出血性ショック

私たちが日常で使う「ショック」という言葉。しかし、医療の現場で使われるそれは、命に直結する非常に危険な状態を意味します。その中でも「出血性ショック」は、一刻も早い対応が求められる緊急事態です。

人の体内の血液が、わずか20%失われただけで、脳や心臓といった重要な臓器は機能不全に陥り始めます。原因は交通事故のような大きなケガだけではありません。胃潰瘍や血管の病気など、外からでは分からない「見えない出血」によって、誰の身にも突然起こりうるのです。

この記事では、命の危険を示すサインをいち早く見抜くための症状、考えられる原因、そして生存率を左右する治療法について詳しく解説します。あなたと、あなたの大切な人を守るために不可欠な知識です。

出血性ショックの概要

まず「ショック」という言葉について説明します。 驚いたときに使う言葉とは違い、医療における「ショック」は、命にかかわる非常に危険な状態を指します。

ショックとは、体の中の血液がうまく巡らなくなり、脳や心臓といった大切な臓”器”(ぞうき)に酸素や栄養が十分に届かなくなる状態のことです。

ショック状態のポイント

  • 全身の血のめぐりが悪くなる
  • 臓器に酸素や栄養が届かない
  • 命にかかわる危険な状態

出血性ショックは、このショックの中でも、ケガや病気が原因で体から大量の血液が失われることによって引き起こされます。

人の体には体重の約8%の血液が流れていますが、そのうちの20%以上が急に失われると、ショック症状があらわれるとされています。

この状態は非常に深刻で、ときには手術中に心臓が止まってしまう原因の一つになることもあります。

また、重症の外傷による出血性ショックでは、ECMO(エクモ)という体外式膜型人工肺を用いた専門的な治療が必要となるケースもあります。 ある研究では、重症の外傷でECMOによる治療を受けた患者さんの生存率は約66%であったと報告されています。

もし治療が遅れると、さまざまな臓器が正常に機能しなくなる「多臓器不全」という状態に陥り、命をおびやかすことにもつながるため、一刻も早い対応がとても重要です。

出血性ショックの種類

「ショック」には、その原因によっていくつかの種類があります。 出血性ショックは、その中の一つです。

ショックは、大きく4つのグループに分けられます。 体の仕組みを「血液を運ぶシステム」に例えて見てみましょう。

ショックの主な種類

原因のイメージ

循環血液量減少性ショック

タンクの水(血液や体液)が足りなくなる

心原性ショック

水を送るポンプ(心臓)が弱まる

血液分布異常性ショック

水道管(血管)が広がりすぎて水圧(血圧)が下がる

心外閉塞・拘束性ショック

ポンプ(心臓)が外から押されてうまく動けない

出血性ショックは、この中で最も分かりやすい「循環血液量減少性ショック」というグループに入ります。 ケガなどでタンクから水(血液)が大量に漏れ出てしまう状態を想像すると、イメージしやすいかもしれません。

実は、ケガがなくても体の中で突然血管が破れて、出血性ショックが起こることもあります。 特に中高年の女性では、お腹の中の太い血管が自然に破れてしまう病気が報告されています。 これは「自然発生的腸骨静脈破裂」と呼ばれ、出血性ショックと足の血栓(けっせん)が同時に見られるのが特徴です。

このようにショックには様々な原因があり、それぞれに合った正しい治療を素早く行うことがとても重要になります。

出血性ショックの原因

出血性ショックが起こる原因は、大きく2つに分けられます。 1つはケガによるもの、もう1つは体の内部で起こる出血です。

1. ケガによる出血 交通事故や高い場所からの転落など、体に強い力が加わって起こる大きなケガが原因です。 特に、たくさんの血が失われやすい危険な骨折があります。

  • 骨盤骨折 骨盤の周りには太い血管が多く、骨折すると大量に出血しやすいです。 ある研究では、骨盤骨折による出血性ショックが主な死因になることが報告されています。
  • 大腿骨骨折 太ももの中にある、体で一番太い骨の骨折も、出血量が多くなりがちです。

2. 体の中での出血 見た目にケガがなくても、体の中で出血してショック状態になることがあります。 これを「見えない出血」といい、気づきにくいので特に注意が必要です。

  • 食べ物の通り道からの出血 胃潰瘍(いかいよう)などで胃や腸の壁から血が出ることです。
  • 血管の病気 体の一番太い血管にできたこぶ(大動脈瘤)が破裂するなどです。
  • 女性特有の病気 子宮の外で赤ちゃんが育ってしまう子宮外妊娠の破裂などです。
  • 手術の後の出血 手術した場所から、後になって血が出ることがあります。
  • 自然に血管が破れる病気 まれですが、特に中高年の女性で、お腹の太い血管が突然破れることがあります。 研究によると、この病気は左側で起こることが多く、足に血のかたまりができる病気(深部静脈血栓症)を同時に発症していることが多いとわかっています。

このように、目に見える出血がなくても、出血性ショックは起こる可能性があります。

出血性ショックの症状

出血性ショックの症状は、失った血液の量によって変わります。 はじめは小さな変化ですが、だんだんと命にかかわるサインが出てきます。 早く気づくことが、とても大切です。

体の中の血液が急に減ると、体は脳や心臓など、 特に大切な臓”器”(ぞうき)を守ろうと必死に働きます。 そのときの体の反応が、症状としてあらわれるのです。

失った血液の量と症状のレベル

失った血液の量が多くなるにつれて、症状は重くなっていきます。

症状のレベル

失った血液の量

主な症状

レベル1

全体の15%未満

少しソワソワして落ち着かない感じがしますが、血圧や脈拍はほぼ正常です。

レベル2

全体の15~30%

呼吸がハアハアと速くなり、脈も速くなります。血圧が少し下がり始めます。

レベル3

全体の30%以上

血圧がはっきりと下がり、脈は速くて弱々しくなります。意識がぼんやりします。

レベル4

全体の35%以上

血圧が測れないほど下がり、意識がほとんどなくなります。命がとても危険な状態です。

周りの人が気づける「危険のサイン」

次のようなサインが見られたら、出血性ショックかもしれません。

  • 顔色が悪く、青白い 血液が足りなくなり、皮膚まで十分に届かなくなっているサインです。
  • ひんやりとした冷たい汗をかいている 体が「大変だ!」と感じ、緊急事態の反応を示している証拠です。
  • 手や足が冷たい 命に大切な脳や心臓へ血液を集中させるため、手足への血のめぐりが悪くなります。
  • 呼吸が速くて浅い 足りなくなった酸素を、なんとか体中に届けようと頑張っている状態です。
  • 脈が速くて弱々しい 少ない血液を必死に送り出そうとして脈は速くなりますが、勢いは弱くなります。

ケガによる出血がなくても、お腹の中などで出血していることがあります。 ある研究では、特に中高年の女性で、片足のむくみと同時に出血性ショックの症状が出る場合、お腹の中の太い血管が自然に破れている可能性が報告されています。 目に見える出血がなくても、このような危険のサインに注意することが重要です。

出血性ショックの検査・診断

出血性ショックの診断は、まさに時間との勝負です。 体から出ている「SOSサイン」をいかに早く見つけて、すぐに行動に移せるかが命を救うカギになります。

診断は、まず体の状態を確認することから始まります。 次に、さまざまな検査を組み合わせて行います。

体が発する「SOSサイン」の確認

医師は、ショックが疑われる患者さんを診るとき、まず以下のような体のサインを注意深く観察します。

確認する項目

ショックが疑われるサイン

意識

ぼんやりしていて、呼びかけへの反応がにぶい

呼吸

ハアハアと速くて浅い呼吸(1分間に22回以上)

脈拍

速くて弱々しい脈(1分間に100回以上)

血圧

血圧が低い(上の血圧が90mmHgを下回るなど)

皮膚

顔色が悪く、冷たい汗をかいている

尿の量

おしっこの量がとても少なくなる

これらのサインは、体がなんとかして生き延びようと頑張っている証拠でもあります。

体の中を調べる検査

体のサインとあわせて、血液検査を行います。 貧血の進み具合や、血を固める力が弱まっていないかなどを調べます。

同時に、どこから出血しているのかを特定するための検査も急いで進めます。 特に、お腹の中など外から見えない場所からの出血を調べるためには、超音波(エコー)検査やCT検査といった画像検査がとても役立ちます。

状況から原因を推理する

医師は、患者さんの状況に合わせて原因を推理しながら診断を進めます。 例えば、交通事故で骨盤を骨折したような大きなケガの場合、お腹の中の臓器も一緒に傷ついている可能性を考えます。 ある研究では、骨盤骨折を起こした患者さんの最大約67%が、お腹の臓器にも損傷を負っていたと報告されています。

また、見た目にケガがないのにショック状態のときもあります。 特に中高年の女性で、足のむくみと一緒にショックの症状が出ている場合は、お腹の太い血管が自然に破れる稀な病気も考えます。 この病気は、足に血のかたまりができる病気(深部静脈血栓症)を同時に発症していることが多いとわかっています。

このように、体のサインと検査結果、そして患者さん一人ひとりの状況を組み合わせて、一刻も早く正確な診断につなげることが、適切な治療への第一歩となります。

出血性ショックの治療

出血性ショックの治療は、まさに時間との戦いです。 命を救うためには、2つの大切な目標を同時に達成する必要があります。

  1. 出血を止めること(止血)
  2. 失われた血液の代わりを補うこと(輸液・輸血)

これらを一刻も早く、そして同時に進めることがとても重要です。

救急車を待つ間にできること

病院に着くまでの間にも、できることがあります。 もし周りにいる人が倒れたら、次の応急手当が命を救う助けになります。

  • 仰向けに寝かせる 体を楽な姿勢にして、血のめぐりを助けます。
  • 足を30cmほど高く上げる 足に集まった血液を、命に大切な脳や心臓に戻すためです。
  • ベルトなどをゆるめる 体をしめつけているものをゆるめ、呼吸や血の流れを楽にします。
  • 体を温める 出血すると体温が下がりやすいので、毛布などをかけて保温します。

病院で行う専門的な治療

病院では、原因や体の状態に合わせて専門的な治療を急いで行います。

1. 出血を止める(止血)

どこから出血しているかによって、止め方はさまざまです。

  • 手術による止血 交通事故などによる骨盤骨折からの大量出血は非常に危険です。 お腹の中の太い血管を結んで止血する手術が行われることがあります。 ある研究では、この手術の止血効果は約80%と報告されています。
  • 内視鏡(ないしきょう)による止血 胃や腸からの出血では、口などからカメラを入れて直接止めます。
  • カテーテル治療 細い管を血管の中に入れ、出血している場所を詰めて止めます。

2. 血液を補う(輸液・輸血)

点滴で水分を補うと同時に、失われた血液の成分を補うために輸血をします。 最近では、血液の全ての成分が入った「全血」を早い段階で輸血する方法もあります。 この方法は、その後の輸血量を減らせる可能性があると期待されています。

3. 重症の場合の特別な治療

出血が多く心臓や肺の働きがとても弱ってしまった場合には、 「ECMO(エクモ)」という特別な装置を使うこともあります。 ECMOは、一時的に心臓と肺の代わりをしてくれる、いわば命のサポーターです。 ある研究では、重症の外傷でECMO治療を受けた方の生存率は約66%と報告されており、最後の切り札となる大切な治療法です。