滲出性中耳炎
「呼んでも振り向かない」「テレビの音を大きくする」。もしお子さんにこんな変化があれば、それは痛みや熱を伴わない「静かな病気」、滲出性中耳炎のサインかもしれません。鼓膜の奥に液体がたまり、聞こえにくさを引き起こす、子どもに多い耳の病気です。
この病気は、海外の研究で3ヶ月後には約半数のお子さんで改善が見られると報告されています。しかしその一方で、1年以上症状が続くと自然に治る可能性はわずか6%にまで低下してしまう、という見過ごせない事実もあります。
痛みがないからと放置すると、将来の聞こえに影響するかもしれない滲出性中耳炎。この記事では、その原因や見分けるためのサイン、そして適切な治療法について詳しく解説していきます。
滲出性中耳炎の概要
滲出性中耳炎は、鼓膜の奥にある「中耳」という部屋に、体の中からにじみ出た液体(滲出液)がたまってしまう病気です。急性中耳炎とは異なり、強い痛みや熱が出ることがほとんどないため、「静かな病気」とも呼ばれています。
主な症状は、聞こえにくさ(難聴)や耳のつまった感じ(耳閉感)です。特にお子さんは症状をうまく言葉で伝えられないため、ご家族が気づきにくいことがあります。「呼んでも振り向かない」「テレビの音を大きくする」といった変化が、病気のサインかもしれません。
この病気は、多くの場合、時間が経つにつれて自然に治ることが期待できます。12歳未満のお子さんを対象とした海外の研究では、聞こえにくさは以下の割合で改善すると報告されています。
- 3ヶ月後 約50%が改善
- 1年後 61%~77%が改善
しかし、液体がたまった状態が長引くと治りにくくなるため注意が必要です。同じ研究によると、1年以上症状が続いた場合、自然に治る割合は1年後でわずか6%と非常に低いことがわかっています。痛みがないからと放置せず、気になるサインがあれば早めに専門医に相談することが大切です。
滲出性中耳炎の種類
滲出性中耳炎は、症状が続いている期間によって大きく3つの種類に分けられます。 痛みがないため気づかれにくい病気ですが、期間は治療法を決める重要な目安です。 いつから聞こえにくいかによって、体の治る力に任せるか、治療を始めるかが変わります。
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種類 |
症状が続く期間 |
特徴と治りやすさ |
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急性滲出性中耳炎 |
3ヶ月未満 |
風邪などをきっかけに発症します。 自然に治る可能性が最も高い時期です。 |
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遷延性(せんえんせい)滲出性中耳炎 |
3ヶ月~12ヶ月未満 |
症状が長引いている状態です。 治りにくくなり、治療を検討し始めます。 |
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慢性滲出性中耳炎 |
12ヶ月以上 |
病気が根付いた状態です。 自然に治ることは難しく、手術も選択肢になります。 |
1. 急性(3ヶ月未満)
この時期は、体の治る力に期待できる段階です。 特に小さなお子さんの場合、風邪をひいた後に発症することがよくあります。 海外の研究では、3ヶ月以内に約半数のお子さんで聞こえにくさが改善したと報告されています。 そのため、すぐに薬を使うのではなく、注意深く経過を見守ることが多いです。
2. 遷延性(3ヶ月以上)
症状が3ヶ月を超えると、病気が長引いている「遷延性」という状態になります。 この頃になると、体の力だけで治すのが少し難しくなってきます。 お薬を飲んだり、耳に空気を送る処置をしたりと、積極的な治療を考える時期です。 1年後には6割から7割以上で改善が見られるというデータもあり、根気強い治療が大切です。
3. 慢性(12ヶ月以上)
1年以上続くと「慢性」となり、自然に治る可能性は非常に低くなります。 長期間たまっている液体は、水のようにサラサラではなく、のりのようにネバネバになります。 そのため、耳からうまく排出されなくなり、病気が根付いてしまうのです。 研究によると、この状態から1年で自然に治る割合はわずか6%と報告されています。 聞こえを守るため、鼓膜にチューブを入れる手術などを検討することがあります。
滲出性中耳炎の原因
滲出性中耳炎の主な原因は、耳と鼻をつなぐ「耳管」の働きが悪くなることです。 耳管は、鼓膜の奥にある中耳という部屋の換気をしたり、液体を鼻へ排出したりします。 この大切な管がうまく機能しなくなると、中耳に液体がたまってしまうのです。
耳管の働きが悪くなる背景には、いくつかの要因が複雑に関係しています。 特にお子さんでは、以下の3つの原因が重なっていることが少なくありません。
- 1. かぜや鼻の病気 副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎などがあると、鼻やのどの粘膜が腫れます。 その結果、耳管の入口がふさがれ、換気ができなくなってしまいます。 2022年までの複数の研究をまとめた報告では、過去1年間に咳や風邪、 あるいは耳の感染症を5回以上繰り返すお子さんは、 滲出性中耳炎になりやすいことがわかっています。
- 2. アデノイドの肥大 アデノイドは、鼻の奥にあるリンパ組織のかたまりです。 特に小さなお子さんでは大きく、物理的に耳管を圧迫してふさぐことがあります。 アデノイドが大きいと、滲出性中耳炎を繰り返しやすいことも指摘されています。
- 3. 集団生活での感染 保育園や幼稚園など、他のお子さんと接する機会が多い環境も要因の一つです。 海外の研究では、他のお子さんとの接触が多いほど、 滲出性中耳炎になるリスクが高まることが示されています。 これは、集団生活の中で風邪などの感染症にかかりやすくなるためです。
このように、滲出性中耳炎の原因は耳そのものよりも、鼻やのどの状態が深く関わっています。 痛みがないため、原因となった風邪が治っても、耳の症状だけが残ってしまうことも多いです。 気になるサインがあれば、鼻やのどの状態も含めて専門医に相談することが大切です。
滲出性中耳炎の症状
滲出性中耳炎は、急性中耳炎のような強い耳の痛みや熱が出ることが少ない病気です。 そのため「静かな病気」とも呼ばれ、症状に気づきにくいのが特徴です。 特に、自分ではうまく伝えられないお子さんの場合は、ご家族の気づきが重要になります。
主な症状は、鼓膜の奥にたまった液体による「聞こえにくさ(難聴)」です。 音がうまく伝わらなくなり、まるで水の中にいるようなこもった聞こえ方になります。
お子さんに見られるサイン
お子さんは、聞こえにくいことを言葉で訴えることはあまりありません。 次のようなサインがないか、注意深く様子を見てあげてください。
- 聞こえにくさのチェックリスト
- □ 呼びかけても、振り向かないことがある
- □ テレビの音を以前より大きくする
- □ 話すときの声が大きくなった気がする
- □ 「え?」と聞き返すことが増えた
これらの行動は、聞こえにくい世界にいるお子さんなりのサインかもしれません。
大人に多い症状
大人の場合は、聞こえにくさに加えて、ご自身で次のような不快な症状を自覚しやすいです。
- 耳が詰まった感じ(耳閉感) 飛行機に乗ったときのような、耳に膜が張った感覚が続きます。
- 自分の声が頭の中で響く感じ 液体がたまっていることで、声の響き方が変わって感じられます。
- 耳の中で音がする 「ポコポコ」「パチパチ」と、液体が動くような音が聞こえることがあります。
こうした症状は、3ヶ月で約半数のお子さんで改善すると報告されています。 しかし、1年以上続くと自然に治る可能性はわずか6%まで下がってしまいます。 痛みがないからと放置せず、気になる症状があれば早めに耳鼻咽喉科を受診しましょう。
滲出性中耳炎の検査・診断
滲出性中耳炎は強い痛みがないため、ご家庭での気づきが診断の第一歩となります。 「呼びかけへの反応がうすい」などのサインがあれば、耳鼻咽喉科を受診しましょう。 クリニックでは、耳の中の状態を客観的に評価し、正確な診断を下すために検査を行います。
1. 目で見てわかる検査(視診)
まず、耳鏡(じきょう)や耳内視鏡というカメラで、医師が直接鼓膜の状態を観察します。 健康な鼓膜は真珠のように半透明ですが、滲出性中耳炎では以下のような変化が見られます。
- 鼓膜の色や透明感 液体がたまると、鼓膜が曇りガラスのように濁ったり、黄色っぽく見えたりします。
- 鼓膜の位置 鼓膜の奥の部屋(中耳)の圧力が下がるため、鼓膜が内側にへこむことがあります。
- 液体の確認 鼓膜を通して、中にたまっている液体や、水面のような線、気泡が見えることもあります。
2. 機械で詳しく調べる検査
視診だけではわからない情報を、専用の機械を使って客観的に調べます。 これらの検査は痛みを伴わないため、小さなお子さんでも安心して受けられます。
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検査の種類 |
どのようなことを調べるか |
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ティンパノメトリー |
鼓膜の動きやすさを調べる検査です。 耳の穴に栓をして圧力をかけると、健康な鼓膜はしなやかに動きますが、液体がたまっていると動きが鈍くなります。その動きの違いをグラフで確認します。 |
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聴力検査 |
聞こえにくさの程度を数値で正確に把握します。 この病気に特徴的な「伝音難聴」という、音を伝える部分に問題が起きるタイプの難聴かどうかを調べ、治療方針を決めるための重要な情報となります。 |
これらの検査結果と、鼻やのどの状態、風邪をひく頻度などの問診内容を総合し診断します。 特に大人の方で片方の耳だけに症状がある場合、まれに鼻の奥の病気が隠れていることもあります。 その際は、原因を詳しく調べるためにCTなどの画像検査を行うこともあります。
滲出性中耳炎の治療
滲出性中耳炎の治療は、年齢や症状の期間などを考え、専門家が作った「滲出性中耳炎診療ガイドライン」をもとに進めます。 すぐに手術をするのではなく、まずは体の治る力を助ける方法から始めるのが一般的です。
お薬や処置で治す方法
多くの場合、まずはお薬を使ったり、耳や鼻の処置をしたりする方法を選びます。
- 経過観察 特にお子さまの場合、成長とともに自然に治ることが期待できます。 そのため、3ヶ月程度は定期的に耳の状態を確認しながら様子を見守ります。
- お薬の治療 耳の中にたまった液体を出しやすくするお薬を使います。 また、原因となっている鼻の炎症を抑えるお薬も大切です。
- 耳や鼻の処置 耳と鼻は「耳管」という管でつながっています。 鼻の通りを良くするため、鼻水を吸い取ったり、空気を送ったりします。 これにより、耳管の働きを助け、たまった液体の排出をうながします。
手術で治す方法
お薬などの治療を続けてもなかなか良くならない場合や、聞こえにくさが続く場合は手術を考えます。
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手術の種類 |
どのような手術か |
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鼓膜切開術 |
鼓膜を2mmほど小さく切って穴を開け、中にたまっている液体を直接吸い出します。 |
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鼓膜チューブ挿入術 |
鼓膜に開けた穴がすぐに閉じないよう、小さなチューブをはめ込みます。 これにより、耳の中の換気が保たれ、液体がたまりにくくなります。 |
将来のための予防
滲出性中耳炎は、もとをたどると風邪などの感染症から始まることも少なくありません。 そのため、治療と同時に「予防」という視点も非常に重要です。
海外の研究では、赤ちゃんの頃に肺炎球菌ワクチンを接種することで、将来的なメリットがあることが報告されています。 ワクチンを打ったお子さんは、16〜20年後の思春期になったとき、中耳炎が原因の重い耳の病気になるリスクが低くなったのです。
どの治療法が最適かは、一人ひとりの状態によって異なります。 医師とよく相談しながら、根気強く治療を進めていきましょう。













