廃用症候群
病気やケガで安静に、または活動量が減った時、あなたの体で何が起きるかご存知ですか?
実は、体を動かさないと筋肉や骨、心臓、脳の機能まで全身が急速に衰える「廃用症候群」をご存知でしょうか?
近年、集中治療室(ICU)で治療を受ける80歳以上の超高齢患者さんが増える中、廃用症候群の進行は早く、回復を阻む深刻な課題となっています。
誰にでも起こるこの症候群は、早期発見と対策が極めて重要です。
本記事でその全貌を理解し、健康を守りましょう。
廃用症候群の概要
私たちが体を動かさない時間が長く続くと、体にはさまざまな良くない変化が起こります。これが「廃用症候群(はいようしょうこうぐん)」と呼ばれる状態です。例えば、病気やケガで入院してベッドの上で過ごすことが多い場合や、骨折でギプスを巻いて体を固定している時などが考えられます。
人間は、使わない部分はどんどん機能が衰えてしまう生き物です。体を動かさない期間が長くなると、筋肉が細くなって力が弱くなったり、骨がもろくなって骨折しやすくなったりします。また、関節が硬くなり、手足が動かしにくくなることもあります。これらは、私たち医師が現場で実際に多く目にする体の変化です。
特に高齢の方の場合、体が動かせない状態が続くと、これらの体の変化はとても早く、大きく進む傾向にあります。例えば、集中治療室(ICU)で治療を受けている80歳以上の患者さんは近年増えています。そのような超高齢の患者さんが体を動かせない状況が続くと、体だけでなく脳の働きが一時的に悪くなる「せん妄(せんもう)」や、食べ物をうまく飲み込めなくなる「嚥下障害(えんげしょうがい)」が起こりやすくなります。
これらの症状はさらに全身の機能低下を招き、時には命にかかわる問題につながることもあります。超高齢の患者さんのリスクを正確に評価することは、医療現場では非常に複雑な課題です。従来の評価方法では、患者さんのもともとの体の衰え(フレイルという概念です)や、治療を受ける前の健康状態を十分に考慮できない場合があります。このため、どの治療が本当に患者さんにとって良いのか、判断が難しいと感じることも少なくありません。
廃用症候群は、年齢に関わらず誰にでも起こる可能性があります。しかし、特にご高齢の方にとっては、その進行の速さや重症化のリスクから、より一層の注意が必要です。この症候群は、予防や改善ができる病気であり、早めに対策を始めることが、ご自身の健康を守る上でとても大切になります。
廃用症候群の種類
体が動かせない状態が長く続くと、体にはさまざまな良くない変化が起こります。廃用症候群は、一つの症状だけでなく、体のいろいろな部分に影響が出てくることが特徴です。大きく分けると、次の2つの種類があります。
- 体を動かす機能に関わるもの
- 筋肉や骨、関節だけでなく、内臓の働きにも影響が出ます。
- 心や脳の働きに関わるもの
- 気持ちの落ち込みや、物事を考える力にも変化が現れます。
これらの種類は、お互いに影響し合って、体の機能をさらに低下させてしまうことがあります。特に高齢の方では、その進行が早く、注意が必要です。具体的には、次のような症状が現れることがあります。
- 筋肉の力が弱くなる(筋力低下)
- 体を動かさないと、筋肉が細くなり力が入りにくくなります。
- 例えば、座っている状態から立ち上がるのが難しくなったり、歩く時にふらつきやすくなったりします。
- 関節が固くなる(関節拘縮)
- 手足の関節を動かさないでいると、曲がったまま伸びにくくなったり、硬くなって痛みが出たりします。
- 肩やひじ、ひざなど、全身の関節で起こる可能性があります。
- 骨が弱くなる(骨粗しょう症)
- 骨に重さがかからない期間が続くと、骨を作る力が衰えてしまいます。
- その結果、骨がもろくなり、ちょっとしたことで骨折しやすくなってしまいます。
- 心臓や呼吸の機能が低下する
- 体を動かさないと、心臓や肺の働きも弱くなってしまいます。
- すると、少し動いただけでも息が上がったり、疲れやすくなったりすることがあります。
- 消化器の調子が悪くなる
- お腹の動きが悪くなり、便秘になったり、食欲がなくなったりすることもあります。
- 食べ物を飲み込みにくくなる(嚥下障害)
- 口やのどの筋肉を使わないでいると、食べ物や飲み物をうまく飲み込めなくなります。
- 食べ物が肺に入ってしまう「誤嚥(ごえん)」につながることもあり、注意が必要です。
- 気持ちが落ち込む(意欲の低下や抑うつ)
- 活動量が減ると、気分が沈んだり、何もする気が起きなくなったりすることがあります。
- これは、脳の働きにも影響が出ているサインです。
- 物事を考える力が衰える(認知機能の低下)
- 集中力が続かなくなったり、新しいことを覚えにくくなったりすることがあります。
- 意識がぼんやりする(せん妄)
- 特に高齢の方や病気で体が弱っている方は、一時的に意識がぼんやりしたり、場所や時間が分からなくなったりすることがあります。
特に入院してベッドで長く過ごすことが多い方、とくに集中治療室(ICU)にいる80歳以上の超高齢の患者さんは、近年とても増えています。こうした患者さんでは、ただ体が動かせないだけでなく、もともと体が衰えていたり(フレイルと呼ばれる状態です)、治療を受ける前から持病があったりすることが多いです。私たち医師は、その患者さんに最適な治療を選ぶために、体の状態を詳しく評価しようとしますが、従来の評価方法では、これらの複雑な要素を十分に考慮することが難しいと感じることもあります。廃用症候群は、これらの問題が複雑に絡み合い、体の回復をさらに難しくしてしまうことがあるのです。
廃用症候群の原因
私たちが廃用症候群になってしまう一番の理由は、体を動かさない時間が長くなることです。病気やケガで寝ていることが多かったり、入院してベッドの上で過ごす時間が長くなったりすると、私たちの体はさまざまな変化を起こしてしまいます。まるで、使われない機械が錆びついてしまうように、人間の体も使わないとどんどん機能が衰えてしまうのです。
体を動かさないことで、どのような変化が起こるのでしょうか。まず、筋肉は使わないとすぐに細くなり、力が弱ってしまいます。これは、筋肉が「使われないなら必要ない」と判断して、どんどん小さくなってしまうためです。また、骨も同じで、体を動かして重さがかからないと、骨を作る力が衰えてもろくなってしまいます。さらに、心臓や肺の働きも、体を動かす機会が減ることで少しずつ弱くなることがあります。
特に注意が必要なのは、ご高齢の方や、集中治療室(ICU)で治療を受けている患者さんです。集中治療室(ICU)で治療を受ける80歳以上の高齢の患者さんは、近年とても増えています。このような患者さんの場合、体を動かせない状態が長く続くと、筋力の低下や心臓・肺の機能の衰えなどが、より早く、大きく進む傾向があるのです。もともと持っている体の力が弱くなっていたり(これを「フレイル」と呼びます)、病気と闘う中でさらに体力を使ってしまったりと、特別な状態にあるためです。
私たち医師は、一人ひとりの患者さんに合った治療を選ぶために、体の状態を詳しく見極めようとします。しかし、従来の評価方法では、こうした高齢の患者さんがもともと持っている体の弱さ(フレイル)や、治療を受ける前の健康状態を十分に考えるのが難しいと感じることも少なくありません。体を動かせない状態が続くと、全身の機能が急速に衰え、命にかかわるような大きな問題につながることもあります。そのため、医師や看護師、リハビリの先生たちは、できるだけ早く体を動かすことの大切さをいつもお話ししています。
廃用症候群の症状
体が動かせない時間が長く続くと、私たちの体にはさまざまな「困ったこと」が起こります。これが廃用症候群の症状です。目に見える体の変化だけでなく、気持ちの面にも大きな影響が出ることがあります。
特に、病気でベッドに寝ていることが多かったり、病院の集中治療室(ICU)で治療を受けている80歳以上の超高齢の患者さんでは、これらの症状がより早く、重く現れる傾向にあります。
私たち医師は、病気が重い高齢の患者さんの場合、もともと持っている体の弱さ(フレイル)や、病気になる前の元気さを測るのがとても難しいと感じています。そのため、どの治療がその方にとって本当に良いのか、判断に迷うことも少なくありません。このような状況では、廃用症候群の症状がより複雑に現れ、回復を一層困難にすることがあります。
主な症状は、大きく分けて二つの種類があります。
- からだの症状 – 筋肉の力が弱くなる(筋力低下) 急に筋肉が細くなり、力が入りにくくなります。 立つ、歩くといった日常の動きも難しく感じることがあります。 一度弱った筋肉を元に戻すには、長い時間がかかります。 – 関節が固くなる(関節拘縮) ずっと同じ姿勢でいると、ひざや股関節などが曲がったまま伸びにくくなります。 痛みが出て、動かすことがつらくなることもあります。 – 骨がもろくなる(骨粗しょう症) 体に重さがかからない期間が続くと、骨を作る力が衰えます。 その結果、骨折しやすくなる危険性が高まります。 – 心臓や肺の機能が低下する 体を動かさないと、心臓や肺の働きも弱くなってしまいます。 少し動いただけで息切れがしたり、疲れやすくなったりすることがあります。 これまで何でもなかった日常の動きが、とても負担に感じることがあります。 – 血のめぐりが悪くなる 立ち上がったときに、めまいがしてふらつくことがあります(起立性低血圧)。 また、足の血管に血の塊ができやすくなる危険性もあります。 – 床ずれ(褥瘡) 同じ場所がずっとベッドに触れていると、皮膚が赤くなったり傷になったりします。 悪化すると、深い傷になってしまうこともあり、特に注意が必要です。 – 飲み込みにくくなる(嚥下障害) 口やのどの筋肉を使わないでいると、食べ物や飲み物をうまく飲み込めなくなります。 食事中にむせやすくなり、食べ物が肺に入ってしまう危険性も高まります。 – 栄養が足りなくなる(栄養失調) 食欲が落ちたり、飲み込みにくかったりすることで、必要な栄養が摂れなくなります。 体力がさらに落ち、回復が遅れることにもつながります。
- こころの症状 – やる気がなくなる(意欲低下) これまで好きだったことにも興味が持てなくなり、何もする気が起きなくなります。 回復しようとする気持ちが起きにくくなることもあります。 – 気分が落ち込む(うつ状態) 気持ちが沈んでしまい、ふさぎ込むことが増えます。 集中力が続かなくなり、眠れなくなることもあります。 – 物事を考える力が衰える(認知機能の低下) 新しいことを覚えにくくなったり、判断力が鈍くなったりすることがあります。 – 意識がぼんやりする(せん妄) 特にご高齢の方や病気で体が弱っている方は、一時的に意識がぼんやりすることがあります。 時間や場所がわからなくなったり、実際にはないものが見えたりすることもあります。
これらの症状は、一つだけでなく、同時にいくつも現れることが少なくありません。そして、それぞれの症状が悪影響を及ぼし合い、体の回復をさらに難しくしてしまうことがあります。症状に早く気づき、適切な対策を始めることが、ご自身の健康を守るためにとても大切です。
廃用症候群の検査・診断
廃用症候群かどうかを判断するには、まず患者さんのお話を詳しく聞くことが大切です。いつからどのような体の変化を感じているか、ということを教えていただきます。ご家族からの情報も、患者さんの普段の様子を知るためにとても重要です。気になることがあれば、遠慮なく医療スタッフに伝えてください。
次に、医師が実際に患者さんの体を細かく診ていきます。体のどの部分の機能が、どれくらい低下しているのかを調べることが目的です。具体的な検査内容は、以下のとおりです。
- 筋肉の力
- 握力や、腕を上げたり足を曲げたりする力を確認します。
- 椅子から立ち上がる、ベッドから起き上がるといった動きができるかを見ます。
- 関節の動き
- 医師が手足の関節を動かしてみて、どこまで曲げ伸ばしができるか確認します。
- 関節が硬くなっていないか、痛みがないかを丁寧に調べます。
- バランス能力
- 片足で立てるか、まっすぐ歩けるかなど、体のバランスを見る検査です。
- ふらつきがないか、転びやすくなっていないかをチェックします。
- 脳の働き
- 簡単な質問に答えてもらったり、集中力が続いているかを確認したりします。
- 物事を考える力や、記憶力に変化がないかも調べます。
特に近年、集中治療室(ICU)で治療を受ける80歳以上の超高齢の患者さんは増えています。このような患者さんは、もともと体が弱っている「フレイル」の状態であったり、他の病気も抱えていることが多く、廃用症候群の診断がとても難しい場合があります。
私たち医師は、単に症状を見るだけでなく、患者さんの年齢や持病、もともとの体の状態など、たくさんのことを考えて総合的に判断しています。従来の検査だけでは、これらの複雑な背景を十分に評価できないことがあるため、より多角的な視点での詳しい評価が欠かせません。廃用症候群を正確に診断することで、一人ひとりの患者さんに合った、最適な治療計画を立てていくことができます。
廃用症候群の治療
廃用症候群の治療は、体が動かせなくなったことで衰えてしまった機能を回復させ、また元気な日常生活を送れるようにすることを目指します。体を動かせない期間が長くなるほど、回復には時間と努力が必要となるため、できるだけ早く治療を始めることが大切です。私たちが現場で多くの患者さんと接する中で、この「早期からの介入」がどれほど重要かを実感しています。
治療は主に次の3つの柱で行われます。
- リハビリテーション
- 体を動かすリハビリテーションは、治療の中心です。
- 病気で安静が必要な期間をできる限り短くし、早くベッドから起き上がったり、座ったりする練習を始めます。
- 専門の理学療法士や作業療法士が、患者さん一人ひとりの状態に合わせて、無理のない運動を計画します。
- 筋肉の力を取り戻し、固くなった関節を柔らかくする運動を行います。
- ご飯を食べる、着替える、トイレに行くなど、毎日の生活に必要な動作を練習します。
- 栄養管理
- 筋肉や骨を作るためには、しっかりとした栄養が欠かせません。
- 医師や管理栄養士が、患者さんの体に必要な栄養バランスを考え、食事の計画を立てます。
- 口から食べることが難しい場合には、点滴などで栄養を補給することもあります。
- 合併症の予防と対応
- 廃用症候群だけでなく、他の病気や症状が起こらないように注意深く見守ります。
- 例えば、同じ体勢でいることでできる床ずれ(褥瘡)を防ぐために、体の向きをこまめに変えます。
- 食事中に食べ物が肺に入ってしまう「誤嚥(ごえん)」による肺炎を防ぐための工夫もします。
- 足の血管に血の塊ができる「血栓」を予防するため、足の運動やマッサージを行うこともあります。
特に、ご高齢の患者さんの治療は、より複雑になる傾向があります。近年、集中治療室(ICU)で治療を受ける80歳以上の患者さんが増えていますが、こうした方々は、もともとの体の衰え(フレイル)や他の病気を抱えていることが少なくありません。そのため、私たち医師は、廃用症候群の治療を選ぶ際に、その方の「今の体」だけでなく、「これまでの健康状態」や「今後どのような生活を送りたいか」を総合的に考える必要があります。
従来の評価方法だけでは、高齢の患者さんがICUでの治療によって、どれくらいの良い効果があるのか、あるいはかえって体に負担がかかりすぎるのではないかという判断が難しい場合もあります。このため、患者さんご本人やご家族と医療チームがしっかりと話し合い、治療の目標や方針を決めていく「共有意思決定」が非常に大切になります。治療によって何が期待できるのか、どんな負担があるのかを、みんなで理解し、納得して進めていくことが、回復への大きな一歩となるのです。





