急性骨髄性白血病

突然の息切れや動悸、覚えのないあざや止まりにくい鼻血。もし、こうした症状が複数同時に現れたら、それは「急性骨髄性白血病」という、進行が非常に速い“血液のがん”のサインかもしれません。

この病気は血液をつくる工場である骨髄に異常が起きるもので、日本では年間10万人あたり約4人が発症するといわれています。治療をしないと数週間から数ヶ月で命に関わる深刻な病気ですが、近年は治療法が進歩し、回復も十分に期待できるようになりました。

この記事では、急性骨髄性白血病の初期症状や原因、そして最新の治療法までを詳しく解説します。ご自身や大切な人のために、病気への正しい知識を身につけ、万が一のサインを見逃さないようにしましょう。

急性骨髄性白血病の概要

急性骨髄性白血病は、「血液のがん」と呼ばれる病気の一つです。 私たちの骨の中心には「骨髄(こつずい)」という大切な場所があります。 この骨髄は、体を巡る血液の成分をつくり出す、いわば血液の工場です。

急性骨髄性白血病では、この血液工場でがん化した血液細胞(白血病細胞)が、無秩序に増え続けてしまいます。 白血病細胞が増えすぎると、正常な血液をつくるためのスペースがなくなってしまいます。 その結果、体に必要な血液成分が不足し、様々な症状を引き起こすのです。

この病気は進行が非常に速いという特徴があり、急に体調が悪化することがあります。 具体的には、以下のような血液成分の減少がみられます。

  • 赤血球の減少 赤血球は、全身に酸素を運ぶ重要な役割を担っています。 数が減ると貧血状態となり、息切れや動悸、だるさといった症状が出ます。
  • 正常な白血球の減少 白血球は、体内に侵入した細菌などから体を守る免疫の主役です。 減少すると抵抗力が弱まり、感染症にかかりやすくなって発熱しやすくなります。
  • 血小板の減少 血小板は、出血した際に血を固めて止める働きがあります。 不足すると、鼻血や歯ぐきからの出血、ぶつけた覚えのないあざなどができやすくなります。

日本では、1年間に人口10万人あたり約4人がこの病気を発症するといわれます。 特に40歳を過ぎると発症しやすくなる傾向があります。 治療をしないと数週間から数ヶ月で命に関わることもありますが、化学療法や造血幹細胞移植などの治療で、回復も期待できる病気です。 そのため、急な体調の変化に気づいたら、すぐに医療機関を受診することが何よりも大切です。

急性骨髄性白血病の種類

急性骨髄性白血病と診断されても、実は一つの病気ではありません。 がん化した血液細胞の性質によって、いくつかの種類に分けられます。 この種類(病型)によって治療法や病気との向き合い方が変わります。

種類を特定するための「戸籍調査」

どの種類の白血病かを知るため、骨髄検査で細胞を詳しく調べます。 これは、いわば血液細胞の「戸籍調査」のようなものです。 主に、以下のポイントから白血病細胞の正体を突き止めます。

分類で見るポイント

どのようなことを調べるの?

細胞の形や特徴(形態)

顕微鏡で白血病細胞の顔つきや、どれくらい成長しているかを観察します。

細胞表面の目印(表面マーカー)

細胞の表面にある「名札」のようなタンパク質を調べて種類を特定します。

染色体や遺伝子の異常

細胞の設計図である染色体や遺伝子に、どのような変化が起きているかを確認します。

治療法が大きく変わる代表的な種類

これらの情報から、国際的な基準に沿って病型が決まります。 中でも、治療方針が大きく異なる代表的な種類があります。

  • 急性前骨髄球性白血病(APL) 特徴的な遺伝子の異常で起こるタイプです。 以前は治りにくい病気でしたが、研究が進み治療法が大きく進歩しました。 ビタミンAの仲間である薬がよく効くことがわかっています。 そのため、急性骨髄性白血病の中では、治る可能性が特に高い種類です。
  • 二次性白血病 他の病気の治療などが原因で、二次的に発症するタイプです。 過去に受けた化学療法や放射線治療が原因となることがあります。 また、「骨髄異形成症候群」という別の血液の病気から移行する場合もあります。

このように、急性骨髄性白血病の種類を正確に特定することが重要です。 一人ひとりの状態に合った最適な治療法を選ぶための、大切な第一歩となります。

急性骨髄性白血病の原因

急性骨髄性白血病は、血液をつくる細胞の設計図である遺伝子に、何らかの傷がつくことが発症のきっかけとなります。

遺伝子に傷がつくと、細胞の増え方を正しくコントロールできなくなります。 その結果、がん化した白血病細胞が骨髄の中で無秩序に増え続けてしまうのです。

しかし、なぜ遺伝子に傷がついてしまうのか、その詳しい原因はほとんどの場合、まだ解明されていません。 ただ、これまでの研究から、発症する可能性を少し高める要因(リスク因子)がいくつか分かっています。

【発症の可能性を高める要因】

  • 過去の病気の治療 他のがん治療で使われた一部の抗がん剤や放射線治療です。 これらの治療は、がん細胞を攻撃する強力な力を持っています。 その影響で、正常な血液細胞の遺伝子が傷つくことがあります。
  • もともとある血液の病気 骨髄異形成症候群(こつずいいけいせいしょうこうぐん)などが該当します。 これは、血液工場である骨髄がうまく働かなくなる病気です。 この状態から、白血病に移行してしまうことがあります。
  • 特定の化学物質や放射線 ベンゼンなどの化学物質や、大量の放射線を浴びることです。 仕事などでこれらの物質に長期間さらされると、リスクが高まります。
  • 生まれつきの要因 ダウン症候群など、特定の遺伝子に関わる病気がある場合です。 細胞の設計図がもともと不安定なため、傷がつきやすいと考えられます。
  • 生活習慣 喫煙も、リスクを高める要因の一つです。 タバコの煙に含まれる多くの有害物質が、全身の細胞を傷つけます。

これらの要因は、あくまでも「発症の可能性が少し高まる」というだけです。 当てはまるからといって、必ず病気になるわけではありません。 実際には、これらのリスク因子が一つもない方に突然発症するケースが大半です。 誰にでも起こりうる病気だからこそ、体の不調に気づいたら早めに受診することが大切です。

急性骨髄性白血病の症状

急性骨髄性白血病は、病気の進行がとても速いという特徴があります。 そのため、多くの場合、これまで元気だったのに急に症状があらわれます。 気になる体のサインを見逃さず、早めに気づくことが何よりも大切です。

症状があらわれる原因は、大きく2つのメカニズムに分けられます。 1つ目は、血液工場である骨髄が、がん化した白血病細胞で埋めつくされてしまうことです。 その結果、本来つくるべき正常な血液の成分が不足してしまいます。

2つ目は、増えすぎた白血病細胞が骨髄からあふれ出すことです。 血液に乗って全身をめぐり、体の様々な臓器に入り込んで不調を引き起こします。 具体的には、以下のような症状に注意が必要です。

正常な血液の成分が減ることによる症状

私たちの体を支える血液の成分が減ると、様々なサインが出ます。 まるで工場の生産ラインが止まって、必要な部品が届かなくなるイメージです。

  • 赤血球が足りない(貧血) 赤血球は、全身に酸素を運ぶ大切な運び屋です。 数が減ると、体は酸素不足になり、少し動いただけでも息切れや動悸がします。 また、顔色が悪くなったり、ひどい疲れやだるさを感じたりします。
  • 正常な白血球が足りない(感染症) 白血球は、体に入ってきた細菌やウイルスと戦う免疫の兵隊です。 この正常な兵隊が減ると、体の抵抗力が落ちてしまいます。 風邪でもないのに38度以上の熱が出たり、一度かかった感染症がなかなか治らなくなります。
  • 血小板が足りない(出血) 血小板は、ケガをした時に血を固めて止血する役割を担います。 数が減ると血が止まりにくくなり、鼻血や歯ぐきからの出血が目立つようになります。 また、ぶつけた覚えがないのに、体のあちこちに青あざができるのも特徴的なサインです。

白血病細胞が臓器に入り込むことによる症状

骨髄からあふれ出た白血病細胞が、他の場所でトラブルを起こすこともあります。

  • 骨や関節の痛み 骨髄の中で白血病細胞が急激に増えることで、骨の内側から圧迫されます。 その結果、骨や関節に痛みを感じることがあります。
  • 歯ぐきの腫れや痛み 白血病細胞が歯ぐきに入り込んで、赤く腫れ上がることがあります。
  • お腹の張り お腹の中にある肝臓や脾臓(ひぞう)に白血病細胞が入り込むと、臓器が腫れます。 その結果、お腹が張ったように感じたり、痛みが出たりします。
  • 頭痛や吐き気 まれに、脳やその周りを覆う膜(髄膜)に白血病細胞が入り込むことがあります。 この場合、頭痛や吐き気、嘔吐などの症状がみられます。

これらの症状は、一つひとつは他の病気でもみられるものです。 しかし、複数の症状が急に、そして同時にあらわれた場合は注意が必要です。 気になるサインがあれば、ためらわずに内科や血液内科を受診してください。

急性骨髄性白血病の検査・診断

急性骨髄性白血病が疑われる場合、いくつかの検査を行います。 病気の進行が速いため、迅速かつ正確に診断することが重要です。 診断を確定し、最適な治療法を決めるための大切なステップです。 検査は主に「血液検査」と、より詳しい「骨髄検査」が中心です。

血液検査:病気のサインを見つける第一歩

まず、腕などから採血をして血液の状態を調べます。 これは、体の中の異常を知るための最初の入り口となる検査です。 赤血球や正常な白血球、血小板の数が減っていないかを確認します。 同時に、がん化した血液細胞(白血病細胞)がいないかも調べます。 この検査で異常が見つかった場合、診断を確定するために骨髄検査へ進みます。

骨髄検査:診断を確定させるための重要な検査

血液をつくる工場である「骨髄」の状態を直接調べる検査です。 急性骨髄性白血病の診断を確定するために、欠かすことができません。

  • 検査の方法 一般的に、腰の骨(腸骨)のあたりに部分的な麻酔をします。 その後、専用の細い針を刺して、骨髄液や組織を少しだけ採取します。
  • 検査の目的 骨髄の中で、白血病細胞がどれくらいの割合を占めているかを確認します。 この結果で、急性骨髄性白血病であるかどうかの診断が確定します。

病気の性質を詳しく調べる検査

骨髄検査で採った細胞を使い、さらに詳しい検査を行います。 病気のタイプを正確に特定し、一人ひとりに合った治療法を選ぶためです。

検査の種類

どのようなことを調べるの?

染色体検査・遺伝子検査

細胞の設計図である遺伝子に異常がないかを調べます。病気の性質や、どの薬が効きやすいかを予測するのに役立ちます。

表面マーカー検査

白血病細胞の表面にある「名札」のような目印を調べます。これにより、細胞の種類を正確に分類することができます。

全身の状態を確認する検査

安全に治療を始めるために、体の他の部分に異常がないかも調べます。

  • 画像検査(CT検査・超音波検査) お腹の臓器である肝臓や脾臓(ひぞう)の腫れなどを確認します。
  • 心臓の検査(心エコー検査) これから行う化学療法に、心臓が耐えられるかを事前に確認します。

急性骨髄性白血病の治療

急性骨髄性白血病は進行が速いため、診断されるとすぐ治療が始まります。 治療の目標は、まず体の中の白血病細胞をできるだけ減らすことです。 そして、検査で見つけられないくらい少なくなる「寛解(かんかい)」を目指します。

寛解は、病気が見かけ上なくなった状態ですが、完治とは少し違います。 目に見えない白血病細胞がまだ隠れている可能性があるためです。 そのため、治療は大きく2つの段階に分けて慎重に進められます。

治療ステップ

治療の目標

寛解導入療法<br>(最初の治療)

複数の抗がん剤を使い、骨髄にいる白血病細胞を<br>一気に減らして「寛解」という状態を目指します。

寛解後療法<br>(地固め療法)

目に見えなくなった白血病細胞をゼロに近づけ、<br>病気の再発を防ぐための大切な治療です。

寛解後療法では、病気の再発しやすさ(リスク)に応じて治療法が選ばれます。 主な治療法は以下の通りです。

  • 化学療法(かがくりょうほう) お薬を使って、がん細胞の増殖を抑える治療法です。 白血病細胞が持つ特別な目印だけを狙い撃ちする「分子標的薬」も使われます。
  • 造血幹細胞移植(ぞうけつかんさいぼういしょく) とても強力な化学療法で白血病細胞を攻撃した後に行います。 健康な方の血液をつくるもとになる細胞(造血幹細胞)を体に戻す治療です。 再発のリスクが高い場合や、体の状態をみて判断されます。
  • 支持療法(しじりょうほう) 治療中のつらい副作用を和らげる、とても大切な治療です。 感染症を防ぐお薬や、貧血・出血に対する輸血などを行います。

また、急性前骨髄球性白血病(APL)という特別なタイプがあります。 このタイプには、ビタミンAの仲間のお薬がとてもよく効きます。 そのため、急性骨髄性白血病の中では、治る可能性が特に高い種類です。

どの治療法を選ぶかは、年齢や体の状態、病気のタイプを詳しく調べて決まります。 医師とよく相談しながら、最適な治療を進めていくことが大切です。