サラセミア

疲れやすさや息切れ、顔色が悪い。多くの人が経験する貧血の症状ですが、その原因は鉄分不足だけとは限りません。もしかすると、生まれつきの遺伝子の設計図が関わる「サラセミア」という血液の病気が隠れている可能性があります。

「地中海貧血」とも呼ばれるこの病気は、かつては特定の地域のものとされていましたが、今や日本でも決して珍しい存在ではありません。さらに研究では、このサラセミアの遺伝子が、ある別の病気の重い合併症リスクを下げるという、驚くべき側面も報告されています。

この記事では、サラセミアとはどのような病気なのか、その原因から症状、最新の治療法までを詳しく解説します。ご自身の体を深く理解するための一助として、ぜひお役立てください。

サラセミアの概要

サラセミアは、血液の成分がうまく作られない病気です。 生まれつきの遺伝子の変化が原因で起こります。 体を元気にする酸素を運ぶ役割が十分に果たせません。

私たちの血液が赤いのは「ヘモグロビン」のおかげです。 ヘモグロビンは肺で酸素を受け取り、全身に届けます。 この大切なヘモグロビンは、「グロビン」という、 タンパク質の部品からできています。

サラセミアは、このグロビンの設計図に問題がある状態です。 そのため、正常なヘモグロビンが十分に作れません。 結果として、貧血などの症状を引き起こしてしまいます。

この病気は地中海沿岸の地域に多く見られたため、 「地中海貧血」という別名で呼ばれることもあります。 しかし、現在では日本でも決して珍しくありません。

また、遺伝子の影響は時に複雑な働きをします。 例えば、別の血液の病気である鎌状赤血球症の患者さんが、 サラセミアを併せ持つと腎臓の合併症が、 起こりにくくなるという研究報告があります。 このように、遺伝子の働きは多岐にわたるため研究が進んでいます。

サラセミアの種類

サラセミアは、どの部品の設計図に問題があるかで分けられます。 血液の赤い色のもと「ヘモグロビン」は、 「αグロビン」と「βグロビン」という、 2種類の部品(タンパク質)からできています。 どちらの設計図(遺伝子)に異常があるかによって、 サラセミアは大きく2つのタイプに分類されます。

α(アルファ)サラセミア

αグロビンの設計図に問題があるタイプです。 健康な人は、この設計図を4つ持っています。 異常がある設計図の数によって、重症度が変わります。

異常な遺伝子の数

呼び名

主な状態

1つ

サイレント保因者

ほとんど症状がなく、気づかないことが多いです

2つ

αサラセミア形質

軽い貧血が見られることがあります

3つ

ヘモグロビンH症

中等度から重い貧血や、脾臓の腫れが出ます

4つ

胎児水腫

お腹の中の赤ちゃんが、とても重い状態になります

αサラセミアは貧血の原因となりますが、 別の側面を持つことも研究でわかっています。 例えば、鎌状赤血球症という他の血液の病気では、 腎臓の合併症が問題となることがあります。 αサラセミアを併せ持つと、この腎臓の合併症を 防ぐ働きがある可能性が報告されています。

β(ベータ)サラセミア

βグロビンの設計図に問題があるタイプです。 健康な人は、この設計図を2つ持っています。 遺伝子の異常の組み合わせによって、 重症度が3つの段階に分けられます。

  • βサラセミア・マイナー
  • ごく軽い貧血が見られる程度で、ほとんど症状はありません。
  • βサラセミア・中間型
  • マイナーとメジャーの中間くらいの、様々な症状が出ます。
  • βサラセミア・メジャー(クーリー貧血)
  • 重い貧血や、それに伴う様々な症状が現れます。

このように、サラセミアは原因となる遺伝子や、 その異常の数によって細かく分類されます。 どのタイプかによって症状の現れ方が大きく異なるのです。

サラセミアの原因

サラセミアは生活習慣ではなく、生まれつきの遺伝子が原因です。 遺伝子は体を作るための「設計図」のようなものです。 親から子へと受け継がれる情報によって、病気が決まります。

血液中の酸素を運ぶ大切なヘモグロビンは、 「αグロビン」と「βグロビン」という部品からできています。 サラセミアは、この部品の設計図である遺伝子に、 生まれつき変化があることで起こるのです。

遺伝子の変化には、設計図の一部がなくなる「欠失」や、 情報が書き間違えられる「変異」などがあります。 この変化の種類によって症状の重さが変わります。 例えば、βサラセミアでは遺伝子の変化により、 βグロビンが少し作られるか、全く作られないかが決まります。

また、遺伝子の変化は、時に他の病気に影響を与えます。 鎌状赤血球症という別の血液の病気を持つ人が、 αサラセミアの遺伝子も持つと、腎臓の合併症が 起こりにくくなるという研究報告があります。 このように遺伝子の働きはとても複雑なのです。

サラセミアの症状

サラセミアの症状は、遺伝子の変化の程度で大きく変わります。 ほとんど症状がない軽いタイプから、治療が必要な重いタイプまで様々です。

軽いタイプでは、自分では症状に気づかないことがほとんどです。 健康診断の血液検査で、ごく軽い貧血を指摘されて、 偶然見つかるケースが多くあります。

一方、重いタイプでは様々な症状が現れます。 これは、酸素を運ぶ赤血球がうまく作れず、 さらに壊れやすくなるために起こります。

**【主な症状のチェックリスト】**

  • 貧血による症状
    酸素が全身に行き渡らないために起こります。
  • 疲れやすい、いつもだるい
  • 少し動いただけでも息切れや動悸がする
  • 顔色が悪く、青白く見える(蒼白)
  • 赤血球が壊れることによる症状(溶血)
    壊れた赤血球の処理が追いつかなくなります。
  • 皮膚や白目が黄色くなる(黄疸)
  • お腹が張る感じがする(脾臓の腫れ)
  • 胆石ができやすくなる
  • 骨の変化
    血液工場である骨髄が、無理に血液を作ろうと頑張りすぎるためです。
  • 顔の骨(頬や額)が大きくなる(サラセミア様顔貌)
  • 骨がもろくなり、骨折しやすくなる
  • お子さんの場合は、成長がゆっくりになる

病気の重さ

主な症状

軽いタイプ

・ほとんど症状はない

・ごく軽い貧血

重いタイプ

・重い貧血の症状(疲れ、息切れ、顔色不良)

・黄疸やお腹の張り

・骨の変化や成長の遅れ

また、サラセミアは他の病気に影響を与えることがあります。 ある研究では、鎌状赤血球症という別の血液の病気を持つ人が、 αサラセミアも併せ持つと、腎臓の合併症が起こりにくくなる、 という可能性が報告されています。

気になる症状があれば、血液内科などの専門医にご相談ください。

サラセミアの検査・診断

サラセミアの診断は、主に血液検査から始まります。 健康診断などで貧血を指摘されたことをきっかけに、 詳しい検査に進むケースも少なくありません。

まず行われるのが、赤血球の数や大きさ、形を調べる血液検査です。 サラセミアの場合、赤血球が健康な人よりも小さくなる、 「小球性貧血」という特徴が見られることがあります。 顕微鏡で血液を直接観察し、いびつな形の赤血球がないかも確認します。

次に、ヘモグロビンの種類と量を詳しく調べる検査を行います。 「ヘモグロビン電気泳動」という専門的な検査です。 この検査で異常なヘモグロビンが見つかると、 サラセミアの可能性がより高まります。

診断を確定するためには、遺伝子検査がとても重要です。 ヘモグロビンの設計図である遺伝子の異常を直接特定します。 どの遺伝子にどのような異常があるかによって、 症状の重さや治療方針が大きく変わるためです。

また、遺伝子検査は将来の合併症リスクを予測する上でも役立ちます。 例えば、鎌状赤血球症という別の血液の病気を持つ人が、 αサラセミアも併せ持つと、腎臓の合併症が起こりにくくなる、 という研究報告があります。 これはαサラセミアの遺伝子が、腎臓を守るように働く可能性があるからです。 このように、遺伝子の情報は診断だけでなく、 将来の健康管理にもつながる大切な手がかりとなるのです。

**【サラセミアの主な検査】**

検査の種類

主に調べること

血液検査

赤血球の数や大きさ、形、異常なヘモグロビンの有無など

ヘモグロビン電気泳動

ヘモグロビンの種類のバランス

遺伝子検査

ヘモグロビン遺伝子の異常を特定し、診断を確定する

超音波検査など

脾臓や肝臓の大きさなど、合併症の有無を確認する

その他、症状に応じて、お腹の中の脾臓や肝臓の状態を確認する超音波検査や、骨の状態を詳しく見るために骨髄の検査が行われることもあります。

サラセミアの治療

サラセミアの治療法は、病気の重さによって大きく異なります。 症状がほとんどない軽いタイプでは、特別な治療は必要ありません。 定期的な血液検査で、体の状態をチェックしながら見守ります。

貧血の症状が重い場合は、積極的な治療が必要になります。 治療の中心となるのは「輸血療法」という大切な治療です。 不足している元気な赤血球を、輸血によって体へ補います。 これにより、息切れやだるさといった辛い症状を和らげます。

ただし、輸血を長く続けると、体の中に鉄がたまりすぎます。 この「鉄過剰症」は、心臓や肝臓に負担をかける原因です。 そのため「鉄キレート療法」というお薬を一緒に使います。 体にたまった余分な鉄を、体の外に出す手助けをする治療です。

**【その他の主な治療法】**

  • 脾臓(ひぞう)の摘出
    赤血球を壊す脾臓を取り、輸血の回数を減らす手術です。
  • 新しいお薬(ルスパテルセプト)
    特定のタイプの患者さんで、輸血の回数を減らす目的で使います。
  • 造血幹細胞移植
    病気を根本から治す唯一の方法ですが、体への負担が大きく、 重症の患者さんで慎重に検討される治療法です。

最近の研究では、遺伝子の情報が治療にも関わることがわかってきました。 例えば、鎌状赤血球症という別の血液の病気を持つ人が、 αサラセミアも併せ持つと、腎臓の合併症が起こりにくくなる、 という研究報告があります。 これは遺伝子の特徴が、将来の治療に役立つ可能性を示しています。

どの治療が最適かは一人ひとり違うため、主治医とよく相談しましょう。