横隔膜ヘルニア

お腹の赤ちゃんについて、あるいは生まれてきたお子さんの呼吸の様子に、不安を感じたことはありませんか?「横隔膜ヘルニア」は、胸とお腹を隔てる膜に穴が開き、本来お腹にあるべき臓器が胸の中へ移動してしまう病気です。移動した臓器が心臓や肺を圧迫するため、命に関わる危険性も少なくありません。

しかし、現在では出生前の超音波検査で発見されることも多く、治療の選択肢も進歩しています。特に手術では、使う素材によって再発率が50%から約5%にまで変わるというデータもあり、正しい知識を持つことが赤ちゃんの未来を守る鍵となります。

この記事では、横隔膜ヘルニアの基本的な知識から、再発を防ぐための最新治療法まで、信頼性の高い研究結果を交えながら詳しく解説します。

横隔膜ヘルニアの概要

私たちの胸とお腹は、「横隔膜」という筋肉の膜で仕切られています。 この横隔膜に何らかの原因で穴が開き、そこからお腹にあるべき胃や腸などの臓器が胸の中へ移動してしまう病気が横隔膜ヘルニアです。

胸の中には、呼吸をするための肺や、全身に血液を送る心臓があります。 これらは、生きていく上で非常に重要な臓器です。 飛び出した臓器が肺や心臓を圧迫すると、呼吸が苦しくなったり、心臓の働きが悪くなったりする危険性があります。

この病気は、生まれつき横隔膜に穴が開いている「先天性」のものがよく知られています。 先天性横隔膜ヘルニアは、赤ちゃんがお腹にいる時の超音波検査で診断されることも少なくありません。 そのため、生まれる前から専門の病院で治療の準備を進めることができます。

最近では、出産時期に関する研究も進んでいます。 複数の研究結果をまとめて分析する「メタアナリシス」という信頼性の高い方法によると、予定日より少し早い出産と、予定日通りの出産で、赤ちゃんの退院時の生存率に大きな違いはないと報告されています。

横隔膜ヘルニアのポイント

  • 横隔膜の穴 胸とお腹を分ける筋肉の膜に穴が開いてしまう状態です。
  • 臓器の移動 お腹の臓器が胸の中に入り込み、心臓や肺を圧迫します。
  • 主な原因 生まれつきの場合と、ケガなどで後から起こる場合があります。

横隔膜ヘルニアの種類

横隔膜ヘルニアは、いつ、どのようにして起こるかで種類が分かれます。 生まれつき横隔膜に穴が開いている「先天性」が代表的です。 一方、ケガなどが原因で後から発症する「後天性」もあります。

特に、赤ちゃんに多い先天性横隔膜ヘルニアは、穴の場所でさらに細かく分類されます。

種類

穴が開く場所と特徴

ボホダレク孔ヘルニア

横隔膜の後ろ側(背中側)に開く、最も多いタイプです。

モルガニー孔ヘルニア

横隔膜の前側(胸の骨の裏)に開くタイプです。

食道裂孔ヘルニア

食道が通るための穴が、生まれつき通常より大きくなっています。

先天性で穴が大きい場合は、手術で穴をふさぐ必要があります。 その際、「パッチ」という人工の膜で穴を補強することがあります。

多くの研究結果をまとめた信頼性の高い分析があります。 それによると、体に吸収されない合成素材のパッチが有効です。 この素材は、手術後の再発率が低い傾向にあると報告されています。

また、モルガニー孔ヘルニアでは、再発との関連も研究されています。 ダウン症候群を合併していると、再発率が約19%と高くなるのです。 (合併していない場合は約2.5%) そのため、再発を防ぐために、体に吸収されないパッチや糸を使うことが推奨されます。

横隔膜ヘルニアの原因

横隔膜ヘルニアの原因は、大きく2つに分けられます。 生まれつき横隔膜に問題がある「先天性」の場合。 そして、生まれた後に何かがきっかけで起こる「後天性」です。

先天性の原因

赤ちゃんがお母さんのお腹の中で育つ途中で起こります。 何らかの理由で、横隔膜がうまく作られなかった状態です。 なぜそうなるのか、はっきりとした理由はまだわかっていません。

穴が大きいと、お腹の臓器が胸に入り込み手術が必要です。 その際、「パッチ」という人工の膜で穴をふさぐことがあります。 信頼性の高い多くの研究報告を分析した結果があります。 それによると、患者さんの約39.2%がパッチで治療を受けていました。

手術で使うパッチの素材選びは、再発を防ぐために重要です。 研究では、体に吸収されない丈夫な合成素材(SNOR)が有効です。 この素材は、再発率が14.0%と最も低い傾向にありました。 素材選びは、将来の再発リスクを減らすために慎重に行われます。

後天性の原因

生まれた後に、横隔膜に穴が開いたり弱くなったりします。 後天性の原因には、主に次のようなものがあります。

  • 外傷によるもの 交通事故や転落などで、お腹や胸に強い衝撃が加わります。 その力で横隔膜が破れてしまうケースです。
  • 食道裂孔ヘルニア 後天性で最もよくみられるタイプです。 食道が通る穴が、加齢などでゆるむことが主な原因です。 その他、肥満や猫背などの生活習慣も関係します。 お腹に強い圧力がかかる行動も、リスクを高めるので注意しましょう。

横隔膜ヘルニアの症状

横隔膜ヘルニアの症状は、生まれつきの場合に多く見られます。 生まれてすぐに、はっきりとしたサインが現れることも少なくありません。 お腹の臓器が胸に入り、肺や心臓を圧迫することが原因です。

赤ちゃんの体に現れる主な症状には、次のようなものがあります。

  • 呼吸が苦しそう(呼吸困難) 肺が圧迫されて十分に膨らめません。 そのため、呼吸が速く、浅くなってしまいます。
  • チアノーゼ 血液中の酸素が不足して起こるサインです。 唇や皮膚、爪などが青紫色に見えます。
  • お腹がへこんでいる 本来お腹にあるはずの胃や腸が胸に移動しています。 その結果、お腹が平ら、あるいはへこんで見えます。
  • 心臓の音が片側に寄って聞こえる 心臓が正常な位置から押しやられてしまうために起こります。

症状の重さは、横隔膜に開いた穴の大きさで大きく変わります。 重症の場合、肺が十分に成長できず命に関わることもあります。 特に「肺高血圧症」は、肺の血管の圧力が極端に高くなる危険な状態です。

この深刻な状態に対し、近年は治療の選択肢も研究されています。 複数の研究をまとめた信頼性の高い分析があります。 それによると、お腹の中にいるうちに行う胎児治療(FETO)が有効です。 この治療は、重症の赤ちゃんの死亡率を低下させる効果が示されています。 また、「ECMO(エクモ)」という特別な治療装置の使用率を下げる可能性も報告されています。

横隔膜ヘルニアの検査・診断

横隔膜ヘルニアの診断は、主に画像を見て行います。 赤ちゃんがお腹にいる間と、生まれた後で検査をします。 いつ診断されるかによって、治療の準備が大きく変わります。

生まれる前の検査(出生前診断)

多くは妊婦健診の超音波(エコー)検査で見つかります。 お腹にあるはずの胃や腸が、胸の中に見えて診断のきっかけになります。 疑わしい場合は、より詳しく調べる検査を追加します。

  • 胎児MRI検査 磁石の力で、体の断面を詳しく撮影する検査です。 どの臓器が胸に入っているか、肺がどれだけ押されているかを確認します。
  • 胎児心臓超音波検査 心臓に他の病気がないか、正常な位置にあるかを詳しく調べます。

これらの検査で重症度を正確に評価することはとても重要です。 重症の場合、お腹の中にいるうちに行う「胎児治療」も選択肢になります。

信頼できる多くの研究報告をまとめた分析があります。 それによると、この胎児治療(FETO)は赤ちゃんの死亡率を下げます。 特に重症の赤ちゃんでは、その効果が大きいことがわかっています。

また、重症の場合に起こりやすい合併症のリスクも減らせます。

  • 肺高血圧症 肺の血管の圧力が、異常に高くなる危険な状態です。
  • ECMO(エクモ)の使用 体の外で肺と心臓の代わりをする、特別な装置のことです。

胎児治療には、予定日より少し早い出産になるリスクがあります。 しかし、極端に早い出産や、他の重い合併症のリスクは高めないと報告されています。

生まれた後の検査

生まれてから呼吸が苦しそうな場合、すぐに検査を行います。 赤ちゃんの状態に合わせた、最適な治療計画を立てるためです。

検査の種類

目的とわかること

胸部レントゲン検査

横隔膜ヘルニアを確定させるための基本的な検査です。<br>胸の中に、お腹の臓器が入り込んでいるのがはっきりと写ります。

CT検査

体を輪切りにしたような詳しい画像が得られます。<br>臓器の位置を立体的に把握し、手術の計画を立てるために行います。

血液ガス分析

血液中の酸素や二酸化炭素の量を調べる検査です。<br>肺がどのくらいうまく機能しているかを、客観的に評価できます。

これらの検査結果を総合的に判断し、治療を進めていきます。

横隔膜ヘルニアの治療

横隔膜ヘルニアの治療は、手術が基本です。 お腹の臓器を本来の位置に戻し、横隔膜の穴をふさぎます。 手術の方法は、患者さんの体の状態に合わせて慎重に決まります。

手術には、大きく分けて2つの方法があります。

  • 開胸・開腹手術 胸やお腹を直接切って、目で見て行う方法です。
  • 腹腔鏡(ふくくうきょう)手術 お腹に数カ所の小さな穴を開けて行います。 カメラや細い道具を入れ、モニターを見ながら手術します。 傷が小さく、体への負担が少ないのが特徴です。 多くの研究で、安全で効率的な手術方法だと報告されています。

横隔膜の穴をふさぐ方法も、主に2つあります。

  • 直接縫い合わせる方法 穴が比較的小さい場合に、周りの組織を糸で縫い合わせます。
  • 人工の膜(パッチ)を使う方法 穴が大きく、直接縫うと無理な力がかかってしまう場合に使います。 信頼性の高い多くの研究報告を分析した結果があります。 それによると、先天性横隔膜ヘルニアの約39.2%で、このパッチが使われていました。

手術後の再発を防ぐためには、糸やパッチの「素材選び」が非常に重要です。

材料の種類

特徴と再発のリスク

吸収される糸・パッチ

時間とともに体に溶けてなくなる素材です。<br>ある研究では、吸収される糸を使うと再発率が50%にもなると報告されています。

吸収されない糸・パッチ

体に吸収されず、ずっと壁の役割を続けます。<br>吸収されない糸では再発率が約5.3%と低く、再発防止に有効とされています。

特に、ダウン症候群を合併している赤ちゃんは注意が必要です。 再発率が約19%と高くなる傾向が報告されています。 (合併していない場合は約2.5%) そのため、体に吸収されない丈夫なパッチを使うことが強く推奨されます。

このように、治療法は一人ひとりの状態に合わせて慎重に選択します。 担当の医師とよく相談し、納得のいく治療を受けることが大切です。