眼瞼炎

まぶたのかゆみや赤み、治ったと思ったら繰り返す「ものもらい」。これらは「眼瞼炎」のサインかもしれません。誰にでも起こりうるありふれた症状ですが、「いつものこと」と放置するのは危険です。そのしつこい炎症の裏には、思わぬ原因や、見過ごせない病気が隠れている可能性があるからです。

実際に、治療しても治りにくい「ものもらい」が、実は「皮脂腺癌」という悪性の病気だったという報告もあります。また、原因は細菌だけでなく、まつ毛の根元に潜む「顔ダニ」が関係しているケースも少なくありません。

この記事では、眼瞼炎の本当の原因から正しい治療法、そして危険なサインの見分け方まで詳しく解説します。自己判断で悪化させてしまう前に、ご自身の症状と照らし合わせ、大切な目の健康を守りましょう。

眼瞼炎の概要

眼瞼炎(がんけんえん)とは、まぶたに起こる炎症の総称です。 まぶたの皮膚やまぶたの縁、まつげの根元などが赤くなります。 かゆみや腫れ、ただれなどが起こる、誰にでも起こりうる病気です。

眼瞼炎は、炎症が起きる場所によって、主に以下の種類に分けられます。

  • 眼瞼皮膚炎(がんけんひふえん) まぶたの広い範囲の皮膚に起こる炎症です。
  • 眼瞼縁炎(がんけんえんえん) まつげの生え際あたりに起こる炎症を指します。
  • 眼角眼瞼炎(がんかくがんけんえん) 目じりの部分に限定して起こる炎症です。

眼瞼炎は適切な治療で改善することがほとんどです。 しかし、なかなか治らなかったり、何度も繰り返したりする場合は注意しましょう。 まれに、眼瞼炎とよく似た症状の別の病気が隠れているからです。

実際に、治療しても治りにくい「ものもらい(霰粒腫)」だと思われていた症状が、皮脂腺癌(ひしせんがん)という悪性の病気だったという報告もあります。 このがんは、眼瞼炎やものもらいと見分けがつきにくいことがあります。 早期の診断が非常に重要になるため、自己判断で様子を見るのは危険です。 気になる症状が続く場合は、必ず眼科を受診して相談してください。

眼瞼炎の種類

ひとことで眼瞼炎(がんけんえん)といっても、実はいくつかの種類があります。 炎症が起きている場所や、その原因によってタイプが分かれています。 自分の症状がどれに近いかを知るための参考にしてください。

眼瞼炎は、主に炎症の場所と原因によって、以下のように分類されます。

分類方法

種類

主な特徴

炎症の場所

眼瞼縁炎

まつ毛の生え際あたりに起こる炎症

眼瞼皮膚炎

まぶたの皮膚全体に広がる炎症

眼角眼瞼炎

目じりの部分に限定して起こる炎症

原因

感染性

細菌、ウイルス、ダニなどが原因

非感染性

アレルギー、皮脂の詰まりなどが原因

感染性の眼瞼炎 ブドウ球菌などの細菌や、ウイルスへの感染が原因です。 また、「デモデックス」という顔ダニが原因の場合もあります。 このダニを診断する際は、まつ毛を抜いて顕微鏡で調べます。 ある研究では、まつ毛を回転させながら抜くと、より多くのダニを回収できると報告されています。

非感染性の眼瞼炎 アレルギーや、化粧品・薬剤などによるかぶれが原因です。 また、皮脂を分泌するマイボーム腺が詰まることでも起こります。

注意:治りにくい場合は悪性の病気の可能性も なかなか治らない眼瞼炎や「ものもらい(霰粒腫)」には注意が必要です。 まれに「皮脂腺癌(ひしせんがん)」という悪性の病気が隠れていることがあります。 このがんは、良性の病気と見た目がよく似ているため、診断が遅れがちです。 実際に、治療しても治らない霰粒腫が、実は皮脂腺癌だったという報告もあります。 早期の診断が非常に重要になるため、症状が長引く場合は自己判断せず、必ず眼科を受診してください。

眼瞼炎の原因

まぶたが赤く腫れたり、かゆみが出たりする眼瞼炎。 その原因は一つではなく、大きく2つに分けられます。 「感染によるもの」と「感染以外によるもの」です。 原因によって治療も変わるため、何が原因かを知ることが大切です。

感染によるもの

細菌やウイルスが、まぶたに入り込んで起こる眼瞼炎です。 まつげの根元にある毛穴や、汗や皮脂を出す腺が感染しやすくなります。

  • 細菌感染 私たちの皮膚にもともといる「常在菌」が原因になることが多いです。 黄色ブドウ球菌などが、体の抵抗力が落ちた時に増殖してしまいます。 汚れた手で目をこすると、菌がまぶたに入りやすくなるため注意しましょう。
  • ウイルス感染 単純ヘルペスウイルスなどが原因で起こることもあります。 体の免疫力が下がっている時に、症状が出やすいのが特徴です。

感染以外のもの

アレルギー反応や、もともとの体質などが原因となる眼瞼炎です。 人から人へとうつることはありません。

  • アレルギー反応 化粧品、シャンプー、花粉、ハウスダストなどが原因になります。 普段使っている点眼薬の成分が合わず、アレルギーを起こすこともあります。
  • 皮脂のトラブル 皮脂の分泌が多い「脂漏性皮膚炎」の部分的な症状として現れます。 また、まつげの生え際にある「マイボーム腺」という、 油を出す小さな腺が詰まることでも炎症が起こります。
  • お薬の副作用 飲んでいるお薬が原因で、眼瞼炎が起こることもあります。 例えば、乳がん治療で使われるアロマターゼ阻害薬というお薬は、 眼瞼炎を含む、目の副作用のリスクを高める可能性が報告されています。 お薬を飲み始めてから目の不調を感じた場合は、自己判断で中止せず、 担当の医師や眼科医に必ず相談してください。

眼瞼炎の症状

まぶたに炎症が起こる眼瞼炎(がんけんえん)では、 さまざまな不快なサインが現れます。 原因によって症状の出方は少しずつ違いますが、 気になる変化を見逃さないことがとても大切です。

まずは、眼瞼炎でよく見られる症状を確認してみましょう。 ご自身の状態と比べてみてください。

【眼瞼炎の主な症状チェックリスト】

  • まぶたの赤み・腫れ まぶたの縁や皮膚が赤くなり、ぷくっと腫れます。
  • かゆみ・痛み・ただれ むずがゆくなったり、ヒリヒリと痛んだりします。
  • 目のゴロゴロ感 目に砂が入ったような、異物感を感じることがあります。
  • 目やにが増える まつげの根元に、かさぶたのような目やにがこびりつきます。
  • 涙が出やすくなる 刺激によって、涙がポロポロと出やすくなります。
  • まつげの変化 まつげが抜けやすくなったり、向きが不自然になったりします。

これらの症状は、適切な治療で良くなることがほとんどです。 しかし、「ただの眼瞼炎だろう」と自己判断するのは危険な場合があります。

特に、治療をしてもなかなか治らない、または何度も繰り返す場合は注意が必要です。 まれに、眼瞼炎や「ものもらい(霰粒腫)」とよく似た症状の、 「皮脂腺癌(ひしせんがん)」という悪性の病気が隠れていることがあるからです。

ある報告では、治りにくい「ものもらい」だと思われていた症状が、 実は皮脂腺癌だったというケースがありました。 このがんは、良性の病気と見た目が似ているため見分けがつきにくいのです。 そのため、症状が長引く場合は、早めに眼科で調べてもらうことが重要です。

また、他のお薬が原因で眼瞼炎が起こることもあります。 例えば、乳がんの治療で使われるお薬が、 眼瞼炎を含む目の不調のリスクを高めるという研究報告もあります。 何か新しいお薬を飲み始めてから目の不調を感じた場合は、 必ず医師に伝えるようにしてください。

眼瞼炎の検査・診断

眼瞼炎の診断は、まず丁寧な問診と視診から始まります。 いつから、どのような症状があるのかを詳しくお伺いします。 その後、まぶたの赤みや腫れ、ただれの有無などを目で見て確認します。

より詳しく調べるために、特別な顕微鏡も用います。 「細隙灯(さいげきとう)顕微鏡」という、光を当てながら目を拡大して見る装置です。 これを使うと、まつげの根元の状態がはっきりと見えます。 皮脂を出すマイボーム腺の詰まり具合なども細かく観察できます。

原因によって治療法が異なるため、原因の特定がとても大切です。 状態に応じて、以下のような追加の検査を行うことがあります。

  • 細菌の検査 感染が疑われる場合に、目やになどを綿棒で優しく拭います。 原因となっている細菌の種類を特定し、効果的な薬を選ぶのに役立ちます。
  • アレルギーの検査 化粧品などによるかぶれが考えられる場合に検討します。 原因物質を特定するためのパッチテストなどを行います。
  • まつ毛ダニ(デモデックス)の検査 まつげの根元にフケのようなものが付いている場合に疑います。 診断のため、まつげを数本抜いて顕微鏡でダニの有無を確認します。 このとき、ダニの数を正確に数えることが非常に重要になります。 なぜなら、ダニの数は診断の確定や治療効果の判定に役立つからです。 ある研究では、まつげを優しく回転させながら抜く方法が、 最も多くのダニを検出できると報告されています。 医師はこのような工夫を取り入れ、より正確な診断に努めています。

これらの診察や検査の結果を総合的に判断します。 そして、一人ひとりの状態に合わせた治療方針を決定していきます。

眼瞼炎の治療

眼瞼炎の治療は、不快な症状を和らげるだけが目的ではありません。 目の大切な機能を守り、より重い病気へ進むのを防ぐことが重要です。 治療の基本は、ご自宅でできるケアと医療機関での治療の2本柱です。

治療の土台となる「まぶたの清潔」

眼瞼炎の治療で最も大切なことは、まぶたを清潔に保つことです。 これを専門用語で「リッドハイジーン」と呼び、すべての治療の基本です。

  • まぶたを温める 蒸しタオルなどでまぶたを5分ほど温めます。 皮脂腺に詰まった脂を溶かし、流れやすくする効果があります。
  • まぶたを洗う 目に入ってもしみないベビーシャンプーなどを薄めた液を使います。 指の腹や綿棒で、まつげの生え際を優しくマッサージするように洗います。

このケアを毎日続けることで、炎症の原因となる汚れや皮脂を取り除きます。

医療機関で行う専門的な治療

ご自宅でのケアだけで改善しない場合は、お薬を使った治療が必要です。 原因によって使うお薬が異なるため、医師の診断が欠かせません。

  • 細菌が原因の場合 細菌の増殖を抑えるための抗生物質が入った点眼薬や眼軟膏を使います。
  • アレルギーが原因の場合 炎症やかゆみを抑えるステロイドの点眼薬や眼軟膏などを使用します。

治療が将来の目の健康を守る

眼瞼炎を放置すると、より重い病気を引き起こすことがあります。 例えば「角膜縁幹細胞欠損症」という病気につながる可能性です。 これは目の表面を新しく保つ大切な細胞が、炎症で傷つく病気です。 しかし、原因の眼瞼炎をきちんと治療すれば、この状態が改善することも報告されています。

また、乳がん治療で使うアロマターゼ阻害薬が、眼瞼炎のリスクを高めるという研究報告もあります。 他のお薬を飲んでいる場合は、お薬手帳を持参し必ず医師に伝えてください。

眼瞼炎の治療法は日々研究されています。 しかし、専門の機械でまぶたを掃除する方法などは、現時点では効果がはっきりと証明されていないものもあります。 まずは基本のケアと医師の診断に基づく治療を、根気よく続けることが大切です。