耳の中にニキビのような痛いおできができて、気になった経験はありませんか。それは「耳せつ(じせつ)」という、耳の穴にできるおできかもしれません。つい自分で潰したくなるかもしれませんが、その行動が症状を悪化させる危険性も潜んでいます。
耳せつは、耳掃除やイヤホンの長時間使用といった些細なきっかけで誰にでも起こりうる身近なトラブルです。ほとんどの場合は1週間ほどで自然に治りますが、ごくまれに炎症が脳まで広がり、重篤な状態に至ったケースも報告されています。
この記事では、耳せつの原因から症状、自分でできる予防法、そして正しい治療法までを詳しく解説します。気になる耳の痛みの正体を知り、適切な対処法を学びましょう。
耳せつの概要
耳の中に、ニキビのような痛いおできができたことはありませんか。 それは「耳せつ(じせつ)」という病気かもしれません。
耳せつとは、耳の穴(外耳道)にできる「おでき」のことです。 医学的には「急性化膿性限局性外耳炎」とも呼ばれます。 耳の穴の入り口から3分の1くらいの、毛が生えている部分にできます。
【耳せつの特徴】
- 髪の毛と同じような毛穴(毛包)や、あぶらを出す腺(皮脂腺)が多い場所にできます。
- 細菌が感染して炎症が起こり、膿(うみ)が溜まった状態です。
私たちの耳の中には、もともと様々な種類の細菌が暮らしています。 普段は悪さをしませんが、イヤホンや補聴器などを長時間つけていると、耳の中がむれて湿気が多くなります。 このような湿った環境は、細菌のバランスを変化させてしまうことがあります。
バランスが崩れると、一部の細菌が異常に増えてしまい、耳せつができるきっかけになります。 症状がひどくなると、膿が大きくなったり、耳の周りや首のリンパ節まで腫れたりすることもあります。
しかし、ほとんどの場合は、きちんと治療すれば1週間ほどで良くなります。 現在の日本では重症化することは非常にまれなので、過度に心配しすぎる必要はありません。
耳せつの種類
「耳せつ」という病気は、医学的に細かく分類されてはいません。 しかし、原因やできやすい方の体の状態によって、 いくつかのパターンに分けて考えることができます。
- 健康な方でも、耳かきなどでできた小さな傷から 細菌が入り込んで発生します。 誰にでも起こりうる、最もよく見られるタイプです。
- 糖尿病をお持ちの方や、お薬の影響で体の抵抗力が 弱っている方にできる耳せつです。 炎症が広がりやすかったり、治りにくかったりする 傾向があるため、注意深い観察が必要です。
- イヤホンや補聴器などを長時間つけていると、 耳の中の環境が変わってしまうことがあります。 耳の中の細菌バランス(微生物叢:びせいぶつそう)が変化し、 湿気が多くなることが研究でわかっています。 このような環境の変化が、耳せつを作る原因になります。
また、耳の周りにできるものの中には、耳せつと間違えやすい病気もあります。 例えば、生まれつき耳の前に小さな穴が開いている状態を 「先天性耳瘻孔(せんてんせいじろうこう)」と呼びます。
この穴は、ごくまれに耳や腎臓に症状が出る、 「耳腎症候群(じじんしょうこうぐん)」という病気と 関係している可能性も指摘されています。 気になる症状があれば、自分で判断せずに専門の医師に相談しましょう。
耳せつの原因
耳せつは、耳の皮膚にできた小さな傷に細菌が感染して起こります。 私たちの皮膚には多くの細菌がいますが、普段は悪さをしません。
しかし、何かのきっかけで皮膚のバリア機能が壊れると、 細菌が入り込み、炎症を起こして耳せつができてしまうのです。 そのきっかけは、大きく2つに分けられます。
【耳の外からの刺激】 日常生活の何気ない習慣が、耳の皮膚を傷つけることがあります。
- 耳掃除のしすぎ 耳かきや綿棒で強くこすると、デリケートな皮膚に 目に見えない傷ができ、そこから細菌が侵入します。
- イヤホンや補聴器の長時間使用 耳を長くふさぐと、耳の中が高温多湿の状態になります。 ある研究では、このような湿った環境が耳の中の 細菌バランス(微生物叢)を変化させることがわかっています。 特定の細菌が増えやすい環境となり、感染のきっかけになります。
- 耳に水が入る プールやお風呂の後に耳が濡れたままだと皮膚がふやけます。 ふやけた皮膚は傷つきやすく、細菌も繁殖しやすくなります。
【体の中の問題】 体の状態によっては、感染への抵抗力が弱まることがあります。
- 体の抵抗力の低下 糖尿病があったり、お薬の影響で体を守る力(免疫力)が 落ちていたりすると、細菌と戦う力が弱まってしまいます。 そのため、普段なら問題にならない細菌でも感染しやすくなります。
- 皮膚の病気 アトピー性皮膚炎や湿疹などがあると、 もともと皮膚のバリア機能が低下しているため注意が必要です。
耳せつの症状
耳せつは、はじめは耳の中に軽いかゆみや違和感がある程度です。 しかし、炎症が強くなると、さまざまな症状が現れます。 ご自分の状態と比べて、チェックしてみましょう。
- 耳の痛み ジンジンするような痛みが特徴です。 触ったり、食事やあくびで顎を動かしたりすると、 痛みが強くなることがあります。
- 耳の腫れや熱っぽさ 耳の穴の入り口が赤く腫れて、熱を持っているように感じます。 見た目にも「おでき」としてわかることが多いです。
- 耳だれ(耳漏:じろう) おできが自然に破れると、膿(うみ)のような液体が出てきます。
- 聞こえにくさ・耳の詰まり感 腫れがひどくなると耳の穴をふさいでしまいます。 その結果、音が聞こえにくくなったり、耳が詰まった感じ (耳閉感:じへいかん)がしたりします。 炎症が耳の奥に影響すると、めまいのような感覚を伴うこともあります。
通常、これらの症状は適切な治療で良くなります。 しかし、炎症が周りに広がると、耳の痛みだけでなく、 頭痛や耳に近い側の歯に痛みを感じることもあります。
さらに、耳の周りや首のリンパ節が腫れて痛んだり、 高熱や体のだるさといった全身の症状が出たりする場合は注意が必要です。 ごくまれですが、耳の奥の骨や脳にまで感染が広がり、 高熱や顔のまひなどを引き起こすことも報告されています。 耳だれが続いたり高熱が出たりしたら、早めに医療機関を受診しましょう。
耳せつの検査・診断
耳に痛みや腫れがあると、どんな検査をするのか不安かもしれません。 しかし、耳せつの診断は、ほとんどの場合とてもシンプルです。 お医者さんが耳の中を直接見ることで診断できるので、安心してください。
まず、いつからどんな症状があるかなど、詳しくお話を聞きます(問診)。 その後、実際に耳の中を観察するという流れが一般的です。
【主な検査の流れ】
- 問診(もんしん)と視診(ししん) お医者さんが耳の穴を直接、あるいは耳鏡(じきょう)という 専用の道具で観察します。 耳鏡は、耳の中を明るく照らして、大きく見やすくする道具です。 赤く腫れた場所や膿がないかを確認し、診断します。
- 細菌培養検査(さいきんばいようけんさ) 症状が長引くときに行う検査です。 耳だれなどを綿棒で少しだけ取り、原因の細菌を特定します。 原因がわかれば、その細菌に一番効くお薬を選ぶことができます。
- 画像検査(CT検査など) とてもまれですが、炎症が周りの骨にまで広がっていないか 心配なときに、CT検査などで詳しく調べることがあります。
問診では、イヤホンや補聴器の使用頻度などをお聞きすることもあります。 最近の研究で、耳の中に物を入れる習慣が、耳の細菌バランス(微生物叢)を 変化させることがわかってきているからです。 どのような方でも、耳の違和感があれば早めに受診し、診断を受けましょう。
耳せつの治療
耳にできた痛いおでき(耳せつ)は、軽ければ自然に治ることもあります。 しかし、悪化させないためには、早めの治療がとても大切です。 治療の目標は、主に次の2つです。
- 原因の細菌をやっつけること
- 痛みや腫れなどのつらい症状を和らげること
症状の強さに合わせて、お薬を使ったり病院で処置をしたりします。
【主な治療の方法】
- 抗菌薬(こうきんやく) 細菌の増えるのを抑えたり、やっつけたりするお薬です。 飲み薬のほか、耳に直接塗る軟膏や、耳に入れる薬(点耳薬)を使います。
- 痛み止め(消炎鎮痛剤) 痛みが強いときに使い、炎症を抑えて症状を楽にします。
- 耳の中をきれいにする 耳の中を消毒し、細菌が増えにくい清潔な環境にします。
- 膿(うみ)を出す処置(切開排膿) 膿がたくさん溜まって腫れがひどい場合に行います。 少しだけ皮膚を切って膿を出すと、痛みが早く楽になり治りも早まります。
特に、糖尿病などで体の抵抗力が落ちている方は注意が必要です。 ごくまれですが、炎症が耳の奥の骨や、さらに頭の中まで広がることがあります。 実際に、耳の炎症が原因で脳に膿がたまる「脳膿瘍」という、 命に関わる状態になった例も報告されています。
このような重い合併症を防ぐには、できるだけ早く抗菌薬で 治療を始めることが何よりも大切です。 自分で潰すと細菌が周りに広がり、かえって悪化する危険があります。 痛みや腫れを感じたら、自分で触らずに耳鼻咽喉科を受診しましょう。