内軟骨腫
「骨の中に、なぜか軟骨の塊ができてしまう」と聞くと、少し驚かれるかもしれません。
私たちの体にある骨は、元々柔らかい軟骨から成長する過程で硬い骨へと変化しますが、この時に一部の軟骨が骨の中に残ってしまうことがあります。これが「内軟骨腫」と呼ばれるものです。
多くは心配のない良性の性質を持ち、痛みなどの症状を感じることはめったになく、健康診断などで偶然発見されることがほとんどです。しかし、ごくまれに「軟骨肉腫」という悪性のがんに変化する可能性もあるため、正しい知識を持ち、適切に対応することが非常に重要です。
この記事では、内軟骨腫の概要から原因、種類、症状、検査、そして治療方法まで詳しく解説します。
内軟骨腫の概要
皆さんの体にある骨は、生まれたばかりの頃は柔らかい「軟骨」でできています。 成長するにつれて、この軟骨が硬い骨へと変化していきます。 しかし、中には骨になりきれなかった軟骨が、骨のどこかにポツンと残ってしまうことがあります。 この、骨の中にできた軟骨の「かたまり」を「内軟骨腫」と呼んでいます。 骨がしっかり作られていく過程で、なぜか一部の軟骨が置き去りになってしまったような状態です。
内軟骨腫の多くは、「良性」というおとなしい性質のものです。 これは、がんのように体の他の場所に広がっていく心配がほとんどない、という意味です。 良性の内軟骨腫は、ゆっくりと大きくなり、特に痛みなどの困った症状を感じることは少ないでしょう。 しかし、ごくまれにですが、良性の内軟骨腫が「軟骨肉腫」という、悪い性質の「がん」に変化することがあります。 この変化を見逃さないことが、私たち医師にとって非常に重要です。
実は、軟骨に関連する「できもの」には色々な種類があり、見た目だけでは判断が難しい場合があります。
内軟骨腫の種類
皆さんの骨の中にできる軟骨の「できもの」には、実はさまざまな種類があります。 その中でも内軟骨腫(ないなんこつしゅ)は、「軟骨(なんこつ)腫瘍」というグループの一つです。 私たち医師は、この軟骨腫瘍を大きく二つのタイプに分けて考えています。
一つは、おとなしい性質の「良性(りょうせい)腫瘍」です。 ほとんどの内軟骨腫はこの良性腫瘍に分類されます。 良性腫瘍は、ゆっくりと大きくなることが特徴で、体の他の場所に広がったり(転移)、命に関わったりする心配がほとんどありません。 良性の軟骨腫瘍には、内軟骨腫の他にも「軟骨芽細胞腫(なんこつがさいぼうしゅ)」といった種類があります。
- 軟骨芽細胞腫とは
- まだ成長途中の軟骨の赤ちゃんのような細胞からできる良性の腫瘍です。
- 特に、子どもの太ももの付け根の骨(大腿骨頭)など、長い骨の端によく見られます。
- 小学生から青年期にかけての方に多く発生すると言われています。
- 「コッドマン腫瘍」と呼ばれることもあります。
もう一つは、少し注意が必要な「悪性(あくせい)腫瘍」、つまり「がん」です。 軟骨からできる悪性腫瘍は「軟骨肉腫(なんこつにくしゅ)」と呼ばれます。 良性の軟骨腫瘍と比べて、軟骨肉腫は増えるスピードが速く、体の他の場所に広がる可能性(転移)があります。 内軟骨腫は良性の場合が多いのですが、ごくまれにこの軟骨肉腫に変化することがあるため、私たち医師は注意深く見守っています。
軟骨腫瘍は、見た目がとてもよく似ているため、良性か悪性か、またどの種類なのかを区別するのが難しいことがあります。 そのため、レントゲンやMRI(エムアールアイ)などの画像検査に加え、時には組織を詳しく調べる検査など、複数の情報を合わせて正確に診断することがとても大切です。 そうすることで、患者さん一人ひとりに合った適切な対応ができるようになります。
内軟骨腫の原因
「どうして自分の骨の中に、このような塊ができるのだろう?」と、疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。私たち医師は、内軟骨腫ができる主な理由として、大きく二つのことが考えられると見ています。
一つ目は、皆さんの骨が成長していく過程での、いわば「置き忘れ」です。私たちの体にある骨は、生まれた時は柔らかい軟骨でできています。成長するにつれて、この軟骨が少しずつ硬い骨に変わっていきますが、まれにこの時に、骨になりきれなかった軟骨の細胞が、骨の中にポツンと残ってしまうことがあります。
特に、骨の成長を始める前の、もっとも初期の軟骨である「胚性軟骨」に異常があると、このような「置き忘れ」が起こりやすくなると考えられています。本来、骨として形作られるはずの部分に、軟骨がそのまま残ってしまうことで、内軟骨腫が作られるのです。
二つ目は、細胞の「設計図」に小さなミスが起きることです。軟骨を作る細胞(軟骨芽細胞と呼びます)の遺伝子という「設計図」に、ちょっとした変化、つまり「遺伝子変異」が起こることがあります。
この設計図の書き間違いによって、細胞が「増えすぎなさい」という間違った命令を受け取り、その結果、骨の中で軟骨のかたまりが大きくなってしまうのです。
このような原因から、内軟骨腫は骨の成長が活発な、お子さんや若い世代の方によく見られます。これは、細胞が活発に働く時期だからこそ、遺伝子に変異が起きたり、軟骨が骨に変わる過程で「置き忘れ」が起こりやすいためです。
私たち医師は、これらの原因を理解した上で、皆さんの内軟骨腫がどのような状態なのかを注意深く見ています。多くは良性ですが、不安な場合はいつでもご相談ください。
内軟骨腫の症状
内軟骨腫は、ほとんどの場合、特別な症状を感じることがありません。 そのため、健康診断でレントゲン写真を撮った時や、別の病気で病院にかかった際に、たまたま見つかることがほとんどです。 多くは骨の中で静かに存在し、ご自身で何か困った症状に気づくことはめったにありません。
しかし、内軟骨腫が少しずつ大きくなると、まれにですが、いくつかの症状が現れることがあります。 良性の軟骨腫瘍はゆっくりと増殖し、その経過も穏やかですが、軟骨肉腫という悪性の腫瘍はこれとは異なる症状の出方をします。 私たち医師も、良性の内軟骨腫が悪性の軟骨肉腫へ変化する可能性を常に考慮し、症状の変化に特に注意を払っています。
どのような症状に注意すべきか、具体的にご説明しましょう。
- 痛み
- うずくような痛みや、その部分がなんとなく重いと感じることがあります。
- 特に、腫瘍がある部分に体重がかかったり、体を動かしたりする時に、軽い不快感や痛みを感じることがあります。
- 症状が進むと、じっとしていても痛みが続く場合があります。
- 腫れやしこり
- もし腫瘍が骨の表面に近い場所にできている場合、その部分が少し盛り上がって見えたり、触るとしこりのように感じたりすることがあります。
- 特に、手や足の指の骨にできた場合などは、見た目の変化に気づきやすいでしょう。
- 骨折しやすくなる(病的骨折)
- 腫瘍が骨の内部を弱くしてしまうと、普段なら折れないようなわずかな衝撃でも骨が折れてしまうことがあります。
- これを「病的骨折」と呼び、内軟骨腫が原因で起こることがあります。
もし、今まで感じたことのない強い痛みや、急な腫れ、そして体が動かしにくいなど、いつもと違う症状が続く場合は、非常にまれですが、腫瘍が悪性のものに変化している可能性も考えられます。 気になる症状がある場合は、自己判断をせずに、早めに整形外科を受診し、医師にご相談ください。 定期的に体の状態を確認することで、安心して毎日を過ごせるようにしましょう。
内軟骨腫の検査・診断
「骨の中に軟骨のかたまりがある」と聞くと、少し不安になりますよね。私たち医師は、その内軟骨腫がどんな状態なのかをしっかり見極めるために、いくつかの検査を行います。皆さんが安心して毎日を過ごせるよう、丁寧な検査と説明を心がけています。
まず最初に行うのは、レントゲン検査です。
- レントゲン検査
- 骨全体の様子を写真のように写し出します。
- 内軟骨腫のおおよその場所や大きさを確認できます。
レントゲン写真で大まかな様子が分かったら、さらに詳しく見るために次の検査に進みます。 骨の中にある軟骨の「かたまり」が、どのような形をしているのか、周りの骨に影響を与えていないかなどを細かく調べます。
- CT検査(シーティー検査)
- 骨の内部を輪切りにしたような画像で立体的に見ることができます。
- 軟骨のかたまりの正確な形や骨との境目を詳しく調べます。
- MRI検査(エムアールアイ検査)
- 軟骨そのものの状態や、その周りの組織(じん帯や筋肉など)がどうなっているかをはっきりと映し出します。
- 内軟骨腫の性質を評価する上で、とても大切な情報が得られます。
良性であることが多い内軟骨腫ですが、ごくまれに悪性の「がん」(軟骨肉腫)へと変化する可能性があることを、私たち医師は常に念頭に置いています。この変化を見逃さないためには、定期的にこれらの画像検査で、病変の大きさや形、そして骨の見た目に変わったところがないかを慎重に確認することがとても大切です。これは、まだ「がん」になる前の「前がん状態」をできるだけ早く見つけて、適切な対応につなげるためです。
さらに詳しく調べる必要がある場合や、悪性の変化が少しでも疑われる場合には、特別な検査を追加することがあります。
- 核医学検査
- 骨の元気さや、軟骨の「かたまり」がどれくらい活動しているかを調べる検査です。
- 体の中に安全な薬を少しだけ入れて、その薬が骨のどこに集まるかを特殊なカメラで撮影します。
- 特に、PET/CT検査というものは、軟骨の「かたまり」の活動状況を直接見ることができ、良性なのか悪性なのか、判断が難しい場合にとても役立ちます。
レントゲン、CT、MRIといった「骨の形を見る検査」と、核医学検査のような「骨の働きを見る検査」を組み合わせることで、内軟骨腫の状態をより正確に診断できるようになります。私たちは、これらの検査結果を総合的に判断し、皆さんの内軟骨腫の状態と、今後の見守り方や治療について、分かりやすくご説明させていただきます。心配なことがあれば、いつでも医師にご相談ください。
内軟骨腫の治療
「骨の中に軟骨のかたまりがある」と聞くと、治療が必要なのか、どんなことをするのか、気になりますよね。私たち医師は、皆さんの内軟骨腫の状態をしっかり見極め、適切な治療法を一緒に考えていきます。
内軟骨腫は、ほとんどがおとなしい性質の良性(りょうせい)腫瘍です。しかし、場所や大きさによっては、うずくような痛みを感じたり、骨が弱くなってポキッと折れやすくなったりすることもあります。そのような場合は、治療を検討することが大切です。
治療の中心となるのは、手術で腫瘍を取り除く方法です。これは「掻爬術(そうはじゅつ)」と呼ばれ、骨の表面に小さな穴を開けて、そこから軟骨のかたまりを丁寧に『かき出す手術』です。良性の骨腫瘍の中でも、内軟骨腫のような軟骨腫は、実は多く見られる病変の一つで、手術で取り除くことがよくあります。
腫瘍をかき出した後は、骨の中にぽっかりと空洞ができてしまいます。この空洞をそのままにしておくと、また骨折しやすくなるため、埋めることが一般的です。これまでは、患者さんご自身の骨を少し分けて埋めたり、他の方から提供された骨を使ったりすることが多かったです。
最近の研究では、「生体活性(せいたいかっせい)ガラス」という、骨ととてもよく馴染む特別な『人工のガラス』を使う方法も注目されています。この生体活性ガラスは、腫瘍を取り除いた後の治療において、腫瘍が再びできる(再発)可能性や、困った症状が起きる(合併症)可能性が、従来の骨を埋める方法と変わらないという報告が出ています。私たち医師も、皆さんの骨の状態や生活スタイルに合わせて、最適な方法を選べるように準備しています。
今はまだ研究中ですが、将来は『遺伝子(いでんし)の働きを調整する方法』や、『体の免疫(めんえき)の力を使う治療』などもできるようになるかもしれません。病気がもっと小さく、体に負担が少ない方法で治せるように、医学の世界では日々新しい研究が進められています。
どの治療法が一番合っているかは、内軟骨腫がある場所や大きさ、皆さんの年齢、そして体の状態によって一人ひとり異なります。私たち医師が、それぞれの治療のメリットやデメリットを分かりやすくご説明しますので、疑問に思うことは何でも聞いてください。一緒に納得のいく治療法を見つけていきましょう。





