脳性麻痺
お子さんの成長過程で、もし「もしかしたら…」と心に不安を抱いたことはありませんか?脳性麻痺は、まだ成長途中の大切な脳が傷つくことで、体の動きや姿勢の維持に影響が出る病気です。その症状は多岐にわたり、原因も妊娠中から出産後すぐの間に起こる脳の損傷に由来します。
早期発見と適切な治療は、お子さんの未来を大きく左右する大切な鍵となります。この記事では、脳性麻痺の多様な症状、原因、そして治療法の一つである手術後に約20.5%の方に見られる脊柱側弯症といった合併症のリスクまで、最新の知見を交えて詳しく解説します。
お子様とご家族が安心して病気と向き合い、適切な選択をするための一助となれば幸いです。
脳性麻痺の概要
脳性麻痺は、まだ成長している途中の大切な脳が、何らかの理由で傷ついてしまうことで起こる病気です。 この病気があると、体の動きがぎこちなくなったり、良い姿勢を保つのが難しくなったりすることがあります。 生まれたばかりの赤ちゃんに見られることもあれば、小さいお子さんのうちに症状が現れることもあります。
脳性麻痺の症状は、お子さんによって本当にさまざまです。 例えば、手足が思うように動かせなかったり、筋肉が強くつっぱったりする症状が見られます。 また、体のバランスをとることが難しく、歩きにくかったり、座っていられなかったりすることもあります。 これは、脳のどの部分がどの程度傷ついたかによって、影響が出る体の場所や動き方が変わるためです。
このような脳性麻痺に対しては、お子さんそれぞれの症状に合わせて、いろいろな治療が行われます。 治療の一つに、足の筋肉のつっぱりなどを和らげるための手術があります。 これは「選択的脊髄後根切断術(SDR)」と呼ばれる手術で、体の動きを少しでも楽にする目的で行われます。 私たち医師は、お子さんが少しでも楽に生活できるよう、最善の治療法を提案しています。
しかし、この手術を受けた後には、いくつかの体の変化が起こる可能性も報告されています。 例えば、**脊柱側弯症(せきちゅうそくわんしょう)**という、背骨が曲がる症状が報告されています。 これは、手術を受けた方の約20.5%に見られることがあります。 また、便秘(べんぴ)といった神経学的な不調も、約14.4%の方に起こることがわかっています。 これらの合併症は、患者さんの日々の生活の質に影響を与える可能性があるため、慎重に考える必要があります。
特に、骨格が成長している時期は、定期的に背骨の状態などを確認し、早期に変化を見つけて対応することがとても大切です。 もし手術などの治療法を検討する際には、良い影響だけでなく、起こりうる体の変化についても、ご家族と医療者が一緒にじっくり話し合うことが重要です。 お子さんとご家族が納得し、安心して治療に臨めるよう、私たちは丁寧な説明を心がけています。
脳性麻痺の種類
脳性麻痺は、お子さんによって症状の現れ方が本当にさまざまです。 これは、脳の傷ついた場所やその程度が一人ひとり異なるため、体の動き方や影響を受ける部分に違いが出るからです。 私たち医師は、お子さんそれぞれの状態を詳しく理解するために、脳性麻痺をいくつかの種類に分けて考えています。
主に「体の動かし方の特徴」と「麻痺の影響がある体の場所」の2つの視点から分類されます。
体の動かし方の特徴による分類
お子さんの体の動かし方で、主に次の4つのタイプがあります。
- 痙直(けいちょく)型
- 筋肉がぎゅっと固まってしまうタイプです。
- 手足の関節を曲げたり伸ばしたりするのが難しくなります。
- 脳性麻痺の中で最も多く見られる種類です。
- アテトーゼ型
- 自分の思いとは関係なく、手足や体がゆっくり、または不規則に動いてしまうタイプです。
- 体のバランスを保つのが難しいことがあります。
- 失調(しっちょう)型
- バランスを取ることが苦手で、ふらつきやすいタイプです。
- 手足の細かい動きを上手に調整することが難しい場合があります。
- 混合型
- 上記のいくつかのタイプが合わさっている場合を指します。
麻痺の影響がある体の場所による分類
次に、麻痺の影響がどの範囲に出ているかによって、さらに細かく分類されます。
- 片麻痺(へんまひ)
- 体の右半分か、あるいは左半分か、どちらかだけに麻痺がある状態です。
- 両麻痺(りょうまひ)
- 主に両足に麻痺の影響が強く出ていて、腕には比較的軽い影響があることが多いタイプです。
- 四肢麻痺(ししまひ)
- 手足のすべてと体の中心部分にも、麻痺の影響が広く及んでいる状態です。
これらの分類は、お子さんがどのような動きの課題を抱えているのかを知り、それぞれに合わせたリハビリテーションや支援を計画する上で非常に大切です。
私たちの脳は、筋肉を動かすときにいくつかの筋肉をまとめて協調させて動かす「連携プレー」をしています。 これは専門的に「筋シナジー」と呼ばれています。 最近の研究では、脳性麻痺のあるお子さんの場合、この筋肉の「連携プレー」(筋シナジー)の数がそうでないお子さんと比べて少なかったり、その組み立て方が異なっていたりすることが分かっています。
具体的に言うと、体を動かすための「脳からの指示の出し方」が、通常とは違うパターンになっている、ということです。 この「筋シナジー」の違いを詳しく調べることは、お子さん一人ひとりの運動機能障害を理解し、より効果的なリハビリ計画を立てるための大切な手がかりとなっています。 しかし、現在の治療で体の動きが改善しても、この脳からの「指示の出し方」自体は大きく変わらないことがあるという研究結果も報告されています。
そのため、私たち医師は、お子さんの状態を正確に把握し、最新の研究結果も参考にしながら、それぞれのお子さんに最も適した治療やリハビリテーションを一緒に考えていくことを大切にしています。 脳からの「指示の出し方」をどう改善していくかは、今後の研究が期待される大きな課題でもあります。
脳性麻痺の原因
脳性麻痺は、まだ成長している途中の大切な脳が、お母さんのお腹の中にいるときから生まれてすぐまでの間に、何らかの理由で傷ついてしまうことで起こる病気です。この脳の傷が、私たちが体を動かすための命令を出す部分に影響を与えるため、お子さんの運動機能に様々な特徴が現れる原因となります。
脳に傷がつく主な時期と原因は次の通りです。
- お腹の中にいるとき(妊娠中)
- お母さんの特定の感染症(風疹など)にかかると、 赤ちゃんにも影響が出ることがあります。
- 赤ちゃんの脳がうまく作られないこと(脳形成不全)も、 原因の一つです。
- お腹の中で脳からの出血が起こってしまうこともあります。
- 赤ちゃんが生まれてくるとき(出産時)
- 予定日より早く生まれる「早産」や、 小さく生まれる赤ちゃんは、脳が未熟で傷つきやすいです。
- 出産中に赤ちゃんに酸素が足りなくなってしまうと、 脳にダメージを与えることがあります。
- 生まれてから間もない時期(出産後すぐ)
- 「脳炎」や「髄膜炎」のような重い感染症にかかると、 脳に炎症が広がることがあります。
- 未熟な赤ちゃんに多い脳からの出血や、 強い黄疸(おうだん)も脳に影響を与えることがあります。
これらの原因で脳に傷が生じると、体を動かすときの「筋肉の連携プレー」に違いが出ます。最近の研究では、脳性麻痺のお子さんでは、この連携プレーの数が少なかったり、パターンが異なったりすることが分かっています。つまり、脳の傷が原因で、筋肉への指示がうまく伝わらないため、思ったように体を動かせなくなるのです。治療で体の動きが良くなっても、この「脳からの指示の出し方」自体は大きく変わらないことも報告されており、今後の研究が期待される部分です。
私たち医師は、脳性麻痺の原因をできるだけ早く見つけ、病気を早く診断することがお子さんの将来にとって何よりも大切だと考えています。最近の研究では、早期診断のためのガイドラインを導入することで、脳性麻痺が診断される平均年齢が約7.5ヶ月も早まることが明らかになりました。特に、発症のリスクが高い赤ちゃんでは、平均して生後4.2ヶ月という早い時期に診断できるようになっています。
早く診断されることは、お子さん一人ひとりに合ったリハビリや治療を、より早く始めることにつながります。早期に適切な支援を始めることで、お子さんの運動能力の発達を助け、将来の生活の質を大きく改善する可能性を秘めているのです。お子さんとご家族が安心して病気と向き合えるよう、私たちは丁寧な説明とサポートを心がけています。
脳性麻痺の症状
脳性麻痺の症状は、お子さんによって本当にさまざまです。 これは、脳の傷ついた場所や大きさが違うため、症状の現れ方も一人ひとり異なるからです。 しかし、共通して多くのお子さんに見られる症状があります。 私たち医師は、これらの症状を丁寧に見て、それぞれのお子さんに合ったサポートを考えています。
一番多く見られるのは、体の動きに関する症状です。 たとえば、手足の筋肉がぎゅっとつっぱってしまい、関節を曲げたり伸ばしたりしにくい「痙縮(けいしゅく)」という状態があります。 健康な子がするような、スムーズな手足の動きや、しっかりとバランスをとって座ったり立ったりするのが難しくなります。 「静止しているとき」や「体を動かしているとき」に、良い姿勢を保つことが難しいと感じるお子さんも少なくありません。 最近の研究では、乗馬療法(ヒッポセラピー)が、このような姿勢のバランスを良くするのに役立つ可能性が示されています。 特に、3歳から16歳までの痙性片麻痺や両麻痺のお子さんの「座っているときのバランス」や「体の正しい位置」の改善に効果があるかもしれません。
体の動きの難しさが続くと、骨や関節に負担がかかることがあります。 その結果、次のような体の変化が起こることも知られています。
- 背骨の曲がり(脊柱側弯症)
- 背骨が横に曲がってしまうことがあります。
- ある調査では、手術を受けた方の約20.5%に見られると報告されています。
- 股関節がずれること(股関節亜脱臼)
- 足の付け根にある股関節が、少しずれてしまうことがあります。
- 手術を受けた方の約10.3%に起こることがあります。
- 便秘
- 神経の働きが関係して、お腹の調子が悪くなり、便秘になることもあります。
- 約14.4%の方に見られるという調査結果もあります。
これらの症状は、お子さんの成長の時期に特に注意して見ていく必要があります。 私たち医師は、定期的に背骨や股関節の状態を確認し、早く気づいて対応できるよう心がけています。
また、言葉を話すことや、自分の気持ちを相手に伝えるコミュニケーションに難しさを感じるお子さんもいます。 これは、社会の中で友達と遊んだり、学校で勉強したりする上で、特別なサポートが必要になることを意味します。 脳性麻痺の若者(15歳から25歳)が社会にどのくらい参加できているかを測る研究では、「場所に出席する」ことは測れても、「活動にどのくらい深く関わっているか」を測る尺度がまだ少ないことが指摘されています。 これは、コミュニケーションの難しさが、自分の気持ちを伝えることをより複雑にしているためかもしれません。 お子さんやご家族が安心して毎日を過ごせるよう、私たち医療者はこれからもサポートを続けていきます。
脳性麻痺の検査・診断
お子さんの脳性麻痺をできるだけ早く見つけることは、その後の成長を大きくサポートするために非常に大切です。私たち医師は、お子さん一人ひとりの発達を丁寧に観察しています。少しでも気になる点があれば、速やかに専門的な検査へとつなげたいと考えています。
脳性麻痺の診断は、まずお子さんの日々の動きをじっくり見守ることから始まります。
- 首がすわる時期
- 寝返りができる時期
- おすわりやはいはい
- そして歩き方など
お子さんの月齢や年齢に合った動きが、きちんとできているかを確認します。もし健康なお子さんと比べて、少しでも動きに違いがあれば、それは大切なサインかもしれません。
次に、私たち医師が直接お子さんの体を診察します。
- 筋肉のやわらかさやつっぱり具合
- 関節がスムーズに動くか
- 赤ちゃん特有の反射(原始反射)が残っていないか
これらを丁寧に確認します。原始反射とは、成長とともに自然となくなるはずの赤ちゃんの動きのことです。残っていると発達の遅れを示すことがあります。
さらに、必要に応じて頭のMRI検査(磁気共鳴画像診断装置)も行います。MRIは、脳の中の状態を詳しく見るための検査です。
これらの診察や検査の結果、そしてお子さんの発達の様子を総合的に見て、小児神経科の専門医が慎重に診断を行います。脳性麻痺の診断は、一度で確定するものではありません。お子さんの成長を見守りながら、時間をかけて進められることがあります。
これまで、脳性麻痺のリスクが高いお子さんへの早期介入が重視されてきました。しかし、最近の研究では、一見リスクが低いお子さんの中にも脳性麻痺と診断されるケースがあることが分かっています。だからこそ、今後は高リスクのお子さんだけでなく、すべてのお子さんに対し、より早く診断できるよう期待されています。医療専門家全体で知識を深め、連携を強化することが大切です。早期に診断し、その子に最も合ったリハビリテーションや生活のサポートを始めることが、お子さんの未来にとって何よりも大切なのです。
脳性麻痺の治療
お子さんの脳性麻痺の治療は、できることを増やし、毎日を楽しく過ごせるようにすることを目指します。 私たち医師は、一人ひとりのお子さんの成長や症状に合わせて、様々な方法を組み合わせて治療計画を立てています。 治療には、大きく分けて次の3つの方法があります。
- 体の動きを良くするための「リハビリテーション」
- 筋肉の緊張を和らげる「薬物療法」
- そして、場合によっては「手術」
リハビリテーションで体を動かす練習をしよう
リハビリテーションは、お子さんの体を上手に動かせるようにする大切な練習です。 専門の先生と一緒に、歩いたり、座ったりする練習を積み重ねていきます。 最近では、馬に乗る「ヒッポセラピー(乗馬療法)」というユニークなリハビリも注目されています。 このヒッポセラピーは、3歳から16歳のお子さん、特に体の左右どちらかに麻痺がある「痙性片麻痺」や、両足に麻痺がある「両麻痺」のお子さんに良い影響があることが分かっています。 馬の背中に乗ることで、
- 座った時のバランスが安定する
- 体を動かす時のバランスも良くなる
- 正しい姿勢を保ちやすくなる
など、姿勢をコントロールする力が伸びる可能性があるのです。 私たち医師は、このような新しい治療法も取り入れながら、お子さん一人ひとりに合ったリハビリを提案しています。
薬物療法で筋肉の緊張を和らげよう
薬物療法は、脳から筋肉への信号の伝わり方を助け、硬くなってしまう筋肉(痙縮)をやわらげるためのお薬を使う治療です。 筋肉のつっぱりが軽くなることで、体を動かしやすくなり、リハビリの効果も高まることが期待できます。 症状に合わせて、飲み薬や、筋肉に直接注射するお薬など、いくつか種類があります。
手術を考えるとき
症状が強く、筋肉のつっぱりがとても気になるお子さんには、「選択的脊髄後根切断術(SDR)」という手術が検討されることがあります。 この手術は、筋肉の過度な緊張を和らげることを目的としています。 しかし、手術には良い面と、注意しなければならない面の両方があります。 研究では、手術を受けたお子さんの体には、いくつかの変化が起こる可能性があることも分かっています。
例えば、
- 背骨の曲がり(脊柱側弯症)
- 背骨が横に曲がってしまうことが、手術を受けた方の約20.5%に見られることがあります。
- 股関節のずれ(股関節亜脱臼)
- 足の付け根にある股関節がずれてしまうことが、約10.3%のお子さんに起こる可能性があります。
- 便秘
- お腹の調子が悪くなり、便が出にくくなることが、約14.4%の方に起こる可能性があります。
- 感覚の変化
- 体の感覚が少し変わることも、約8.2%の方に見られることがあります。
これらの体の変化は、お子さんの成長の途中で特に注意して見ていく必要があります。 私たち医師は、お子さんが成長する大切な時期には、背骨や股関節の状態などを定期的にチェックし、変化を早く見つけるための「積極的なスクリーニング」を続けています。 そして、手術を考える際には、お子さんやご家族とじっくり話し合い、治療の良い点だけでなく、起こりうる体の変化についても納得していただくことがとても大切だと考えています。 お子さんが安心して治療を受け、毎日を笑顔で過ごせるよう、一緒に最善の方法を見つけていきましょう。













