顎骨骨髄炎
「たかが虫歯」「いつもの歯ぐきの腫れ」と、お口のトラブルを軽く考えていませんか?その油断が、実はあごの骨が壊死してしまう「顎骨骨髄炎(がっこつこつずいえん)」という深刻な病気を引き起こすかもしれません。
この病気は、虫歯や歯周病の細菌が骨にまで達することで発症し、激しい痛みや顔の腫れを伴います。さらに、骨粗しょう症の薬の副作用や、最近では新型コロナウイルス感染症との関連も指摘されており、誰にとっても無関係ではありません。ある研究では、手術後の再発率が約17%にのぼるとの報告もあります。
本記事では、診断が難しいとされる顎骨骨髄炎の正体から、気になる原因、症状、そして最新の治療法までを詳しく解説します。あなたや大切な人を守るために、正しい知識を身につけましょう。
顎骨骨髄炎の概要
虫歯や歯周病を「ただの口のトラブル」だと思っていませんか。 実はその細菌が、あごの骨にまで感染することがあります。 これが「顎骨骨髄炎(がっこつこつずいえん)」という病気です。 重症化すると骨が壊死(えし)してしまう、深刻な状態です。
この病気には、以下のような特徴があります。
- 主な発症部位
あごの骨(特に血の流れが少ない下のあごに多いです) - 主な原因
虫歯や歯周病、抜歯した後の傷口からの細菌感染です。 - 進行した場合
骨が溶けたり、壊死(えし:細胞が死んでしまうこと)したりします。
顎骨骨髄炎の診断は、実はとても難しい場合があります。 なぜなら、症状や検査の結果が、他の病気とそっくりなことがあるためです。 このような「病気の擬態(ぎたい)」を見分けることが非常に重要になります。
そのため、早期に正確な診断を受けることが何よりも大切です。 レントゲンやCTなどの画像検査で骨の中の状態を詳しく調べます。 これにより、炎症の広がりを正確に把握し、治療方針を決定します。 正しい診断こそが、深刻な合併症を防ぐための第一歩となるのです。
顎骨骨髄炎の種類
顎骨骨髄炎は、その原因や症状のあらわれ方によって、いくつかの種類に分けられます。 ご自身の状態を正しく理解するためにも、どのような種類があるか見ていきましょう。 主に次の4つのタイプに分類されます。
- 急性顎骨骨髄炎 急激に、そして非常に強く症状があらわれるタイプです。 多くは虫歯や歯周病が原因で、細菌があごの骨に侵入します。 我慢できないほどの激しい痛みや顔の腫れ、高熱が特徴です。
- 慢性顎骨骨髄炎 急な症状が落ち着いた後も、炎症が長く続いてしまう状態です。 激しい痛みはないものの、膿が出たり骨が静かに壊されたりします。 自覚症状が乏しくても、病気は着実に進行していることがあります。
- 放射線性骨髄炎 がん治療などで、頭や首のあたりに放射線をあてたことが原因です。 放射線の影響で骨への血の流れが悪くなり、感染への抵抗力が落ちます。 そのため、通常なら問題にならないような細菌でも発症しやすくなります。
- 骨吸収抑制剤関連顎骨壊死(MRONJ) 骨粗しょう症などの治療で使われるお薬が関連して起こるタイプです。 この病気の患者さんの多くが、あごの痛みや腫れといった炎症を経験します。 一度発症すると治りにくく、手術をしても再発しやすいのが特徴です。 ある研究では、手術後の再発率が約17%だったという報告もあります。 再発は手術から6ヶ月以内に起きやすいため、慎重な経過観察が必要です。
顎骨骨髄炎の原因
顎骨骨髄炎のほとんどは、お口の中の細菌が原因で起こります。 虫歯や歯周病を「まだ大丈夫」と放置してしまうことが危険信号です。 歯の根や歯ぐきの奥深くから、細菌があごの骨に侵入します。 この状態を「歯性感染」と呼び、最も一般的な原因となっています。
ある研究では、顎骨骨髄炎をはじめとする多くの口の病気は、 細菌感染が主な原因であることが改めて示されています。 原因は歯性感染だけではなく、他にもいくつか考えられます。
- けがによる感染 あごを骨折した際の傷口などから、直接細菌が入り込みます。
- お薬の副作用 骨粗しょう症などの治療で使うお薬(骨吸収抑制剤)により、 骨の抵抗力が弱まり、感染しやすくなることがあります。
- 放射線治療の影響 がん治療で顔周りに放射線をあてると血の流れが悪くなり、 骨が細菌に対して無防備な状態になることがあります。
最近では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)との関連もわかってきました。 ある研究レビューでは、COVID-19にかかった後の顎骨骨髄炎が201例も報告されています。 特に、糖尿病などの持病がある方は注意が必要です。 報告された患者さんのうち、約65%が糖尿病を合併していました。 また、細菌だけでなく真菌(カビの仲間)が原因となることも多く、 約90%が上のあごに発症していたという特徴も明らかになっています。
顎骨骨髄炎の症状
顎骨骨髄炎になると、骨の炎症によって様々なサインが出ます。 口の中だけでなく、全身に症状があらわれることもあります。 ご自身の状態と照らし合わせ、チェックしてみましょう。
<口の中やあごにあらわれる主な症状>
- あごの痛み ズキズキとした激しい痛みや、鈍い痛みが続くことがあります。
- 歯ぐきや顔の腫れ・赤み 炎症が起きている場所の歯ぐきや、その周りの顔が腫れます。
- 歯がグラグラする 骨が細菌によるダメージを受け、歯を支えきれなくなります。
- 膿(うみ)が出てくる 歯ぐきに穴が開き、そこから膿が出てくることもあります。
- 下くちびるのしびれ あごの骨の中を通る神経が、腫れによって押されるためです。
<全身にあらわれる主な症状>
- 熱が出る
- 体がだるく感じる(倦怠感)
- 食欲がなくなる
これらの症状は、一度良くなったように見えても安心できません。 特に、お薬が原因で起こる顎骨壊死では注意が必要です。 ある研究では、手術を受けた方の約17%が再発したと報告されています。 再発した患者さんの多くは、手術から6ヶ月以内に再び症状を経験しています。 気になる症状があれば、自己判断せず、専門の医療機関を受診しましょう。
顎骨骨髄炎の検査・診断
あごの痛みや腫れから顎骨骨髄炎が疑われる時、 まず病気の正体と状態を正確に知ることが大切です。 そのために、いくつかの検査を組み合わせて診断します。
- 問診と診察 最初に症状や持病、普段飲んでいるお薬などを詳しく伺います。 次にお口の中を直接見て、腫れや膿の有無などを確認します。
- 画像検査 骨の中の状態を直接見ることができる、非常に重要な検査です。 炎症の広がりを正確に把握し、治療方針を決めるのに役立ちます。
- レントゲン(X線)検査 あごの骨全体の様子を大まかに確認するために行います。
- CT検査 骨の内部がどれくらい壊れているかを立体的に詳しく見ます。
- その他の検査
- 血液検査 体の中で炎症がどのくらい起きているのかを数値で確認します。
- 細菌培養検査 膿が出ている場合、原因菌を特定し、効果的なお薬を探します。
実は、顎骨骨髄炎の診断は、時にとても難しいことがあります。 なぜなら、画像検査の結果が、他の病気とそっくりなことがあるからです。 これを「病気の擬態(ぎたい)」といい、見分けることが非常に重要です。
ある研究でも、顎骨骨髄炎と、感染していない他の病気とを 正確に見分けることの重要性が指摘されています。 これらの検査結果を総合的に判断し、慎重に診断を確定させます。
顎骨骨髄炎の治療
顎骨骨髄炎(がっこつこつずいえん)の治療は、病気の進み具合や原因によって方法が異なります。 治療の大きな柱は、お薬で炎症を抑える「薬物療法」と、 原因を直接取り除く「外科的治療」の2つです。 多くの場合、これらを組み合わせて治療を進めていきます。
薬物療法
治療の基本は、原因となっている細菌の活動を抑えることです。 そのために、原因菌に効果のある抗菌薬(抗生物質)を使います。 点滴や飲み薬で、体の中から細菌の増殖を抑え込みます。
しかし、近年では抗菌薬が効きにくい「耐性菌」も問題になっています。 そのため、お薬だけでは完全に治すのが難しい場合もあります。 そこで、新しい治療法の研究も世界中で進められています。 例えば、強い抗菌作用と組織の再生を助ける力を持つ、 「金属系ナノ材料」などの応用が期待されています。
外科的治療
薬物療法とあわせて、感染の原因を物理的に取り除く処置を行います。 症状や原因に応じて、以下のような治療を組み合わせていきます。
- 原因の除去 虫歯や歯周病が原因の場合、その歯の治療や抜歯を行います。
- 膿の排出(排膿:はいのう) あごに膿(うみ)がたまっている場合、歯ぐきを少し切って、 膿を体の外に出すための通り道を作ります。
- 壊死した骨の除去 炎症で死んでしまった骨(腐骨:ふこつ)は、自然には治りません。 この部分をきれいに取り除く手術が必要になります。
特に、骨粗しょう症のお薬が関連する顎骨骨髄炎は、治りにくく注意が必要です。 ある研究では、再発を防ぐために感染した骨を広めに切除し、 血の流れが良い他の部分の組織(皮弁:ひべん)で覆う方法が、 再発リスクを下げると報告されています。
手術後も、慎重な経過観察が欠かせません。 ある研究では、手術を受けた方の約17%が再発したとの報告もあります。 再発の多くは手術から6ヶ月以内に起こるため、 この期間は特に注意深く経過を見ていくことが大切です。













