顎骨骨折
転倒やスポーツなど、日常に潜む些細な事故。もし顔を強く打ち付けたなら、それは単なる打撲では済まないかもしれません。実は、顔に起きる骨折のうち約6〜7割は「あご」に集中すると言われています。食事や会話といった、私たちの生活に欠かせない機能が突然脅かされる、それが顎骨骨折です。
口が開かない、かみ合わせがズレて食事ができない、顔の形が変わってしまう…。これらの深刻な症状は、骨折のサインかもしれません。特に「かみ合わせのズレ」を放置すると、治療が困難な後遺症につながる恐れもあります。
この記事では、顎骨骨折の主な原因からご自身で気づける症状、そして専門家の間でも議論される最新の治療法までを詳しく解説します。万が一の事態に備え、正しい知識を身につけて、ご自身の顔と未来を守りましょう。
顎骨骨折の概要
顎骨骨折(がっこつこっせつ)とは、あごの骨が折れてしまうケガです。 顔に起きる骨折の中では、比較的多くみられます。 食事や会話といった、毎日の生活に深く関わる部分のケガです。
ひとくちに「あごの骨」といっても、骨折は主に2つの場所で起こります。 場所によって骨折の特徴が少し違うので、見ていきましょう。
- 下顎骨(かがくこつ)骨折
- 一般的に「下のあご」の骨が折れる状態を指します。
- 顔に起きる骨折全体の約6〜7割を占める、最も多いあごの骨折です。
- 上顎骨(じょうがくこつ)骨折
- 顔の中心、鼻の横あたりにある「上のあご」の骨が折れることです。
- 交通事故などで強い力が加わると、周りの骨も一緒に折れやすいです。
治療では、折れた骨を正しい位置に戻し、金属の板で固定する手術も。 この固定には、チタンという金属製のプレートがよく使われます。 しかし最近の研究で、チタンが体内で軽い炎症反応を起こすことがわかってきました。 プレートの周りで炎症を促す物質(TNF-α)や、 細胞の破壊に関わる物質(カスパーゼ-3)が増加すると報告されています。 この反応が、骨の治り方に影響する可能性も考えられています。 そのため、治療法を選ぶ際の一つの情報として参考にするとよいでしょう。
顎骨骨折の種類
あごの骨折は、折れた場所によって大きく3種類に分けられます。 どこが折れたのかを正確に突き止めることが、治療の第一歩です。 骨折の場所によって、治療の難しさや方法が大きく変わるためです。
専門家の間でも、どの治療法が最適か議論されることがあります。 そのため、骨折の解剖学的な場所を正確に診断することが重要です。 顎骨骨折の主な種類は、以下のとおりです。
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骨折の種類 |
どんな骨折? |
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下顎骨骨折 |
下あごの骨が折れるケガです。<br>顔の骨折の中で最も多くみられます。 |
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上顎骨骨折 |
顔の中心にある上あごの骨の骨折です。<br>衝撃が強いと鼻や目の周りの骨も折れやすいです。 |
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歯槽骨骨折 |
歯を支えている土台部分の骨が折れます。<br>転倒などで前歯をぶつけた際によく起こります。 |
これらの骨折で特に注意が必要なのは、「かみ合わせのズレ」です。 これは不正咬合(ふせいこうごう)とも呼ばれる後遺症の一つです。 放置すると、後から再治療が必要になるなど、長く影響が残ります。
とくに上顎骨は顔の中心にあり、骨折は顔全体の形にも関わります。 骨折の仕方によっては、さらに細かく分類して治療計画を立てます。 正しい治療で、食事や会話の機能をしっかり取り戻しましょう。
顎骨骨折の原因
あごの骨が折れる原因のほとんどは、顔に強い力が加わることです。 スポーツや事故など、日常のふとした瞬間に起こる可能性があります。 顎骨骨折の原因は、大きく2つのパターンに分けられます。
1. 強い衝撃で骨が折れるケース
こちらが骨折の大部分を占める、もっとも一般的な原因です。 顔に起きる骨折のうち、約6〜7割は下あごに集中するといわれます。 具体的には、以下のような状況で発生することが多くなっています。
- 交通事故 特にバイクの運転中に起こる事故が目立ちます。
- 転倒・転落 つまずいたり階段から落ちたりして、顔を強く打ちつけます。 お酒を飲んだ後の転倒も、骨折の大きな原因の一つです。 近年では、ご高齢の方が転んで骨折するケースも増えています。
- スポーツ ラグビーや格闘技など、人と激しくぶつかるスポーツで起こります。
- 暴力 けんかなどで顔を殴られることも、原因として挙げられます。
2. 骨自体が弱くなって折れるケース(病的骨折)
まれなケースですが、強い力がなくても骨折することがあります。 これを「病的骨折」と呼び、骨の病気や薬の影響が背景にあります。 例えば、クローン病などの治療で使うお薬が原因になることも。
特定のお薬の影響で、あごの骨の組織が弱ってしまうことがあります。 この状態を「薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)」と呼びます。 骨がもろくなるため、食事のような弱い力でも骨折する危険があります。 このような骨折は治療が難しく、生活に大きく影響をおよぼします。 持病の治療をしている方は、特に注意が必要といえるでしょう。
顎骨骨折の症状
あごを骨折すると、食事や会話といった日常の動作が難しくなります。 顔を強くぶつけてしまった後、次のような変化がないか確認しましょう。 骨折に早く気づくことが、正しい治療への第一歩となります。
顎骨骨折の主な症状
- 口の開け閉めが難しい 口を開けようとすると痛んだり、そもそも大きく開けられなくなります。
- かみ合わせがおかしい 歯並びがずれたように感じ、普段どおりに噛むことができなくなります。
- 顔の腫れや変形 骨折した部分が腫れて、顔の輪郭が変わって見えることがあります。
- あごや唇のしびれ 骨の近くを通る神経が傷つき、感覚がにぶくなることがあります。
- 口の中からの出血 骨折と同時に、歯ぐきや口の中の粘膜が切れて血が出ます。
これらの症状は、折れた骨がずれたり、周囲の神経を傷つけたりして起こります。 特に「かみ合わせの違和感」は、ご自身で気づきやすい大切なサインです。 ケガの直後は大丈夫でも、数日後に症状が現れることもあるので注意が必要です。
また、まれですが強い衝撃がなくても骨が折れてしまうことがあります。 これを「病的骨折」と呼び、お薬の影響などで骨が弱くなることが原因です。 クローン病などの治療薬が、あごの骨を弱くすることが報告されています。 骨折の前から長く続く痛みや、皮膚から膿が出るなどのサインが見られます。 このような骨折は生活の質を大きく損なうため、特に注意が必要です。 気になる症状があれば、自己判断せずにすぐに医療機関を受診してください。
顎骨骨折の検査・診断
あごの骨折が疑われる場合、まずはケガの状況を詳しくお聞きします。 顔の腫れや変形、かみ合わせのズレなどを丁寧に診察します。 しかし、骨の状態を正確に知るには、画像で見る検査が欠かせません。
診断のために主に行われる検査は、X線(レントゲン)とCT検査です。 それぞれの検査には、得意なことと注意点があります。
X線(レントゲン)検査
- 骨折の診断で基本となる検査です。 骨の全体像を一枚の写真で確認することができます。 特に下あごや、歯を支える部分の骨折を見つけるのに役立ちます。
CT検査
- X線よりも骨を立体的、かつ細かく調べられる検査です。 骨を輪切りにしたような画像で、わずかなズレも見逃しません。 顔の中心にある複雑な上あごの骨折の診断に非常に有効です。
CT検査は詳細な情報が得られますが、放射線による影響も考えます。 特に成長期のお子さんの場合、検査はより慎重に選びます。 ある研究では、まず頭のCT検査で大きな問題がなければ、 顔のCT検査は追加しない場合があると報告されています。
顔のCTをすると、手術のいらない小さな骨折が見つかることも多いため、 不要な検査を避け、体への負担を減らすことを大切にしています。 骨だけでなく、神経や脳、目など他の部分にケガがないかも確認し、 総合的に判断して、最適な治療計画を立てていきます。
顎骨骨折の治療
あごの骨折の治療は、骨のズレの大きさや場所を考えて決めます。 治療法は大きく分けて2つあり、どちらを選ぶかがとても重要です。 どの治療法が最適か、専門家の間でも意見が分かれることがあります。
治療で最も大切な目標は、ケガをする前の「かみ合わせ」に戻すこと。 もし治療後にかみ合わせがずれたまま(不正咬合)になると、 食事がうまくできなくなるなど、長く影響が残る可能性があるからです。
1. 保存療法(手術をしない方法)
骨のズレが小さい場合などに行われる、手術をしない治療法です。 折れた骨を正しい位置で安静にして、自然にくっつくのを待ちます。
治療の進め方
- 折れた骨を、手を使って正しい位置に戻します。
- 上下の歯をワイヤーやゴムで固定し、口が開かないようにします。 この固定を「顎間固定(がっかんこてい)」と呼びます。
- 約1ヶ月間、固定したまま骨がくっつくのを待ちます。
この治療期間中は口を開けられないため、食事が難しくなります。 そのため、栄養はストローなどを使った流動食でとる必要があります。
2. 手術療法
骨のズレが大きい場合や、早く普段の生活に戻りたい場合に行います。 手術で金属の板(プレート)とネジを使い、骨を直接固定します。
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手術のポイント |
説明 |
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手術の場所 |
傷跡が目立たないよう、ほとんどは口の中から手術します。 |
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固定する材料 |
体に優しい「チタン」という金属でできたプレートを使います。 |
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手術の利点 |
口を固定する期間が短く、早く食事や会話ができます。 |
手術で使うチタン製のプレートは、社会復帰を早めるのに役立ちます。 ただ最近の研究では、チタンが体内で軽い炎症を起こす可能性も。 この反応が骨の治り方に影響するかもしれない、と報告されています。
どちらの治療法を選ぶか、また骨折した部分の歯を抜くべきかなど、 考えるべき点は多岐にわたります。医師とよく相談して決めましょう。













