鼻涙管閉塞

目に涙があふれて止まらない、頻繁な目やにに悩まされていませんか?それは「鼻涙管閉塞」という、涙の通り道が詰まる病気の可能性があります。特に鼻と目の周りの骨折では、約38.6%の患者に合併するケースも報告されており、珍しいものではありません。

この記事では、鼻涙管閉塞の種類や原因、具体的な症状から、先天性と後天性それぞれの治療方法までを詳しく解説します。

本記事を読むことで、ご自身の目の不調の原因を深く理解し、適切な受診や治療の選択肢を見つける第一歩となるはずです。

鼻涙管閉塞の概要

鼻涙管閉塞は、涙の排出路である鼻涙管が詰まることで、目に涙が溜まりやすくなる病気です。私たちの目は、酸素や栄養を供給し、異物を洗い流すために常に涙で潤されています。この役目を終えた涙は、目頭にある小さな穴(涙点)から吸収され、涙小管、涙嚢、そして鼻涙管という一連の管を通り、最終的に鼻の奥へと排出される仕組みです。

鼻涙管が何らかの原因で塞がってしまうと、涙が正常に排出されず、目の表面に涙があふれたり、目やにが増えたりといった不快な症状につながります。

この病気は、特に顔面の骨折をきっかけに起こることもわかっています。例えば、鼻眼窩篩骨(びがんかふるいこつ)骨折(鼻と目の周りの骨が複雑に折れる重症の骨折)の後には、約38.6%の患者さんに鼻涙管閉塞が合併することが報告されています※。これは、骨折による損傷が涙の通り道をふさいでしまうためと考えられています。

鼻眼窩篩骨骨折の治療では、観血的整復内固定術(かんけつてきせいふくないこていじゅつ:皮膚を切開して骨折部を直接見ながら整復し、プレートなどで固定する手術)が最も一般的な手術方法とされています※。しかし、この骨折の治療は難しく、不適切な修復がおこなわれた場合、鼻涙管閉塞以外にも次のような合併症を引き起こす可能性があります※。

  • 術後流涙症:手術後に涙が止まらなくなる症状
  • 眼間開離(がんかんかいり):両目の間隔が広がる状態

鼻涙管閉塞は年齢に関わらず発症する可能性があり、日常生活に大きな不便を感じさせることがあります。

鼻涙管閉塞の種類

鼻涙管閉塞は、その発症時期や根本的な原因によって大きく二つに分類されます。この分類は、治療方針や治療の見通しを立てる上で非常に重要となります。

主な種類は次のとおりです。

  • 先天性鼻涙管閉塞: 生まれつき涙の通り道(鼻涙管)が完全に開いていない状態です。
  • 後天性鼻涙管閉塞: 生まれた後、何らかの原因で鼻涙管が塞がったり狭くなったりした状態です。

先天性鼻涙管閉塞

先天性鼻涙管閉塞は、特に赤ちゃんや小さなお子さんに多く見られる病気です。生まれつき鼻涙管が完全に開いていないことが原因で、涙が鼻へと流れず、目に涙があふれたり、目やにが出やすくなったりします。この先天性の閉塞は、さらに閉塞の程度によって「単純性」と「複雑性」に分けられます。

単純性先天性鼻涙管閉塞

単純性先天性鼻涙管閉塞は、膜状の閉塞など、比較的軽度な構造の問題で起こることがほとんどです。治療の成功率も高い傾向にあります。

治療法としては、細い針金で閉塞部を貫通させる「プロービング」が一般的です。このプロービングに加えて、涙の通り道にチューブを一定期間留置する「チューブ挿入」を併用することもあります。

治療の成功率は乳幼児の年齢によって異なることがわかっています。

  • 12カ月〜24カ月の乳幼児の場合
    この年齢層では、プロービング単独と、チューブ挿入を併用した場合とで、治療の成功率に大きな差がないと報告されています(プロービング単独の成功率92.9%に対し、チューブ挿入併用で95.7%)※。そのため、まずはプロービング単独での治療が検討されることが多いといえるでしょう。
  • 24カ月〜36カ月の乳幼児の場合
    より年長の乳幼児では、チューブ挿入を併用することが、プロービング単独よりも有意に高い成功率(プロービング単独の成功率76.2%に対し、チューブ挿入併用で93.0%)をもたらすことが示されています※。この年齢層では、チューブ挿入の併用が有効な選択肢となる可能性があります。

複雑性先天性鼻涙管閉塞

複雑性先天性鼻涙管閉塞は、骨性の狭窄(骨による狭まり)や、顔面形成不全などを伴う、より重度な閉塞です。単純性と比較すると、治療の成功率が低くなる傾向があります。

このタイプでは、プロービング単独での成功率が46%であるのに対し、チューブ挿入を併用することで、82%と有意に高い成功率が得られることがわかっています※。そのため、複雑性先天性鼻涙管閉塞と診断された場合には、積極的にチューブ挿入を検討することが重要と考えられます。

また、複雑性の場合は、治療を開始する年齢が上がるほど、成功率が低下する傾向があることも報告されています※。そのため、診断後はできるだけ早期に治療を開始することが、成功率を高める上で鍵となります。

後天性鼻涙管閉塞

後天性鼻涙管閉塞は、生まれた後に何らかの原因で鼻涙管が詰まったり狭くなったりするものです。加齢による涙道の狭窄(狭まり)や、炎症、外傷(けが)、腫瘍(しゅよう)など、その原因はさまざまです。大人になってから、目に涙があふれる、目やにが増えるといった症状が現れた場合は、後天性鼻涙管閉塞の可能性があります。

鼻涙管閉塞の原因

鼻涙管閉塞は、涙の通り道が詰まってしまう病気です。この症状は、生まれつき見られるものと、生まれてから様々な原因によって生じるもの、大きく2つのタイプに分けられます。

先天的な原因

生まれて間もない赤ちゃんに見られる鼻涙管閉塞は、鼻涙管の末端にある「ハスネル弁」という薄い膜が、開通しきらずに残っていることが主な原因です。このハスネル弁は、通常、お母さんのお腹の中にいる間や生後間もなく自然に破れて、涙の通り道が開通します。しかし、この弁が残ってしまったり、鼻涙管そのものが狭かったりすると、涙が目から鼻へと流れずに、目に溜まって溢れてしまうのです。

先天性の鼻涙管閉塞は、その構造的な問題の程度によって、比較的軽度な「単純性」と、骨の形成不全などを伴う「複雑性」に分類されます。単純な閉塞であれば、成長とともに自然に治ることも少なくありません。一方、複雑性鼻涙管閉塞は、治療の難易度が高まる傾向にあります。特に、複雑性の鼻涙管閉塞では、治療を開始する年齢が上がるほど、成功率が低下する可能性が指摘されています※。赤ちゃんの目やにや涙目といった症状が続く場合は、早めに眼科を受診し、適切な診断を受けることが大切です。

後天的な原因

大人になってから発症する鼻涙管閉塞は、加齢による変化や、病気、外傷など、多岐にわたる要因が絡み合って引き起こされます。

主な原因は次のとおりです。

  • 加齢による変化
    年齢を重ねると、体の様々な機能が変化するように、涙の通り道である鼻涙管も影響を受けます。具体的には、鼻涙管の入り口が狭くなったり、管の内側が硬くなったりして、涙が流れにくくなることがあります。
  • 炎症や感染症
    目の周りや鼻、副鼻腔(びくう)といった顔の内部の空間で起こる炎症や感染症が、鼻涙管に波及することがあります。これにより、管の内部が腫れたり、組織が癒着したりして、涙の通り道が閉塞してしまうケースも少なくありません。
  • 外傷
    顔面を強く打撲したり、特に鼻の周りの骨を骨折したりすると、鼻涙管が直接損傷を受ける可能性があります。また、骨折によって周囲の組織が腫れることで、一時的または永続的に閉塞が生じることもあります。
    例えば、鼻と目の周りの骨が複雑に折れる「鼻眼窩篩骨(びがんかふるいこつ)骨折」は、鼻涙管閉塞の重要な原因の一つです。成人の鼻眼窩篩骨骨折患者のうち、約38.6%に鼻涙管閉塞が合併することが報告されています※。この骨折の治療は難しく、もし不適切な修復がおこなわれた場合、鼻涙管閉塞だけでなく、手術後に涙が止まらなくなる術後流涙症や、両目の間隔が広がる眼間開離(がんかんかいり)といった合併症のリスクを高める可能性も指摘されています※。
  • 腫瘍
    鼻涙管の近くに良性または悪性の腫瘍ができると、その腫瘍が管を物理的に圧迫したり、管の組織に浸潤(しんじゅん)したりすることで、鼻涙管が閉塞してしまうことがあります。
  • 薬剤の影響
    ごく稀ですが、一部の全身疾患の治療薬や点眼薬の副作用として、鼻涙管に影響を与え、閉塞を引き起こすケースも存在します。

鼻涙管閉塞の症状

鼻涙管閉塞が起きると、涙が目の表面に滞留し、日常生活にさまざまな不便を引き起こします。涙は通常、目の表面を潤した後、目頭にある小さな穴(涙点)から鼻涙管を通って鼻の奥へと排出される仕組みです。しかし、この通り道が詰まってしまうと、涙の排出が妨げられ、以下のような症状が現れます。

主な症状として、次のようなものが挙げられます。

  • 涙があふれる(流涙)
    涙が目の表面にたまり、目からこぼれ落ちることがあります。これは、涙が排出されずに目に溜まり続けるためです。特に、寒い場所や風の強い場所にいる時、また泣いていない時にも涙が止まらないのが特徴です。
  • 目やにが増える
    涙が鼻涙管を通って排出されない状態が続くと、涙の通り道(涙道)の内部で細菌が繁殖しやすくなります。その結果、黄色や白色の粘り気のある目やにが増え、まつ毛や目頭に固まって付着する様子が見られます。
  • 目が充血する
    涙道に炎症が起こると、目の白目の部分が赤く充血することがあります。これは、細菌感染などが引き金となり、目に炎症反応が生じているためと考えられます。
  • まぶたが腫れる
    感染がさらに進行すると、目頭の周囲や鼻の付け根部分の皮膚が赤く腫れ上がり、押すと痛みを感じることもあります。このような状態は「涙嚢炎(るいのうえん)」と呼ばれ、涙のうという部分に細菌が感染して炎症が起きていることを意味します。

乳幼児に起こる先天性鼻涙管閉塞では、生まれた直後から涙目や目やにが頻繁に見られます。一方、大人の後天性鼻涙管閉塞の場合、加齢や病気が原因で症状が少しずつ現れ、徐々に悪化していく傾向があります。

お子さんの鼻涙管閉塞の症状に気づいた際には、特に注意が必要です。症状を放置すると、炎症が悪化するだけでなく、複雑性の先天性鼻涙管閉塞では、治療を開始する年齢が上がるほど、治療の成功率が有意に低下する可能性が指摘されています※。そのため、気になる症状があれば、できるだけ早く眼科医に相談し、適切な診断を受けることが、治療の成功へとつながる重要な一歩といえるでしょう。

鼻涙管閉塞の検査・診断

涙目や目やに、目の不快感を引き起こす鼻涙管閉塞。この病気の検査と診断は、症状の根本原因を見極め、患者さん一人ひとりに最適な治療法を選ぶための重要なステップです。ここでは、どのような検査が行われ、その結果から何がわかるのかを詳しく解説します。

まず、眼科医は患者さんの目の状態を直接見て確認する「視診」を行い、これまでの症状の経過や病歴を詳しく「問診」します。涙目の始まりや持続期間、目やにの量や性状、過去の目の病気やけがの有無など、細かな情報が診断の手がかりとなります。

その上で、涙の通り道(涙道)がどこで、どの程度詰まっているのかを正確に把握するために、以下の具体的な検査を行います。

  • 涙道通水検査(るいどうつうすいけんさ)
    涙点(涙の入り口)から細い管を挿入し、生理食塩水を注入します。生理食塩水が鼻の奥まで流れ込むかどうかで、涙道の閉塞があるかどうか、またどの程度の閉塞かを調べます。生理食塩水が鼻に流れず、途中で逆流してきたり、痛みを感じたりする場合は、閉塞が疑われます。
  • 涙道内視鏡検査(るいどうないしきょうけんさ)
    さらに詳しい情報が必要な場合、非常に細い内視鏡を涙点から挿入し、涙道の内部を直接観察します。これにより、閉塞している正確な位置や、詰まっている原因(膜状の閉塞、炎症による狭窄、粘液栓など)を詳細に確認できます。
  • 画像検査
    骨折などの外傷が原因で、涙道の周囲の骨に異常がある場合や、涙道の構造をより立体的に把握する必要がある場合には、CT検査などの画像検査を行います。これにより、骨による狭窄や腫瘍の有無など、他の検査では分かりにくい情報を得られます。

これらの検査結果に基づき、鼻涙管閉塞と診断された場合、眼科医は患者さんの状態や希望に合わせて治療法を提案します。特に手術を検討する際には、複数の術式の中からメリットとデメリットを比較検討することが重要です。

例えば、主な手術方法として、涙道内視鏡を使って閉塞部を開通させる「内視鏡的レーザー涙嚢鼻腔吻合術(ELDCR)」と、皮膚を切開して涙道と鼻腔をつなぐ「外側涙嚢鼻腔吻合術(ExDCR)」があります。それぞれの術式には次のような特徴があり、患者さんにとって何が最善かを医師とともに考えることが大切です。

術式

成功率

手術時間

出血・感染のリスク

特徴

ELDCR

(内視鏡的レーザー涙嚢鼻腔吻合術)

80.3%※

短い※

少ない※

・内視鏡を使用するため、体への負担が少ない

・術後の回復が比較的早い傾向にある

ExDCR

(外側涙嚢鼻腔吻合術)

91.6%※

ELDCRより長い

高い※

・ELDCRと比較して、成功率が高い傾向にある

・より確実に涙の排出路を確保できる可能性がある

この比較は、原発性後天性鼻涙管閉塞における複数の研究結果をまとめた系統的レビューおよびメタアナリシス(質の高い複数の研究データを統計的に統合して評価する研究手法)に基づいています※。

ELDCRは、体への負担が少なく、出血や感染のリスクも低いというメリットがある一方で、ExDCRの方がより高い成功率が期待できるとされています。どちらの術式を選ぶかは、閉塞の程度や原因、患者さんの全身状態、そして何よりも「何を重視するか」によって異なります。医師としっかりと話し合い、ご自身にとって最も納得のいく治療法を選びましょう。

鼻涙管閉塞の治療

鼻涙管閉塞の治療は、患者さんの状態や閉塞の種類、年齢によって適切な方法を選びます。一人ひとりの状況に合わせて、最適な治療法を見極めることが重要です。

先天性鼻涙管閉塞の治療

お子さんに多い先天性鼻涙管閉塞の治療では、涙の通り道を広げるための処置が中心です。主な治療法には、細い針金状の器具を涙点(るいてん:涙の入り口)から入れて閉塞した部分を物理的に突き破る「涙道ブジー(プロービング)」や、涙道に細いチューブを一時的に留置して閉塞が再発しないようにする「涙道チューブ挿入」があります。

単純性先天性鼻涙管閉塞は、比較的軽度な膜状の閉塞であることが多く、プロービングのみの治療と、チューブ挿入などを併用する治療との間で、全体の成功率に大きな差はないと報告されています※。しかし、お子さんの年齢によって治療の有効性が変わることもわかっています。

具体的には、次のとおりです。

  • 12カ月〜24カ月の乳幼児の場合
    プロービングに加えてチューブ挿入などを行っても、成功率が大きく向上するわけではないと考えられています。例えば、プロービング単独の成功率92.9%に対し、併用で95.7%と、大きな差は見られません※。
  • 24カ月〜36カ月のより年長の乳幼児の場合
    チューブ挿入を含む治療法が、挿入しない場合と比べて有意に高い成功率を示すことが報告されています。挿入なしの成功率が76.2%であるのに対し、挿入ありでは93.0%と大きく改善されることがわかっています※。この年齢層では、積極的にチューブ挿入を検討することが有効な選択肢となる可能性があります。

一方、複雑性先天性鼻涙管閉塞は、骨の形成不全など、より重度の閉塞を伴うため、単純性閉塞(成功率88%)と比べて治療の成功率は低くなる傾向があり、平均で57%と報告されています※。この複雑なケースでは、プロービング単独の成功率が46%にとどまるのに対し、涙道チューブ挿入を併用することで、成功率が82%まで有意に高まることが示されています※。そのため、複雑性鼻涙管閉塞と診断された場合は、チューブ挿入を一次治療として考慮することが推奨されます※。また、複雑性の場合は、治療開始が遅れるほど成功率が低下する可能性も指摘されています※。お子さんの症状に気づいたら、できるだけ早く専門医に相談することが重要です。

後天性鼻涙管閉塞の治療

大人に多く見られる後天性の鼻涙管閉塞では、塞がった涙の通り道に新しい経路を作る「涙嚢鼻腔吻合術(るいのうびくうふんごうじゅつ、DCR)」という手術が主に検討されます。このDCRには、主に次の2つの方法があります。

術式

成功率

手術時間

出血・感染リスク

特徴

外側涙嚢鼻腔吻合術(ExDCR)

91.6%※

ELDCRより長い※

高い※

・皮膚を切開し、直接涙のうと鼻腔をつなぐ方法

・より高い成功率が期待できる

内視鏡的レーザー涙嚢鼻腔吻合術(ELDCR)

80.3%※

短い※

少ない※

・内視鏡とレーザーを用いて涙のうと鼻腔をつなぐ方法

・体への負担が比較的少ない

これらの術式には、それぞれ異なる特徴があります。外側涙嚢鼻腔吻合術(ExDCR)は内視鏡的レーザー涙嚢鼻腔吻合術(ELDCR)に比べて成功率が高い傾向にありますが、出血や感染のリスクも高くなることが報告されています※。一方で、ELDCRは体への負担が少なく、手術時間も短いというメリットがあります※。

全体的な合併症率や鼻の内部が癒着するリスクについては、両術式間に有意な差は認められません※。

どちらの術式が患者さんにとって最適であるかは、涙道の閉塞の程度や原因、患者さんの全身状態、そして何よりも「何を優先するか」によって異なります。不安な点や疑問点は、眼科医と十分に話し合い、納得のいく治療法を選ぶことが大切です。