片頭痛
ズキン、ズキンと脈打つ激しい頭痛に、吐き気や光への過敏さが重なり、仕事や家事が手につかないことはありませんか。日本では成人の約8.4%、およそ1,000万人がこの痛みに悩んでいると推定されており、決して珍しい病気ではありません。
この記事では、片頭痛がなぜ起こるのか、その原因を脳機能の特性といった近年の研究を交えて解説します。さらに症状の種類や検査方法、発作を抑える急性期治療から新しい予防療法まで、さまざまな対処法を詳しく紹介します。
ご自身の症状の背景を正しく理解し、どのような治療の選択肢があるかを知ることは、つらい痛みと向き合うための第一歩です。あきらめていた日常を取り戻すきっかけとして、ぜひ最後までお読みください。
片頭痛の概要
片頭痛は、脳に明らかな病気がないにもかかわらず、ズキズキと脈打つような激しい痛みが繰り返し起こる「一次性頭痛」の一種です。
「たかが頭痛」と軽く考えられがちですが、日本では成人の約8.4%、およそ1,000万人がこの痛みに悩んでいると推定されています。
特に女性に多く、男性の約3.6倍もいるといわれ、10代から増え始め、働き盛りの30〜40代で最も多くみられます。
この頭痛のつらさは、痛みだけではありません。
吐き気や嘔吐、ふだんは気にならない光や音にまで過敏になる症状を伴うため、多くの方が仕事や家事を休まざるを得なくなるなど、生活の質(QOL)を大きく下げてしまいます。
なぜ、これほどまでに生活に影響する頭痛が起きるのでしょうか。
近年の研究により、片頭痛の起こりやすさには遺伝的な要因が関わっていることがわかってきました。
安静にしている時の脳の特定の神経ネットワークの活動が、片頭痛のなりやすさと関連していると考えられています。
具体的には、「デフォルトモードネットワーク」や「セントラルエグゼクティブネットワーク」と呼ばれる、脳の機能をつかさどる回路間の連携が、片頭痛のリスクに影響を与える可能性が示唆されているのです※。
これは、生まれつき片頭痛になりやすい脳の特性があることを意味します。
一方で、視覚に関わる脳領域の活動が片頭痛のリスクを減らす可能性も報告されており、片頭痛の複雑なメカニズムの解明が少しずつ進んでいます※。
脳の病気ではないからこそ、原因がわからず不安になる方もいますが、このように脳の機能的な問題であることが徐々に明らかになってきているのです。
片頭痛の種類
ひとくちに片頭痛といっても、その現れ方は一つではありません。頭痛が始まる前に「前兆」と呼ばれる特徴的なサインが出るかどうかで、主に2つのタイプに分けられます。
片頭痛のタイプごとの特徴を、下表に整理します。
タイプ | 特徴
前兆のない片頭痛 | ・片頭痛で最も多いタイプ ・明確な前兆がなく、突然ズキズキとした頭痛が始まる ・人によっては、頭痛の数時間〜1日前に「予兆」(眠気、気分の変化、首や肩のこりなど)を感じることがある
前兆のある片頭痛 | ・頭痛が始まる5〜60分前に「前兆」が現れる ・代表的な前兆は「閃輝暗点(せんきあんてん)」 – 視界にキラキラした光やギザギザ模様が見える – 視野の一部が見えにくくなる ・前兆は、脳の神経細胞が一時的に過剰興奮し、その後に活動が低下する波(皮質性拡延性抑制)が広がることで起こると考えられている
まれなタイプに、体の片側に一時的な脱力感やしびれが生じる「片麻痺性片頭痛」があります。
このタイプの片頭痛では、脳波を調べることで、脳内で何が起きているのかが少しずつわかってきました。
前兆が出ている時期には、体の麻痺とは反対側の脳で、脳波の活動が一時的に低下することが報告されています※。
これは、前兆の原因とされる「皮質性拡延性抑制」という現象が、実際に脳で起きている証拠の一つと考えられています。
そして、その後の激しい頭痛期には、同じ側の脳で通常とは異なるゆっくりとした脳波(徐波)が観察されることもわかってきました※。
このように、脳波の変化を追うことで、片頭痛の各段階で脳がどのような状態にあるのか、そのメカニズムの解明が進んでいます。
頻度による分類:「慢性片頭痛」
上記2つのタイプとは別に、頭痛の頻度による分類として「慢性片頭痛」があります。
これは、月に15日以上、3カ月を超えて頭痛が続く状態を指します。ここまで頻度が高くなると、日常生活への影響は計り知れず、早期に専門的な治療を始めることが重要です。
片頭痛の原因
片頭痛がなぜ起こるのか、その原因は一つではなく、「生まれ持った体質」と「日常のさまざまな引き金」が複雑に絡み合って発作につながると考えられています。
頭痛発作が起きる直接的なメカニズムとして、現在最も有力視されているのが「三叉神経血管説」です。
後述するさまざまな引き金によって顔の感覚などをつかさどる「三叉神経」が刺激されると、CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)という物質が放出されます。
このCGRPが脳の血管を広げて炎症を起こすことで、ズキン、ズキンと脈打つような激しい痛みが発生するのです。
では、なぜ人によって片頭痛のなりやすさが違うのでしょうか。
「自分だけがなぜ?」と感じる方もいるかもしれませんが、片頭痛のなりやすさには、生まれ持った脳の機能的な特性が関わっていることが近年の研究で明らかになってきました。
例えば、ぼんやりしている時や物事に集中している時に働く脳の神経回路(デフォルトモードネットワークやセントラルエグゼクティブネットワーク)同士の連携が、遺伝的に強い人は片頭痛のリスクが高まる可能性が指摘されています※。
一方で、視覚に関わる脳の領域の活動が活発な場合は、逆に片頭痛のリスクを下げる可能性も報告されており、脳の機能バランスが発症に影響していると考えられるのです※。
また、生活習慣も片頭痛と無関係ではありません。
肥満や高血圧などが合わさったメタボリックシンドロームは、片頭痛を持つ方によく見られる併存疾患であることがわかっています※。
ただし、メタボリックシンドロームが直接的に片頭痛の痛みをより強くするのか、その明確な関係性についてはまだ研究が進められている段階です※。
このような生まれ持った体質に、日常生活に潜むさまざまな「引き金(誘因)」が加わることで、頭痛発作のスイッチが入ります。
ご自身の引き金となりやすいものを知り、可能な範囲で避けることは、片頭痛と上手に付き合っていくうえで非常に重要です。
代表的な引き金には、以下のようなものがあります。
・心身の状態: ストレス(強い緊張状態、またはそこから解放された時)、寝不足、寝すぎ
・ホルモンバランス: 月経周期に伴う女性ホルモンの変動
・環境の変化: 天候や気圧の変化、まぶしい光、騒音、強いにおい
・特定の飲食物: アルコール(特に赤ワイン)、チョコレート、チーズ、ナッツ類など
片頭痛の症状
片頭痛の症状は、単に頭が痛むだけでなく、日常生活を著しく妨げる多彩なサインを伴います。
その痛みは「ズキン、ズキン」と脈打つような拍動性のものが典型的で、一度始まると4時間から、長い場合は72時間(3日間)にわたって続くこともあります。
<頭痛の特徴>
・痛み方: こめかみを中心に、頭の片側または両側が脈に合わせて「ズキン、ズキン」と痛む(拍動性)。
・悪化要因: 階段の上り下りや少しお辞儀をするなど、日常のささいな動作で痛みが強くなる。
・日常生活への影響: 痛みと後述する随伴症状のため、仕事や家事を休まざるを得なくなります。
頭痛と同時に、あるいは頭痛に前後して、以下のようなつらい症状が現れるのも片頭痛の大きな特徴といえます。
<頭痛に伴う症状(随伴症状)>
・消化器症状: 吐き気、嘔吐
・感覚過敏:
・光過敏: 普段は気にならない室内灯やスマートフォンの光がまぶしく感じる。
・音過敏: テレビの音や話し声が響いてうるさく感じる。
・におい過敏: 香水や料理のにおいで気分が悪くなる。
・アロディニア: 髪をとかす、眼鏡をかけるといった、本来痛くないはずの軽い接触で皮膚に痛みを感じる状態。
また、片頭痛を持つ方の一部では、頭痛が始まる5分~60分ほど前に「前兆(オーラ)」と呼ばれるサインが現れます。
<前兆(オーラ)の例>
・閃輝暗点(せんきあんてん): 視界にギザギザした光やキラキラした模様が見える。
・視野欠損: 視野の一部が欠けたり、見えにくくなったりする。
・感覚・言語の異常: 手足がしびれる、言葉が話しにくくなる。
これらの症状は、脳内で起きている機能的な変化と密接に関連しています。
特にまれなタイプの片頭痛(片麻痺性片頭痛)の研究では、脳波(EEG)を調べることで、症状の段階ごとに脳の状態がどう変化するかがわかってきました。
例えば、前兆が現れている時期には、体の麻痺などが起きる側とは反対の脳半球で、一時的に脳波の活動が低下することが報告されています※。
これは、前兆の原因とされる「皮質性拡延性抑制」という、脳神経の興奮の波が広がっては鎮まる現象を反映していると考えられます。
そして、激しい頭痛の最中やその後の段階では、同じ側の脳で通常とは異なるゆっくりとした脳波(徐波)が観察されるのです※。
このように、症状の移り変わりに合わせて脳の状態もダイナミックに変化していることが、科学的に少しずつ解明されつつあります。
片頭痛の検査・診断
片頭痛の診断は、くも膜下出血や脳腫瘍といった命に関わる病気でないことを確認したうえで、国際的な診断基準を用いた詳しい問診を中心に行います。
「たかが頭痛」と軽く考えがちですが、その裏に危険な病気が隠れていないかを見極めることが、診断における最初の重要なステップです。この「鑑別診断」のために、医師が必要と判断した場合には、CTやMRIなどの画像検査を行います。
危険な病気の可能性が除外されたら、次に行うのが国際頭痛学会の診断基準に沿った問診です。あなたの頭痛が片頭痛の典型的なパターンに当てはまるかを確認します。
【前兆のない片頭痛の診断基準(要約)】
・これまでに5回以上の頭痛発作を経験している
・頭痛の続く時間は4〜72時間
・以下の痛みの特徴のうち、2つ以上当てはまる
・頭の片側が痛む
・ズキンズキンと脈打つような痛み(拍動性)
・中等度〜重度の痛み
・歩行や階段の上り下りなど、日常的な動作で痛みが悪化する
・頭痛の最中に、以下のいずれかの症状がある
・吐き気または嘔吐
・光や音に対していつもより敏感になる
診断の精度を高め、適切な治療方針を立てるために非常に役立つのが、ご自身でつける「頭痛ダイアリー(頭痛の記録)」です。
いつ、どんな状況で、どのくらいの強さの痛みが続いたかを記録することで、ご自身の頭痛のパターンを客観的に把握できます。
特に、月に15日以上頭痛が続く「慢性片頭痛」の診断と治療選択において、この記録は不可欠な情報となります。
慢性片頭痛は治療が難しいケースも少なくありませんが、近年では治療の選択肢が増えています。例えば、小児や青年期の慢性片頭痛という難しい病態に対しても、オナボツリヌス毒素A(商品名:ボトックスなど)という注射治療の安全性が確認されています※。
また、手足の麻痺といった特殊な症状を伴う「片麻痺性片頭痛」が疑われる際には、脳波(EEG)検査を行うことがあります。
この検査によって、発作の段階ごとに脳がどのような状態にあるのかが明らかになってきました。
例えば、前兆である麻痺が起きている最中は、麻痺と反対側の脳で脳波活動の低下がみられ、その後の激しい頭痛期には、同じ側の脳で通常とは異なるゆっくりとした波(徐波)が観察されるのです※。
一方で、頭痛発作が起きていない「発作間欠期」には、脳波の約8割が正常であることもわかっています※。
このように、問診を中心に、必要に応じて画像検査や脳波検査を組み合わせることで、正確な診断と一人ひとりに合った治療計画を立てていきます。気になる症状があれば自己判断せず、まずは専門の医療機関にご相談ください。
片頭痛の治療
片頭痛の治療は、いま起きているつらい発作を鎮める「急性期治療」と、そもそも発作を起こりにくくするための「予防療法」という、2つの大きな柱で成り立っています。
あなたの頭痛の頻度や強さ、そして仕事や家事など、生活にどれだけ影響が出ているかに合わせて、これらの治療を最適に組み合わせていくことが重要です。
急性期治療(発作が起きたときの治療)
発作が起きてしまったら、まずはできるだけ暗くて静かな場所で休みましょう。痛む部分を冷やすと、血管の拡張が抑えられて楽になることがあります。
軽度の痛みであれば、市販の鎮痛薬で対処できる場合もあります。
ただし、安易な使用には注意が必要です。市販薬を月に10日以上服用する状態が続くと、かえって薬が頭痛を誘発する「薬剤の使用過多による頭痛」に陥ってしまう危険があります。
痛みが中等度以上の場合や、市販薬で効果が不十分な場合は、医療機関で処方される片頭痛専用の治療薬を使います。
<医療機関で処方される主な急性期治療薬>
・トリプタン系薬剤: 拡張した脳血管を収縮させ、痛みの原因となる物質の放出を抑えます。
・ラスミジタン(ジタン系薬剤): 血管への作用は少なく、脳の神経そのものに働きかけて痛みを抑えます。
・CGRP受容体拮抗薬(ゲパント系薬剤): 痛みの原因物質であるCGRPの働きを直接ブロックします。
予防療法(発作を起きにくくする治療)
以下のような場合は、発作を予防する治療を検討します。
・頭痛の頻度が多く、生活への支障が大きい(月に2回以上など)
・急性期治療だけでは十分に効果が得られない
・急性期治療薬が副作用などで使えない
予防療法は、生活習慣の見直しと薬物療法を並行して行います。
1. 生活習慣の見直し
まずはご自身の頭痛の引き金を知り、それを避けることが基本です。寝不足や寝すぎ、特定の食べ物を避け、ストレスを上手に管理することが、発作の回数を減らす第一歩となります。
2. 薬物療法
生活習慣の改善だけではコントロールが難しい場合は、予防薬を使います。
一般的な内服薬に加え、近年では治療の選択肢が大きく広がっています。
・ボツリヌス毒素A(ボトックスなど)注射
特に、月に15日以上頭痛が続く「慢性片頭痛」で、他の治療で効果が不十分な場合に有効な選択肢です。小児や青年期の慢性片頭痛を対象とした研究レビューでは、複数回の注射によって頭痛の頻度や重症度が改善する可能性が示されており、その安全性も確立されています※。
・抗CGRP/CGRP受容体抗体薬
片頭痛の根本原因であるCGRPの働きを抑える、新しいタイプの予防薬です。月に1回の注射で、発作の回数や日数を減らす効果が期待できます。
さらに近年、まったく新しい視点からの治療法も研究されています。
もともと糖尿病の治療に使われてきた「GLP-1受容体アゴニスト」という薬が、片頭痛の痛みのメカニズムにも関わっていることがわかってきました※。この薬は、炎症や神経が関わる痛みを抑える可能性が示されており、今後の片頭痛治療における新たな選択肢として大きな期待が寄せられています※。
治療の選択肢は、この数年で格段に増えています。
自己判断で市販薬に頼り続けず、「たかが頭痛」とあきらめないでください。あなたの生活を取り戻すために、まずは一度、専門の医療機関へご相談ください。













