ウェルドニッヒホフマン病

赤ちゃんの「手足の動きが少ない」「全体的にぐったりしている」といった様子に、不安を感じていませんか。そのサインは、もしかしたら「ウェルドニッヒホフマン病」かもしれません。この病気は、生後6ヶ月までの赤ちゃんに発症する脊髄性筋萎縮症(SMA)の中でも最も重いI型に分類されます。

かつては治療が極めて困難な病気とされてきましたが、今は違います。近年、遺伝子に働きかける画期的な治療法が登場し、赤ちゃんの未来に大きな希望が見えるようになりました。早期発見と早期治療が、その後の成長を大きく左右する鍵となります。

この記事では、病気の原因からご家庭で気づける具体的なサイン、そして希望となる最新の治療法までを詳しく解説します。大切な赤ちゃんの未来のために、まずは正しい知識を身につけることから始めましょう。

ウェルドニッヒホフマン病の種類

ウェルドニッヒホフマン病は、筋肉を動かす神経の病気です。 「脊髄性筋萎縮症(SMA)」という病気のグループに含まれます。

SMAはこれまで、症状が出る時期や運動の発達具合によって、主に4つの型に分けられてきました。 ウェルドニッヒホフマン病は、この中で「I型」にあたります。

脊髄性筋萎縮症(SMA)の主な種類

型

一般的な名前

発症時期の目安

運動の発達の目安

I型

ウェルドニッヒホフマン病

生まれてから6か月まで

自分でおすわりができない

II型

デュボビッツ病

7か月から1歳6か月まで

支えなしでは立てない

III型

クーゲルベルグ・ウェランダー病

1歳6か月以降

ひとり歩きができるようになる

IV型

成人発症型

20歳以降

正常な運動発達の後に発症する

この表は、これまで使われてきた伝統的な分類方法です。 I型が最も早く症状があらわれ、重いタイプとされていました。

しかし、近年ではこの分類だけで病状を判断することは難しくなっています。 新しい治療薬の登場や、生まれてすぐの検査(新生児スクリーニング)が普及したためです。 これにより、病気の自然な経過が大きく変わり始めています。

そのため、発症した時期や運動能力だけで分ける従来の分類は、今後の見通しや治療法を決めるには不十分とされるようになりました。 現在は、この分類に加えて遺伝子の状態なども詳しく調べます。 そして、一人ひとりに最も適した治療計画を立てることが重要になっています。

ウェルドニッヒホフマン病の原因

ウェルドニッヒホフマン病の原因は、遺伝子の変化にあります。 体を動かす神経「運動ニューロン」が元気に働くために必要です。 この神経には、SMNタンパク質という栄養のようなものが必要です。

病気の直接の原因は、このタンパク質の設計図である遺伝子です。 「SMN1遺伝子」が生まれつき無かったり、うまく働かなかったりします。 設計図に問題があると、SMNタンパク質が十分に作られません。 結果として運動ニューロンが弱り、筋肉が動かなくなります。

この病気は「常染色体劣性遺伝」という形式で伝わります。 ご両親が原因の遺伝子を1つずつ持っていても症状は出ません。 この状態を「保因者(キャリア)」と呼びます。 お子さんがご両親の両方から原因遺伝子を受け継ぐと発症します。

ご両親がともに保因者の場合、お子さんの確率は以下の通りです。

  • 病気を発症する確率 4分の1(25%)の確率です。
  • 症状はないが保イン者になる確率 2分の1(50%)の確率です。
  • 病気の遺伝子を持たない確率 4分の1(25%)の確率です。

この病気は、遺伝的な背景を正しく理解することがとても大切です。 近年では研究が進み、遺伝子を詳しく調べられるようになりました。 正確な診断が、その後の治療方針を決める第一歩となります。

ウェルドニッヒホフマン病の症状

ウェルドニッヒホフマン病の症状は、多くが生後6か月までにあらわれます。 体を動かす神経の働きが弱くなるため、体の様々な部分にサインが出ます。 ご家族が気づきやすいポイントを、具体的に見ていきましょう。

主な症状は、全身の筋肉の力が弱くなる「筋力低下」です。 また、筋肉の適度な張り(緊張)が失われる「低緊張」も特徴です。 これにより、赤ちゃんは全体的にぐったりとした印象になります。

体の動きに関するサイン

  • 手足の動きが少ない 健康な赤ちゃんのような、活発な手足のバタつきが見られません。 腕や足がだらんと力なく垂れ下がっているように見えます。
  • 特徴的な足の形 あおむけの状態で、ひざを曲げカエルのように足を開いた姿勢をとります。 これは「フロッグレッグ肢位」と呼ばれ、股関節まわりの力が弱いためです。
  • 運動発達の遅れ 首のすわりやおすわりなど、月齢に応じた運動の発達がみられません。

呼吸や食事に関するサイン 口やのど、胸の筋肉の力も弱くなるため、呼吸や食事にも影響が出ます。 これらの症状は、赤ちゃんの命に直接関わるため特に注意が必要です。

  • 哺乳・嚥下(えんげ)障害 ミルクを吸う力が弱々しかったり、飲み込む時にむせやすかったりします。 食べ物や飲み物が気管に入ってしまう「誤嚥(ごえん)」を起こしやすくなります。
  • 特徴的な呼吸 息を吸うときにお腹がふくらみ、胸がへこむ「奇異呼吸」が見られます。 これは呼吸を助ける筋肉が弱っているサインです。

その他の大切なサイン

  • 舌の細かいふるえ 口を開けたときに、舌が小さくピクピクと動くことがあります。 これは神経の病気に特徴的な所見の一つです。
  • 正常な知的な発達 体の力は弱いですが、知能や感覚は正常に発達することがほとんどです。 周りの人の顔をじっと見つめ、声かけに豊かな表情で反応します。

筋力低下や低緊張は、他のまれな病気でも見られることがあります。 例えば、脳の一部である橋(きょう)や小脳の発達に問題がある病気でも、似た症状があらわれることが報告されています。 そのため、気になるサインがあれば自己判断せず、専門の医師に相談し、正確な診断を受けることが非常に重要です。

ウェルドニッヒホフマン病の検査・診断

ウェルドニッヒホフマン病の診断は、いくつかの段階を踏んで進みます。 まず赤ちゃんの様子や体の状態を、丁寧に診察することから始まります。 問診や診察、専門的な検査の結果を総合的に見て判断していきます。

診察で確認すること

医師はまず、赤ちゃんの体を直接見て、触って状態を確認します。 筋肉や神経の病気に特徴的なサインがないかを慎重に探します。

  • 筋肉の緊張や動き 体が全体的にぐったりと柔らかくないかを確認します。 手足の動きが少なく、だらんと力なく垂れていないかも見ます。
  • 特徴的な姿勢 あおむけで両足をカエルのように開く姿勢がないか確認します。 これは「フロッグレッグ肢位」と呼ばれる特徴的なサインです。
  • 舌の細かい動き 舌の表面が、小さくピクピクと波打つように動いていないか見ます。 これは「線維束性収縮」といい、神経の病気の手がかりになります。
  • 体の反射の確認 ハンマーで膝などを軽く叩いた時の足の反応(腱反射)が、見られるかを確認します。 この病気では、腱反射が弱かったり見られなかったりします。

専門的な検査

診察でこの病気が強く疑われると、より詳しく調べる検査を行います。 筋肉や神経の状態を電気的に調べる検査です。 これらの検査は、運動ニューロン疾患を特定する上で重要です。

  • 筋電図検査 筋肉の動きを電気信号として記録する検査です。 筋肉自体に原因があるか、神経からの命令に問題があるかを探ります。
  • 神経伝導速度検査 神経にとても弱い電気を流し、命令が伝わる速さを測定します。

確定診断のための遺伝子検査

最終的な診断を確定するために、遺伝子検査は不可欠です。 この病気の方の95%以上で、「SMN1遺伝子」に異常が見つかります。 採血で調べることができ、診断を確定する上で最も重要な検査です。

また、遺伝子検査は似た症状を持つ他の病気と見分けるためにも重要です。 例えば「橋小脳低形成(PCH)」という病気も、筋力低下などを起こします。 正確な診断が、その後の治療方針を決めるための第一歩となるのです。

ウェルドニッヒホフマン病の治療

ウェルドニッヒホフマン病の治療は、近年で大きく進歩しました。 以前は症状を和らげる対症療法が中心でした。 しかし現在は、病気の進行に直接働きかける治療が可能です。

治療の柱は、次の2つを組み合わせて行います。

  • 体を支えるための「支持療法」
  • 病気の原因に働きかける「疾患修飾療法」

体を支える治療(支持療法)

筋力の低下で起こる様々な症状に対応するための大切な治療です。 赤ちゃんの生活の質を守り、成長を支えることを目指します。

  • 呼吸のサポート 呼吸する力が弱いため、人工呼吸器を使って楽に息ができるようにします。
  • 栄養のサポート ミルクを飲む力や飲み込む力が弱い場合、お鼻のチューブなどから栄養を補給します。
  • リハビリテーション 関節が硬くなるのを防いだり、残っている体の機能を保ったりするために行います。

病気の進行に働きかける治療(疾患修飾療法)

病気の原因となる遺伝子に働きかけ、進行を抑える治療です。 2017年から日本でも新しいお薬が使えるようになりました。 これらのお薬は、神経細胞が元気に働くために必要なタンパク質を作れるよう助けます。

このような新しい治療の登場で、この病気の経過は大きく変わり始めています。 生まれてすぐの検査(新生児スクリーニング)も広まってきました。 そのため、早く見つけて早く治療を始めることが、とても重要になっています。 従来の分類だけでなく、遺伝子の状態も詳しく見て治療法を決める時代になりました。 病気の原因の研究も進んでおり、将来さらに新たな治療法が生まれることが期待されます。 どの治療を選ぶかは、お子さんの状態やご家族の希望をふまえ、医師とよく相談して決めていきましょう。