耳性帯状疱疹

ある日突然、片方の耳に激しい痛みが走る、顔がうまく動かせない…。そのつらい症状は、実は多くの人が子供の頃にかかった「水ぼうそう」のウイルスが原因で起こる「耳性帯状疱疹」かもしれません。

この病気は決して珍しいものではなく、年間発生率は1000人あたり約6人とも報告されています。ストレスや疲れで免疫力が落ちた時に体内に潜んでいたウイルスが再び目を覚まし、顔面麻痺や難聴といった深刻な後遺症を残す恐れがあるのです。

治療の遅れが生涯にわたる後遺症に繋がることもあるため、正しい知識と早期の対処が何よりも重要です。この記事では、耳性帯状疱疹の恐ろしい正体と、後悔しないために知っておくべき重要なサインや治療法について詳しく解説します。

耳性帯状疱疹の種類

耳性帯状疱疹は、症状の現れ方によっていくつかの種類に分けられます。 特に代表的なものが「ラムゼイ・ハント症候群」です。

ラムゼイ・ハント症候群

これは耳の帯状疱疹に加えて、顔やまわりの神経に症状が広がった状態です。 診断がつきにくく、患者さんの心と体に大きな負担をかけることもあります。

この症候群の主な症状は、以下の3つが特徴です。

  • 耳の症状
  • 耳の周りの赤い発疹や水ぶくれ、そして激しい痛みが現れます。
  • 顔の麻痺
  • 顔を動かす神経にウイルスが影響し、顔の片側が動きにくくなります。
  • めまいや難聴
  • 音や体のバランスを感じる神経に影響し、めまいや聞こえにくさが生じます。

VZV血管症を合併するケース

非常にまれですが、ウイルスが血管にまで広がり炎症を起こすことがあります。 これを「VZV血管症」と呼び、体の抵抗力が正常な方にも起こりえます。

血管に炎症が起こると、脳卒中などを引き起こす可能性もあります。 このように耳性帯状疱疹は、放置すると重い後遺症につながることもあります。

耳性帯状疱疹の原因

耳性帯状疱疹は、「水痘・帯状疱疹ウイルス」というウイルスが原因です。 これは、多くの人が子供の頃にかかる「みずぼうそう」と同じウイルスです。

みずぼうそうが治っても、ウイルスは体から完全に消えるわけではありません。 神経の根元にある「神経節」という場所に隠れ、静かに眠っている状態になります。

普段は体を守る免疫の力で、ウイルスの活動は抑えられています。 しかし、免疫力が低下すると、眠っていたウイルスが再び目を覚まします。 これをウイルスの「再活性化」と呼び、ウイルスは神経の中で増え始めます。

免疫力が低下する主なきっかけは、以下の通りです。

  • 加齢 年齢とともに免疫力は自然と低下する傾向があります。
  • 過労や強いストレス 心身の疲れは、体を守る力を大きく弱めてしまいます。
  • 他の病気やその治療 糖尿病やがんなどの病気、またはその治療薬の影響も考えられます。

再活性化したウイルスは、神経に沿って広がりながら炎症を起こします。 このウイルスによる炎症が、耳の激しい痛みや顔の麻痺などを引き起こすのです。

耳性帯状疱疹は症状が複雑なため、他の病気と間違われることもあります。 そのため、患者さんの心と体に大きな負担をかけることがある病気です。

耳性帯状疱疹の症状

耳性帯状疱疹のサインは、耳だけに現れるとは限りません。 顔の動きや体のバランスなど、全身に関わる症状が出ることが特徴です。

初期症状として、まず片方の耳の奥に突き刺すような激しい痛みが出ます。 その後、時間とともにウイルスが神経で活動し、次のような症状が現れます。 ご自身の状態と照らし合わせ、一つでも当てはまれば注意が必要です。

【耳や顔にあらわれる主な症状】

  • 皮膚の症状 耳の外側や耳の穴の中に、痛みを伴う赤い発疹や水ぶくれができます。
  • 顔の麻痺(顔面神経麻痺) 顔の片側が動かしにくくなり、表情がうまく作れなくなります。
  • 目が完全に閉じにくくなる
  • 口の片方が下がり、食事や飲み物がこぼれやすくなる
  • おでこにシワを寄せられない

【神経に関わる主な症状】

  • めまい 自分や周りがぐるぐる回るような感覚や、体がふらつく感じがします。
  • 難聴・耳鳴り 耳が聞こえにくくなったり、「キーン」というような音が聞こえたりします。

これらの症状に加え、頭痛を伴うことも少なくありません。 また、非常にまれですが、より注意すべき症状もあります。

ある研究報告では、ウイルスが血管にまで広がり炎症を起こすことで、目の動きが悪くなるなどの脳神経症状が出ることがわかっています。 さらに、帯状疱疹の激しい痛みが体に大きなストレスを与え、体内の塩分やカリウムといった電解質のバランスが崩れてしまうことも報告されています。

これらの症状は、病気が進行しているサインである可能性も考えられます。 気になる症状があれば、自己判断せず早めに医療機関へご相談ください。

耳性帯状疱疹の検査・診断

耳性帯状疱疹の診断は、まず医師が症状を直接見て、お話を聞くことから始まります。 多くの場合、この診察だけで診断がつくことがほとんどです。

【お話を聞く(問診)】 はじめに、いつからどんな症状があるかを詳しくお聞きします。 これは診断のヒントを探す、とても大切な時間です。

  • 耳の痛みや水ぶくれはいつからか
  • 顔が動かしにくい、めまいなどの症状はあるか
  • 過去に水ぼうそうにかかったことがあるか

【目で見る(視診)】 次に、耳やその周りの皮膚の状態を注意深く観察します。 片側の耳にできる、痛みを伴う赤い発疹や水ぶくれは、診断の大きな手がかりになります。

【診断をはっきりさせるための検査】 通常は上記の診察で診断がつきますが、症状がはっきりしない場合もあります。 その際は、診断を確定させるために追加で検査を行うことがあります。

検査の種類

どのような検査か

ウイルス検査

水ぶくれの中の液体を綿棒でこすり取ります。

原因のウイルスがいるかを調べる検査です。

血液検査

血液を少しだけ採ります。

ウイルスと戦った証拠(抗体)が増えているか確認します。

画像検査(MRIなど)

顔の麻痺やめまいが強い時に行います。

頭の中の写真を撮り、脳に異常がないか調べます。

これらの診察と検査の結果を総合的に判断し、最終的な診断が決まります。 気になる症状があれば、自己判断せずに早めに専門の医療機関を受診してください。

耳性帯状疱疹の治療

耳性帯状疱疹の治療は、時間との勝負です。 後遺症を残さないためにも、できるだけ早く治療を始めることが大切になります。 治療の目標は、大きく分けて以下の3つです。

  • ウイルスの増殖を抑えること
  • 痛みなどのつらい症状を和らげること
  • 顔の麻痺や神経痛などの後遺症を防ぐこと

特に、皮膚に症状が出てから72時間以内に治療を始めることが重要です。 研究でも、この期間内に抗ウイルス薬を使い始めると、症状や痛みを軽くし、回復までの期間を短くできると報告されています。

【治療の基本となるお薬】

  • 抗ウイルス薬 ウイルスが増えるのを抑えるお薬です。 治療の中心となり、決められた期間しっかり飲み切ることが大切です。
  • ステロイド薬 神経の腫れや炎症を強力に抑えるお薬です。 顔の麻痺やめまいが強い場合に、神経のダメージを減らす目的で使います。
  • 痛み止め(鎮痛薬) 耳の激しい痛みや頭痛を和らげます。 痛みを我慢すると体に大きなストレスがかかるため、適切に使いましょう。

【症状に合わせた追加の治療】

顔の麻痺や難聴、めまいなどの症状が強く出ている場合は、入院が必要です。 点滴で直接血管にお薬を入れ、より高い効果を目指します。

また、痛みが非常に強い場合や、後遺症の「帯状疱疹後神経痛」を防ぐために、専門的な治療を行うこともあります。 例えば、痛みの信号を伝える神経の近くに麻酔薬を注射する「神経ブロック注射」も選択肢の一つです。 この方法は、つらい痛みの発生率を下げるために考慮されます。

耳性帯状疱疹は、診断や治療が難しい場合もあり、患者さんの心と体に大きな負担をかける病気です。 気になる症状があれば、自己判断せず、すぐに医療機関を受診してください。