オクシピタル・ホーン症候群

「オクシピタル・ホーン症候群」という病名をご存じでしょうか。これは、男の子の赤ちゃん約68万人に1人という頻度で発症するとされる、非常にまれな遺伝性の指定難病です。体に必要な「銅」をうまく利用できなくなることで、皮膚や骨、血管といった全身の組織にさまざまな症状があらわれます。

根本的な治療法が確立されていないため、ご本人やご家族は「これからどうすればいいのだろう」と大きな不安を抱えているかもしれません。情報が少ない病気だからこそ、正しい知識を得て、病気と前向きに向き合っていくことが大切になります。

この記事では、オクシピタル・ホーン症候群の詳しい原因から症状、現在行われている治療法までを丁寧に解説します。身体的なケアだけでなく、心の状態にも目を向けることの重要性についても触れていきますので、ぜひ参考にしてください。

オクシピタル・ホーン症候群の概要

オクシピタル・ホーン症候群は、体に必要な金属「銅」を、 うまく利用できなくなることで起こる、非常にまれな遺伝性の病気です。 皮膚や血管、骨といった体を支える組織にさまざまな症状があらわれます。 日本では、国の指定難病にも定められています。

この病気には、以下のような特徴があります。

  • 発症する人 主に男の子にみられ、その頻度は男の子の赤ちゃん 約68万人に1人と推定されています。
  • 病気の名前の由来 頭の後ろの骨(後頭骨)をレントゲンで見ると、 角(ホーン)のような小さな突起が見られることがあります。
  • 関連する病気 同じ遺伝子の変異で起こる「メンケス病」という病気があります。 オクシピタル・ホーン症候群は、その中でも症状が比較的軽いタイプです。

発症時期は幼児期の後半から学童期に気づかれることが多く、 知的な発達への影響は軽度か、ない場合がほとんどです。

現在、病気そのものを治す根本的な治療法は確立されていません。 そのため、あらわれる症状に合わせた治療が中心となります。 病気と長く向き合う上では、身体的なケアだけでなく、 心の状態にも目を向けることがとても大切です。

実際に、ある治療法の研究では、患者さんの心理状態を評価することが、 治療効果の予測に役立つ可能性が示唆されています。 気持ちの落ち込みなどが治療の効果に影響を与えることもあるため、 心と体の両面からのサポートが重要になります。

オクシピタル・ホーン症候群の種類

オクシピタル・ホーン症候群は、原因となる遺伝子の状態によって、 症状のあらわれ方が異なります。 同じ遺伝子の異常で起こる病気に「メンケス病」があります。 オクシピタル・ホーン症候群は、その中でも症状が軽いタイプです。

特徴

オクシピタル・ホーン症候群(軽いタイプ)

メンケス病(重いタイプ)

主な症状

伸びやすい皮膚、関節が柔らかい、筋力低下など

重い発達の遅れ、けいれん、体温の不安定さなど

気づく時期

幼児期から小学生ごろ

生まれて数か月以内

知的な発達

正常か、少し遅れる程度

重い遅れを伴うことが多い

このように、同じ遺伝子の異常でも、症状の重さには大きな違いがあります。

また、「オクシピタル(後頭部)」という名前のため、 後頭部に痛みが走る「後頭神経痛」や「群発頭痛」と、 間違われることがありますが、これらは全く別の病気です。

後頭神経痛や群発頭痛は、激しい痛みが特徴の病気です。 これらの痛みを和らげるために、後頭部の神経に働きかける 治療法の研究が進んでいます。

  • 経皮的電気神経刺激(TENS)療法 皮膚の上から弱い電気を流して神経を刺激する治療法です。 ある研究では、慢性的な群発頭痛の患者さんの 発作の回数や痛みを和らげることが示されました。
  • 末梢神経刺激(PNS)療法 痛みの原因となる神経の近くを直接刺激する方法です。 治療が難しい後頭神経痛に対して、 つらい痛みを軽くする効果が期待されています。

オクシピタル・ホーン症候群は、重症度によって違いがあります。 また、名前が似ていても全く異なる病気もあるため、 専門の医師による正確な診断がとても大切になります。

オクシピタル・ホーン症候群の原因

オクシピタル・ホーン症候群は、生まれつきの遺伝子の変化が原因です。 私たちの体を作る設計図である遺伝子の一つ、「ATP7A」に変化があることで起こります。

このATP7A遺伝子は、体に必要な「銅」を運ぶ役割を担っています。 銅は、骨や血管、皮膚などを丈夫に保つために欠かせないミネラルです。

ATP7A遺伝子に変化があると、銅を運ぶ力が弱まってしまいます。 そのため、体の一部で銅が不足し、体を支える組織が弱くなります。 その結果、皮膚が伸びやすくなるなどの症状があらわれるのです。

また、この病気の遺伝には、次のような特徴があります。

  • 遺伝の形式 X染色体劣性遺伝という形式をとります。
  • 性別の違い 原因となるATP7A遺伝子は、性別を決めるX染色体の上にあります。 男の子はX染色体を1本しか持たないため、変化があると病気を発症します。 女の子は2本持つため、片方に変化があっても、もう一方が働きを補います。 そのため、症状が出ない「保因者」となることがほとんどです。

なお、名前が似ている「後頭神経痛」とは、原因が全く異なります。 後頭神経痛は、後頭部の神経が圧迫されることなどで起こる痛みです。 ある研究では、首の骨の関節が痛みの原因になる可能性も示されています。 一方、この病気の原因は、あくまで遺伝子の変化による銅の問題です。

オクシピタル・ホーン症候群の症状

この病気の症状は、体の銅が足りなくなることであらわれます。 幼児期から小学生ごろに気づかれることが多いですが、 一人ひとり症状の出方や程度は異なります。

主な症状は、体を支える組織が弱くなることで起こります。 具体的には、以下のような症状が見られることがあります。

  • 皮膚や関節の症状 皮膚を優しくひっぱると、普段よりも長く伸びてしまいます。 また、関節がとても柔らかく、必要以上に曲がってしまうこともあります。
  • 筋肉や運動の症状 全身の筋肉に力が入りにくく、体が少しぐったりした印象です。 そのため、おすわりや歩き始めといった運動の発達が、 同年代の子どもよりゆっくりになることがあります。 歩けるようになっても、少しふらつく様子が見られることもあります。
  • 体の内部にあらわれる症状 おしっこをためる袋(膀胱)に「憩室(けいしつ)」という、 小さなこぶができて、尿路感染症をくり返しやすいです。 他にも、血管がくねくねと曲がったり、慢性の下痢や、 足の付け根がふくらむ「鼠径(そけい)ヘルニア」が見られます。

また、後頭部の骨の変形などから、二次的に頭痛などの、 慢性的な痛みが起こる可能性も考えられます。 このような痛みを和らげる治療法の一つとして、 後頭部の神経を電気で優しく刺激する方法があります。

ある研究では、つらい頭痛に悩む患者さんに対して、 この治療法を行ったところ、良い結果が報告されています。 週に15回以上あった発作が、11回ほどに減ったとのことです。 治療を受けた方の約4割が、生活が楽になったと感じたとされています。

一方で、親御さんが心配されることの多い知的な発達については、 影響が軽度であるか、正常の範囲内におさまることがほとんどです。 お子さんの様子で気になることがあれば、一人で悩まずに、 専門の医師に相談することが大切です。

オクシピタル・ホーン症候群の検査・診断

お子さんの体に特徴的な症状が見られた場合、 いくつかの検査を組み合わせて慎重に診断を進めます。 症状だけで判断するのではなく、体の内部の状態を詳しく調べ、 正確な診断につなげることがとても大切です。

主な検査には、以下のものがあります。

  • 血液検査 体の中の「銅」の代謝が正常に行われているかを調べます。 血液中の銅の量や、銅を運ぶ役割を持つたんぱく質である、 「セルロプラスミン」が少なくなっていないかなどを確認します。
  • 画像検査 レントゲンや超音波などを用いて、体の内部を画像で確認します。 – 頭部レントゲン撮影 この病気の名前の由来にもなった、後頭部の骨にできる、 角のような突起(オクシピタル・ホーン)の有無を調べます。 – その他の画像検査 お腹の超音波(エコー)検査で膀胱の状態を観察したり、 MRAという検査で血管の形に異常がないかも確認します。

この病気とは異なりますが、後頭部の痛みを引き起こす病気もあります。 ある研究では、レントゲンの一種である「蛍光透視」という技術が、 治療が難しい後頭神経痛の痛みを和らげるのに役立つと報告されました。 この技術で痛みの原因を正確に見つけ、治療することで、 患者さんの痛みが大幅に軽くなったとされています。 このように、画像で詳しく見る技術は、診断や治療にとても重要です。

  • 遺伝子検査 診断を確定するために、最も重要な検査となります。 血液などを使って、体の設計図である「ATP7A遺伝子」に、 変化がないかを詳しく調べ、診断を確定させます。

オクシピタル・ホーン症候群の治療

残念ながら、この病気を根本から治す治療法はまだありません。 そのため、今あらわれている症状を和らげる治療が中心となります。 生活の質をできるだけ保つことが、治療の大きな目標です。

具体的には、患者さん一人ひとりの状態に合わせて、 次のような「対症療法」を組み合わせて行います。

  • 膀胱(ぼうこう)のトラブルへの対応 おしっこをためる袋にできた「憩室(けいしつ)」というこぶが原因で、 尿路感染症をくり返すことがあります。 その際は抗生物質で感染を抑えたり、手術を検討したりします。
  • 骨や筋肉へのアプローチ 骨がもろくなるのを防ぐため、ビタミンDの薬を使うことがあります。 また、筋力や関節のゆるみには、リハビリで筋力を保ちます。 転ばないように、特別な装具や車椅子を使うことも大切です。
  • お腹の症状への対処 長引く下痢などの症状には、お腹の調子を整える薬を使います。

病気と付き合う中で、慢性的な痛みに悩まされることもあります。 この病気の治療ではありませんが、別の病気では、 痛みを和らげるための研究が進んでいます。

例えば、後頭部の神経を弱い電気で優しく刺激する治療法があります。 ある研究では、つらい頭痛に悩む患者さんの発作の回数が、 週に約16回から11回へと減ったという結果が出ています。 このように、痛みを軽くするための選択肢も考えられます。

また、病気と長く向き合う上では、心の状態も非常に大切です。 別の研究では、気持ちが落ち込んでいる状態(抑うつ)が、 治療の効果に影響を与える可能性も示されています。 ご本人やご家族が病気を正しく理解し、前向きに治療を続けるため、 遺伝カウンセリングで専門家に相談することも大切な選択肢です。