多発性筋炎

「最近、階段を上るのがつらい」「腕が上がりにくくなった」。そんな日常の些細な不調を、年のせいだと見過ごしていませんか?その症状、もしかすると体を守るはずの免疫が誤って自分の筋肉を攻撃してしまう「多発性筋炎」のサインかもしれません。

全国で2万人以上いるこの病気は、男女比1:3と女性に多く、特に中年以降で発症しやすい傾向があります。単なる筋力低下にとどまらず、命に関わる肺の病気や、がんを合併する危険性も指摘されているため、決して軽視はできません。

この記事では、多発性筋炎の具体的な症状から原因、最新の治療法までを詳しく解説します。見過ごされがちなサインの正体を知り、早期発見につなげるために、ぜひご自身の体調と照らし合わせてみてください。

多発性筋炎の概要

多発性筋炎は、体を守るはずの免疫システムが、誤って自分の筋肉を攻撃してしまう病気です。このような病気を「自己免疫疾患」と呼び、多発性筋炎は「膠原病(こうげんびょう)」というグループに含まれます。

この病気には、いくつかの特徴があります。

  • かかりやすい人
    全国で2万人以上の患者さんがいるとされます。男女比は1:3と女性に多く、特に中年以降の年代で発症しやすい傾向があります。ある研究では、診断された年齢の中央値は65.5歳でした。
  • 起こること
    主な症状は筋肉の炎症による筋力低下や痛みです。しかし、影響は筋肉だけにとどまりません。関節や肺、心臓など、体のさまざまな部分に症状があらわれることがあります。

また、多発性筋炎の患者さんでは、がんを合併している可能性も考えなければなりません。特に高齢で診断された場合は注意が必要です。研究によると、多発性筋炎の診断後にがんが見つかるケースが多く報告されています。そのため、診断の際には年齢や性別に応じて、がんがないかを調べる検査をすることがとても重要になります。

多発性筋炎の種類

多発性筋炎は、症状の現れ方によっていくつかの種類に分けられます。 一番大きな違いは、特徴的な「皮膚の症状」があるかないかです。 どのタイプかによって注意点が変わるため、正しく見分けることが大切です。

皮膚症状で分ける3つのタイプ

一般的に、多発性筋炎は以下の3つのタイプに分けられます。

  • 多発性筋炎(PM) 皮膚に症状はなく、主に筋肉だけに炎症が起こるタイプです。 腕や足の付け根、首など、体の中心に近い筋肉に力が入りにくくなります。
  • 皮膚筋炎(DM) 筋肉の症状に加えて、特徴的な皮膚の症状が現れるタイプです。 例えば、まぶたが赤紫色に腫れる「ヘリオトロープ疹」や、 指の関節に赤い発疹ができる「ゴットロン丘疹」が有名です。
  • 無筋症性皮膚筋炎(CADM) 「筋症状がない」という意味で、筋力はほとんど低下しません。 しかし、皮膚筋炎と同じような皮膚の症状だけが現れます。 このタイプは「間質性肺炎」という肺の病気を起こしやすいです。 そのため、呼吸の状態を注意深く観察する必要があります。

特に注意が必要なタイプ

上記の分類に加え、他の病気との関連なども考慮する必要があります。

分類

特徴

悪性腫瘍合併筋炎

がんを合併しているタイプです。特に中高年で発症した場合は、がんがないか定期的に検査することがとても重要になります。ある研究では、診断後にがんが見つかることが多いと報告されています。

若年性皮膚筋炎

子どもに発症するタイプです。大人の場合とは異なり、特に肺の合併症(間質性肺炎)が急速に悪化することがあります。研究によると、残念ながら死亡に至るケースも報告されており、早期の発見と治療が命を守る鍵になります。

このように、多発性筋炎と診断されても、一人ひとり症状は様々です。 どの種類に当てはまるかで治療方針も少しずつ変わってきます。 そのため、専門医による正確な診断を受けることが非常に重要です。

多発性筋炎の原因

多発性筋炎がなぜ起こるのか、そのはっきりとした原因はまだわかっていません。 しかし、体を守るはずの免疫が、自分の筋肉を敵と間違えて攻撃してしまう「自己免疫」という仕組みが関係していると考えられています。

では、なぜ免疫はこのような間違いを起こしてしまうのでしょうか。 その引き金になると考えられている要因がいくつかあります。

  • 生まれつきの体質(遺伝的な要因) ご家族に膠原病の方がいる場合など、もともと自己免疫の病気になりやすい体質を持っていることが関係すると考えられています。
  • 生活の中でのきっかけ(環境的な要因) ウイルスや細菌への感染、一部のお薬、タバコ(喫煙)、サプリメントなどが、免疫の働きに影響を与えることがあります。

特に、中高年になってから発症した場合は注意が必要です。 体の中に隠れている「がん」が、免疫に異常を起こす引き金になることがあるからです。 ある研究では、膀胱がんと多発性筋炎・皮膚筋炎の関連が報告されています。 この研究によると、筋炎と診断された方の多くは、その後にがんが見つかっています。 そのため、診断の際には年齢や性別に応じて、がんがないかをしっかり調べることがとても大切になるのです。

このように、多発性筋炎はたった一つの原因で起こるのではありません。 生まれ持った体質を土台として、そこに様々な環境の要因が加わることで発症すると考えられています。

多発性筋炎の症状

多発性筋炎の症状は、筋肉の力が弱くなることが中心です。 しかし、影響は筋肉だけでなく、肺や心臓、関節など全身に及ぶことがあります。 どのようなサインが出るかは人によって様々なので、ご自身の体調と比べてみましょう。

□ 筋肉の症状チェックリスト

「あれ、なんだかおかしいな」と感じる筋肉のサインをまとめました。 体の胴体に近い大きな筋肉(太もも、腕の付け根、首など)の炎症で起こります。

  • □ 以前より階段をのぼるのがつらく感じる
  • □ 椅子から立ち上がる時に手をついてしまう
  • □ 洗濯物を干す時など、腕を上げ続けるのが難しい
  • □ ドライヤーで髪を乾かすのが疲れる
  • □ 寝ている状態から、枕から頭を持ち上げにくい
  • □ 食べ物が飲み込みにくかったり、むせたりすることが増えた

特に注意が必要な「肺」の症状

筋肉の症状と同じくらい、あるいはそれ以上に注意が必要なのが肺の症状です。 「間質性肺炎(かんしつせいはいえん)」という病気を起こすことがあります。

主なサインは、痰のからまない「コンコン」という乾いた咳や、坂道や階段をのぼった時の息切れです。 この間質性肺炎は、時に急激に悪化し、命に関わるため、決して見過ごせません。 ある研究では、特に子どもに発症した場合、残念ながら死亡に至るケースも報告されています。 呼吸の症状が出てから亡くなるまでの期間の中央値は、わずか2ヶ月だったというデータもあり、早期発見がいかに重要かがわかります。

その他の全身にあらわれる症状

筋肉や肺以外にも、以下のような症状が出ることがあります。

  • 関節の症状 手や足の関節に痛みが出たり、腫れたりします。
  • 心臓の症状 心臓の筋肉に炎症が起きると、動悸や脈の乱れを感じることがあります。
  • 全身の症状 はっきりした原因がないのに熱が続く、体がだるい、食欲がない、体重が減るなどです。
  • レイノー症状 寒い場所に行くと、手足の指先が血の気を失って真っ白や紫色に変わります。

このように、多発性筋炎のサインは多岐にわたります。 一つでも当てはまる症状があれば、早めに専門の医療機関を受診してください。

多発性筋炎の検査・診断

多発性筋炎の診断は、問診や診察で症状を詳しくうかがうことから始まります。 しかし、症状だけでは診断を確定することは難しく、複数の検査結果を組み合わせ、総合的に判断します。 似た症状を示す他の病気でないかを、慎重に見分けることも非常に大切です。

主な検査には、次のようなものがあります。

検査の種類

どのようなことを調べる検査か

血液検査

筋肉に炎症が起きて壊れると、血液中に酵素(CKなど)が流れ出します。この酵素の数値や、自分の体を攻撃する特殊なたんぱく質(自己抗体)がないかを調べます。

MRI検査

磁気の力を使って体の断面を撮影する検査です。どの筋肉にどのくらいの範囲で炎症が起きているのかを、目で見て確認することができます。

筋電図検査

筋肉に細い針をさして電気信号を記録します。力の入りにくさが、筋肉自体の問題なのか、あるいは神経の問題なのかを見分けるのに役立ちます。

筋生検

診断を確定するために行われることがある重要な検査です。炎症が起きている筋肉の一部を少しだけ採取し、顕微鏡で詳しく観察します。

これらの検査に加えて、肺や心臓への影響を調べる検査も行います。 胸のレントゲンやCT検査、心電図検査などを通して、全身の状態を把握します。 また、年齢に応じて、がんを合併していないかを調べる検査も欠かせません。

多発性筋炎の診断方法は一つではなく、専門医による総合的な判断が不可欠です。 研究によると、似た症状の病気でも診断を早めるための確立された方法はまだ少なく、早期に専門医へ相談できる体制の重要性が指摘されています。 気になる症状があれば、早く専門医に相談することが、的確な診断への第一歩です。

多発性筋炎の治療

多発性筋炎の治療目標は、免疫の暴走を止め、筋肉の炎症を鎮めることです。 治療は「薬物療法」と「リハビリテーション」を組み合わせるのが基本です。 患者さん一人ひとりの症状や体の状態に合わせた、オーダーメイドの治療を行います。

治療の土台となるのは、お薬を使った薬物療法です。 主に3種類の薬を、症状に合わせて使い分けていきます。

治療薬の種類

主な役割と特徴

ステロイド薬

治療の主役となるお薬です。免疫の働きと炎症を強力に抑える力があります。はじめは十分な量でしっかりと炎症を抑え、症状が落ち着くのに合わせて少しずつ減らしていきます。

免疫抑制薬

ステロイド薬の働きを助けたり、量を減らす目的で使われるお薬です。特に肺に炎症が起こる「間質性肺炎」を合併している場合は、タクロリムスなどが使われます。ある研究では、タクロリムスとステロイド薬を一緒に使うことで、生存率や肺の機能が改善したと報告されています。

免疫グロブリン

大量静注療法

血液から作られたお薬を点滴で体に入れる治療法です。筋力の低下が著しい場合や、食べ物を飲み込みにくい症状がある時に行われます。ある研究では、この治療で筋力が改善した人は77%、飲み込みにくさが改善した人は88%にのぼったと報告されており、高い効果が期待できます。

お薬での治療と同時に、リハビリテーションを行うことも非常に大切です。 筋肉の炎症が強い時期は安静にしますが、症状が落ち着けば運動を開始します。 専門家の指導のもとで無理なく体を動かすことで、筋力の回復を早めます。 薬とリハビリは、治療の両輪と考えることが重要です。