好中球機能異常症

私たちの体を細菌やカビから守る血液中の「防衛隊長」、それが好中球です。しかし、この重要な防衛隊の力が弱まってしまう「好中球機能異常症」という病気をご存じでしょうか。日本人では約20万人に一人が該当する先天性のものから、がん治療などが原因で起こるものまで、決して他人事ではありません。

この病気になると、肺炎を繰り返したり、おできができやすくなったりします。特に、好中球が減った状態で38℃以上の熱が出る場合は「医学的緊急事態」と呼ばれる危険なサインです。命に関わる重い感染症の可能性があり、一刻も早い対応が求められます。

この記事では、好中球機能異常症の原因から症状、最新の治療法までを詳しく解説します。ご自身や大切なご家族の健康を守るため、そのサインを見逃さないための知識を身につけましょう。

好中球機能異常症の概要

私たちの血液の中には、体を守る「白血球」が流れています。 その中でも特に数が多い「好中球」は、体の防衛隊長です。 体内にばい菌やカビが侵入すると、すぐに駆けつけ退治します。 この働きのおかげで、私たちは健康を維持できています。

好中球機能異常症とは、この防衛隊の力が弱くなる病気です。 生まれつき働きが悪い場合や、他の病気や薬の影響で、 好中球の数が減ったり、力が弱まったりします。 防衛隊がうまく働かないと、感染症にかかりやすくなります。

特に注意すべきなのが「発熱性好中球減少症」です。 これは、がん治療などで好中球が急激に減った状態で、 38℃以上の熱が出た場合などを指す危険なサインです。 研究でも、迅速な対応が必要な医学的緊急事態とされます。

この状態は、重い感染症にかかっている可能性が高いです。 すぐに抗菌薬という菌を倒す薬で治療を始める必要があります。 しかし、時には薬が効きにくい菌(耐性菌)もいるため、 素早い検査と適切な治療の開始が非常に重要になります。

好中球機能異常症の種類

好中球機能異常症は、原因によって大きく2つに分けられます。 生まれつきのタイプと、後から別の原因で起こるタイプです。 どちらのタイプかによって、治療の進め方も変わってきます。

1. 先天性好中球機能異常症

生まれつき、体を動かす設計図である遺伝子の違いが原因です。 このため、体を守る好中球がうまく働けなくなってしまいます。 異常が起こる働きによって、いくつかの種類に分けられます。

主な種類

好中球の働きの問題点

慢性肉芽腫症

ばい菌を倒すための強力な武器(活性酸素)を作れません。日本人では約20万人に一人の割合で見られます。

白血球粘着不全症

ばい菌がいる場所に駆けつけるため、血管の壁にくっつく力が弱くなっています。

ミエロペルオキシダーゼ欠損症

ばい菌を退治する酵素が足りず、攻撃のスピードがとても遅くなります。

Shwachman-Diamond症候群

そもそも好中球の数が少なかったり、動きが鈍かったりします。

2. 後天性好中球機能異常症

生まれた後に、他の病気や治療などが原因で起こるタイプです。

  • 抗がん剤での治療
  • 糖尿病
  • 関節リウマチなどの自己免疫疾患

例えば、がん治療で使う抗がん剤は、がん細胞だけでなく、 体を守る元気な好中球の数も減らしてしまうことがあります。 このような状態での感染症は、時に命に関わるため注意が必要です。

海外の研究では、抗菌薬が効きにくい菌(薬剤耐性菌)が、 治療を難しくする大きな課題であると報告されています。 また、特に青年期の患者さんでは、抗菌薬の効果が、 大人とは異なる場合があることも分かってきています。 そのため、一人ひとりの状態に合わせた慎重な治療が大切です。

好中球機能異常症の原因

好中球機能異常症が起こる原因は、大きく2つに分けられます。 生まれつきの性質による「先天性」のものと、 後から病気や薬の影響で起こる「後天性」のものです。

1. 先天性の原因

生まれつき、体の設計図である「遺伝子」に違いがあることで、 体を守る好中球がうまく働けなくなってしまう状態です。 好中球には、ばい菌を倒すための様々な働きがあります。

  • 敵を見つけて駆けつける
  • 敵にしっかりとくっつく
  • 敵を自分の中に取り込む
  • 強力な武器(活性酸素など)で敵を倒す

先天性の場合は、この働きのいずれかが弱くなっています。 例えば「慢性肉芽腫症」では、武器を作る力が弱くなります。

2. 後天性の原因

生まれた後に、他の病気の治療や病気そのものが原因となります。 特に、がん治療で使われる抗がん剤は注意が必要です。 抗がん剤は、がん細胞だけでなく好中球の数も減らします。

この状態で感染症にかかると、時に命に関わる危険があります。 近年の研究では、こうした感染症の多くが、 普段はおとなしく体にいる「常在菌」によって引き起こされると分かっています。

また、糖尿病や関節リウマチのような自己免疫疾患も、 好中球の働きを弱めてしまう原因になることがあります。 原因を正しく知ることが、適切な対策への第一歩となります。

好中球機能異常症の症状

体を守る防衛隊「好中球」の力が弱まると、様々なサインが現れます。 ばい菌やカビへの抵抗力が下がり、感染症にかかりやすくなるのです。 症状は体のあちこちに現れ、特に赤ちゃんの頃から見られることもあります。

具体的に、どのような症状が出るのか見ていきましょう。

【からだ全体にあらわれる症状】

  • くり返す発熱 何度も熱を出したり、熱がなかなか下がらなかったりします。
  • 成長がゆっくり 体重が思うように増えない、身長の伸びが遅いなどです。

【体の場所ごとにあらわれる症状】

  • 呼吸器 肺炎をくり返したり、咳がいつまでも続いたりします。
  • 皮ふ おでき(膿がたまる袋)ができやすい、傷が治りにくいです。
  • おなか 治りにくい下痢や、血が混じった便が出ることがあります。
  • 口の中 歯ぐきが腫れやすく、出血が見られることもあります。

これらの症状の中でも、特に注意が必要なのが「発熱」です。 好中球が少ない状態での発熱は、体がSOSを出している重要なサインです。 これは「発熱性好中球減少症」と呼ばれ、研究でも、 迅速な対応が必要な「医学的緊急事態」とされています。

【こんな熱は要注意!】

  • 体温が1回でも38.3℃以上になった
  • 38.0℃以上の熱が1時間以上続いている

このような発熱は、重い感染症のサインかもしれません。 普段は体にいてもおとなしい「常在菌」が原因で、 命に関わる状態を引き起こすこともあります。

特に、がん治療中のお子さんや若い世代では、 大人と薬の効き方が違う場合があるという報告もあります。 気になる症状があれば、自己判断せず、すぐに医療機関へご相談ください。

好中球機能異常症の検査・診断

好中球機能異常症が疑われる場合、原因を突き止める検査を行います。 体を守る防衛隊「好中球」のどこに問題があるのかを調べます。 主に「血液検査」「画像検査」「遺伝子検査」の3つを組み合わせ、 総合的に判断して、診断を確定していきます。

血液検査

まず基本となるのが、血液を調べる血液検査です。 この検査では、防衛隊である好中球の数や働きを調べます。 ばい菌を攻撃する力が十分にあるかなどを詳細に確認します。

特に、好中球が減っている状態での発熱は非常に危険なサインです。 研究では「医学的緊急事態」とされ、迅速な評価が求められます。

【このような熱は要注意】

  • 38.3℃以上の熱 一度でもこの体温が出た場合
  • 38.0℃以上の熱 この体温が1時間以上続いている場合

このような発熱がある場合は、重い感染症の可能性があります。 原因の菌を特定するため、すぐに血液培養検査を行います。 この検査は、抗菌薬というお薬での治療を始める前に行うことが重要です。

画像検査

咳が続く、お腹が痛むといった症状がある場合に役立ちます。 肺炎や腸炎など、体のどこで感染が起きているかを探るためです。 レントゲン検査やCT検査で体の中を撮影し、炎症の場所を確認します。

遺伝子検査

血液検査で好中球の働きに異常が見つかった場合などに行います。 ご家族に同じような病気の方がいる場合にも検討されます。 病気の原因となっている遺伝子を特定し、診断を確定させます。

これらの検査結果を総合的に判断し、診断を確定させます。 原因を正確に突き止めることは、適切な治療を選ぶために不可欠です。 特に、お子さんや青年期の患者さんでは、大人と比べて、 抗菌薬の効果が異なる場合があるという研究報告もあります。

そのため、一人ひとりの状態に合わせた慎重な検査と診断が大切です。 気になる症状があれば、自己判断せず、まずは専門の医療機関へご相談ください。

好中球機能異常症の治療

体を守る防衛隊「好中球」の力が弱いこの病気の治療は、 「感染症への対策」と「根本的な治療」の2つが柱です。 患者さん一人ひとりの状態に合わせて、治療法を慎重に選びます。

感染症の治療と予防

この病気は、ばい菌やカビへの抵抗力が弱くなってしまうため、 感染症のコントロールが治療の最も重要な中心となります。

1. 起こってしまった感染症の治療 一度感染症にかかると重症化しやすいため、素早い対応が重要です。 特に、熱が出て好中球が極端に減る「発熱性好中球減少症」は、 研究でも「医学的緊急事態」とされ、迅速な治療開始が必要です。

  • 1時間以内の治療開始 症状が出てから1時間以内に、ばい菌を倒すための 抗菌薬というお薬の点滴を始めることが強く推奨されます。
  • 抗菌薬による治療 原因の菌をたたくため、抗菌薬や抗真菌薬を使います。 ある研究では、お子さんの場合「メロペネム」などの 抗菌薬が有効であることが報告されています。
  • 原因の特定 治療を始める前に血液を採って、原因の菌を調べます。 これにより、より効果的なお薬を選ぶことにつながります。

2. 感染症にかからないための予防 日頃から感染症にかからないように予防することが何より大切です。

  • 予防のための内服 感染症を防ぐために、抗菌薬などを定期的に飲むことがあります。
  • 生活での工夫 手洗いやうがいをしっかり行い、人混みを避けるなど、 日々の生活での対策がとても重要になります。
  • 予防接種 インフルエンザなどのワクチンも大切です。 ただし、BCGのような「生ワクチン」は重い感染症を 起こすことがあるため、必ず事前に医師へご相談ください。

根本的な治療法:造血幹細胞移植

生まれつきの遺伝子の問題が原因で症状が重い場合には、 根本的な治療として「造血幹細胞移植」を検討します。 これは、元気な好中球を作れるようにする治療法です。

健康な方から提供された「造血幹細胞(血液の種)」を移植し、 正常な血液の工場を体の中に作るイメージの治療です。 病気を根本から治せる可能性がある治療法とされています。

しかし、体への負担が大きく、合併症のリスクもあるため、 治療を行うかどうかは、慎重に判断する必要があります。 特に、青年期の患者さんでは抗菌薬の効果が大人と異なるなど、 研究でも個人に合わせた治療の重要性が示されています。