好酸球性肉芽腫症

大人になってから始まった重いぜんそくや、原因のわからない手足のしびれ。それらは単なる体調不良ではなく、体を守るはずの免疫が自分自身を攻撃してしまう「好酸球性肉芽腫症(EGPA)」という病気のサインかもしれません。

この病気は国の指定難病にも定められ、国内の認定患者数は約4,200人。血管の炎症によって全身に多様な症状を引き起こしますが、その始まりはアレルギー症状であることが多く、診断が難しいケースもあります。

なぜこの病気が起こるのか、どのような治療法があるのか。この記事では、EGPAの詳しい症状や原因、近年注目されている新しい治療法までをわかりやすく解説します。ご自身の症状と照らし合わせ、病気の理解を深めるためにお役立てください。

好酸球性肉芽腫症の概要

好酸球性肉芽腫症(こうさんきゅうせいにくげしゅしょう)は、全身の細い血管に炎症が起こる病気です。 英語名の頭文字をとって「EGPA(イージーピーエー)」とも呼ばれています。

この病気は、体を守るはずの免疫システムが、誤って自分自身の体を攻撃してしまう「自己免疫疾患」の一種です。 国の指定難病にも定められています。

EGPAは、より大きな病気のグループである「ANCA(アンカ)関連血管炎」に分類されます。 このグループにはEGPAを含め3つの主要な病型があり、それぞれ特徴が異なります。 なぜこうした病気が起こるのか、その複雑な仕組みを解明し、新しい治療法を開発するための研究が世界中で進められています。

この病気には、主に以下の3つの特徴があります。

  • 喘息やアレルギー性鼻炎が先に起こる 多くの場合は血管の症状より先に、気管支喘息やアレルギー性鼻炎(好酸球性副鼻腔炎)がみられます。
  • 血液中の好酸球が増える 好酸球は白血球の一種で、アレルギー反応に関わる細胞です。この好酸球が血液中や体の組織で異常に増えます。
  • 全身の血管に炎症が起こる 全身の細い血管に炎症が起こり血流が悪くなります。これにより、しびれや痛み、皮膚にあざのようなものができることがあります。

国内では約4,200人(令和元年度)の方がこの病気の認定を受けています。 しかし、診断されていない軽症の方を含めると、実際にはもっと多い可能性も指摘されています。 特に60歳以上の方に多い傾向がありますが、若い世代でも発症します。

好酸球性肉芽腫症の種類

好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)は、血液検査の結果によって、大きく2つのタイプに分けられます。 血液中に「ANCA(アンカ)」という、自分の体を攻撃してしまう物質があるかどうかで分類します。

この分類は、どのような症状が出やすいかという傾向を知り、治療方針を立てる上でとても重要です。 ご自身の体の状態を理解するための、大切な手がかりになります。

ANCA陽性型

血液検査で「MPO-ANCA」という種類の抗体が見つかるタイプです。 EGPAの患者さん全体の約3〜4割が、このタイプにあたると言われています。

ANCA陽性型では、血管の炎症によって起こる次のような症状が目立ちやすい傾向があります。

  • 腎臓の炎症(腎炎)
  • 皮膚にあざができる(紫斑)
  • 肺からの出血

これらの症状は、EGPAと同じ血管炎の仲間である「顕微鏡的多発血管炎(MPA)」と似ています。 ごく稀に「PR3-ANCA」という別の抗体が見つかることもあり、その場合は肺に空洞ができるなど、別の血管炎(GPA)に似た症状が出ることがあります。

ANCA陰性型

血液検査をしても、ANCAが見つからないタイプです。 EGPAの患者さんのうち、約6〜7割と多数を占めます。

ANCA陰性型では、血管の炎症による症状よりも、アレルギーに関連する症状が中心になることが多いです。 ぜんそくや、鼻づまり・においが分かりにくくなる鼻の症状(好酸球性副鼻腔炎)が強く出やすい傾向があります。 これは、アレルギー体質と関連する遺伝的な特徴が関係している可能性が研究で示唆されています。

タイプ

割合の目安

主な特徴

ANCA陽性型

約3〜4割

腎臓や皮膚など、血管の炎症による症状が目立ちやすい

ANCA陰性型

約6〜7割

ぜんそくや鼻の症状など、好酸球に関連する症状が中心になりやすい

このように、同じ病名でもタイプによって特徴が異なります。 ただし、これはあくまでも「傾向」です。 ANCAが陰性だからといって血管炎が起きないわけではありません。

ANCAの有無は診断の基準には含まれませんが、どのタイプかを知ることは、病状を正確に把握し、適切な治療を選択するために非常に役立ちます。

好酸球性肉芽腫症の原因

この病気がなぜ起こるのか、その原因はまだはっきりとわかっていません。 しかし、いくつかの要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。

主な原因として、次の3つが有力視されています。

  • 免疫システムの異常 私たちの体を守る「免疫」が、自分自身を攻撃してしまう状態です。
  • 遺伝的な要因 生まれ持った病気になりやすい体質が関係している可能性があります。
  • 環境的な要因 薬剤や他の病気などが、発症の「きっかけ」になることがあります。

本来、免疫は細菌やウイルスなど「自分ではないもの」を見分けて攻撃します。 しかし、この仕組みに異常が起きると、自分の体を敵と間違えてしまいます。 これを「自己免疫」と呼び、この病気の根本にあると考えられています。

特に、ANCA(アンカ)という自己抗体が関わることがあります。 これは、白血球の一種である「好中球」を誤って攻撃する物質です。 この攻撃が、血管に炎症を引き起こす原因の一つになります。

また、ご家族に同じ病気の方がいることからも、遺伝的な要因が指摘されます。 実際に、免疫の働きに関わる「NFKB2遺伝子」などの変異も報告されています。

さらに、関節リウマチのような他の自己免疫疾患にかかっていると、 この病気を発症しやすいことも研究でわかっています。 ある研究では、患者さんの約6割で関節リウマチの診断が先行していました。 このことから、他の病気が発症の引き金になる可能性も考えられます。

好酸球性肉芽腫症の症状

この病気の症状は、時間をかけて段階的にあらわれるのが特徴です。 大きく分けて、次の3つの時期を経て進行することが多いです。

  1. アレルギーの時期(喘息期)
  2. 好酸球が増える時期(好酸球増多期)
  3. 血管の炎症が起こる時期(血管炎期)

1. アレルギーの時期(喘息期)

多くの場合、ぜんそくやアレルギー性の鼻炎から始まります。 大人になってから、急に重いぜんそくを発症することが特徴です。 咳や「ゼーゼー」という呼吸音、息苦しさなどがみられます。

また、鼻の中にポリープ(鼻茸)ができ、においが分かりにくくなる 「好酸球性副鼻腔炎」という鼻づまりを伴うことも多いです。

2. 好酸球が増える時期(好酸球増多期)

血液検査をすると、白血球の一種である「好酸球」が増えます。 この時期には、熱が出たり、体がだるくなったり、 体重が減ったりといった、全身にわたる症状があらわれます。

3. 血管の炎症が起こる時期(血管炎期)

全身の細い血管に炎症が起こり、血の流れが悪くなります。 どの場所の血管で炎症が起きるかによって、症状は様々です。

症状があらわれる場所

具体的な症状の例

神経

手足のしびれ、痛み、感覚がにぶくなります。

(最も多くみられる症状です)

皮膚

赤や紫色のあざ(紫斑)や、皮膚の下にしこりができます。

関節・筋肉

関節や筋肉が痛みます。

関節リウマチという病気と合併したり、似た症状が出たりします。ある研究では、関節リウマチの診断が先にされている方が約6割もいたと報告されています。

消化器

おなかの痛み、下痢、血便などがあらわれます。

心臓

動悸、息切れ、胸の痛みを感じることがあります。

腎臓

尿に血やたんぱくが混じったり、体がむくんだりします。

また、小さなお子さんの場合、重い肺炎などの感染症を繰り返し、 呼吸が非常に苦しくなるケースも報告されています。 生まれつきの免疫の働きが、病気に関係している可能性もあります。

好酸球性肉芽腫症の検査・診断

この病気の診断は、一つの検査だけで決まるわけではありません。 患者さんの症状や様々な検査結果を丁寧に組み合わせ、総合的に判断します。

まず、特徴的な症状があるかどうかが診断の第一歩になります。 ぜんそくや手足のしびれ、原因不明の発熱や体重減少などがないか確認します。 次に、診断のてがかりとなる詳しい検査を進めていきます。

血液検査

血液は、体の中で起きている異常を教えてくれる重要な情報源です。

  • 好酸球数 アレルギー反応に関わる白血球の一種「好酸球」の数値を調べます。この病気では、好酸球が異常に増えるのが大きな特徴です。
  • 炎症反応(CRPなど) 体の中で炎症が起きていないかを確認するための数値です。
  • ANCA(アンカ) 免疫システムが誤って自分の体を攻撃してしまう「自己抗体」です。本来、免疫はウイルスなどから体を守る役割を持っています。 ANCAが陽性だと、血管に炎症が起きる病気の可能性が高まります。ただし、この病気の患者さんのうち陽性となるのは3〜4割程度です。

特に、関節リウマチなどの病気がある方でANCAが陽性の場合、注意が必要です。 ある研究では、関節リウマチでANCA陽性の方の約3割が、この病気を含む血管炎を合併していたと報告されています。

画像検査・組織検査

体の内部を詳しく見て、病気の証拠を探します。

  • 画像検査 胸のレントゲンやCT検査で、肺に影がないかなどを調べます。
  • 組織検査(生検) 皮膚や神経など症状が出ている部分の組織を少しだけ取って、顕微鏡で直接観察する検査です。血管の炎症や好酸球が集まっている様子を確認でき、診断を確定する上で非常に重要です。

これらの検査結果と症状を、専門の診断基準に照らし合わせて最終的な診断を行います。 ANCAの有無は診断基準には含まれませんが、診断の重要な手がかりとなります。

好酸球性肉芽腫症の治療

この病気の治療目標は、2つあります。 一つは病気の勢いを抑えて症状を和らげることです。 もう一つは、心臓や神経など大切な臓器を守ることです。

治療法は、患者さん一人ひとりの状態に合わせて決まります。 症状の重さや、体のどの部分に症状が出ているかによります。

基本は炎症を抑える「ステロイド療法」

治療の土台となるのは「副腎皮質ステロイド」というお薬です。 体の中で起きている過剰な炎症を、強力に抑える働きがあります。

まずは十分な量のステロイドを飲むことから治療を始めます。 症状が非常に重い場合は、点滴で一気に薬を入れることもあります。 これを「ステロイドパルス療法」と呼びます。

症状やタイプに合わせた追加治療

ステロイドだけでは効果が不十分な場合もあります。 心臓や消化管、神経など重要な臓器に重い症状がある場合もです。 その際は、さらに強力な治療を追加します。

免疫抑制薬

免疫の働きをより強力に抑えるお薬です。 ステロイドと併用することで、病気の勢いを抑え込みます。

近年注目される「標的治療薬」

病気の原因となる物質だけを狙い撃ちする新しいお薬です。 治療の選択肢が広がり、多くの方の希望となっています。 研究が進み、様々なタイプの薬が登場しています。

  • 抗IL-5抗体薬(メポリズマブなど) アレルギーに関わる「好酸球」の働きを直接抑える薬です。 特にぜんそくの症状が強い方や、再発を繰り返す方に有効です。 ステロイドの量を減らせるという大きなメリットも期待されます。
  • リツキシマブ 免疫に関わる「B細胞」という細胞を標的とします。 「MPO-ANCA」という自己抗体が陽性の患者さんで、 再発した場合などに有効性が示されています。
  • C5a受容体阻害薬(アバコパン) 血管の炎症を引き起こす経路をブロックする新しい飲み薬です。 この薬を使うことで、ステロイドの量を減らせる可能性があります。

その他の専門的な治療

症状が非常に重い場合には、特別な治療も検討されます。 例えば、腎臓の機能が著しく低下した場合などです。 血液中から病気の原因物質を取り除く「血漿交換療法」を行います。

治療は長期にわたることが多いため、根気強く続けることが大切です。 主治医とよく相談し、ご自身の状態に合う治療法を見つけましょう。