顎関節脱臼

「あごが外れた!」という、笑い話のようで実は深刻な経験はありませんか。あくびや大笑い、といった何気ない日常の動作が引き金となり、突然口が閉じられなくなる顎関節脱臼は、誰にでも起こりうる身近なトラブルです。

海外の研究では、発症してから専門医に診てもらうまで平均で約30時間もかかったという衝撃的な報告もあります。放置して筋肉が固まってしまうと治療が難しくなり、過去には口が1cmしか開かなくなったという事例もあるほどです。

この記事では、顎関節脱臼の意外な原因から、自分で無理に治してはいけない理由、そして専門的な治療法までを詳しく解説します。万が一の時に備え、正しい知識を身につけておきましょう。

顎関節脱臼の概要

「あごがはずれた!」という言葉を聞いたことはありますか。 これは医学的に「顎関節脱臼(がくかんせつだっきゅう)」と呼びます。

普段、下あごの骨は耳の前にあるくぼみにうまく収まっています。 しかし、あくびや食事などで口を大きく開けた瞬間に、 この骨がくぼみから前にずれて、元に戻らなくなる状態です。

突然口が閉じられなくなり、強い痛みも出るため不安になりますよね。 顎関節脱臼は、実は誰にでも起こりうる身近なトラブルなのです。

ある海外の研究では、あごがはずれてから専門の医師に診てもらうまで、 平均で約30時間もかかっていたという報告があります。 これは、丸一日以上も口が閉じられない計算になります。

時間が経つほど筋肉が固まり、あごを元の位置に戻しにくくなります。 その結果、眠くなるお薬(鎮静薬)の注射が必要になる可能性も高まります。 特にご高齢の方は、一度はずれると繰り返しやすいこともわかっています。

もしあごに違和感があれば、自分で無理に治そうとしないでください。 できるだけ早く、医療機関を受診することがとても大切です。

顎関節脱臼の種類

ひとことに「あごがはずれた」と言っても、実はいくつかの種類があります。 いつ起きたか、何回も繰り返しているかによって、主に3つに分けられます。

種類

特徴

新鮮(しんせん)脱臼

初めて、または久しぶりにあごがはずれた状態です。大きなあくびなどで急に起こります。

習慣性(しゅうかんせい)脱臼

関節がゆるくなり、くせのように何度もはずれる状態です。一度はずれると繰り返すことが多くなります。

陳旧性(ちんきゅうせい)脱臼

はずれたまま長い間もとに戻らない状態です。放置すると、深刻な状態になることもあります。

特に注意が必要なのは、あごがはずれたまま放置する「陳旧性脱臼」です。 関節の周りに余計な骨ができて、あごが固まってしまうことがあります。 ある報告では、30代の男性がこの状態になり、口が1cmしか開かなくなった例もあります。

また、ほとんどの脱臼は、あごが前にずれる「前方脱臼」というタイプです。 しかし、ごくまれに横や後ろ、さらには耳の穴へずれることもあります。 過去のケガや放射線治療が原因で起こる特殊なケースも報告されています。

このように、あごがはずれた状態はさまざまです。 自己判断で放置せず、すぐに専門の医療機関に相談してください。

顎関節脱臼の原因

あごがはずれるのは、下あごの骨が本来の位置からずれてしまうためです。 日常生活の何気ない行動が、その引き金になることがあります。 原因は大きく分けて、急に起こるものと、くせになっているものがあります。

1. 急に起こる場合(急性脱臼) あごの関節が動ける範囲を、大きく超えてしまったときに起こります。

  • 口を大きく開けすぎたとき あくびや大笑い、歌をうたうときなどが原因になります。 りんごの丸かじりや、歯科治療で口を開けているときも注意が必要です。
  • あごに強い力が加わったとき 転んだり、スポーツなどで顔やあごを強くぶつけたりしたときです。 このような外傷がきっかけで、関節がはずれてしまうことがあります。

2. くせになっている場合(習慣性脱臼) 一度はずれると、関節を支える組織が弱まり、繰り返すことがあります。

  • もともとの体の特徴 関節が全体的にやわらかい人や、骨の受け皿が浅い人は、 もともとはずれやすい傾向があります。
  • 過去の脱臼による影響 関節を支える袋(関節包)や靭帯が伸びてしまった状態です。 輪ゴムが伸びきると元に戻らないのと同じで、関節がゆるくなります。

特に、はずれた状態を放置してしまう「陳旧性脱臼」は危険です。 まれに関節が固まって動かなくなる「癒合(ゆごう)」に進むこともあります。 過去には、放置した結果、口が1cmしか開かなくなった例も報告されています。 あごに異常を感じたら、すぐに医療機関に相談してください。

顎関節脱臼の症状

あごがはずれると、普段と違うサインが体に現れます。 口が突然閉じられなくなるのが、最もわかりやすい症状です。 強い痛みも出て、とても不安に感じることでしょう。

具体的にどのような症状が出るか、一緒に確認してみましょう。 ご自身の状態と照らし合わせてみてください。

  • 口が閉じられない
  • あごがカクンと鳴った後、開いたままで固まってしまいます。
  • まるでロックがかかったように、元に戻せなくなります。
  • 強い痛み
  • 耳の前や、あごの周りにズキズキとした痛みを感じます。
  • 口を動かそうとすると、痛みがさらに強まることがあります。
  • かみ合わせの違和感
  • 上下の歯がうまくかみ合わず、いつもと違う感じがします。
  • 話しにくい・食べにくい
  • 口をうまく動かせないため、言葉がはっきりしなくなります。
  • 食事をしたり、飲み物を飲んだりすることも難しくなります。
  • よだれが増える
  • 口が閉じられず、うまく唾液を飲み込めないためです。
  • 見た目の変化
  • 顔が左右非対称になったり、あごが片方にずれたりします。
  • 耳の前を触ると、骨のふくらみがなくなり、へこんでいます。

これらの症状は、一度治っても繰り返すことがあります。 特にご高齢の方など、筋力の調整が難しい場合は注意が必要です。

また、はずれた状態を長く放置するのはとても危険です。 関節が固まって口がほとんど開かなくなる「癒合(ゆごう)」という、 深刻な状態に進む可能性があるからです。 過去には、30代の男性がこの状態になり、 口が1cmしか開かなくなったという例も報告されています。

おかしいなと感じたら、自分で無理に戻そうとしないでください。 できるだけ早く、医療機関を受診することが大切です。

顎関節脱臼の検査・診断

あごがはずれたかもしれない時、医師はいくつかの手順で診断します。 まずお話を詳しく聞き、次にあごの状態を直接確認します。 そして必要に応じて、レントゲンなどの画像で詳しく調べます。 正しい診断は、適切な治療への第一歩です。

1. 問診(お話を聞くこと) 診断で最も大切なのは、患者さんからのお話です。 いつ、どんな状況で症状が出たかなど、詳しくお伺いします。

  • 症状について
  • いつから、どんなきっかけで口が開かなくなりましたか。
  • 大きなあくび、食事中、顔をぶつけたなど、具体的に教えてください。
  • 過去の経験について
  • 以前にも、あごがはずれた経験はありますか。
  • もともと関節が柔らかいなど、体の特徴はありますか。

2. 視診・触診(見て、触って確認) 次にお口やあごの状態を、目で見て、手で触って確認します。 これにより、あごが正常な位置にあるかを判断します。

  • 視診
  • 口が完全に閉じられない状態か、顔が左右非対称になっていないかを確認します。
  • 触診
  • 耳のすぐ前あたりを優しく触ります。
  • 脱臼していると、本来ある骨のふくらみがなく、くぼんでいることがあります。

3. 画像検査(レントゲンなど) 問診や触診で脱臼が強く疑われる場合、画像検査を行います。 レントゲン(X線検査)で骨の状態をはっきりと確認します。 骨の位置がずれているか、骨折など他のケガがないかを見極めます。

ある海外の研究では、あごがはずれてから専門医に診てもらうまで、 平均で約30時間もかかっていたという報告があります。 時間が経つほど筋肉が固まり、処置が複雑になりやすいため、 「おかしいな」と感じたら、早めに医療機関を受診してください。

顎関節脱臼の治療

あごがはずれた時の治療は、その状況によって大きく変わります。 初めて外れたのか、それとも何度も繰り返しているのかが重要です。 ご自身の状態に合った正しい治療を受けることが、回復への近道です。

急に顎が外れた場合の治療

急にあごが外れてしまった場合は、一刻も早く元の位置に戻します。 時間が経つと周りの筋肉が固まり、治しにくくなるためです。

  • 徒手整復(としゅせいふく)
  • 医師が手を使って、ずれたあごの骨を正しい位置に戻す方法です。
  • 両手の親指を奥歯にかけ、ゆっくりと下後方へ押し込むように誘導します。
  • 痛みが強い時や筋肉がこわばっている時は、 歯医者さんで使うような局所麻酔で痛みを和らげてから行います。

整復後は、関節を休ませることが大切です。 最低でも2~3週間は、大きなあくびや硬い食べ物は避けてください。 あごに負担をかけない生活を心がけましょう。

繰り返し顎が外れる場合の治療

何度もあごが外れる「習慣性脱臼」には、再発を防ぐ治療が必要です。 関節を支える組織がゆるんでいるため、それを補うアプローチをします。

治療法の種類

内容

運動療法

あご周りの筋肉を鍛えるリハビリです。関節を安定させ、外れにくくします。

自己血注入療法

自分の血液を少量採り、関節に注射します。関節の動きを少し制限して脱臼を防ぐ方法です。自分の体の一部を使うため、負担が少ないのが特徴です。

外科的治療(手術)

骨の形を調整し、物理的に外れなくする方法です。「関節結節切除術」などがあります。ある研究では、ご高齢の方など筋肉の調整が難しい場合、頬骨の一部を調整して関節を安定させる手術で、再発が非常に少なかったと報告されています。

どの治療法が最適かは、年齢や体の状態、脱臼の頻度で決まります。 自己判断で無理に戻そうとせず、まずは専門の医療機関に相談しましょう。