耳介血腫
柔道やラグビー選手に見られる、ゴツゴツと変形した「餃子耳」や「カリフラワー耳」。その正体は、耳に強い衝撃や摩擦が加わることで起こる「耳介血腫」という状態です。スポーツ選手特有のものと思われがちですが、実はアトピーなどで無意識に耳をかく癖が原因になることもあり、誰にでも起こり得るのです。
この耳の腫れを「たいしたことはない」と放置してしまうと、たまった血液が固まり、耳は元の形に戻らないほど変形してしまう可能性があります。この記事では、耳介血腫の詳しい原因から、変形を防ぐための正しい治療法までを解説します。手遅れになる前に、ご自身の状態を確認してみましょう。
耳介血腫の概要
耳介血腫(じかいけっしゅ)とは、耳の外側の部分である「耳介(じかい)」の皮膚と軟骨の間に、血液や液体がたまって腫れあがった状態のことです。
耳介は皮膚のすぐ下に軟骨があるため、外部からの衝撃が直接伝わりやすい特徴があります。柔道やラグビー、レスリングといった、耳に強い衝撃や摩擦が繰り返し加わるスポーツを行う方によく見られます。
この特徴から、耳介血腫は以下のようなさまざまな呼び方をされることがあります。
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別名 |
読み方 |
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柔道耳 |
じゅうどうみみ |
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レスリング耳 |
れすりんぐみみ |
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餃子耳 |
ぎょうざみみ |
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カリフラワー耳 |
かりふらわーいやー |
このうち「餃子耳」や「カリフラワー耳」は、血腫が固まって変形してしまった耳の見た目を表しています。
耳介血腫を治療せずにそのままにしておくと、たまった血液がだんだんと固まって「線維化(せんいか)」という状態になります。線維化とは、コラーゲンなどの硬い組織に置き換わることで、これにより耳介がゴツゴツと変形してしまうのです。
一度カリフラワー耳のように変形してしまうと、元の形に戻すのは簡単ではありません。形を整えるために手術が必要になる場合もあります。耳の腫れや違和感に気づいたら、変形が固まってしまう前に、できるだけ早く医療機関を受診することが大切です。
耳介血腫の種類
「耳の腫れ」とひとことで言っても、原因や耳の中にたまっている液体の種類によって、いくつかの状態に分けられます。見た目は同じようにぷっくりと腫れていても、中身が違うと治療法も変わってきます。
ここでは、耳の腫れを引き起こす代表的な3つの状態について、詳しく解説します。
- (典型的な)耳介血腫 柔道やラグビーなどのスポーツで、耳に強い衝撃が加わることが原因です。この衝撃で皮膚の下の細い血管が傷つき、皮膚と軟骨の間に血液がたまった状態を指します。「柔道耳」と呼ばれるものの多くが、この耳介血腫にあたります。
- 耳介偽嚢腫(じかいぎのうしゅ) 強い衝撃ではなく、比較的弱い刺激がくり返し加わることで起こります。アトピー性皮膚炎などで、無意識に耳をかく癖が影響することがあります。たまっているのは血液ではなく、漿液性(しょうえきせい)と呼ばれる黄色みがかった透明な液体です。
- 耳介軟骨膜炎(じかいなんこつまくえん) 耳介血腫ができたところに細菌が入り込み、感染を起こした状態です。「ばい菌」が原因で、軟骨やその周りの組織が強い炎症を起こします。たまる液体は膿(うみ)になることもあり、強い痛みや赤み、熱っぽさが出るのが特徴です。放置すると軟骨が大きなダメージを受け、変形が最もひどくなりやすい危険な状態です。
これらの違いを、以下の表にまとめました。
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種類 |
主な原因 |
たまる液体の種類 |
注意点 |
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耳介血腫 |
強い衝撃(スポーツなど) |
血液 |
「柔道耳」とも呼ばれる |
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耳介偽嚢腫 |
弱い刺激のくり返し(かく癖など) |
漿液性の液体 |
血液ではない液体がたまる |
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耳介軟骨膜炎 |
耳介血腫などからの細菌感染 |
膿(うみ) |
強い痛みや赤み、熱感を伴う |
このように、耳の腫れには様々な背景が隠れています。ご自身の判断で様子を見たりせず、まずは専門の医療機関を受診してください。正確な診断を受けることが、耳をきれいな形に治すための大切な第一歩です。
耳介血腫の原因
耳介血腫は、耳の外側の部分である「耳介」に、何らかの力が加わることで起こります。耳介は皮膚のすぐ下に軟骨があるため、外からの衝撃が直接伝わりやすいという特徴を持っています。
さらに、一度液体がたまってしまうと、その液体を吸収する組織が少ないため、自然に治りにくいという点も、耳介血腫が大きくなりやすい理由の一つです。
原因は、大きく分けて2つあります。
- 強い衝撃やくり返される摩擦 スポーツなどで耳に強い力が加わることが、最も多い原因です。 特に、以下のような激しい接触をともなうスポーツでよく見られます。
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スポーツの種類 |
具体的な状況の例 |
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柔道・レスリング・総合格闘技 |
組み合った際の耳のこすれ、絞め技による圧迫 |
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ラグビー・アメリカンフットボール |
スクラムやタックルでの選手同士の強い接触 |
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ボクシング |
パンチが耳に当たることによる直接的な打撃 |
- 弱い刺激の積み重ね 激しいスポーツをしていなくても、耳介血腫は起こる可能性があります。 アトピー性皮膚炎などのかゆみで、無意識に耳をかく癖がある場合、その刺激が積み重なって原因となることがあります。
少し専門的な話になりますが、以前は皮膚と軟骨の間で出血が起こると考えられていました。しかし最近では、軟骨そのものが刺激によって剥がれるように傷つき、そこから液体が出てくるという考え方も有力になっています。
このように、原因は一度の強い衝撃だけではありません。日常生活の中のささいな癖が、耳の変形につながる可能性もあるのです。
耳介血腫の症状
耳介血腫の最も分かりやすいサインは、耳がぷっくりと腫れあがることです。特に、耳の穴の前側にあるくぼんだ部分に症状が出やすいという特徴があります。
症状は時間の経過とともに変化するため、注意深く観察することが大切です。
初期症状:ぶよぶよとした柔らかい腫れ
発症したばかりの頃は、腫れた部分を指で押すと、水風船のようにぶよぶよとしています。この段階では、強い痛みを感じないことも多く、つい様子を見てしまいがちです。しかし、痛みがないからといって安心するのは危険です。
進行期:腫れが硬くなる
治療せずにいると、たまっていた血液が少しずつゼリーのように固まり始めます。この状態を「線維化(せんいか)」と呼び、コラーゲンなどの硬い組織に置き換わっていきます。線維化が進むと、ぶよぶよしていた腫れは次第に硬くなっていきます。
放置した場合に起こりうる深刻な状態
耳介血腫を放置すると、見た目の問題だけでなく、耳の機能に関わる状態を引き起こす可能性があります。
- 耳の変形(カリフラワー耳) 線維化によって軟骨が厚く、ゴツゴツとした形に変形してしまいます。一度この形に固まってしまうと、元のきれいな形に戻すのは非常に難しくなります。
- 組織へのダメージ(壊死) たまった血液が壁となり、軟骨へ栄養が届きにくくなります。その結果、軟骨の組織が死んでしまう「壊死(えし)」という深刻な状態に至ることがあります。
- 細菌感染(耳介軟骨膜炎) 血腫ができてから2週間ほど経つと、細菌が入り込みやすくなります。感染すると強い痛みや赤み、熱っぽさが出て、変形がさらにひどくなる危険な状態です。
このように、耳介血腫は初期の対応が非常に重要です。耳の腫れや違和感に気づいたら、変形が固まってしまう前に、できるだけ早く医療機関を受診してください。
耳介血腫の検査・診断
耳介血腫の診断では、特別な機械を使った検査はほとんど行いません。医師が患者さんからお話を聞き、耳の状態を直接見ることで診断します。
診察の流れは、大きく分けて「問診」と「視診・触診」の2ステップです。場合によっては、診断を確定させるために追加の処置を行うこともあります。
問診:原因を探るための大切な手がかり
まず、症状やきっかけについて詳しくお伺いします。いつから、どのようにして腫れたのかを知ることは、正確な診断への第一歩です。
【お医者さんがよく聞くこと】
- いつから耳が腫れていますか? 症状が始まってからの時間で、血腫の状態(新しいか古いか)を推測します。
- 耳をぶつけたり、強くこすったりしましたか? 柔道やラグビーなど、原因となるきっかけがなかったかを確認します。
- アトピー性皮膚炎などで、耳にかゆみはありますか? 無意識にかく癖が原因の「耳介偽嚢腫」の可能性も考えます。
視診と触診:耳の状態を直接チェック
次に行うのが、医師が直接耳の状態を観察する「視診」と、指でそっと触って調べる「触診」です。
- 視診(目で見る検査) 腫れている場所や大きさ、皮膚の色などを目で見て確認します。赤みが強い場合は、細菌感染を起こしている可能性があります。
- 触診(手で触る検査) 腫れを触って、その硬さや熱っぽさ、痛みの程度を調べます。できたばかりの血腫はぶよぶよと柔らかいのが特徴です。
穿刺(せんし):診断を確定させる一手
問診と視診・触診だけでは診断が難しい場合や、診断をより確実にするために、腫れている部分に細い針を刺すことがあります。これを「穿刺(せんし)」と呼びます。
この処置で中にたまっている液体を少量抜き取り、その色や成分を調べることで、耳の腫れの原因を正確に診断できます。
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抜き取った液体の種類 |
考えられる状態 |
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血液 |
(典型的な)耳介血腫 |
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黄色く透明な液体 |
耳介偽嚢腫 |
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膿(うみ) |
耳介軟骨膜炎 |
穿刺は診断を確定させるだけでなく、たまった液体を排出するという治療の一環でもあります。これらの診察を通して、耳の状態に合わせた最適な治療法を決めていきます。
耳介血腫の治療
耳に液体がたまる耳介血腫は、自然に治ることがほとんどありません。放置すると耳が変形する可能性があるため、早めの治療が大切です。治療の目的は大きく分けて2つです。
- たまっている血液などの液体を、きちんと取りのぞくこと
- 再び液体がたまらないようにして、耳の変形を防ぐこと
治療は耳鼻咽喉科や形成外科で行います。
基本の治療:液体を抜く
まず基本となるのが、腫れている部分に注射針をさして、中にたまっている液体を抜き取る「穿刺(せんし)」という処置です。しかし、一度液体を抜いただけでは、空いたスペースに再び液体がたまってしまうことが多くあります。
そのため、液体を抜いた後の「再発させない工夫」が非常に重要になります。
再発を防ぐための工夫
液体を抜いた後、耳の皮膚と軟骨がしっかりくっつくように、以下のような処置を追加します。
- 圧迫固定 液体を抜いた後のすき間をなくすための、最も大切な処置です。 耳のデコボコした形に合わせてガーゼや綿などを当て、 テープや包帯でしっかりと押さえて固定します。
- お薬の使用 ばい菌が入って感染するのを防ぐために、 抗菌薬(こうきんやく)というお薬を使うことがあります。 また、炎症を抑えるためにステロイド薬を注射する場合もあります。
くり返す場合や、症状が進んでいる場合
穿刺と圧迫をくり返しても液体がたまる場合や、時間が経って液体が固まってしまった場合には、別の治療法を考えます。皮膚を少しだけ切って、中の固まりを直接取り出す「切開」という処置です。
もし治療が遅れて耳が硬く変形してしまった(カリフラワー耳)場合は、形を整えるための形成手術が必要になることもあります。
スポーツが原因の方は、治療後にイヤーガードを使うなど、耳を守る工夫も大切です。耳の形をきれいに保つためには、とにかく早めに医療機関を受診することが重要です。













