ウィスコット・オルドリッチ症候群
お子さんに、治りにくい湿疹や覚えのないあざ、繰り返す感染症といった症状はありませんか。もし思い当たることがあれば、それは「ウィスコット・オルドリッチ症候群」という、生まれつき免疫システムに異常がある病気のサインかもしれません。
この病気は遺伝子の変化が原因で、特に男の子に多く見られます。「血が止まりにくい」「感染症に弱い」「湿疹」という3つの特徴がありますが、症状の現れ方は人それぞれです。国の指定難病でもあり、早期発見と適切な治療が何よりも重要になります。
この記事では、ウィスコット・オルドリッチ症候群の詳しい症状や原因、そして造血幹細胞移植などの治療法について分かりやすく解説します。お子さんの大切な未来のために、まずはこの病気について正しく知ることから始めましょう。
ウィスコット・オルドリッチ症候群の概要
ウィスコット・オルドリッチ症候群は、生まれつき体の防御システムに異常がある病気です。 遺伝子の情報が関係しており、主に男の子にみられることが知られています。
この病気には、次の3つの代表的な症状があります。 ただし、これらの症状の出方や重さには、患者さん一人ひとり大きな差があります。
- 感染症にかかりやすい(易感染性)
体を細菌やウイルスから守る「免疫」の力が弱いためです。 そのため、肺炎や中耳炎、皮膚の感染症などを繰り返しやすくなります。 - 血が止まりにくい(血小板減少)
出血を止める「血小板」という血液成分が少なくなります。 さらに、血小板が通常よりも小さくなることも特徴です。 その結果、軽い打撲でもあざができたり、鼻血が出やすくなります。 - 湿疹
アトピー性皮膚炎とよく似た、かゆみを伴う湿疹が体に現れます。 これは、皮膚の免疫バランスが乱れることなどが原因と考えられています。
症状の重さはさまざまで、すべてがそろうわけではありません。 軽いタイプでは、血が止まりにくい症状だけがみられることもあります。 このタイプは「X連鎖性血小板減少症(XLT)」と呼ばれます。
この病気は国の「指定難病」や「小児慢性特定疾患」の対象です。 そのため、認定されると医療費の助成を受けることができます。 早期に正確な診断を受け、適切な治療を始めることがとても大切です。
ウィスコット・オルドリッチ症候群の種類
この病気は、症状の重さや原因となる遺伝子の違いで、いくつかの種類に分けられます。 どのタイプかを知ることは、今後の治療や生活での注意点を知るためにとても大切です。
症状の重さによる分類
症状がどのくらい強く出るかによって、大きく5つの段階に分けられています。 スコアが高いほど、症状が重いことを示します。
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スコア |
分類 |
主な状態 |
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1 |
軽症(XLT) |
血小板の数が少ない症状だけが見られます。 |
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2 |
軽症(XLT) |
血小板が少ないことに加え、軽い湿疹や感染症が時々見られます。 |
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3 |
典型的(WAS) |
血小板減少に加えて、治りにくい湿疹や、繰り返す感染症があります。 |
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4 |
重症(WAS) |
スコア3の状態に加えて、肺炎など重い感染症を繰り返します。 |
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5 |
最重症(WAS) |
スコア3や4の状態に加えて、自分の体を攻撃してしまう自己免疫疾患や、がんなどを発症します。 |
原因となる遺伝子の違いによる分類
ウィスコット・オルドリッチ症候群は、原因となる遺伝子の異常によっても分けられます。
- X連鎖WAS/XLT
- 最も多いタイプで、男の子に多く見られます。
- 体の設計図であるX染色体にある遺伝子が原因です。
- WIP異常症
- 別の遺伝子が原因となる、非常にまれなタイプです。
- 世界でも報告されている数が少ないのが特徴です。
- ARPC1B異常症
- 血管や腸の炎症といった、自己免疫や自己炎症に関わる症状が強く出やすい特徴があります。
このように、同じ病名でもタイプによって症状の現れ方や注意点が異なります。 そのため、詳しい検査でご自身のタイプを正確に知ることが、治療の第一歩となります。
ウィスコット・オルドリッチ症候群の原因
この病気は、体の設計図である「遺伝子」に変化が起きることで発症します。 遺伝子は、体を作るための部品や道具の作り方が書かれた、大切な説明書のようなものです。 その説明書に間違いがあると、部品がうまく作れず、体の機能に問題が起きてしまいます。
主な原因はWAS遺伝子の変化
最も多い原因は、WAS(ワス)という名前の遺伝子に変化が起きることです。 この遺伝子は、体の防御システムを担う免疫細胞や、出血を止める血小板が正しく働くために欠かせない「WASP(ワスプ)タンパク質」という部品の設計図です。
WAS遺伝子に変化が起きると、主に2つの問題が生じます。
- WASPタンパク質が十分に作られなくなる
- 作られても、正常に機能しないいびつな形になる
その結果、免疫の働きが弱くなって感染症にかかりやすくなったり、血小板が減って血が止まりにくくなったりするのです。
なぜ男の子に多いのか
この病気が男の子に多く見られるのには、遺伝子が関係しています。 WAS遺伝子は、性別を決める「X染色体」という特別な染色体の上にあります。 女の子はX染色体を2本持っていますが、男の子は1本しか持っていません。 そのため、男の子はその1本しかないX染色体上のWAS遺伝子に変化があると、病気の症状が直接現れてしまうのです。
まれな原因となる遺伝子
ごくまれに、WAS遺伝子以外の遺伝子が原因となることもあります。 原因となる主な遺伝子を以下の表にまとめました。
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原因となる遺伝子 |
特徴 |
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WAS遺伝子 |
最も一般的な原因です。<br>X染色体にあるため、主に男の子に見られます。 |
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WIPF1遺伝子 |
WASPタンパク質を支え、安定させる働きに関わる遺伝子です。 |
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ARPC1B遺伝子 |
免疫細胞の働きに関わる別のタンパク質の遺伝子です。<br>血管の炎症など、自己炎症に関連する症状が特徴です。 |
このように原因はいくつかありますが、いずれも体を守る仕組みに重要なタンパク質がうまく作れなくなることが、病気の根本的な原因です。
ウィスコット・オルドリッチ症候群の症状
この病気には、主に3つの特徴的な症状があります。 ただし、すべての症状が必ず現れるわけではありません。 症状の出方や重さには、患者さんごとに大きな差があります。
1. 感染症にかかりやすくなる(易感染性)
体を細菌やウイルスから守る「免疫」の力が弱くなります。 そのため、さまざまな感染症に繰り返しやすくなります。 特に、以下の感染症には注意が必要です。
- かかりやすい感染症の例
- 中耳炎、肺炎、皮膚の感染症、髄膜炎など。
- 風邪が治りにくかったり、重くなりやすかったりします。
肺炎球菌という細菌や、ヘルペスウイルスによる感染症も、 この病気の患者さんでは多く見られることが知られています。
2. 血が止まりにくくなる(血小板減少)
出血を止める働きを持つ「血小板」という成分が減ります。 さらに、血小板のサイズが通常より小さくなるのも特徴です。 このため、以下のような症状がみられやすくなります。
- 血が止まりにくいサイン
- ぶつけた覚えがないのに、手足に青あざ(紫斑)ができる。
- 鼻血が頻繁に出たり、なかなか止まらなかったりする。
- おむつに血が混じる(血便)ことで、新生児期に気づかれることもあります。
この症状は、ほとんどの患者さんで見られます。
3. 治りにくい湿疹
アトピー性皮膚炎とよく似た、かゆみを伴う湿疹です。 皮膚の免疫バランスが乱れることなどが原因と考えられます。 一般的なお薬を使っても、なかなか治りにくいのが特徴です。
その他の注意すべき症状
上記の3つの症状以外にも注意すべきことがあります。 それは、自分の体を誤って攻撃してしまう自己免疫疾患です。 例えば、関節が痛くなったり、腎臓の病気を起こすこともあります。
ウィスコット・オルドリッチ症候群の検査・診断
この病気の診断は、パズルのピースを一つひとつ集めるように、丁寧に進めていきます。 問診や診察で症状をお伺いした後、いくつかの検査を段階的に行い、診断を確定させます。
1. 基本的な血液検査
まず、血液検査で全身の状態を確認します。 特に重要なのが、出血を止める「血小板」の数と大きさです。
- 血小板の数 この病気の患者さんのほとんどで、血小板の数が少なくなっています。
- 血小板の大きさ 血小板のサイズが、通常よりも小さくなることが大きな特徴です。 他の血小板が少なくなる病気との見分けに役立ちます。
2. 免疫の力を調べる検査
次に、体を細菌やウイルスから守る「免疫」の力が、きちんと働いているかを詳しく調べます。
- 免疫細胞の数 免疫の司令塔である「リンパ球」という細胞の数などを調べます。
- 免疫グロブリンの値 血液中にある「免疫グロブリン(抗体)」という武器の量を測ります。 この病気では、IgMという種類が低く、IgEという種類が高くなる傾向があります。
- WASPタンパク質の量 免疫細胞が正しく働くために必要な「WASPタンパク質」が作られているかを確認します。 この検査は、病気を早い段階で見つけるための重要な手がかり(スクリーニング)になります。
3. 確定診断のための遺伝子検査
ここまでの検査で病気の可能性が非常に高いと判断された場合、最終確認を行います。 体の設計図である「遺伝子」を直接調べることで、診断を確定させます。
この遺伝子検査で、原因となっている遺伝子(WAS遺伝子など)のどこに変化があるかを特定します。 これにより、病気の重症度やタイプがわかり、一人ひとりに合った治療方針を決めることができます。
ウィスコット・オルドリッチ症候群の治療
この病気の治療には、2つの大きな柱があります。 病気の根本原因に働きかける「根治療法」。 そして、今ある症状を和らげる「支持療法」です。
どちらの治療を選ぶかは、症状の重さや年齢などを考え、 一人ひとりに合わせて慎重に決めていきます。
根本にアプローチする治療(根治療法)
病気を根本から治すことを目指す治療法です。 現在のところ、その中心となるのは「造血幹細胞移植」です。
- 造血幹細胞移植
健康な人の血液をつくる「おおもとの細胞」を移植する方法です。 特に、重い感染症を繰り返す場合や、自分の体を攻撃する病気、 あるいは悪性のできものができた場合に、早期の移植を考えます。
5歳以下で移植を行うと、治療成績が良い傾向にあります。 症状が軽い場合は、成長を待ってから移植を検討することもあります。
近年では、遺伝子の設計図に働きかける「遺伝子治療」の研究も、 将来の新しい選択肢として期待され、進められています。
症状を和らげる治療(支持療法)
患者さんが抱えるつらい症状を軽くするための治療です。 日常生活を少しでも安心して過ごせるように行います。
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症状 |
主な治療法 |
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出血しやすい<br>(血小板の減少) |
・ひどい出血や手術の時など、必要な場合に血小板を輸血します。<br>・血小板を増やすお薬(トロンボポイエチン作動薬)が使われることもあります。 |
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感染症にかかりやすい<br>(易感染性) |
・感染症を防ぐため、また治療するためにお薬を使います。<br>・体の抵抗力を補うため、免疫グロブリン製剤というお薬を定期的に点滴します。 |
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湿疹 |
・アトピー性皮膚炎と同じように、ステロイドなどのぬり薬で治療します。<br>・食物アレルギーが関係していれば、原因の食べ物を避けることも大切です。 |
脾臓(ひぞう)という臓器を取る手術は、血小板が増えることがありますが、 重い感染症にかかりやすくなるリスクがあるため、あまり行われません。
これらの治療は、患者さんの状態に合わせて組み合わせます。 どの治療法が最適か、専門の医師とよく相談しながら、 一緒に治療方針を決めていくことが何よりも大切です。





