鼓膜炎
突然の激しい耳の痛みや、なかなか治らないしつこい耳だれ。そのつらい症状は、音を捉える大切な「鼓膜」に炎症が起きる「鼓膜炎」が原因かもしれません。実は、風邪や普段の耳かきといった身近なことが引き金になることも少なくありません。
この鼓膜炎には、激痛を伴う「急性」と、耳だれが続く「慢性」の2種類があり、原因も治療法も異なります。実際、お子さんの急性中耳炎の約15%で鼓膜まで炎症が及ぶと報告されており、決して他人事ではないのです。
本記事では、鼓膜炎の種類ごとの特徴から、最新のレーザー治療に至るまでを詳しく紐解いていきます。ご自身の症状と照らし合わせ、適切な対処法を見つけるために、ぜひお役立てください。
鼓膜炎の概要
鼓膜炎(こまくえん)とは、耳の奥にある「鼓膜」に炎症が起きる病気です。 鼓膜は、外からの音をキャッチして振動に変え、脳に伝える大切な役割を持っています。
この病気は、両方の耳に同時に起こることは少なく、ほとんどの場合で片方の耳だけに症状があらわれます。 風邪などをきっかけに起こる急性中耳炎が悪化したり、耳の入り口の炎症が鼓膜まで広がったりして発症します。
特にお子さんの場合、急性中耳炎によって鼓膜が破れ、耳から液体(耳だれ)が出てくることがあります。 専門家の間では、このような耳だれをともなう急性中耳炎を「分泌性急性中耳炎(AOMd)」と呼んでいます。 この状態の呼び方を統一し、より良い治療法を見つけるための研究が進められています。
鼓膜炎の症状は、急に起こるか、長く続くかによって大きく異なります。
鼓膜炎のタイプ 主な症状の特徴
急性鼓膜炎 ・突然、耳に激しい痛みが起こる
・耳が詰まった感じや耳鳴りをともなう
慢性鼓膜炎 ・強い痛みはあまりない
・耳だれが長く続くことが多い
このように、鼓膜炎はタイプによって症状が大きく違います。 中には治りにくいケースもあるため、耳の痛みや違和感があれば、早めに医療機関を受診することが大切です。
鼓膜炎の種類
鼓膜炎は、症状の現れ方によって、大きく2つのタイプに分けられます。 それぞれの特徴を正しく知ることが、適切な治療への第一歩です。
急性鼓膜炎(きゅうせいこまくえん)
かぜなどをきっかけに、突然、耳に激しい痛みが起こるのが特徴です。 鼓膜の表面に、水ぶくれ(水疱:すいほう)ができるため、「水疱性鼓膜炎」とも呼ばれます。
このタイプは急性中耳炎と深く関係しており、治療法も似ています。 しかし、どの抗菌薬が最も効果的かなど、専門家の間でも様々な検討が続けられています。 実際、急性中耳炎の治療ガイドラインでさえ、推奨される内容にばらつきがあるのが現状です。
慢性鼓膜炎(まんせいこまくえん)
はっきりとした原因がわからないまま、症状が長く続くタイプです。 鼓膜の表面が赤くただれたり、「肉芽(にくげ)」という盛り上がったできものができたりします。 この状態から「肉芽腫性鼓膜炎(にくげしゅせいこまくえん)」とも呼ばれます。
急性鼓膜炎のような激しい痛みは少ないものの、治りにくい耳だれが続くのが特徴です。 このタイプの鼓膜炎は、再発しやすく治療が難しいとされてきました。 しかし、レーザーで肉芽を取り除く治療など、より効果的な選択肢も報告されています。 ある研究では、従来の薬を塗る治療よりもレーザー治療の方が成功率が高かったと示されました。
種類 急性鼓膜炎(水疱性鼓膜炎) 慢性鼓膜炎(肉芽腫性鼓膜炎)
主な症状 突然の激しい耳の痛み 治りにくい耳だれ
鼓膜の状態 水ぶくれ(水疱)ができる 赤いタダレや肉芽ができる
きっかけ かぜやウイルス感染など はっきりしないことが多い
このように、ひとくちに鼓膜炎といっても、タイプによって症状や状態は大きく異なります。 気になる症状があれば、自己判断せずに専門の医療機関に相談しましょう。
鼓膜炎の原因
鼓膜炎がなぜ起こるのか、その詳しい仕組みはまだ研究中です。 しかし、多くはウイルスや細菌の感染が原因で起こると考えられています。
鼓膜炎が発症するきっかけは、主に次の2つのパターンに分けられます。
1. かぜや中耳炎の炎症が広がってくるケース
鼻やのどで増えたウイルスや細菌が原因となることがあります。 耳と鼻の奥は、「耳管(じかん)」という管でつながっています。
この管を通って、炎症が耳の奥にある「中耳」まで広がることがあります。 これが、皆さんもよく耳にする「急性中耳炎」という病気です。
ある研究によると、急性中耳炎にかかったお子さんの約15%で、鼓膜にまで炎症が及んでしまうと報告されています。 炎症が強くなると鼓膜が自然に破れ、そこから液体(耳だれ)が出てくることがあります。
専門家の間では、このような状態を「分泌性急性中耳炎(AOMd)」と呼びます。 これは、より良い治療法を見つけるために、病気の状態を正確に区別するための大切な呼び方です。
2. 耳への直接的な刺激で起こるケース
耳かきや綿棒で、耳の奥を強くそうじしすぎるのも原因の一つです。 鼓膜の表面はとてもデリケートで、わずかな刺激でも傷がつきやすいです。
この小さな傷から細菌が入り込むと、鼓膜で直接炎症が起こります。 これが鼓膜炎の発症につながることがあるのです。
原因となりやすい代表的なウイルスや細菌には、以下のようなものがあります。
インフルエンザウイルス
冬に流行するインフルエンザの原因となるウイルスです。
肺炎球菌
肺炎や中耳炎などを引き起こす代表的な細菌です。
インフルエンザ桿菌(かんきん)
インフルエンザウイルスとは別の細菌ですが、急性中耳炎の原因として知られています。
マイコプラズマ
肺炎などを引き起こす微生物の一種です。
このように、鼓膜炎は身近な感染症や普段の耳のケアがきっかけで起こります。 風邪を引かないように気をつけることや、耳を優しく扱うことが予防につながります。
鼓膜炎の症状
鼓膜炎の症状は、急に始まる「急性」タイプと、長く続く「慢性」タイプで大きく異なります。 ご自身の症状がどちらに近いか、確かめてみましょう。
急性鼓膜炎の症状
かぜなどをきっかけに、次のような症状が突然現れるのが特徴です。
激しい耳の痛み 突然始まり、24〜48時間ほど続くことがあります。
耳が詰まった感じ 耳の中に水が入ったような、こもった感じがします。
耳鳴り
聞こえにくさ
発熱
急性鼓膜炎では、鼓膜の表面に水ぶくれができることがあります。 また、急性中耳炎を伴うと、鼓膜が破れて耳から液体(耳だれ)が出てくることもあります。
ある研究によると、お子さんが急性中耳炎にかかった場合、約15%で鼓膜が破れて耳だれが起こると報告されています。 専門家の間では、この状態を「分泌性急性中耳炎(AOMd)」と呼び、より注意深い治療が必要なサインと考えています。
慢性鼓膜炎の症状
慢性鼓膜炎では、急性のような激しい痛みはあまりありません。 主な症状は、長く続く「耳だれ」です。
治りにくい耳だれ 常にじくじくとした耳だれが続きます。
聞こえにくさ
耳が詰まった感じ
耳鳴り
これは、鼓膜の表面に「肉芽(にくげ)」という赤くぶつぶつした組織ができるためです。 この肉芽が、鼓膜の正常な働きを邪魔してしまうのです。
種類 主な症状 その他の症状
急性鼓膜炎 激しい耳の痛み 耳の詰まり、耳鳴り、聞こえにくさ、発熱
慢性鼓膜炎 続く耳だれ 聞こえにくさ、耳の詰まり、耳鳴り
このように、鼓膜炎の症状はタイプによって大きく異なります。 気になる症状があれば、自己判断せずに早めに専門医へ相談しましょう。
鼓膜炎の検査・診断
鼓膜炎が疑われる場合、まず耳の中を直接見て観察します。 耳鏡(じきょう)という小さな鏡や、カメラ付きの細い管で、鼓膜の状態を丁寧に確認します。
このとき、鼓膜の表面に次のような変化がないかをチェックします。
水ぶくれ(水疱:すいほう)
赤く盛り上がったできもの(肉芽:にくげ)
皮膚がただれている(びらん)
これらの特徴的なサインが見つかれば、鼓膜炎と診断されます。 さらに、原因や炎症の広がりを調べるために追加検査をします。
細菌培養検査 耳だれなどを綿棒で少しだけ取り、原因菌を特定します。 どの細菌にどの薬が効くかを知るための大切な検査です。
聴力検査 聞こえにくさがある場合に行い、聴力の低下具合を調べます。 炎症が耳の奥(内耳)まで影響していないかを確認します。
画像検査(CT検査) 炎症が骨まで広がっているなど、特別な場合に行います。 耳の奥の構造を詳しく見て、見えない部分の状態を把握します。
これらの検査結果をもとに、医師は耳の状態を詳しく説明します。 ある研究では、病気や治療法をよく知ることで、患者さん自身がより納得して治療に臨めると報告されています。
これを「共有意思決定」と呼び、医師と患者さんが相談して、一緒に治療方針を決めていく考え方です。 不安な点があれば、遠慮なく質問してください。
鼓膜炎の治療
鼓膜炎の治療は、炎症の種類や症状の強さに合わせて行います。 主にお薬を使う治療と、耳の中を直接処置する方法があります。
お薬による治療
まず基本となるのが、お薬を使った治療です。 鼓膜炎の種類によって、使うお薬が異なります。
急性鼓膜炎の場合 炎症を抑えるための抗生物質の飲み薬や点耳薬を使います。 強い痛みがあるときは、痛み止めの飲み薬も一緒に使います。
慢性鼓膜炎の場合 耳だれの原因となっている細菌やカビを特定することが大切です。 その菌に合わせた抗生物質や抗真菌薬の点耳薬で治療します。
点耳薬を使うときは、お薬がしっかり届くように工夫しましょう。 横になって耳の穴にお薬を垂らし、数分間はそのままの姿勢を保つことがポイントです。
耳の処置や手術
お薬だけでは治りにくい場合や、症状が強い場合には、次のような処置を検討します。
炎症の種類 処置の方法
急性鼓膜炎 痛みがとても強い場合、鼓膜にできた水ぶくれを針でつぶします。
中の液体を出すことで、つらい痛みを和らげることができます。
慢性鼓膜炎 薬で治りにくい「肉芽(にくげ)」というできものを取ります。
お薬で焼く方法や、レーザーで焼き固める方法があります。
ある研究では、お薬で焼く治療よりも、CO2レーザーを使った治療の方が成功率が高かったと報告されています。 どちらも鼓膜炎に有効な治療法ですが、状態に合わせて最適な方法を選びます。
鼓膜に穴が開いてしまった場合
慢性的な炎症で鼓膜に穴が開いてしまった場合、手術が必要になることがあります。 この手術では、ご自身の耳の軟骨などを使って、破れた鼓膜を新しく作り直します。
手術の成功率を高めるため、どのような材料で鼓膜を作るかが重要です。 ある研究によれば、耳の近くにある膜(側頭筋膜)よりも、軟骨を使った方が手術の成功率が高い傾向にあると示されました。
どの治療法が最も適しているかは、鼓膜の状態によって一人ひとり異なります。 まずは専門の医療機関で正確な診断を受け、医師と相談しながら治療方針を決めていきましょう。