陥没乳頭

「乳首がへこんでいる…」その見た目から、誰にも相談できず一人で悩んでいませんか?しかし、陥没乳頭は決して珍しい状態ではなく、日本人女性の10〜20%、つまり10人に1〜2人は同じ状態だといわれています。悩んでいるのは、あなただけではないのです。

そして、これは単なる見た目の問題だけではありません。放置することで、においや炎症といった衛生的なトラブルや、将来の授乳に影響が出る可能性も。まれに病気のサインであるケースもあります。この記事では、陥没乳頭の原因やご自身の状態を知るための種類分け、そしてあなたに合った治療法までを詳しく解説します。正しい知識で、その悩みを解決する一歩を踏み出しましょう。

陥没乳頭の概要

陥没乳頭とは、乳首(乳頭)が胸の表面に出ておらず、内側に引き込まれて隠れてしまっている状態を指します。

これは決して珍しい状態ではなく、悩んでいるのはあなただけではありません。日本人女性の10〜20%にみられるとされ、10人に1〜2人は同じ状態だといえます。

その多くは生まれつき(先天性)のもので、約9割は両方の胸にみられます。一方で、成長の過程や、ケガ、手術、乳腺の炎症などがきっかけで、後から陥没する(後天性)こともあります。

陥没乳頭は病気そのものではありませんが、以下のような困りごとにつながる可能性があります。

  • 衛生面の問題
    くぼんだ部分に汗や皮脂、垢などがたまりやすくなります。これが原因でにおいやかゆみが出たり、細菌が繁殖して炎症を起こしたりすることがあります。
  • 授乳の問題
    赤ちゃんが乳首をうまく口に含んで吸うことが難しくなります。このため、将来の授乳に影響が出る可能性があります。
  • 見た目の問題
    ご自身の乳首の形について、コンプレックスを感じる方も少なくありません。

このように、機能面や衛生面、見た目の問題など、さまざまな悩みの原因となるため、状態に合わせたケアや治療が大切になります。

陥没乳頭の種類

陥没乳頭は、乳首のへこみ具合によっていくつかの種類に分けられます。 ご自身の状態がどのタイプに当てはまるかを知ることが大切です。 なぜなら、種類によって今後のケアや治療の必要性が変わるためです。

分類の基準は「指で乳首をつまみ、外に引き出せるか」という点です。 一般的に、陥没の程度に応じて以下の3つのグレードに分類されます。

陥没乳頭のグレード分類

グレード

状態の目安

グレードⅠ(軽症)

指でつまむなどの簡単な刺激で乳首が出てきます。また、一度出てくると、しばらくの間は突出した状態を保てます。

グレードⅡ(中等症)

指でつまむと乳首を外に出すことはできます。しかし、指を離すとすぐに元のへこんだ状態に戻ってしまいます。

グレードⅢ(重症)

指でつまんでも、乳首を全く引き出すことができません。無理に引き出そうとすると、痛みを感じることもあります。

グレードⅠは「仮性陥没乳頭」とも呼ばれ、日常生活での刺激で自然に出てくることも多いタイプです。

一方で、グレードⅡとⅢは「真性陥没乳頭」と呼ばれます。 この状態は、乳首を内側に引き込む力が強く働いていると考えられます。 特にグレードⅢのように常に乳首が奥に引き込まれている状態では、くぼんだ部分に垢や皮脂などの汚れがたまりやすくなります。

この汚れが、かゆみや嫌なにおいの原因になることがあります。 さらに、細菌が繁殖して炎症を起こす「乳輪下膿瘍(にゅうりんかのうよう)」という病気につながる可能性も高まります。

ご自身の状態を正しく把握し、適切なケアや治療につなげるためにも、まずは専門の医療機関へ相談し、正確な診断を受けることが重要です。

陥没乳頭の原因

陥没乳頭がなぜ起こるのか、その原因は大きく2つに分けられます。 生まれつきの「先天性」と、後から何かがきっかけで起こる「後天性」です。 それぞれの原因を詳しく見ていきましょう。

生まれつき(先天性)の原因

陥没乳頭のほとんどは、生まれつき(先天性)のものです。 主な原因は、お胸が成長する過程での発達バランスの乱れと考えられています。

  • 乳管の発育不足
    乳管とは、母乳を乳首まで運ぶストローのような管のことです。 お胸全体が大きくなるスピードに、この乳管の成長が追いつかない場合があります。 すると、短い乳管が乳首を内側に引っ張り込み、陥没した状態になります。 これが最も有力な原因と考えられています。
  • 線維組織による引き込み
    乳首の下に、かたいヒモのような線維組織(索状物)が存在する場合があります。 この組織が、まるでテントを張るロープのように乳首を奥へと引き込む力となり、陥没の原因となることもあります。

後から起こる(後天性)の原因

これまで問題がなかったのに、急に乳首がへこんできた場合、注意が必要です。 後から陥没が起こる原因としては、以下のようなものが考えられます。

  • ケガや手術
    お胸のケガや手術によってできた傷あとが、治る過程でひきつれを起こし、乳首を内側に引っ張ってしまうことがあります。
  • 乳腺の炎症
    乳腺炎などの炎症が起きると、お胸の組織がダメージを受けて硬くなります。 この硬くなった組織が、乳首を内側に引き込んでしまうことがあります。
  • 乳がんなどの病気
    最も注意したいのが、乳がんなどの病気が原因のケースです。 がん細胞が周りの組織を巻き込みながら増えることで、乳首が引き込まれることがあります。 急な変化を感じたら、すぐに専門の医療機関を受診してください。
  • 加齢や体重の変化
    加齢によってお胸の皮膚や組織のハリが失われたり、急激な体重減少が起こったりすると、乳首が埋もれやすくなることがあります。

このように、陥没乳頭の原因はさまざまです。 特に後天性の場合は、病気が隠れている可能性も考えられます。 自己判断で放置せず、まずは医師に相談し、原因を正しく知ることが大切です。

陥没乳頭の症状

陥没乳頭の症状は、ただ乳首がへこんでいるだけではありません。 見た目以外にも、実は衛生面での困りごとにつながることがあります。 ご自身の状態を正しく知ることが、適切なケアへの第一歩です。

乳首のへこみ具合は人によって違い、症状の現れ方も様々です。 ご自身の状態がどれに近いか、下の表で確認してみましょう。

症状の程度

状態の目安

軽症

指でつまむと、乳首は簡単に出てきます。しかし、指を離すと時間とともに元に戻ってしまいます。

中等症

指でつまむだけでは出すのが難しくなります。ピンセットのような器具を使えば出せますが、離すとすぐに戻ります。

重症

指や器具を使っても、乳首を全く引き出せません。衛生的なトラブルが起きやすい状態です。

特に重症の場合、くぼんだ部分がポケットのようになります。 そこに汗や皮脂、垢(あか)などの汚れがたまりやすくなります。 この汚れは細菌のエサとなり、様々な症状を引き起こす原因となります。

  • においやかゆみ たまった汚れや増殖した細菌によって、不快なにおいやかゆみが出ることがあります。
  • 炎症や痛み 細菌が原因で炎症を起こし、乳首周りが赤く腫れたり、痛んだりすることがあります。
  • 膿(うみ)が出る 炎症が悪化すると、膿が出ることがあります。炎症を繰り返すと、その部分が硬くなることもあります。

もし陥没乳頭に加えて、次のような症状がある場合は注意が必要です。 乳がんなど、他の病気が隠れているサインかもしれません。

  • 今まで普通だった乳首が、急にへこんできた
  • 乳首から血液が混じった分泌物が出る
  • お胸にしこり(かたまり)を触れる
  • 乳首やその周りがただれている

これらの症状に気づいた場合は、自己判断で様子を見ないでください。 できるだけ早く、専門の医療機関へ相談することが大切です。

陥没乳頭の検査・診断

陥没乳頭のお悩みで受診された場合、まずは状態を正確に把握します。 怖い検査や痛い検査をするわけではないので、ご安心ください。 診察は主に「問診」「視診・触診」というステップで進みます。

1. 問診|あなたの状態を言葉で教えてください

まず、医師がいくつか質問をします。 これはあなたの状態を正しく理解し、原因を探るための大切な時間です。

  • いつから気になっていますか? 生まれつきか、最近急にへこんだのかを確認します。 急な変化は、乳がんなど他の病気のサインの可能性もあります。
  • 痛みやかゆみ、分泌物はありますか? 炎症や感染が起きていないかを確認します。 衛生状態を把握する上で重要な情報です。
  • 将来、授乳を希望しますか? これは治療方法を選ぶ上で非常に大切な質問です。 授乳機能を残す方法を選ぶかどうかの判断材料になります。

2. 視診と触診|医師が直接状態を確認します

次に、医師が乳首の状態を直接見て、優しく触って確認します。 これにより、陥没の程度や他の異常がないかを調べます。

  • 重症度の判定 指でつまんでみて、乳首がどのくらい出てくるかを確認します。 これにより、軽症・中等症・重症のどの段階かを判断します。
  • 他の病気のチェック 乳首や周りの皮膚がただれていないか、しこりがないか、 膿が出ていないかなどを丁寧に確認します。

3. 画像検査|必要に応じて、お胸の中を詳しく見ます

問診や触診の結果、乳がんなどの病気が疑われる場合に行う検査です。 全員が必ず受けるわけではありません。

  • 超音波(エコー)検査 ゼリーを塗り、機械をあてることでお胸の内部を観察します。 痛みはなく、乳腺の状態やしこりの有無を詳しく見られます。
  • マンモグラフィ(乳房X線検査) お胸専用のレントゲン検査です。 細かい異常を見つけるのに役立ちます。

これらの診察や検査で得た情報を総合的に判断し、診断を確定します。 そして、あなたに合ったケアや治療法を一緒に考えていきます。

陥没乳頭の治療

陥没乳頭の治療法は、一つではありません。 あなたの乳首の状態や、将来授乳を希望するかどうかを考えます。 その上で、あなたに合った方法を一緒に選んでいきましょう。 治療法は、大きく2つの方法に分けられます。

  • 手術をしない方法(保存的治療)
  • 手術による方法(手術治療)

どの方法を選ぶかは、陥没の程度やご自身の希望によって決まります。

手術をしない方法(保存的治療)

体にメスを入れず、器具などを使って治療する方法です。 軽症から中等症の方で、時間をかけて治したい場合におすすめです。

吸引器具による治療

専用の吸引器具を乳首に装着し、優しく引っ張り出す方法です。 毎日続けることで、乳首が外に出た状態を記憶させます。 体に傷をつけずに、ご自宅で手軽にできるのが特徴です。 ただし、根気よく続ける必要があり、効果には個人差があります。

マッサージ

乳首の周りをほぐす方法もありますが、注意が必要です。 自己流で強く行うと、皮膚を傷つけて炎症を起こす恐れがあります。 かえって状態を悪化させることもあるため、必ず医師に相談してください。

手術による方法(手術治療)

保存的治療で改善しなかったり、重症だったりする場合に行います。 早く確実に治したい方にも適した治療法です。 手術の多くは保険適用で受けることができます。

手術の目的は、乳首を内側に引っ張っている組織を処理することです。 そして、乳首を正しい位置に引き出して固定します。 手術方法を選ぶ上で、最も大切なポイントが一つあります。 それは「将来、授乳を希望するかどうか」です。

授乳の希望に応じた手術方法の選択

乳管を温存する手術

乳管を切断する手術

対象となる方

将来、授乳を希望する方

授乳の予定がない、または形を優先したい方

手術の概要

母乳の通り道(乳管)を傷つけないように、周りの硬い組織だけを取り除きます。

乳管ごと切断して、乳首をしっかりと引き出し、形を整えて固定します。

メリット

授乳できる可能性を残せます。

形をきれいに整えやすく、後戻りしにくい傾向があります。

デメリット

手術が少し複雑になります。また、再び陥没する可能性がゼロではありません。

手術後は授乳ができなくなります。また、乳首の感覚が少し変わることがあります。

どちらの手術が良いかは、あなたのライフプランによって決まります。 まずは専門の医師としっかり話し合い、最適な方法を見つけることが大切です。 一人で悩まず、お気軽に医療機関へご相談ください。