骨盤臓器脱

股の間に何かが挟まるような違和感や、咳やくしゃみで尿が漏れるといった悩み。「年のせいだから」と諦めたり、デリケートな問題だからと一人で抱え込んだりしていませんか。その不快な症状は、もしかすると「骨盤臓器脱」のサインかもしれません。

骨盤臓器脱とは、出産や加齢などが原因で、臓器を支えるハンモックのような筋肉(骨盤底筋)がゆるみ、子宮や膀胱が下がってくる病気です。研究では「股にピンポン玉のようなものが触れる」という感覚が、病気の進行度を知る重要なサインであることもわかっています。

命に直接関わる病気ではありませんが、生活の質を大きく下げることも。この記事では、骨盤臓器脱の原因からご自身でできる対策、最新の治療法までを詳しく解説します。我慢せずに、まずはご自身の状態を正しく知ることから始めましょう。

骨盤臓器脱の概要

骨盤臓器脱とは、骨盤の中にある臓器が本来の位置から下がってしまう病気です。 具体的には、子宮や膀胱、直腸などが膣から外に出てきてしまう状態を指します。

私たちの骨盤の底には、「骨盤底筋」という筋肉の集まりがあります。 この骨盤底筋は、臓器全体をハンモックのように下から支える重要な役割を担っています。 しかし出産や加齢、いきみやすい生活習慣などによって、このハンモックがゆるんでしまうのです。 その結果、臓器を支えきれなくなり、だんだんと下がってきてしまいます。

骨盤臓器脱では、尿の悩みや下腹部の違和感など、さまざまな症状がみられます。 特に「何かが出てくる感じがする」「股にピンポン玉のようなものが触れる」といった感覚は、病気の進行度を知るための重要なサインであることが研究でわかっています。

そのため、正確な状態を把握し、適切な治療方針を決めるためには医師による診察が欠かせません。 診察では、どの臓器がどのくらい下がっているかを確認するだけではありません。 今後の治療がうまくいきやすいか、再発のリスクはどのくらいか、といったことまで評価できます。

命に直接関わる病気ではありませんが、不快な症状によって生活の質が大きく下がることがあります。 気になる症状があれば、我慢せずに専門の医療機関に相談することが大切です。

骨盤臓器脱の種類

骨盤臓器脱は、どの臓器がどのくらい下がっているかによって、いくつかの種類に分けられます。 ご自身の症状がどのタイプに近いかを知ることは、病気を理解する第一歩です。

下がってくる臓器による種類

骨盤臓器脱は、主に下がってくる臓器の名前に「瘤(りゅう)」をつけて呼ばれます。 瘤とは「こぶ」のことで、臓器がこぶのようにふくらんで出てくる状態を指します。

種類

どんな状態?

膀胱瘤(ぼうこうりゅう)

膀胱が膣(ちつ)の壁を押し出すように下がってくる状態です。

子宮脱(しきゅうだつ)

子宮が膣の中へ下がってくる状態です。

直腸瘤(ちょくちょうりゅう)

直腸が膣の壁を押し出すように下がってくる状態です。

小腸瘤(しょうちょうりゅう)

小腸が膣の一番奥から下がり、膣の中に入り込む状態です。

これらの種類は、どれか一つだけが起こることもあれば、複数が同時に起こることもあります。

下がり具合(重症度)による分類

骨盤臓器脱は、臓器の下がり具合によって重症度が分けられます。 患者さんが感じる「何か出てくる感じ」や「股にふくらんだものが触れる」といった感覚は、この重症度と深く関連することが研究でわかっています。

そのため、医師による診察(骨盤診察)が非常に重要です。 診察では、どの臓器がどのくらい下がっているかを正確に判断します。 この情報は、手術やペッサリーなどの治療が成功しやすいか、再発リスクはどのくらいか、といったことを予測するための重要な手がかりとなります。

また、近年の研究では、骨盤臓器脱になりやすい体の状態についても注目されています。 複数の研究を分析した報告によると、骨盤臓器脱の患者さんは、そうでない人と比べてビタミンDが不足している傾向が示されました。 ビタミンDは筋肉の働きを保つために重要な栄養素であり、骨盤底筋の機能とも関連があると考えられています。

このように、どの臓器が下がっているかという「種類」だけでなく、重症度や体全体の健康状態をふまえて診断することが、適切な治療につながるのです。

骨盤臓器脱の原因

骨盤臓器脱は、一つの原因だけで起こるわけではありません。 日々の生活習慣や体の変化といった複数の要因が積み重なります。 その結果、臓器を支えるハンモック(骨盤底筋)がゆるんで発症します。

出産による骨盤底筋へのダメージ

出産は、骨盤臓器脱の最も大きな原因と考えられています。 赤ちゃんが産道を通る際、骨盤底筋は大きく引き伸ばされます。 このときのダメージが、後になって影響を及ぼすことがあります。 特に、出産回数が多いほどそのリスクは高まる傾向にあります。

加齢と女性ホルモンの変化

年齢とともに全身の筋肉が衰えるように、骨盤底筋も弱くなります。 特に閉経を迎える50代頃からは、女性ホルモンが急激に減ります。 この女性ホルモンの一種「エストロゲン」には、筋肉や組織のハリを保つ働きがあります。 エストロゲンの減少が、骨盤底のゆるみにつながると考えられています。 実際に、エストロゲンを膣に補充することで、膣の組織の状態が客観的に改善することが報告されています。

お腹に圧力がかかる生活習慣

日常的にお腹に力が入る(腹圧がかかる)ことも原因の一つです。 骨盤底筋に常に負担がかかり、ハンモックを傷めてしまいます。

  • 慢性的な咳 ぜんそくや花粉症などで、長く咳が続く状態。
  • 便秘 排便のときに強くいきむ習慣があること。
  • 重い荷物 仕事や介護などで、重いものを頻繁に持ち上げること。
  • 肥満 体重によって、常に骨盤の底に負担がかかっている状態。

栄養状態との関わり

近年の研究では、栄養状態も関係していることがわかってきました。 特に筋肉の働きに重要な「ビタミンD」の不足が注目されています。 複数の研究をまとめて分析した信頼性の高い報告があります。 それによると、骨盤臓器脱の女性はそうでない女性と比べて、血液中のビタミンD濃度が低い傾向にあることが示されました。 このことから、ビタミンD不足が骨盤底筋の機能低下に関わっている可能性が考えられています。

骨盤臓器脱の症状

骨盤臓器脱の症状は、どの臓器が下がっているかによって変わります。 初期の段階では症状を感じないことも多く、気づかないうちに進行します。 しかし、臓器からのSOSサインを見逃さないことが大切です。

症状の感じ方には個人差があり、症状の強さが病気の重さと一致するとは限りません。 ただし、信頼できる研究報告によると、「膣から何かが出てくる感じ」という症状は例外です。 この感覚は、病気の進行度と関連があることが多いとわかっています。

こんな症状、ありませんか? 臓器からのSOSサイン

ご自身の体に当てはまるものがないか、チェックしてみましょう。

□ 何かが下がってくる感覚 股の間に何かが挟まっているような違和感があります。 下腹部が重く感じたり、膣の出口にピンポン玉のようなものが触れたりします。 座ったときに、ボールの上に座っているような感覚を覚えることもあります。

□ おしっこのトラブル 膀胱が下がることで、尿道がうまく機能しなくなります。 その結果、咳やくしゃみで尿が漏れたり、トイレが近くなったりします。 逆に、尿が出にくくなったり、出し終わってもスッキリしない(残尿感)こともあります。

□ うんちのトラブル 直腸が膣のほうへ押し出されることで、便の通り道がゆがみます。 これにより、便が出にくくなる便秘や、出し切れない感じ(残便感)が起こります。

□ その他のサイン 下がった臓器が下着にこすれて、おりものが増えたり出血したりします。 骨盤周りの臓器の位置がずれることで、腰やお腹が痛むこともあります。 また、性交時に痛みを感じる原因にもなります。

特に閉経後の女性は、女性ホルモンの変化により膣の組織が弱くなります。 そのため、尿のトラブルや膣の違和感といった症状が出やすくなります。 一つでも気になる症状があれば、生活の質を守るために専門医へ相談しましょう。

骨盤臓器脱の検査・診断

骨盤臓器脱の診断は、主に「問診」と「内診」で行います。 恥ずかしいと感じるかもしれませんが、とても大切なステップです。 正確な状態を把握し、あなたに合った治療法を見つけましょう。

ステップ1:問診(お医者さんとのお話)

まず、あなたの症状や生活について、いくつか質問をします。 リラックスしてお話しください。 ご自身の状態をチェックしてみましょう。

  • どんな症状がありますか? 「何か下がってくる感じ」や「股に玉のようなものが触れる」など。 尿や便の悩み(漏れる、出にくいなど)についても教えてください。
  • いつから症状がありますか? 症状が気になり始めた時期を思い出してみましょう。
  • これまでのご経験について 出産回数や、過去にかかった病気、手術の経験などをお聞きします。
  • 普段の生活習慣について 重いものを持つ仕事や、便秘でいきむ習慣がないかなどを確認します。

ステップ2:内診(お体の診察)

問診の次に、内診台で膣や骨盤の状態を直接診察します。 これが診断において最も重要な検査です。

診察では、どの臓器が、どのくらい下がっているかを確かめます。 患者さんが感じる症状の強さと、実際の重症度は違うこともあります。 しかし、信頼できる研究報告によると例外があります。 「膣から何かが出てくる感じ」という症状は、病気の進行度と関連が深いことがわかっています。

この診察は、ただ診断するだけではありません。 今後の治療がうまくいくか、再発のリスクはどのくらいか、といった見通しを立てる上でも非常に重要です。 例えば、骨盤の底にある筋肉の傷(肛門挙筋断裂)の有無などを評価し、治療法を選択する際の参考にします。

ステップ3:その他の検査

必要に応じて、以下の検査を追加することがあります。

  • 尿検査 尿の中にばい菌がいないかなどを確認し、膀胱炎などを調べます。
  • 超音波(エコー)検査 膀胱に尿が残っていないか、子宮や卵巣に異常がないかを確認します。

これらの結果を総合的に判断し、あなたに合った治療を考えます。 例えば、ペッサリーというリングを使う治療も選択肢の一つです。 最近の研究では、クリニックで定期的に管理する方法だけでなく、ご自身で管理する方が費用対効果も高く、合併症も少ないという報告もあります。 治療には様々な選択肢がありますので、気になる症状があればまずは専門の医療機関にご相談ください。

骨盤臓器脱の治療

骨盤臓器脱の治療法は一つではありません。 症状の重さや年齢、生活スタイルなどを考えて決めていきます。 治療法は、手術をしない「保存的治療」と「手術療法」の2つです。

保存的治療(症状が軽い場合)

症状が比較的軽い場合は、体への負担が少ない治療から始めます。

治療法

内容

骨盤底筋訓練

臓器を支えるハンモック(骨盤底筋)を鍛える体操です。

呼吸と合わせた運動も知られますが、ある研究報告があります。

筋肉を意識して直接きたえる体操の方が、症状を改善する効果が高いことが示されました。

ペッサリー療法

リング状の医療器具を膣の中に入れ、臓器が下がるのを防ぎます。

病院で定期的に交換する方法の他に、ご自身で管理する方法もあります。

ご自身で管理する方法は、通院回数を減らせるだけでなく、合併症が少なく、費用をおさえられるという利点も報告されています。

フェミクッション

専用のクッションがついた下着をはき、外から臓器を支える方法です。

手術療法(症状が重い場合)

保存的治療では生活の質の改善が難しい場合や、症状が重い場合は手術を検討します。 手術には、人工のシート(メッシュ)で支えたり、ゆるんだ組織を縫って強くしたりと、いくつかの種類があります。

また、閉経後の女性の場合、手術の前に女性ホルモンのクリームを膣に使うことがあります。 このクリームは、膣の組織の状態を良くする効果が期待できます。 しかし、尿もれなどの自覚症状が改善するかどうかは、まださらなる研究が必要とされています。

どの治療法がご自身に最も合っているか、医師とよく相談して決めていきましょう。