脳挫傷

頭を強くぶつけた経験は、誰にでもあるかもしれません。しかし、その時、脳の奥で何が起こっているか、考えたことはありますか?

単なる打撲と侮ってはいけません。頭蓋骨の内部で、まるでゼリーのような柔らかい脳が傷つき、出血や腫れが生じる「脳挫傷」は、時に命に関わる重篤な状態を引き起こします。

意識障害や手足の麻痺、言葉の障害など、深刻な後遺症につながることも少なくありません。実際、多くの研究で、脳挫傷に伴う血腫は手術が必要になるケースが多いと報告されており、早期の発見と適切な治療が、その後の回復を大きく左右します。

この記事では、脳挫傷の原因から症状、そして最新の治療法までを詳しく解説します。

脳挫傷の概要

頭を強くぶつけると、脳そのものが傷ついてしまうことがあります。これを「脳挫傷(のうざしょう)」といいます。例えば、自転車に乗っていて転んでしまったり、スポーツ中に友達とぶつかったり、交通事故に遭ったりした時に起こる可能性があります。

人間の脳は、硬い頭蓋骨という骨にしっかりと守られています。しかし、強い力が加わると、まるでゼリーのような柔らかい脳が頭蓋骨の壁にぶつかってしまい、傷ついてしまうのです。

脳が傷つくと、その部分から出血したり、脳が腫れてしまったりすることがあります。脳は体のあらゆる働きをコントロールする大切な臓器です。そのため、傷ついた場所によっては、意識がぼんやりしたり、手足が動きにくくなったりするなど、さまざまな体の機能に影響が出ることがあります。

さらに、出血の量が多いと、血の塊(これを「血腫(けっしゅ)」と呼びます)ができて、周りの脳を強く圧迫してしまうことがあります。特に、頭蓋骨の内側や脳の表面に血腫ができた場合、脳への圧迫が非常に強くなるため、手術で血腫を取り除くことが一般的です。

実際、多くの研究で、脳挫傷に伴うこのような血腫は、手術が必要になるケースが多いと報告されています。脳の傷つき方やその場所、お子さんの年齢などによって、症状の重さや回復の仕方も大きく異なります。頭を強くぶつけてしまった場合は、見た目に異常がなくても、すぐに病院で診てもらうことがとても大切です。早期に適切な診断と治療を始めることで、深刻な症状を防ぎ、回復の可能性を高めることができます。

脳挫傷の種類

脳挫傷は、頭に強い衝撃を受けたときに脳そのものが傷つくことですが、その傷つき方や場所によっていくつかのタイプに分けられます。医師の立場から見ると、このタイプの違いが、お子さんの症状や治療の進め方を大きく左右します。

まず、頭をぶつけた場所の真下で脳が傷つく「直達性(ちょくたつせい)脳挫傷」があります。一方、ぶつかった場所とは反対側の脳が傷つく「対側性(たいそくせい)脳挫傷」というものもあります。例えば、交通事故のように頭が大きく揺さぶられると、脳は頭蓋骨の内側にぶつかり、複数の場所に傷ができてしまうことがあります。

さらに、脳挫傷は、頭蓋骨の中での出血と同時に起こることが珍しくありません。特に、脳を包む膜の外側や内側に血の塊ができる「硬膜外血腫(こうまくがいけっしゅ)」や「急性硬膜下血腫(きゅうせいこうまくかけっしゅ)」と合併することが多くあります。多くの研究でも、これらの血腫と脳挫傷が一緒に見られる場合、脳が強く圧迫されるため、手術で血の塊を取り除くことが一般的だと報告されています。

お子さんの脳挫傷の種類や傷ついた場所、そしてお子さんの年齢は、その後の症状や回復の仕方を決める大切な要素です。重症度によっては、意識障害や手足の麻痺など、深刻な症状につながることもあります。私たちは、お子さんの脳の損傷のタイプを正確に見極め、それぞれに合った治療を慎重に進めていく必要があります。

脳挫傷の原因

脳挫傷は、頭に強い衝撃が加わることで、脳そのものが直接傷つく病気です。なぜ脳挫傷が起こるのか、そのメカニズムを知ることは、予防にもつながります。

頭蓋骨は非常に硬い骨で脳を守っていますが、その内側にはでこぼこした部分が多くあります。強い力が頭に加わると、この柔らかい脳が頭蓋骨の内側にぶつかったり、急激に揺さぶられたりして、脳の細胞がダメージを受けてしまうのです。

私たちは、日常生活のさまざまな場面で頭をぶつける危険にさらされています。脳挫傷の主な原因は、以下のような状況で発生します。

・交通事故

・車や自転車に乗っている際に頭をぶつける事故です。

・高いところからの転落事故

・階段から落ちたり、高い場所から転落したりする事故です。

・スポーツ中に起きる事故

・サッカーや野球などで他の人とぶつかったり、転倒したりする事故です。

・日常生活での転倒

・特に小さなお子さんやご高齢の方が、ふとした拍子に転んで頭を打つことがあります。

脳が傷つくと、その部分から出血したり、脳自体がむくんで腫れたりすることがあります。さらに、このような強い衝撃が原因で、脳の周りに血の塊ができてしまうことがあります。これを「血腫(けっしゅ)」と呼びます。

特に、脳を包む硬膜という膜の「外側」や「内側」に血腫ができることが多くあります。多くの研究でも、硬膜外血腫や、脳挫傷を伴う急性硬膜下血腫といった血腫は、脳を強く圧迫する「占拠性病変」として頻繁に見られることが報告されています。占拠性病変とは、頭蓋骨の中で容積を占めて脳を押しつぶしてしまうような状態のことです。このような血腫は、脳への圧迫が非常に強くなるため、手術で血の塊を取り除く必要が生じることが一般的です。

頭への強い衝撃があった際は、見た目に異常がなくても、脳のどの部分が、どのような形で傷ついているのかを慎重に判断することが重要です。早期に原因を特定し、適切な対応をすることで、脳へのダメージを最小限に抑え、その後の回復に大きく影響します。

脳挫傷の症状

脳挫傷の症状は、頭への衝撃の強さや脳のどの部分が傷ついたかによって、本当に様々です。私たちは、お子さんの体の変化を注意深く観察し、症状の重さを見極めることが非常に大切だと考えています。

軽い脳挫傷の場合でも油断は禁物です

頭をぶつけた直後は、何も変わった様子がないように見えても、後から症状が出てくることがあります。ご家族の方が「いつもと違うな」と感じたら、すぐに医療機関を受診してください。

・がんこな頭痛

・ズキズキとした痛みが、なかなか治まらないことがあります。

・吐き気や嘔吐

・気分が悪くなり、何度も吐いてしまうことがあります。

・意識がぼんやりする

・なんとなく集中できなかったり、反応が鈍くなったりする感じがあります。

・めまい

・ふわふわしたり、クラクラしたりして、まっすぐ歩けないことがあります。

重い脳挫傷の場合には緊急の対応が必要です

脳の損傷が重い場合には、頭をぶつけた直後から、次のようなはっきりとした症状が現れることがあります。これらの症状が見られたら、すぐに救急車を呼んでください。

・意識が深く呼びかけに反応しない

・眠っているように見えても、声をかけても反応が非常に薄い状態です。

・手足が麻痺して動かせなくなる

・体の片側や両側の手足が、自分の意思で動かせなくなります。

・言葉がうまく話せなくなる

・自分の考えを言葉にするのが難しかったり、言葉が出なくなったりすることがあります。

・けいれんを起こす

・自分の意思とは関係なく、体がぴくぴくと動いたり、全身が硬直したりします。

・左右の瞳の大きさが違う、光への反応が悪い

・光を当てても瞳が小さくならなかったり、左右で大きさが異なったりします。

特に注意が必要な「異常な姿勢」

脳へのダメージが非常に大きい場合、私たちは「異常な姿勢」というサインに特に注意を払います。これは、お子さんの腕や足が不自然に固まってしまったり、体が後ろに大きく反り返ってしまったりする状態を指します。このような姿勢は、脳の機能が大きく障害されていることを示す、非常に危険なサインです。

実際、多くの研究で、重度の頭部や脳の損傷がある方に見られる異常な姿勢は、その後の回復に影響を与える主要な懸念事項だと報告されています。脳の傷ついた場所や種類、手術が必要かどうかの判断、そしてお子さんの年齢などが、今後の回復の可能性を大きく左右することがわかっています。

合併症にも注意が必要です

脳挫傷は、頭蓋骨の内側で出血が広がる「急性硬膜下血腫(きゅうせいこうまくかけっしゅ)」や「硬膜外血腫(こうまくがいけっしゅ)」といった病気を伴うことが珍しくありません。これらの血腫が脳を強く圧迫すると、上記の症状がさらに悪化し、命に関わる大変危険な状態になることもあります。

多くの研究でも、脳挫傷に伴う急性硬膜下血腫や硬膜外血腫は、脳を圧迫する病変として一般的であり、多くの場合、手術が必要になると報告されています。私たちは、このような合併症の可能性も考慮に入れ、慎重に診断を進めます。

迷わず病院へ

頭を強くぶつけた後や、時間が経ってからでも、上記のような少しでも気になる症状が現れた場合には、迷わずすぐに病院を受診してください。早期に適切な診断と治療を始めることが、お子さんの大切な脳を守り、その後の回復に大きく影響します。

脳挫傷の検査・診断

頭を強くぶつけた時、外からは見えなくても、脳に傷ができているかもしれません。私たちは、皆さんの大切な脳の状態を詳しく調べるために、いくつかの検査を行います。これらの検査は、病気の重さを知り、一人ひとりに合った治療を見つけるためにとても重要です。

まず、病院では医師が皆さんの体の様子をじっくり診察します。

・意識がはっきりしているか

・手足が普段通り動くか

・目の動きや瞳の大きさに変化はないか

・これらの観察は、脳のどの場所が、どのくらい影響を受けているかを知るための大切な第一歩です。

脳の中を見る画像検査

外からは見えない脳の状態を詳しく調べるために、特別な機械を使った検査をします。

・CT検査(シーティー検査)

・脳の中に出血がないか

・脳が腫れていないか

・頭の骨が折れていないか

・短時間でこれらの情報を確認できるため、急いでいる時にとても役立ちます。

・MRI検査(エムアールアイ検査)

・CT検査よりもさらに詳しく、脳の小さな傷を見つけ出せます。

・時間が経つにつれて脳の状態がどう変化していくか、といったことまで分かります。

検査の結果から治療へ

これらの検査の結果から、脳の傷や腫れの具合が分かります。もし、脳の腫れがひどく、頭の中の圧力が非常に高くなっていると診断された場合、脳の圧力を下げるための手術が必要になることがあります。この手術を「減圧開頭術(げんあつかいとうじゅつ)」と呼びます。

減圧開頭術は、脳の圧力を和らげるために、頭の骨の一部を開いて脳を覆う「硬膜(こうまく)」という丈夫な膜を処置する手術です。最近の研究では、硬膜の処置方法によって、手術後の合併症(ほかの病気が起きること)の発生率や、手術にかかる時間が変わる可能性があることが報告されています。

具体的には、硬膜を完全に閉じない「開放(かいほう)アプローチ」という方法があります。この開放アプローチは、従来のしっかり閉じる方法と比べて、全体の合併症が少なくなる傾向にあります。また、手術にかかる時間も平均で50分以上短くなることが示されています。ただし、感染症や脳脊髄液(のうせきずいえき)の漏れ、死亡率、手術後の神経の状態については、どちらの方法でも大きな違いは見られません。私たちは、お子さんにとって最も安全で効果的な方法を選ぶために、このような最新の研究結果も参考にしながら、慎重に判断を進めています。

正確な検査と診断は、その後の治療方法を決める上で非常に重要な役割を果たします。早く病気を見つけることで、深刻な症状になることを防ぎ、お子さんが元気になる可能性を高めることができます。少しでも気になることがあれば、すぐに専門医に相談してください。

脳挫傷の治療

脳挫傷の治療は、脳の傷の程度や場所、そしてお子さんの体の状態によって様々な方法があります。

私たちは、これ以上脳が傷つかないように守り、脳の働きをできるだけ元に戻すことを目指しています。

お子さん一人ひとりの状態を詳しく見て、最も良い治療の計画を立てていくことが大切です。

もし脳の腫れがひどい場合や、脳の中に出血がたくさんある場合には、手術が必要になることがあります。

代表的な手術の一つに「減圧開頭術(げんあつかいとうじゅつ)」というものがあります。

これは、一時的に頭の骨の一部を外し、脳にかかる圧力を下げてあげる手術です。

こうすることで、脳への負担を軽くし、回復を助けることができます。

この減圧開頭術を行うときには、脳を覆う「硬膜(こうまく)」という丈夫な膜の処置方法にいくつかの選択肢があります。

最近の研究では、「硬膜開放(こうまくかいほう)アプローチ」という方法が注目されています。

この方法は、硬膜を完全に閉じないで処置をします。

従来の硬膜をしっかりと縫い合わせて閉じる方法と比べて、手術の後に起こる可能性のある問題(合併症と呼びます)が少ないことが分かっています。

具体的には、この硬膜開放アプローチを行うと、全体的な合併症の発生率が有意に低いと報告されています。

さらに、この硬膜開放アプローチは、手術にかかる時間を平均で50分以上も短くできるというメリットもあります。

手術時間が短縮されることで、お子さんの体への負担も軽くなり、治療全体の効率化にもつながると考えられています。

ただし、感染症(ばい菌が入ること)や脳脊髄液(のうせきずいえき)が漏れること、命に関わる危険、そして手術後の脳の神経の回復については、どちらの方法を選んでも大きな違いはないとされています。

私たち医師は、お子さんにとって最も安全で効果的な方法を選ぶために、このような新しい研究の結果も参考にしながら、一人ひとりの状況に合わせて慎重に判断を進めています。

手術が必要ない場合や、手術の後に脳の腫れを抑えたり、痛みやけいれんを管理したりするために、薬を使うこともあります。

回復の段階では、リハビリテーションが非常に大切です。

体や言葉、考える力などを取り戻すために、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士といった専門の先生たちが協力します。

お子さんの状態に合わせたプログラムを進め、機能の回復をサポートしていきます。

ご家族の皆さんの温かい協力も、お子さんが元気になるための大きな力となります。

私たち医療者はもちろん、ご家族が一緒に治療に向き合うことで、お子さんの回復を大きく後押しすることができます。