肺性脳症
「ただの息切れ」だと思っていたら、実は脳に危険が迫っているサインかもしれません。肺の機能低下が脳にまで影響を及ぼす「肺性脳症」は、体内の酸素不足と二酸化炭素の増加によって、ある日突然、意識がもうろうとするなどの深刻な症状を引き起こす病気です。
特に、慢性閉塞性肺疾患(COPD)など肺に持病がある方は、風邪をきっかけに発症するケースも少なくありません。腕を伸ばすと鳥が羽ばたくように震える「羽ばたき振戦」といった、見過ごされがちなサインにも注意が必要です。
この記事では、肺性脳症のメカニズムから具体的な症状、治療法までを詳しく解説します。最新研究で注目される「腸」と「肺」、「脳」の意外な関係性にも触れながら、ご自身や大切なご家族を守るための知識をお伝えします。
肺性脳症の概要
肺性脳症とは、肺の機能が低下することが原因で、脳の働きにも影響が出てしまう状態のことです。呼吸がうまくできなくなると、体の中に二酸化炭素がたまり、脳に必要な酸素が不足してしまいます。
この二酸化炭素の増加や酸素の不足が、脳の正常な働きを妨げ、意識障害などを急に引き起こします。もともと肺に慢性的な病気がある方が、風邪などをきっかけに呼吸の状態が悪化し、この病気を発症することがあります。
肺性脳症の主な特徴
・原因
・肺の病気などによる呼吸機能の低下
・体内の変化
・血液中の二酸化炭素が増え、酸素が減る
・脳への影響
・意識がもうろうとする、けいれん、頭痛など
近年の研究では、体の中の様々な臓器がお互いに影響しあっていることが分かってきています。例えば、腸内環境の乱れが、肺や脳の病気に関係するという報告もあります。これは「腸-肺-脳軸」と呼ばれ、体のつながりの深さを示しています。このことからも、肺の健康が脳を含む全身の健康にとっていかに大切かがうかがえます。
肺性脳症の種類
肺性脳症は、血液中のガスのバランスが崩れる原因により、主に2つの種類に分けられます。
・CO2ナルコーシス
・血液中の二酸化炭素が増えすぎることが原因
・低酸素脳症
・血液中の酸素が足りなくなることが原因
これらは、どちらか一方だけが起こることもあります。しかし、両方が同時に起こることも少なくありません。
CO2ナルコーシス
体からうまく排出できなかった二酸化炭素が増えすぎた状態を「高二酸化炭素血症」といいます。この状態が原因で起こるのが、CO2ナルコーシスです。
「ナルコーシス」とは「麻酔」という意味を持つ言葉です。増えすぎた二酸化炭素が脳の働きを鈍らせてしまい、まるで麻酔がかかったように意識がもうろうとします。
低酸素脳症
脳に十分な酸素が届かなくなる「低酸素血症」が原因で、脳の機能に障害が起こる状態です。脳は体の中でも特に多くの酸素を必要とする、とても大切な臓器です。
そのため、酸素が不足すると脳の細胞が直接傷ついてしまいます。その結果、脳の正常な働きが失われてしまうのです。
種類 | 原因となる血液の状態 | 脳に起こること
CO2ナルコーシス | 二酸化炭素が多すぎる(高二酸化炭素血症) | 脳の働きが鈍くなり、意識がもうろうとする
低酸素脳症 | 酸素が足りない(低酸素血症) | 酸素不足で脳の細胞がダメージを受ける
特に、慢性閉塞性肺疾患(COPD)のように、肺の機能が長く低下している方では、この両方が起こりやすくなります。
近年の研究では、お腹の中の腸内環境の乱れが、肺や脳といった遠く離れた臓器の病気にも影響を与える可能性がわかってきました。このように、私たちの体はすべてつながり合っているのです。
肺性脳症の原因
肺性脳症は、肺の働きが大きく弱まることが根本的な原因です。呼吸によって酸素を取り込み、二酸化炭素を出すという、体の基本的な機能がうまく働かなくなってしまうのです。
この状態になると、血液の中に2つの大きな問題が起こります。一つは、いらなくなった二酸化炭素が増えすぎることです。もう一つは、体に必要な酸素が足りなくなることです。
増えすぎた二酸化炭素は、脳の血管を広げて脳のむくみを引き起こします。また、酸素が不足すると、脳の細胞がエネルギーを作れなくなり、直接ダメージを受けてしまいます。
肺の働きを弱めてしまう主な病気
・慢性閉塞性肺疾患(COPD)
タバコなどが原因で、肺の組織が壊れてしまう病気です。
・肺線維症
肺が硬くなり、うまく膨らまなくなってしまう病気です。
・重い肺炎
細菌やウイルスによって肺がひどい炎症を起こした状態です。
・呼吸に関わる筋肉が弱くなる病気
筋萎縮性側索硬化症(ALS)などです。
もともとこれらの病気がある方に、風邪や他の薬の影響、心臓の働きの低下などが加わると、肺性脳症を発症しやすくなります。
最近の研究では、お腹の中の腸内環境のバランスが崩れること(ディスバイオシス)が、肺や脳の病気に影響を与える可能性が指摘されています。腸内の細菌がつくる物質が、遠く離れた肺や脳の血管に影響を及ぼすという考え方です。このように、体は全てつながり合っているのです。
肺性脳症の症状
肺の働きが弱まると、脳は二酸化炭素の増加と酸素不足という二つの問題に直面します。この脳の異常事態が、心と体に様々なサインとして現れます。
症状はゆっくりと現れることも、急に悪化することもあります。ご自身やご家族に、次のような変化がないかチェックしてみましょう。
【肺性脳症でみられる主な症状】
・脳の働きがにぶくなるサイン
・集中力が続かず、ぼーっとすることが増えます。
・いる場所や今日の日付などが分からなくなります。
・話のつじつまが合わなくなったり、急に興奮したりします。
・強い眠気に襲われ、意識がもうろうとします。
・体に現れるサイン
・特に朝起きたときに頭が痛むことがあります。
・吐き気をもよおしたり、実際に吐いてしまったりします。
・腕を前に伸ばすと、鳥が羽ばたくように手が震えます(羽ばたき振戦)。
特に、夜寝ている間は呼吸が浅くなりやすいため、朝に頭痛が起こりやすいのが特徴です。
また、近年の研究では、お腹の中の腸内環境の乱れが、肺や脳の病気に影響を与える可能性が指摘されています。腸内環境が乱れると、それが血液の流れに乗って、脳や肺の血管の壁を傷つけてしまうことがあるのです。体は全てつながり合っているため、一つの不調が他の場所にも影響を及ぼします。
これらの症状が進行すると、呼吸する力自体が弱くなってしまうことがあります。これは命に関わる危険な状態ですので、気になるサインがあれば、決して放置せずに医療機関に相談してください。
肺性脳症の検査・診断
肺性脳症が疑われる場合、まず体の中で何が起きているかを知る必要があります。原因を正確に突き止めるため、いくつかの検査を組み合わせて行います。
血液中のガスバランスを調べる検査
・動脈血液ガス分析
血液中の酸素と二酸化炭素の量を直接測る、とても重要な検査です。
手首などにある動脈から採血し、呼吸がうまくできているかを調べます。
原因の場所を画像で見る検査
・胸のレントゲン・CT検査
呼吸が苦しくなった原因を探るため、肺の状態を詳しく写真に撮ります。
・頭のCT・MRI検査
意識がもうろうとする原因を調べるため、脳のむくみなどを確認します。
また、脳の他の病気が隠れていないかも、この検査で確かめます。
引き金となった原因を探す検査
・血液検査やたんの検査
肺炎などの感染症が、肺の状態を悪化させる引き金になることがあります。
体の中で炎症が起きていないか、原因となる菌は何かを調べます。
検査の種類 | 主な目的
動脈血液ガス分析 | 血液中の酸素と二酸化炭素の量を正確に測ります。
胸のレントゲン・CT検査 | 呼吸が苦しい原因となっている肺の病気を見つけます。
頭のCT・MRI検査 | 脳のむくみの状態や、他の脳の病気がないか調べます。
血液検査・たんの検査 | 肺炎などの感染症が起きていないかを確認します。
これらの検査で肺や脳の状態を直接調べますが、体は全てつながっています。近年の研究では、お腹の中の腸内環境の乱れが原因で、肺や脳の血管の内側の壁がうまく働かなくなる可能性もわかってきました。このように広い視野で原因を探ることが、適切な治療につながるのです。
肺性脳症の治療
肺性脳症の治療は、脳の機能を守ることが一番の目標です。
そのため、原因である血液中のガスバランスの乱れを整えます。
具体的には、酸素不足と二酸化炭素の増加を改善します。
治療は、患者さんの体の状態に合わせて慎重に進められます。
・呼吸を助ける治療
・酸素吸入
鼻や口から酸素を吸って、血液中の酸素を増やします。
ただし、二酸化炭素が多い方では、酸素の量が多いと
かえって呼吸が弱まるため、量の調整が非常に重要です。
・換気補助療法
マスク型の装置を使い、肺に空気を送り込んで呼吸を助けます。
自分の力だけでは十分に二酸化炭素を吐き出せない場合に用います。
・人工呼吸器
意識の状態が悪いなど、重症の場合に行う治療です。
口から管を入れ、機械で確実に呼吸を管理します。
・引き金となった原因への治療
・原因の病気の治療
肺炎などの感染症が原因なら、抗菌薬などを使います。
・お薬の見直し
呼吸を弱める可能性のあるお薬を飲んでいないか確認し、
必要であれば中止や変更を考えます。
一度よくなっても、根本的な肺の病気があると再発しやすいです。
そのため、禁煙や呼吸リハビリで肺の力を保つことが大切です。
近年の研究では、お腹の中の腸内環境の乱れが、
肺や脳の血管の壁(内皮細胞)を傷つける可能性もわかってきました。
体は全てつながっているため、全身の健康を考えることが重要です。













