「最近、うっかりミスが増えた」「物の名前がなかなか出てこない」。そんな日常の些細な変化を、単なる「年のせい」と片付けていませんか?もしかすると、それは脳の働きが低下しているサイン、「認知機能障害」の始まりかもしれません。
認知機能障害は「もの忘れ」だけでなく、計画力や判断力の低下など、症状は多岐にわたります。さらに驚くべきことに、心臓の健康状態が脳の機能に影響を与えるという意外な事実も、近年の研究で明らかになってきました。
この記事では、認知機能障害の様々な種類や原因、そして自分らしい生活を守るための最新の治療法までを詳しく解説します。ご自身や大切なご家族のために、早期発見につながる正しい知識を身につけましょう。
認知機能障害の概要
「認知機能障害」とは、特定の病気の名前ではありません。 病気やけがなどが原因で脳の細胞が傷ついてしまうことがあります。 その結果、脳の働きが低下して、生活に支障が出る状態のことです。
私たちの脳が持つ、物事を記憶したり考えたりする力を「認知機能」と呼びます。 具体的には、次のような働きが含まれます。
- 記憶する力(記憶) 新しいことを覚えたり、過去の出来事を思い出したりする力です。
- 時間や場所を認識する力(見当識) 今日の日付や、自分が今どこにいるのかを理解する力です。
- 計画して実行する力(実行機能) 料理の手順を考えたり、計画的に買い物をしたりする力です。
- 言葉を操る力(言語機能) 人の話を聞いて理解し、自分の考えを言葉で伝える力です。
- 物事を正しく捉える力(認知・判断力) 周りの状況を理解して、どう行動すべきか適切に判断する力です。
これらの認知機能が低下すると、生活の質(QOL)に影響が出ることがあります。 ある研究では、病気の後に認知機能障害がみられると報告されています。 不安やうつ病と同じように、ご本人の生活の満足度を低下させる要因になります。 だからこそ、認知機能障害について正しく知っておくことが大切なのです。
認知機能障害の種類
「認知機能障害」は、原因によっていくつかの種類に分けられます。 脳の病気だけでなく、他の体の病気が原因になることもあります。 例えば、乳がんや心不全の治療後に認知機能が低下する方もいるのです。 原因によって症状や対応が変わるため、種類を知ることが大切です。
認知機能障害は、まず「認知症」とその手前の「軽度認知障害(MCI)」に分けられます。 MCIは、いわば「認知症の卵」のような状態で、日常生活に大きな支障はありません。 この段階で気づいて対策をすれば、回復することも期待できます。
そして「認知症」にも、原因によって代表的な4つの種類があります。
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種類
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主な原因
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特徴的な症状の例
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アルツハイマー型認知症
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脳にアミロイドβという
ゴミのようなものがたまる
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・さっき話したことを忘れる
・日付や場所がわからなくなる
・ゆっくりと症状が進む
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血管性認知症
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脳の血管が詰まったり
破れたりする(脳梗塞など)
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・できることとできないことがはっきりしている
・感情の起伏が激しくなる
・症状が階段状に悪くなる
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レビー小体型認知症
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脳にレビー小体という
特殊なたんぱく質がたまる
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・いないはずの人や虫が見える(幻視)
・体の動きがぎこちなくなる
・日によって症状の波がある
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前頭側頭型認知症
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感情などをつかさどる
脳の前側が縮んでしまう
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・人が変わったようにわがままになる
・社会のルールが守れなくなる
・同じ行動を何度も繰り返す
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このように種類によって特徴が違うため、正しい診断が治療の第一歩になります。
認知機能障害の原因
認知機能障害は、脳の細胞が傷ついたり元気をなくしたりして起こります。 その原因は一つだけではなく、いくつかの要因が複雑に関係しています。
原因は、大きく3つのグループに分けて考えることができます。
- 脳にゴミのようなものがたまるアルツハイマー病などがあります。
- また、脳の血管が詰まる脳梗塞なども脳細胞にダメージを与えます。
- 最近の研究で、心臓の健康と脳の働きは深く関係することがわかってきました。
- 例えば、心臓の筋肉が少し傷つくと血液中に出てくる物質があります。
- この物質の数値が高い人は、認知機能が低下しやすいと報告されているのです。
- 特に、注意する力や物事に対する反応の速さが遅くなることと関係します。
- また、脳の血管が原因の「血管性認知症」で入院するリスクも高まります。
- 一方で、アルツハイマー病との直接的な関連は今のところ見つかっていません。
- 心臓は全身に血液を送るポンプなので、この働きが弱ると脳に十分な酸素や栄養が届かなくなります。
- これが脳細胞が元気をなくす原因の一つになると考えられています。
- 年を重ねることによる自然な変化も、認知機能に影響します。
- 普段の食事や運動などの生活習慣も、脳の健康に深く関わっています。
このように認知機能障害は、脳だけの問題ではないことがわかります。 心臓をはじめとする体全体の健康を保つことが、脳を元気に保つことにもつながるのです。
認知機能障害の症状
認知機能障害と聞くと、「もの忘れ」を思い浮かべる方が多いかもしれません。 しかし、症状は記憶に関するものだけでなく、とても幅広いのが特徴です。 これまで当たり前にできていたことに、少しずつ変化が見られるようになります。
ご自身や大切なご家族に当てはまるものがないか、一緒に見ていきましょう。
【認知機能障害でみられる主な症状】
- 記憶する力の低下(記憶障害) 新しいことを覚えられない、少し前の出来事を忘れてしまいます。 何度も同じことを質問したり、物の置き場所を忘れたりします。
- 時間や場所を認識する力の低下(見当識障害) 今日の日付や曜日、自分が今どこにいるのかがわからなくなります。 慣れているはずの場所で、道に迷ってしまうこともあります。
- 計画して実行する力の低下(実行機能障害) 料理や買い物など、計画を立てて段取りよく行動することが難しくなります。 家電の使い方がわからなくなるなど、手順が複雑な作業が苦手になります。
- 言葉を操る力の低下(言語障害) 「あれ」「それ」といった言葉が増え、物の名前がなかなか出てきません。 相手の話を理解したり、考えを言葉で伝えたりすることが難しくなります。
- 物事を正しく捉える力の低下(判断力の低下) 状況に合わせて、どう行動すべきか適切に判断できなくなります。 考えるスピードが落ちて、信号が変わってもすぐに渡れないことがあります。
- 注意を向ける力の低下(注意障害) 注意が散漫になり、一つのことに集中できなくなります。 そのため、以前はしなかったような、うっかりミスが増えることがあります。
特に注意力の低下や反応の遅れは、体の状態と深く関わることがあります。 ある研究では、心臓の健康状態が注意する力や反応の速さと関連することが示唆されています。 このように、脳だけの問題ではないという視点も大切です。
また、車の運転のように複数の作業を同時に行う場面では症状が目立ちやすくなります。 周りの状況を判断し、ハンドルやブレーキを操作するには多くの認知機能が必要です。 そのため、運転中の小さなミスが、認知機能低下のサインになることもあるのです。
さらに、以前より怒りっぽくなったり、趣味への関心を失ったりすることもあります。 こうした意欲や性格の変化も、認知機能障害のサインの一つです。 必ずしも「もの忘れ」から始まるわけではなく、人によって症状の現れ方は様々です。
認知機能障害の検査・診断
認知機能の低下が気になったとき、検査では主に2つのことを調べます。 「脳の働きがどのくらい落ちているか」という程度を評価します。 そして、「なぜ脳の働きが落ちているのか」という原因を探ります。
これらの検査を組み合わせることで、現状を正確に把握できるのです。
脳の働き(認知機能)の程度を調べる検査
ご本人やご家族から普段の様子をうかがう「問診」が第一歩です。 いつから、どんなことで困っているかなど、詳しいお話が診断のヒントになります。 その上で、脳の働きを客観的に評価する「神経心理学的検査」を行います。
これは、簡単な質問に答えたり、図形を書き写したりするテストです。 記憶力や計算力、判断力など、脳の様々な力をチェックします。 代表的なものに、長谷川式認知症スケール(HDS-R)などがあります。
認知機能が低下した原因を調べる検査
脳の働きが落ちる原因は様々なので、多角的に調べる必要があります。
- 血液検査 体全体の健康状態を確認し、脳の働きに影響する病気が隠れていないか調べます。
- 画像検査(頭部MRIやCT検査) 脳を直接写真に撮るような検査です。 脳の形が縮んでいないか、血管に異常がないかなどを確認できます。
ある研究では、質問に答えるテストだけでは不十分だと報告されています。 例えば、車の運転能力は、記憶力や判断力など多くの機能が必要です。 そのため、テストの結果だけでなく、実際の生活の様子や脳の画像検査など、複数の情報を組み合わせることが、正確な診断には欠かせないのです。
これらの検査結果というパズルのピースを専門医が組み合わせます。 そうして初めて、ご自身の状態の全体像を正確に理解できるのです。
認知機能障害の治療
認知機能障害の治療は、原因や症状の進み具合によって様々です。 残念ながら、完全に元通りにする治療法はまだ確立されていません。 しかし、早くから適切な治療を始めることで症状の進行を遅らせられます。 自分らしい生活の質を保つことは、十分に可能なのです。
治療は、大きく2つの方法を組み合わせて行います。
- 薬を使わない治療(非薬物療法)
- 薬を使う治療(薬物療法)
最近の研究では、特に薬を使わない治療の重要性が注目されています。
薬を使わない治療(非薬物療法)
生活習慣の見直しや、脳のトレーニングを行う治療法です。 これが認知機能障害の治療の基本となり、とても大切です。 例えば、心臓の病気やがんの治療後に見られる認知機能の低下にも、良い影響を与える可能性が示されています。
- 運動療法 ウォーキングなどの有酸素運動は、脳の血の巡りを良くします。 脳に栄養や酸素を届け、元気にする効果が期待できるのです。 運動と計算などを組み合わせた「コグニサイズ」という方法もあります。 これは認知機能の低下を抑えることがわかっています。
- 認知リハビリテーション パズルや計算ドリルなど、楽しく頭を使うトレーニングです。 ある研究では、特に注意する力や物事を計画通りに進める力を改善する効果が報告されました。 昔の出来事を思い出す「回想法」も、脳への良い刺激になります。
- 生活習慣の見直しと社会参加 食事の管理や十分な睡眠といったご自身でのケアも大切です。 また、趣味のサークルに参加するなど社会とのつながりを保つことは、脳にとって最高の栄養になります。
薬を使う治療(薬物療法)
原因となっている病気によっては、お薬による治療も行います。 例えばアルツハイマー病が原因の場合、新しい注射薬も選択肢です。 脳にたまるゴミのような異常なたんぱく質を取り除く働きがあります。
ただし、これらの薬は軽度の認知障害やごく初期の方が対象です。 どの治療法が適しているかは人それぞれなので、まずは専門の医療機関で相談することが大切です。