「てんかん」と聞くと、多くの方が子どもの病気というイメージを持つのではないでしょうか。しかし、実は今、日本で最も発症率が高いのは高齢の方々なのです。海外の研究では70歳を超えると発症が急増するというデータもあり、決して他人事ではありません。
ご家族の「急にぼーっとする」「話が噛み合わない」といった変化を、認知症や単なる物忘れだと思い込んでいませんか?高齢者のてんかんはけいれんを伴わないことが多く、ご本人やご家族も気づきにくいのが特徴です。ある研究では、患者の半数以上に判断力の低下が見られたという報告もあり、生活の質を大きく左右する可能性があります。
この記事では、認知症と間違われやすい高齢者てんかんのサインや原因、ご家族が気づくためのポイントを詳しく解説します。大切なご家族の変化の裏にある本当の原因を知り、適切な対応につなげるためにも、ぜひご一読ください。
高齢者てんかんの概要
てんかんは子どもの病気、というイメージがありませんか。 しかし、近年では高齢になってから初めて発症する方が増えています。
実際、てんかんはすべての年代で起こる病気です。 海外の研究では、てんかんの発症率は70歳を超えると急増します。 日本でも、今では高齢者の発症率が最も高くなっています。
高齢者のてんかんは、手足がガクガクと震えるような発作は少ないです。 そのため、ご本人やご家族もてんかんだと気づきにくいのが特徴です。 次のような症状は、てんかん発作のサインかもしれません。
- 急な意識の変化 急にぼーっとする、一点を見つめて動かなくなる
- 反応の低下 話しかけても反応がにぶい、話が噛み合わなくなる
- 無意識の動作 口をもぐもぐさせる、服をいじり続けるなど、同じ動作をくり返す
- 記憶の欠落 発作が起きている間の記憶がない
これらの症状は、認知症や加齢による物忘れと間違われがちです。 しかし、てんかん発作は数分で終わり、普段は普通に過ごせる点が異なります。
また、高齢者のてんかんは、物事を考え判断する力に影響することがあります。 ある研究では、高齢てんかん患者さんの半数以上に判断力の低下がみられました。 これは、生活の質そのものに関わる重要な問題です。 単なる物忘れと見過ごさず、てんかんの可能性を考えることが大切です。
高齢者てんかんの種類
高齢者てんかんは、発作が脳のどこから始まるかによって分けられます。 この分類は、適切な治療法を選ぶための大切な手がかりになります。 主に「焦点てんかん」と「全般てんかん」の2種類があります。
焦点(しょうてん)てんかん
脳の一部分から、電気的な興奮が始まって起こる発作です。 高齢者のてんかんでは、このタイプが大部分を占めています。 特に、記憶に関わる「側頭葉」から始まる発作が約7割と最多です。
- 側頭葉(そくとうよう)てんかん 記憶に関わる部分から始まるため、ぼーっとしたり記憶が飛んだりします。
- 前頭葉(ぜんとうよう)てんかん 側頭葉の次に多いタイプで、考えや行動を司る部分から発作が起こります。
全般(ぜんぱん)てんかん
脳全体が、ほぼ同時に電気的に興奮することで起こる発作です。 若い頃からてんかんをお持ちの方が、そのまま継続している場合に見られます。
近年の研究では、このタイプの方は脳の構造に特徴があることがわかってきました。 複数の研究を分析した結果、脳の構造に次のような違いが見られました。
- 神経細胞が少ない部分 脳の深い部分で情報の交通整理を行う「視床(ししょう)」など
- 神経細胞が多い部分 物事を認識する働きを持つ「楔前部(けつぜんぶ)皮質」など
これは、脳の中の情報のやりとりの回路に、構造的な違いがある可能性を示しています。
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種類
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特徴
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焦点てんかん
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・脳の一部分から発作が始まる
・高齢者のてんかんの多くを占める
・意識がもうろうとするなど、認知症と間違われやすい
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全般てんかん
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・脳全体が一度に興奮して発作が起こる
・全身のけいれんにつながることがある
・脳の構造的な特徴との関連が研究されている
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このように種類によって特徴が異なるため、正確な診断が治療の第一歩となります。
高齢者てんかんの原因
高齢になってから初めててんかんが起こる場合、その原因は多岐にわたります。 脳に何らかの傷や変化が生じ、電気信号の通り道に異常が起きることが主なきっかけです。
原因として考えられるものを、いくつかご紹介します。
- 脳の病気やケガ 最も多い原因は、脳卒中(脳梗塞や脳出血)です。 脳卒中は、高齢者てんかんの原因の約3〜4割を占めます。 脳の神経細胞がダメージを受けると、電気信号の回路が不安定になり、てんかん発作が起こりやすくなります。 そのほか、頭を強くぶつけたケガや、脳腫瘍なども原因となります。
- 脳の細胞が変化する病気 アルツハイマー病に代表される「神経変性疾患」も原因の一つです。 これらの病気では、記憶を司る「海馬」という部分が傷つきやすい傾向にあります。 海馬はてんかん発作と深いつながりがあるため、発作が起こりやすくなるのです。
- 原因がはっきりしない場合 検査をしても、脳に明らかな異常が見つからないことも少なくありません。 しかし、近年の研究により、目に見えない脳の構造変化が関係している可能性がわかってきました。 具体的には、神経細胞が集まる「灰白質」という部分の構造に、健康な人と違いが見られるという報告があります。 特に、脳の情報を中継する「視床」という部分の灰白質が減るなど、情報の交通整理を行う回路に変化が起きていると考えられています。 このような微細な変化が、脳の電気的な興奮を引き起こす一因となるのです。
高齢者てんかんの症状
高齢の方のてんかん発作は、けいれんを伴わないことがほとんどです。 そのためご本人やご家族も気づきにくく、認知症と間違われることもあります。
代表的な症状は、数分間だけ意識がもうろうとする発作です。 次のようなサインが見られたら、てんかんの可能性を考えましょう。
<高齢者てんかんの主な症状>
- 急な意識の変化 突然ぼーっとしたり、一点をじっと見つめて反応がなくなります。
- 反応の低下 話しかけても応答がなかったり、ちぐはぐな返事をしたりします。
- 無意識の動作(自動症) 口をもぐもぐさせる、服をいじるなど、無意味な動作を繰り返します。
- 記憶の欠落 発作が起きている間のことを、ご本人は全く覚えていません。
- 発作後の混乱 発作後、しばらくぼんやりしたり、混乱したりすることがあります。
これらの症状以外に、物事を判断する力の低下も重要なサインです。 ある研究では、高齢てんかん患者さんの半数以上に判断力の低下が見られました。 これは、言葉を操る力や、計画を立てて実行する力の低下と関連します。 こうした判断力の低下は、生活の質そのものに大きく影響を与えます。
ほかにも、吐き気や理由のない不安感が発作として現れることもあります。 てんかんの症状は、短時間で終わり、普段は普通に過ごせるのが特徴です。 気になる変化があれば、自己判断せずに専門の医療機関へご相談ください。
高齢者てんかんの検査・診断
高齢の方のてんかんは、症状が多彩で気づきにくいのが特徴です。 認知症や加齢による物忘れと間違われることも少なくありません。 そのため、正確な診断には丁寧な聞き取りと検査が不可欠です。
診断の第一歩として最も重要なのが「問診」です。 発作時のご本人は記憶がないため、ご家族など周りの方の情報が診断の鍵となります。 発作が起きた時の状況を、できるだけ詳しくお聞かせください。
<診断のてがかりとなる情報>
- 発作の状況 どのような状況で、何をしている時に症状が始まりましたか。
- 意識の状態 急にぼーっとしましたか。話しかけても反応がありませんでしたか。
- 無意識の動作 口をもぐもぐさせるなど、無意味な動作を繰り返していませんでしたか。
- 症状の時間 症状はどのくらいの時間、続いていましたか。
- 発作後の様子 発作の後は、すぐに元に戻りましたか。それとも混乱していましたか。
問診でてんかんが疑われた場合、診断を確定するために検査を行います。
- 脳波検査 頭に電極をつけ、脳の電気的な活動を記録する検査です。 てんかんに特徴的な「てんかん波」という異常な波形を探します。
- 画像検査(CT・MRI) 脳の形や構造に異常がないかを、断面図で詳しく調べます。 脳卒中や脳腫瘍など、てんかんの原因となる病気を見つけます。 近年の研究では、原因不明とされる場合でも、MRIで脳の特定部分の構造変化が見つかることが報告されています。
- 認知機能検査 高齢者てんかんでは、判断する力が低下することがあります。 ある研究では、患者さんの半数以上に判断力の低下が見られました。 質問に答えたり簡単な作業をしたりして、記憶力や計画力を評価します。
これらの問診や検査結果、そして過去の病歴などを総合的に判断します。 似た症状を起こす他の病気と区別し、正確な診断につなげることが重要です。
高齢者てんかんの治療
高齢者てんかんの治療は、発作を抑えることが一番の目的です。 主に「抗てんかん薬」というお薬を使って、発作をコントロールします。 適切な治療で、発作をなくしたり回数を減らしたりすることが可能です。 これにより、発作による転倒やケガを防ぎ、安心して生活できるようになります。
しかし、高齢の方は、お薬による影響を若い方より受けやすい特徴があります。 そのため、お薬の治療では特に注意が必要です。
<高齢の方の薬物療法で注意したいこと>
- 副作用が出やすい 眠気やふらつき、注意力の低下といった副作用が現れやすいです。
- お薬が体内に残りやすい 加齢で肝臓や腎臓の働きが変化し、お薬の分解に時間がかかります。
- 他のお薬との飲み合わせ 持病のお薬と、てんかんのお薬が互いに影響しあうことがあります。
このような理由から、医師は体の状態や他のお薬を確認します。 その上で、お薬の種類や量を一人ひとりに合わせて丁寧に調整します。
お薬だけでは発作のコントロールが難しい場合もあります。 その際には、他の治療法が検討されることもあります。 例えば「経皮的迷走神経刺激療法(t-VNS)」という治療法があります。 これは、皮膚を通して神経にごく弱い電気刺激を与える治療法です。 複数の研究を分析した結果、お薬が効きにくい発作の頻度を減らす可能性が示されています。 比較的安全性が高く、副作用も軽いと報告されています。
また、てんかん治療の研究では「ケトン食」という食事療法も注目されています。 これは特殊な食事療法で、副作用が少なく再発率も低い選択肢となる可能性が報告されています。
治療法は一つではありません。 ご自身の状態に合った治療を見つけるためにも、気になることは医師に相談しましょう。