ球」という細胞ががん化し、骨髄や血液中でゆっくりと異常に増えていく血液のがんです。

進行が年単位と非常に緩やかであるため、「インドレントリンパ腫(低悪性度リンパ腫)」の一種に分類されます。がん化したBリンパ球が主に血液中に見られる場合をCLL、リンパ節での増殖が主体の場合を「小リンパ球性リンパ腫(SLL)」と呼びますが、これらは本質的に同じ病気と考えられています。がん細胞は血液や骨髄で増殖し、病状が進むとリンパ節、肝臓、脾臓といった臓器にも広がっていきます。

欧米では全白血病の20~30%を占めるほど頻度の高い病気ですが、日本では1~2%と比較的まれな疾患でした。しかし、近年は日本国内でも増加傾向にあり、主に50歳以降の中高年に発症しやすい特徴があります。

はっきりとした原因はまだ解明されていませんが、加齢に伴う体の変化などが関わっていると推測されています。また、特定の化学物質との関連も指摘されており、中国で行われた大規模な追跡調査では、職業的にベンゼンにさらされる環境にあった人々で、慢性リンパ性白血病を含む非ホジキンリンパ腫のリスクが高まる可能性が示唆されています※。

病気の初期段階では自覚症状がほとんどないため、多くの場合、健康診断や他の病気の検査で「白血球数の増加」を指摘され、偶然発見されます。血液検査でリンパ球数が5,000/μL以上ある状態が3カ月以上続くと、この病気が疑われます。

慢性リンパ性白血病の種類

慢性リンパ性白血病(CLL)は、がん細胞が増殖する主な場所によって「小リンパ球性リンパ腫(SLL)」と呼び分けられますが、どちらも根本的には同じ性質を持つ病気です。

具体的には、がん化したBリンパ球が主に血液や骨髄の中を漂うように増殖する場合を「慢性リンパ性白血病(CLL)」と呼びます。

一方、リンパ節や脾臓(ひぞう)といった臓器に“こぶ”を作るように集まって増える場合を「小リンパ球性リンパ腫(SLL)」と診断します。

両者の主な違いを、下表に整理します。

項目 | 慢性リンパ性白血病(CLL) | 小リンパ球性リンパ腫(SLL)

主な増殖場所 | 血液(末梢血)、骨髄 | リンパ節、脾臓

血液中のリンパ球数 | 5,000/μL以上 | 5,000/μL未満

CLLとSLLは現れる場所こそ違いますが、顕微鏡で見たがん細胞の顔つきや、細胞の表面にある目印(CD5やCD19といったマーカー)は全く同じです。

そのため、これらは「同じ病気の異なる現れ方」と捉えられており、治療方針も基本的には共通しています。

また、この病気はがん細胞が増えるだけでなく、体全体の免疫機能にも影響を及ぼすという側面も持っています。実際に、慢性リンパ性白血病の患者さんでは、COVID-19ワクチンを接種しても、健康な方と比べてウイルスの働きを抑える抗体が作られにくい傾向があることが報告されています※。これは、がん化したリンパ球が免疫細胞としての本来の役割を果たせなくなるためと考えられます。

慢性リンパ性白血病の原因

慢性リンパ性白血病(CLL)が発症する、たった一つの明確な原因はまだわかっていません。しかし、これまでの研究から、いくつかの要因が複雑に絡み合って発症につながると考えられています。

主に、以下のような要因が関わっているとみられています。

・加齢

CLLは50歳以降の中高年に発症しやすいため、最も大きな要因は加齢と考えられています。私たちの体の細胞は、生涯を通じて絶えず分裂を繰り返しますが、その過程で細胞の設計図である遺伝子に少しずつ傷(変異)が蓄積することがあります。この遺伝子の傷が、がん細胞を生み出す引き金になる可能性が指摘されています。

・環境要因(特定の化学物質への暴露)

特定の化学物質に長期間さらされることも、リスクを高める要因の一つです。例えば、中国で13万人以上を対象に行われた大規模な追跡調査では、職業的に「ベンゼン」という化学物質を扱う環境にいた人々で、CLLを含む非ホジキンリンパ腫の発症リスクが高まる可能性が報告されました※。

この研究では、ベンゼンに暴露された経験のある人は、ない人と比べてCLLを発症するリスクが2.3倍に高まる可能性が示唆されています※。

ただし、これらの要因を持つすべての人がCLLを発症するわけではなく、多くの場合、原因を一つに絞り込むことは困難です。遺伝的な体質なども含めた複数の要素が偶然重なり、発症に至ると推測されています。

慢性リンパ性白血病の症状

慢性リンパ性白血病(CLL)は、年単位で非常にゆっくりと進行するため、初期段階では自覚症状がほとんどありません。多くの方は、健康診断や他の病気の検査を受けた際に、「白血球数の増加」を指摘されて偶然見つかります。

病状が進み、がん化したリンパ球が血液や骨髄、リンパ節などで一定以上に増えてくると、体にさまざまなサインが現れはじめます。

■ リンパ節の腫れ

首の周りやわきの下、足の付け根といった部分のリンパ節が腫れてきます。

がん細胞がリンパ節の中でゆっくりと増殖するため、急な炎症で起こる痛みはなく、触っても痛くない“しこり”として気づかれるのが特徴です。

■ 全身にあらわれる症状(B症状)

リンパ腫に特徴的なサインとして知られる「B症状」が現れることがあります。具体的には、以下の3つの症状を指します。

・38℃以上の原因不明の発熱

・夜間にシーツを取り替えるほど大量の寝汗

・とくに食事制限や運動をしていないのに、6カ月で体重が10%以上減少する

これらの症状は、がん細胞が作り出す物質が体に影響を及ぼすことで起こると考えられています。

■ 骨髄の機能低下が引き起こす症状

骨髄は血液細胞を作り出す工場ですが、この工場ががん細胞によって占拠されてしまうと、正常な血液細胞を十分に作れなくなります。その結果、以下のような症状が引き起こされます。

症状の種類 | 具体的なサイン | なぜ起こるのか?

貧血 | ・息切れ、動悸 ・めまい、立ちくらみ ・全身の倦怠感 | 全身に酸素を運ぶ「赤血球」が不足するため

出血傾向 | ・鼻血や歯ぐきからの出血 ・ぶつけた覚えのないあざ ・傷口の血が止まりにくい | 出血を止める「血小板」が不足するため

易感染性(いかんせんせい) | ・肺炎や発熱を繰り返す ・感染症が治りにくい | 病原体と戦う「正常な白血球(好中球)」が減少し、体の抵抗力が落ちるため

■ 免疫システムの異常

CLLの大きな特徴の一つが、免疫システムの異常です。

がん化したBリンパ球は、本来の免疫細胞としての役割を果たせなくなるため、体全体の免疫力が低下します。実際に、CLLの患者さんではCOVID-19ワクチンを接種しても、健康な方と比べてウイルスの働きを抑える抗体が作られにくい傾向があることが報告されています※。

さらに、免疫システムが誤作動を起こし、自分自身の正常な細胞を敵とみなして攻撃してしまう「自己免疫疾患」を合併することもあります。

代表的なものに、自分の赤血球を壊してしまう「自己免疫性溶血性貧血」や、血小板を破壊する「自己免疫性血小板減少症」があり、貧血や出血傾向がさらに悪化する原因となります。

これらの症状がみられた場合は、早めに専門医へ相談することが大切です。

慢性リンパ性白血病の検査・診断

慢性リンパ性白血病(CLL)の診断は、健康診断などで偶然見つかる「リンパ球の増加」をきっかけに始まることがほとんどです。診断を確定し、病気の勢いや広がりを正確に把握するために、いくつかの検査を段階的に進めていきます。

まず、血液検査でリンパ球が異常に増えていないかを確認します。

血液中のリンパ球数が「5,000/μL以上」という状態が、一時的な感染症などによるものではないことを確認するため、「3カ月以上」続いていることが診断の第一歩です。

次に、「フローサイトメトリー」という特殊な検査で、増えているリンパ球の正体を探ります。この検査では、細胞の表面にある「CD5」や「CD19」といった“名札”のような目印(マーカー)を調べることで、その細胞がCLLに特徴的ながん細胞であるかを確定できます。

また、診断の過程では問診も重要な手がかりとなります。例えば、過去の職業歴でベンゼンなどの化学物質を扱う環境にいた経験は、CLLを含む非ホジキンリンパ腫のリスクを高める可能性が報告されており、診断の参考にすることがあります※。

診断が確定した後は、病気の進行度(病期)や今後の治療方針を決めるために、さらに詳しい検査を行います。主な精密検査の目的は、下表のとおりです。

検査の種類 | 何を調べるか?(目的)

骨髄検査 | ・血液細胞の工場である骨髄に、がん細胞がどのくらい広がっているかを直接確認します。 ・局所麻酔をして骨盤の骨から骨髄液や組織を少量採取します。

画像検査 (CT、PET-CTなど) | ・全身のリンパ節の腫れや、肝臓・脾臓といった臓器への広がりを地図のように可視化します。 ・病気の“勢力範囲”を正確に把握するために役立ちます。

染色体・遺伝子検査 | ・がん細胞が持つ遺伝子の異常(17p欠失など)を調べます。 ・病気の進行スピードを予測したり、効果が期待できる治療薬を選んだりするための重要な情報となります。

これらの検査結果を総合的に分析して病期を判定し、一人ひとりの患者さんに合わせた治療計画を立てていきます。

また、CLLは免疫機能の低下を招く病気であるため、検査の段階から感染症への注意が欠かせません。実際にCLLの患者さんでは、COVID-19ワクチンを接種しても、健康な人と比べてウイルスの働きを抑える抗体が十分に作られない場合があることもわかっています※。そのため、診断と並行して感染対策についても考えていくことが大切になります。

慢性リンパ性白血病の治療

慢性リンパ性白血病(CLL)の治療は、病気を根治させることよりも、病気の進行をコントロールして症状を和らげ、長期的に病気と付き合っていくことを目標とします。

この病気は年単位で非常にゆっくりと進行するため、症状がなければすぐに治療を開始せず、慎重に経過を見守る「無治療経過観察(Watchful Waiting)」が基本方針です。慌てて治療を始めても生存期間の延長にはつながらず、かえって不要な副作用に苦しむ可能性があるため、治療開始のタイミングを慎重に見極めることが重要になります。

治療を開始するかどうかは、以下のようなサインや検査値の変化が見られた場合に検討されます。

・原因不明の発熱や大量の寝汗、6カ月で10%以上の体重減少といった全身症状(B症状)が出現したとき

・貧血や血小板減少が進行し、日常生活に支障が出始めたとき

・リンパ球の数が2カ月で50%以上増加するなど、急激なペースで増え始めたとき

・リンパ節や脾臓(ひぞう)の腫れが著しく大きくなり、痛みや圧迫感が出てきたとき

治療が開始される場合、年齢や全身の状態、がん細胞が持つ遺伝子のタイプなどを総合的に判断し、一人ひとりに合った治療法が選択されます。

■ 主な治療の選択肢

治療法 | 特徴 | 主な対象

分子標的薬 | ・がん細胞の増殖に必要な特定の分子だけを狙い撃ちする薬 ・近年のCLL治療の中心となっている | ・初回治療から再発時まで幅広く用いられる ・特に予後不良の遺伝子異常を持つ場合に有効

化学療法 (免疫化学療法) | ・抗がん剤と分子標的薬を組み合わせて、がん細胞を攻撃する ・FCR療法やBR療法といった種類があり、体の状態に応じて使い分ける | ・比較的若く、全身状態が良好な方

造血幹細胞移植 | ・大量の抗がん剤治療の後に、健康な方の造血幹細胞を移植する ・根治を目指せる唯一の治療法だが、体への負担が非常に大きい | ・若年者で、他の治療法で効果が見られなかった場合 ・「17p欠失」などの治療が効きにくい遺伝子異常を持つ場合

■ 治療と並行して行うべき「感染症対策」

CLLの治療を考える上で、薬物療法と同じくらい重要なのが「感染症対策」です。病気そのものの影響で正常な免疫細胞が減少し、体全体の抵抗力が落ちてしまうためです。

実際に、CLLを含む血液がんの患者さんでは、新型コロナウイルス(COVID-19)ワクチンを2回接種しても、ウイルスの働きを抑える抗体ができた人の割合は66.8%にとどまり、健康な人の97.9%と比べて著しく低いことが報告されています※。

これは、ワクチンを接種しても、免疫システムが十分に反応できない状態にあることを示しています。そのため、インフルエンザや肺炎など、あらゆる感染症に対して普段から細心の注意を払う必要があります。

感染を繰り返す場合には、不足した免疫物質を補充する「ガンマグロブリン製剤」の投与も行われます。ご自身の状態に合わせた感染対策についても、主治医とよく相談しましょう。