脳出血
もし、ある日突然、手の力が抜けたり、言葉がうまく出てこなくなったら、どうしますか?脳出血は、私たちの体を動かし、考え、感じる司令官である「脳」の血管が破れることで突然発症し、あなたの生活を一変させる可能性のある病気です。急な頭痛や体の片側の麻痺、言葉の障害、意識の変化など、その症状は多岐にわたり、一刻を争う対応が求められます。
特に高血圧は脳出血の最大の原因とされ、ご高齢の方に多い「脳アミロイド血管症」による出血は、治療が難しいケースがあることも知られています。実際、ある研究では、この病気で手術を受けた患者さんの約19%が3ヶ月後に亡くなり、元気な状態に回復できたのは約23%にとどまるという厳しい報告もあります。
しかし、脳出血は早期発見と適切な治療が何よりも重要です。この記事では、脳出血の概要から、見過ごされがちな原因、突然現れる症状、そして命を守るための治療法までを詳しく解説します。大切な脳を守り、健やかな日常を取り戻すための一歩として、ぜひご一読ください。
脳出血の概要
脳出血は、私たちの体にとって、とても大切な「脳」の中で血管が破れてしまい、出血が起こる病気です。脳は、皆さんの体を動かしたり、考えたり、感じたり、話したりするすべての働きをコントロールする、いわば司令官のような存在です。そのため、脳のどこで出血するか、どれくらいの量出血するかによって、その働きにさまざまな影響が出てしまいます。
もし脳出血が起こると、普段できていたことが急にできなくなることがあります。例えば、「急に手の力が抜けてお箸が持てなくなる」「片方の足に力が入らず転びそうになる」「言いたい言葉がうまく出てこない」「人の話していることが理解しにくくなる」といった症状が、突然現れるのが特徴です。このような症状は、皆さんの生活に大きな変化をもたらすため、心配になるのも当然でしょう。
脳出血にはいくつか種類があり、原因も人によってさまざまです。特に、ご高齢の方に多く見られる「脳アミロイド血管症」という病気が原因で起こる脳出血は、治療が難しいケースがあることが分かっています。この病気は、脳の細い血管がもろくなり、破れやすくなるものです。
ある研究では、この病気で出血し、手術を受けた患者さんでは、残念ながら3ヶ月後に約19%の方が亡くなっていました。また、元気な状態にまで回復できた方は約23%にとどまると報告されています。特に「ご高齢であること」「もともと認知症があること」「入院したときの体の状態が思わしくないこと」などが、その後の回復に大きく影響を与える要因として考えられています。
脳出血は、出血が起こる場所や量、そして患者さん自身の体の状態によって、病状の経過が大きく変わります。もし、体に急な異変を感じたら、すぐに医療機関を受診し、適切な治療を始めることが何よりも大切です。早めに手当てをすることで、後遺症を最小限に抑え、元の生活に近づける可能性が高まります。
脳出血の種類
脳出血には、出血が起きる場所やその原因によって、いくつかのタイプに分けられます。それぞれのタイプで特徴が異なり、治療の進め方や、その後の生活の見通しも変わってきます。
1. 高血圧が原因で起こる脳出血(高血圧性脳出血)
このタイプは、脳出血の中でも最も多く見られます。長年にわたって血圧が高い状態が続くと、脳の中にある細い血管がもろくなり、突然破れて出血してしまいます。日頃から血圧の管理を行うことが、とても大切です。
この高血圧性の脳出血の後には、急に意識を失ったり、体がぴくぴくとけいれんしたりする「てんかん発作」が起こることがあります。私たちは、この発作を予防するために、お薬(抗てんかん薬)を使うことがあります。しかし、ある研究では、お薬を使ってもすべての方の発作を完全に抑えることは難しいと分かっています。特に、お薬を飲んだとしても、その後の「体の動きが良くなる」といった機能的な回復や、「命を救う」ということには、あまり大きな影響がないということも知られています。ただし、脳波の検査と合わせて、発作が起きやすいと判断された方だけに使うと、発作の回数を減らせる可能性があることも分かっています。
2. 脳の血管に特殊なたんぱく質がたまるタイプの脳出血(脳アミロイド血管症関連葉状脳内出血)
この脳出血は、ご高齢の方に比較的多く見られる種類です。脳の表面に近い部分(「葉状」と呼ばれる場所)の血管に、「アミロイド」という特殊なたんぱく質がお掃除の邪魔をしてしまい、血管がもろくなります。そのもろくなった血管が破れて出血を起こすものです。
私たちは、このタイプの出血に対して、出血した血を取り除く手術を行うことがあります。手術自体は安全にできる場合が多いのですが、残念ながら、ある研究では、手術を受けても「3ヶ月後に約19%の方が亡くなっていた」と報告されています。また、「元気な状態にまで回復できた方は約23%にとどまる」という厳しい結果も出ています。特に「ご高齢であること」「もともと認知症があること」「入院したときの体の状態が思わしくないこと」などが、その後の回復を難しくする要因として考えられています。
3. 飲んでいるお薬が関係する脳出血
私たちは、病気の治療のために様々な大切なお薬を使いますが、中には脳出血のリスクをわずかに上げてしまうものもあります。例えば、血液中のコレステロールを下げるお薬の一部(「スタチン」という種類のお薬)を飲んでいると、ごくわずかですが脳出血が起こるリスクが上がることが分かっています。
特に、以前に脳卒中(脳梗塞や脳出血など)を経験された方や、ご高齢の方で、その傾向が少し強く見られることがあります。もし、ご自身がコレステロールを下げるお薬を飲んでいて心配な場合は、一度主治医の先生に相談してみてください。一方で、「PCSK-9阻害剤」や「エゼチミブ」といった他のお薬や、中性脂肪を下げるお薬では、脳出血のリスクがはっきりと増えることは確認されていません。
4. その他の脳出血
この他にも、脳の血管にできた「脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)」というコブが破れたり、生まれつきの血管の病気(「脳動静脈奇形」や「もやもや病」など)が原因で脳出血が起こることもあります。
このように、脳出血にはさまざまな種類があります。私たち医師は、どの種類の脳出血なのかを詳しく調べて、あなたに一番合った治療法を見つけていきます。心配なことや、聞きたいことがあれば、いつでも担当の医師や看護師に尋ねてください。
脳出血の原因
脳出血は、私たちの脳で血管が破れて出血する病気ですが、その原因は一つだけではありません。皆さんの日常生活や体質、病気の状態など、様々なことが関係しているのです。一体どんなことが脳出血を引き起こす可能性があるのか、一緒に見ていきましょう。
1. 体のSOS「高血圧」が最大の原因
私たちの体にとって、血圧の管理はとても大切です。もし長い間血圧が高いままだと、脳の中にある細い血管が硬く、もろくなってしまいます。まるで古いゴムホースが硬くなって破れやすくなるように、脳の血管も突然出血してしまうことがあるのです。
特に、日頃の食生活が乱れていたり、運動不足だったり、たばこを吸ったり、お酒を飲みすぎたりすることが高血圧につながります。私たちは、この高血圧をきちんと管理することが、脳出血の予防に何よりも大切だと考えています。
2. 実は関係することも?「お薬」とのつながり
病気を治すために飲んでいる大切なお薬の中にも、脳出血の可能性をわずかに上げるものがあることを皆さんに知ってほしいと思います。
・コレステロールを下げるお薬の一部
・例えば、血液中のコレステロールを下げる「スタチン」という種類のお薬が挙げられます。
・ある研究では、コレステロールを下げる治療を続けていると、全体として脳出血が起こる可能性がわずかに高まることが分かっています(約1.16倍の増加)。
・特に、過去に脳卒中(脳梗塞や脳出血など)を経験した方や、平均年齢が65歳以上のご高齢の方では、その可能性がさらに少し高くなる傾向が見られます(約1.34倍から1.46倍の増加)。
・しかし、これはあくまで「わずかな」リスクの増加です。
・「PCSK-9阻害剤」や「エゼチミブ」といった別のお薬や、中性脂肪を下げるお薬では、脳出血のリスクがはっきりと増えることは確認されていません。
・もし、今飲んでいるお薬について心配な場合は、自己判断で中断せず、必ず主治医の先生に相談してください。
3. 重い病気にかかった時にも注意が必要
体がとても弱っている時や、特別な治療を受けている時にも、脳出血が起こりやすくなることがあります。
・重症の新型コロナウイルス感染症とECMO治療
・例えば、新型コロナウイルス感染症が重症になり、ECMO(エクモ)という人工肺の機械で命をつなぐ治療を受けている方がいます。
・このような大変な状況では、残念ながら100人に約11人という割合で、脳の中に出血が起こってしまうことが分かっています。
・この出血のうち、約73%は脳の深い部分に起こる「実質内出血」というタイプです。
・さらに、脳出血を含む神経の合併症があった場合、そうでない方に比べて亡くなるリスクが約2.24倍も高くなるという研究結果もあります。
・私たち医療者は、こうした重症の患者さんの脳出血を見逃さないよう、細心の注意を払っています。
4. 生まれつきの血管の形も関係する
まれに、生まれつき脳の血管に「脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)」というコブや、「脳動静脈奇形」という特別な形の血管があると、それが破れて脳出血を引き起こすことがあります。これは、例えるなら、最初から少し弱い部分がある風船のようなものです。
脳出血の原因は様々です。ご自身の生活習慣や、飲んでいるお薬、体の状態について気になることがあれば、いつでも私たち医師にご相談ください。
脳出血の症状
脳出血は、ある日突然、皆さんの体に「いつもと違う」というサインを送ってきます。脳のどこで出血したかによって、体のさまざまな部分に異変が起こります。これらのサインに早く気づくことが、その後の回復に大きく影響するため、どのような症状があるのかを知っておくことは非常に大切です。
主な症状は、まるでスイッチが切れたかのように急に現れます。
・急な頭痛
・これまでに経験したことがないほど強い痛みが突然起こります。
・体の片側に力が入らない・しびれる
・右手がうまく動かせない、左足がしびれて思うように歩けないなど、
・体の左右どちらかだけに症状が出ることが多いです。
・言葉が出にくい・理解しにくい
・言いたい言葉がうまく出てこない、呂律が回らない、
・相手の話している内容がよくわからない、といった症状が見られます。
・意識の変化
・ボーっとしたり、眠くなったり、ひどい場合には
・声をかけても反応しない状態になることがあります。
・視力の異常
・物が二重に見えたり、片方の目が見えにくくなったり、
・視野の一部が欠けたりすることがあります。
・吐き気・嘔吐
・激しい頭痛に続いて、吐き気がしたり、
・実際に吐いてしまったりすることも少なくありません。
これらの症状が一つでも現れた場合は、迷わずすぐに救急車を呼ぶか、お近くの医療機関を受診してください。一刻も早い対応が、皆さんの体への負担を最小限に抑えることにつながります。
脳出血の治療が進んだ後にも、気をつけたい症状があります。一つは「てんかん発作」です。これは脳の出血によって、脳の電気的な活動が一時的に乱れて起こるけいれんなどの症状です。発作を起こしやすい方には、予防のためにお薬を使うこともあります。しかし、研究では、お薬を使ったとしても、すべての発作を完全に防ぐことは難しいと報告されています。また、お薬を使っても、手足の動きが良くなるなどの機能回復や、命に関わる状態を直接改善する効果は期待できないことが分かっています。特に、脳波の検査で発作のリスクが高いと判断された場合にのみ、発作の回数を減らす目的で使われることがあります。
もう一つは「アパシー」と呼ばれる症状です。アパシーとは、何事にも意欲がわかなくなったり、以前は楽しめていたことにも興味が持てなくなったりする、心の変化のことです。脳卒中を経験した患者さんのうち、約3人に1人(33.0%)に見られると言われています。特に、虚血性脳卒中(脳梗塞)に比べると、脳出血ではアパシーの発生率は低い傾向にありますが、それでも脳出血後に現れる可能性は十分にあります。この心の変化は、日常生活を送る上で大きな支障となることがありますので、もし自分や家族にこのような変化が見られたら、遠慮なく専門家に相談し、サポートを受けることが大切です。
脳出血の検査・診断
脳出血が疑われる場合、皆さんが病院に到着すると、まず医師が大切な体の状態を確認します。意識がはっきりしているか、手足は動かせるか、お話ができるかなど、神経の働きに異常がないかをじっくりと診察します。この診察は、脳のどこで問題が起きているかを探る最初の手がかりとなります。
次に、脳の詳しい状態を画像で確認する検査を行います。
・CT検査(シーティーけんさ)
・エックス線を使って脳の輪切りの写真を撮る検査です。
・脳の中で出血している場所や、出血の大きさを短時間で確認できます。
・脳出血は緊急性が高いため、すぐに結果が分かるCT検査が最初に選ばれることが多いです。
・この検査で、出血の有無と場所をいち早く特定します。
・MRI検査(エムアールアイけんさ)
・磁気を使って脳の画像を撮影する検査です。
・CT検査では見えにくい小さな出血や、出血が起こった時期をより詳しく調べることができます。
・出血の詳しい情報が、今後の治療方針を決める上で役立ちます。
これらの画像検査に加えて、皆さんの全身の状態を把握するための血液検査も行われます。血液が固まる能力に問題がないか、体に炎症が起きていないかなどを確認します。さらに、脳の血管の様子をより詳しく見るために、「脳血管造影検査」を行うこともあります。
すべての検査結果を総合的に判断し、脳出血の種類や出血の場所、出血の量などを特定して診断を確定します。その上で、皆さんの体の状態に合わせた最適な治療方針を慎重に検討していきます。私たち医療者は、皆さんが安心して治療を受けられるよう、一人ひとりに合った対応を心がけています。
特に、重い病気で治療を受けている方や、特別な医療処置を受けている方では、脳出血が起こる可能性に細心の注意が必要です。例えば、新型コロナウイルス感染症が重症になり、ECMO(エクモ)という人工肺の機械で命をつなぐ治療を受けている方では、約100人に11人という割合で脳の中に出血が起こることが分かっています。さらに、脳出血などの神経の合併症が起こると、そうでない方に比べて亡くなるリスクが約2.24倍も高くなるという報告もあります。私たち医療者は、このような患者さんの脳出血を見逃さないよう、小さな体の変化にも細心の注意を払って診断にあたり、皆さんの命を守るために常に最善を尽くしています。
脳出血の治療
脳出血は、私たちの脳で起きた緊急事態です。
治療の目標は、まず皆さんの命を守ることです。
そして、できる限り元の生活に戻れるよう、脳の働きを回復させることにも力を入れます。
脳出血の治療法は、大きく分けて二つあります。
一つは「手術」で、もう一つは「薬」による治療です。
手術による治療
脳出血の場所や出血の量が多い場合、あるいは出血した血液の塊が脳を強く圧迫して危険な状態にある場合は、手術でその血液を取り除くことがあります。
特に、脳の血管に特殊なたんぱく質がたまるタイプの脳出血(脳アミロイド血管症関連の脳出血)の場合、手術中に再び出血するリスクは低いことが研究で示唆されています。
このことから、手術は安全に行えると考えられています。
しかし、残念ながら、手術をしても回復が難しいケースがあることも知っておいてください。
たとえば、ご高齢の方や、入院された時にすでに体の状態が思わしくない方、もともと認知症をお持ちの方などは、その後の回復が難しい傾向にあります。
実際、ある研究では、このような病気で手術を受けた患者さんのうち、約19%の方が3ヶ月後に亡くなっていました。
また、元気に活動できる状態にまで回復できた方は、約23%にとどまるという厳しい報告もあります。
私たちは、こうした患者さんの状態を見極め、ご家族とよく相談しながら、最も良い治療法を一緒に考えていきます。
薬による治療
手術が不要な場合や、手術と組み合わせて行われるのが薬による治療です。
最も大切なのは、血圧を適切な範囲に保つことです。
血圧が高すぎると、再び出血する危険があるからです。
そのため、血圧を下げるお薬を適切に使うことが重要になります。
また、出血がそれ以上広がらないように、出血を抑えるお薬が使われることもあります。
皆さんが他の病気で飲んでいるお薬も、脳出血の治療に影響することがあります。
例えば、血液中のコレステロールを下げる「スタチン」という種類のお薬は、脳出血のリスクをわずかに高める可能性があることが研究でわかっています。
・リスクが高まる方の例
・以前に脳卒中(脳梗塞や脳出血など)を経験した方では、脳出血のリスクが約1.46倍に増えることが示されています。
・平均年齢が65歳以上のご高齢の方では、脳出血のリスクが約1.34倍に増えることが確認されています。
私たちは、このようなリスクがあることを理解した上で、他の病気の治療と脳出血の予防・治療のバランスを考え、最善の選択をします。
ご自身の判断で、コレステロールを下げるお薬の服用をやめることは危険ですので、必ず主治医の先生に相談してください。
一方で、「PCSK-9阻害剤」や「エゼチミブ」といった別のお薬や、中性脂肪を下げるお薬では、脳出血のリスクがはっきりと増えることは確認されていません。
さらに、新しい治療法として「コルヒチン」というお薬が脳出血の治療に役立つ可能性があるか、現在も研究が進められています。
リハビリテーションで元の生活へ
出血が落ち着き、命の危険がなくなった後は、失われた体の機能を取り戻すためのリハビリテーションがとても大切です。
手足の動き、言葉を話すこと、飲み込みの練習など、専門のスタッフが一人ひとりの状態に合わせて、できる限り元の生活に近づけるよう、寄り添いながらサポートします。
リハビリはつらいと感じることもあるかもしれませんが、続けていくことで、皆さんの「できること」が少しずつ増えていきます。













