ギラン・バレー症候群
風邪や下痢といった、誰もが経験するありふれた症状。しかし、その症状が治まった後に、もし突然手足の力が抜けて動かなくなってしまったら、あなたはどうしますか?その原因不明の不調は、年間10万人に1〜2人という確率で発症する「ギラン・バレー症候群」のサインかもしれません。
この病気は、本来体を守るはずの免疫システムが、誤って自分自身の末梢神経を攻撃してしまうことで引き起こされます。症状は急激に進行し、手足の麻痺だけでなく、時には呼吸困難に至ることもあるため、正しい知識を持つことが非常に重要です。
この記事では、ギラン・バレー症候群の詳しい原因から症状、そして最新の治療法までをわかりやすく解説します。いざという時に備え、ご自身や大切な人を守るための知識を深めていきましょう。
ギラン・バレー症候群の概要
ギラン・バレー症候群は、急に手足の力が入りにくくなる病気です。 多くの場合、発症する1ヶ月以内に風邪や下痢などの症状がみられます。
この病気は、本来体を守るはずの「免疫」が関わっています。 免疫は、体に入ってきた細菌やウイルスと戦う大切な仕組みです。 しかし、この免疫が誤って自分自身の神経を攻撃することがあります。
攻撃されるのは、脳や脊髄から全身に広がる「末梢神経」です。 末梢神経は、脳からの命令を手足に伝えたりする役割を持ちます。 この神経が傷つくため、手足の筋力低下やしびれが起こるのです。
ギラン・バレー症候群は、誰でもかかる可能性があります。 しかし発症はまれで、年間10万人に1人から2人ほどです。 子どもから高齢の方まで発症し、やや男性に多い傾向があります。
【ギラン・バレー症候群のポイント】
- 原因 体を守る「免疫」が、自分の末梢神経を間違えて攻撃します。
- きっかけ 風邪や下痢などの感染症の後に発症することが多いです。
- 主な症状 手足の筋力が弱くなったり、しびれを感じたりします。
- かかりやすさ 年間10万人に1〜2人程度と報告されるまれな病気です。
ギラン・バレー症候群の種類
ギラン・バレー症候群は、実はいくつかの種類(病型)に分けられます。 どの神経が、どのようにダメージを受けるかによって症状が異なります。
大きくは、神経の攻撃される場所によって2つのタイプに分類されます。 神経を電気コードに例えて考えてみましょう。
- 脱髄型(だつずいがた) コードを覆うビニールの部分(ミエリン鞘)が傷つくタイプです。 脳からの命令を伝えるスピードが遅くなってしまいます。
- 軸索型(じくさくがた) コードの中の銅線にあたる神経本体(軸索)が傷つくタイプです。 脳からの命令そのものが伝わりにくくなります。
これを基に、代表的な種類をご紹介します。
- 急性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(AIDP) 最も多くみられる「脱髄型」のタイプです。 手足の筋力低下としびれの両方の症状が現れるのが特徴です。
- 急性運動軸索性ニューロパチー(AMAN) 主に運動に関わる神経がダメージを受ける「軸索型」のタイプです。 しびれは軽く、手足の筋力低下が中心の症状になります。
- フィッシャー症候群(FS) 少し特殊なタイプで、以下の3つの症状が特徴的に現れます。 ・目の筋肉が麻痺し、ものが二重に見える ・体がふらついて、まっすぐに歩けない ・腱反射(膝などを叩いたときの反応)がなくなる
どの種類かは、症状の現れ方や血液検査などを基に総合的に判断します。 特に血液中の「抗ガングリオシド抗体」という物質の種類は、 どの神経を攻撃するかを知るための重要な手がかりになります。
ギラン・バレー症候群の原因
ギラン・バレー症候群の正確な原因は、まだ研究段階にあります。 しかし、体を守るはずの「免疫」の誤作動が原因と考えられています。 免疫が、誤って自分自身の末梢神経を攻撃してしまうのです。
多くの場合、発症する1ヶ月以内に感染症にかかっています。 風邪や下痢などをきっかけに、免疫システムが反応します。 その反応が、誤って自分の体に向いてしまうと考えられています。
体の中で起こる流れを、もう少し詳しく見ていきましょう。
- 1. ウイルスや細菌の侵入 風邪などの原因になる病原体が、体の中に侵入します。
- 2. 免疫が「抗体」という武器を作る 体を守るため、免疫が病原体を攻撃する「抗体」を作ります。
- 3. 自分の神経を間違えて攻撃する 一部の病原体の表面は、人の末梢神経の成分とよく似ています。 そのため、病原体を狙った抗体が、自分の神経まで攻撃します。
この、病原体とよく似た神経の成分を「糖脂質(とうししつ)」と呼びます。 実際に患者さんの血液を調べると、この糖脂質を攻撃する、 「抗ガングリオシド抗体」という物質が約6割の方で見つかります。
また、抗体だけでなく「リンパ球」といった他の免疫細胞も、 神経への攻撃に関わっている可能性が指摘されています。 このように、感染症をきっかけとした免疫の誤作動が原因なのです。
ギラン・バレー症候群の症状
ギラン・バレー症候群の症状は、多くの場合、急に現れます。 風邪や下痢といった感染症の後、1〜2週間ほどで発症します。 特徴は、手足の筋力低下やしびれが左右対称に出ることです。
症状は足の先から始まり、だんだんと体の上へと広がります。 この症状は数日から数週間かけて悪化し、発症後2〜4週間でピークに達します。 ピークを過ぎれば、症状はそれ以上悪くならず、回復に向かいます。
手足の症状以外にも、様々なサインが現れることがあります。
- 顔や口の症状 顔の筋肉が麻痺して、うまく笑えない、目が閉じにくいなど、 表情が作りにくくなることがあります。 また、食べ物が飲み込みにくくなったり、呂律が回りにくくなったりします。
- 感覚の異常 しびれのほか、触った感覚が鈍くなることがあります。 時には、腰や背中に強い痛みを感じる場合もあります。
- 命に関わることもある症状 呼吸に使う筋肉が弱まり、息苦しさを感じることがあります。 これは緊急の対応が必要なサインです。 また、自律神経が乱れて、血圧や脈拍が不安定になることもあります。
診察では、膝など腱(けん)の部分を叩いても反応がなくなる、 「腱反射の消失」という特徴的な所見がみられます。 症状の程度には個人差があるため、気になる症状があれば早めに相談しましょう。
ギラン・バレー症候群の検査・診断
手足のしびれや力の入りにくさから、この病気が疑われる場合、 診断を確定するために、いくつかの詳しい検査を行います。 一つの検査だけで判断するのではなく、複数の結果を組み合わせます。
主に次の3つの検査を組み合わせて、総合的に診断します。
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検査の種類 |
検査で調べること |
この検査でわかること |
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髄液検査 |
背骨の中を流れる「脳脊髄液」という液体を調べます。 |
神経の炎症で増える「蛋白」という成分と、他の病気で増える「細胞」の数のバランスを確認します。 |
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神経伝導検査 |
手足の神経に弱い電気を流し、伝わる速さを測ります。 |
末梢神経が傷ついていると、命令を伝えるスピードが遅くなります。その程度を調べます。 |
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血液検査 |
血液を採取し、特定の物質がないかなどを調べます。 |
自分の神経を攻撃する「抗ガングリオシド抗体」の有無や、似た症状の他の病気でないかを確認します。 |
髄液検査
横向きに寝て、腰から細い針を使い、脳脊髄液を少し採取します。 この病気では、神経の成分である「蛋白」が増えているのに、 感染を示す「細胞」の数は正常、という特徴的な変化が見られます。
神経伝導検査
神経は、脳からの命令を手足に伝える電気コードのようなものです。 この検査では、神経が傷ついて電気の伝わりが悪くなっていないか、 その速さや強さを客観的なデータとして確認します。
血液検査
自分の神経を攻撃してしまう「抗ガングリオシド抗体」を調べます。 この抗体は、ギラン・バレー症候群の方の約6割で見つかります。 また、似た症状を起こす他の病気ではないことを確かめるためにも重要です。
医師はこれらの検査結果と、症状の詳しい経過をすべて合わせて、 ギラン・バレー症候群であるかを最終的に診断します。
ギラン・バレー症候群の治療
ギラン・バレー症候群の治療は、できるだけ早く始めることが重要です。 治療の目的は、自分の神経を攻撃している免疫の誤作動を止め、 症状の悪化を防ぎ、回復を早めることにあります。
中心となるのは、免疫の働きを調整する2つの治療法です。 どちらの治療法も、有効性(病気を良くする力)はほぼ同じです。 発症から早い段階で始めるほど、高い効果が期待できます。
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治療法 |
内容 |
特徴 |
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免疫グロブリン大量静注療法 |
体を守る働きを持つ「免疫グロブリン」というお薬を、5日間続けて点滴で体に入れます。 |
特殊な機械が不要なため、多くの病院でこの治療法が選ばれやすいです。 |
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血液浄化療法 (血漿交換療法など) |
血液を一度体の外に取り出し、病気の原因物質を取り除きます。きれいになった血液を体に戻します。 |
1〜2日おきに、合計5回ほど行うのが一般的です。治療には専用の機械が必要です。 |
免疫グロブリン大量静注療法
この治療で使う「免疫グロブリン」というお薬は、 健康な人の血液から集めた、体を守る成分でできています。 これを点滴することで、神経を攻撃する悪い抗体の働きを抑えます。
血液浄化療法
この治療法は、血液を機械でろ過するようなイメージです。 血液の中から、神経を攻撃する原因となっている悪い抗体を、 直接取り除いてしまうことで、症状の悪化を食い止めます。
その他の大切な治療
免疫の治療と同時に、今出ている症状を和らげる治療も行います。
- 呼吸のサポート 呼吸に必要な筋肉が弱まると、息が苦しくなります。 その場合は、人工呼吸器をつけて呼吸を安全にサポートします。
- リハビリテーション 症状が一番重い時期を過ぎたら、リハビリを開始します。 弱ってしまった筋力を取り戻し、体を動かす練習をします。 後遺症を少しでも軽くするために、とても大切な治療です。
これらの治療で多くの方は回復に向かいますが、個人差があります。 医師と相談しながら、焦らずに治療を進めていきましょう。





