急性ストレス障害

命の危険を感じるような事故や災害、つらい出来事を経験した後に、その記憶が突然よみがえる(フラッシュバック)、現実感がないといった不調を感じていませんか。それは「急性ストレス障害」と呼ばれる、誰にでも起こりうる心の自然な反応の一つです。

通常、この症状は出来事から3日〜1ヶ月ほどで落ち着きます。しかし、心と体が発するこのSOSサインを放置してしまうと、1ヶ月以上続く「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」に移行する可能性もあります。早期に自分の状態を理解することが、回復への鍵となります。

この記事では、急性ストレス障害の具体的な症状から原因、そして認知処理療法(CPT)など回復を促す治療法までを詳しく解説します。ご自身の状態と照らし合わせ、適切な対処法を見つけるための一助となれば幸いです。

急性ストレス障害の概要

とても怖いことやつらいことを体験した後に、心や体に強い反応が出ることがあります。 これは「急性ストレス障害」という、心の自然な反応の一つです。

大きな災害や事故、事件に巻き込まれるなど、命の危険を感じる出来事が原因となります。 こうした出来事を体験してから、3日から1ヶ月くらいの間に症状が現れるのが特徴です。

具体的には、主に5つのグループの症状が見られます。

  • 侵入症状 つらい出来事の記憶が、自分の意思と関係なく突然よみがえります。(フラッシュバック)
  • 陰性症状 楽しい、うれしいといったポジティブな感情がわきにくくなります。
  • 解離症状 現実感がなく、まるで夢の中にいるように感じることがあります。
  • 回避症状 体験を思い出すような場所や人を、無意識に避けるようになります。
  • 覚醒症状 常に神経が張りつめ、ささいなことで驚いたり眠れなくなったりします。

多くの場合、安全な環境で十分に休養することで、症状は1ヶ月以内に落ち着きます。 しかし、症状が1ヶ月以上続く場合は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断が変わることがあります。

治療法をより良くするための研究も世界中で進められています。 動物を使った研究では、不安や恐怖に効果が期待される薬の報告もありました。 しかし、人に対する有効性はまだ十分な証拠がなく、さらなる研究で確認していく必要があります。

急性ストレス障害の種類

急性ストレス障害の症状は、一人ひとり異なります。 専門的には、症状を5つのグループに分類します。 診断の際は、14項目ある症状のうち9つ以上当てはまるかを見ます。

  • 侵入症状 つらい出来事を思い出したくないのに、その時の記憶が突然よみがえります。 これを「フラッシュバック」と呼び、悪夢として見ることもあります。
  • 陰性症状 これまで感じていた楽しい気持ちや、うれしい気持ちがわきにくくなります。 感情にフタがされたように、何も感じられなくなることもあります。
  • 解離症状 自分が自分でないような、ぼんやりした感覚に陥ります。 周りの世界に膜がかかったように、現実感がないと感じる状態です。
  • 回避症状 つらい体験を思い出す場所や人、会話などを無意識に避けます。 自分を守るための、心と体の自然な防衛反応の一つです。
  • 覚醒症状 常に神経が張りつめていて、リラックスすることができません。 ささいな物音にひどく驚いたり、イライラしやすくなったりします。

症状を軽くする研究も進められています。 例えば、ヨガや瞑想のような心と体を使う運動(マインドボディエクササイズ)があります。 これは、症状が長引いた場合に、そのつらさを軽くするのに役立つ可能性が報告されています。 しかし、急性ストレス障害の発症自体を防ぐ効果は、まだはっきりと分かっていません。

急性ストレス障害の原因

急性ストレス障害は、心に強い衝撃を与える出来事がきっかけで起こります。 ご自身や大切な人の命、または心の安全が脅かされるような体験です。

こうした体験は「心的外傷(トラウマ)」と呼ばれ、具体的には以下のようなものがあります。

  • 災害や事故 地震、津波、火事などの自然災害や、大きな交通事故など。
  • 暴力や犯罪被害 暴行や虐待、いじめ、性的な被害、犯罪の目撃など。
  • 命に関わる出来事 ご自身やご家族の重い病気の告知や、大切な人との突然の死別など。

このような強い衝撃を受けると、脳が情報を処理する能力を超えてしまいます。 その結果、心と体のバランスが一時的に崩れてしまうのです。 これは特別なことではなく、誰にでも起こりうる心の自然な反応といえます。

ただし、同じ出来事を経験しても、誰もが発症するわけではありません。 出来事をどのように受け止めたかという、その人の「考え方」も影響します。 これは、治療法の一つである認知処理療法(CPT)の考え方にも関連します。

また、ヨガや瞑想のような心と体を使う運動(マインドボディエクササイズ)があります。 これが心的外傷後ストレス障害(PTSD)の発症予防に、小さな効果を示したという研究報告もあります。 しかし、まだ研究の数が少なく、今後のさらなる検証が待たれる段階です。

急性ストレス障害の症状

とても怖いことや、つらいことを体験した後に、心や体にさまざまなサインが現れることがあります。 これは、心が自分を守ろうとするための自然な反応です。

症状の現れ方は人によって違いますが、主に5つのグループに分けられます。 ご自身の状態と比べて、当てはまるものがないか見てみましょう。

  • 侵入症状 つらい出来事の記憶が、自分の意思とは関係なく突然よみがえります。 その時の光景や感情が、まるで今起きているかのように感じられます。 (フラッシュバック) また、出来事に関する悪夢を繰り返し見ることもあります。
  • 陰性症状 これまで楽しめていたことに対して、興味がわかなくなります。 喜びや愛情といった、肯定的な感情を感じにくくなる状態です。 強い不安だけでなく、気分の落ち込みといった抑うつ症状が、 同時に見られることも少なくありません。
  • 解離症状 自分が自分でないような、ぼんやりとした感覚に陥ることがあります。 周りの世界に一枚膜がかかったように、現実感がない状態です。 つらい出来事の重要な部分を思い出せない健忘(けんぼう)も、 この症状の一つです。
  • 回避症状 つらい体験を思い出すような人や場所、会話などを避けるようになります。 これは、これ以上傷つかないようにするための、無意識の防衛反応です。
  • 覚醒症状 常に神経が張りつめていて、リラックスすることができません。 ささいな物音にひどく驚いたり、イライラしやすくなります。 その結果、眠れなくなったり、物事に集中できなくなったりします。

これらの症状が複数当てはまり、日常生活に影響が出ている場合は、急性ストレス障害の可能性があります。 症状は通常、つらい出来事を体験してから3日後から1ヶ月の間に現れます。

急性ストレス障害の検査・診断

急性ストレス障害の診断は、主に医師との対話によって行われます。 血液検査や脳の画像検査でわかるものではなく、問診が最も重要です。 あなたが体験したことや、今困っていることを丁寧にお聞きします。

診断では、世界共通の診断マニュアル(DSM-5)を参考にします。 以下の点を確認し、総合的に判断して診断をくだします。

【急性ストレス障害の診断で確認する主なポイント】

  • 原因となる出来事 ご自身や大切な人の命が危ないと感じるような、 とてもつらい出来事を体験したかを確認します。
  • 症状の期間 症状が、つらい出来事から3日以上、1ヶ月未満続いているか。 この期間が診断の大きなポイントになります。
  • 症状の内容と数 5つのグループに分けられた14の症状のうち、 9つ以上が当てはまるかを確認します。
  • 生活への影響 症状のせいで、学業や日常生活に大きな支障が出ていないか。 ご本人の苦痛の度合いも大切です。

診断後は、一人ひとりの状態に合わせた治療計画を立てていきます。 例えば、ご高齢の方の不安症状には、認知行動療法が有効な場合があります。 これは、つらい出来事への考え方のクセを見直す、心のトレーニングです。

ある研究では、この治療法が治療直後の抑うつ気分を和らげる可能性が示されました。 しかし、その効果が長期的に続くかはまだはっきりしていません。 そのため、今後のさらなる研究で確かめていく必要があります。 まずは専門家と一緒にご自身の状態を整理することが、回復への第一歩です。

急性ストレス障害の治療

急性ストレス障害の治療で最も大切なのは、まず安心できる環境に身を置くことです。 怖いことや、つらい出来事を引き起こした場所や状況から離れてください。 心と体をゆっくり休ませることが、回復への一番の近道になります。

治療は、主に以下の3つの方法を組み合わせて進めていきます。

  • 安心できる環境での休養
  • お薬によるサポート(薬物療法)
  • 心のトレーニング(精神療法・カウンセリング)

まずは十分な休養をとり、心が自然に回復する力を見守ります。 しかし、眠れない、不安で胸がドキドキするなどの症状が強い場合もあります。 そうしたつらさを和らげるために、お薬の力を借りることがあります。

精神療法では、専門家と一緒に心の状態を整理していきます。 特につらい体験によって偏ってしまった考え方を、見直す練習をします。 この治療法の中でも、「認知処理療法(CPT)」という方法があります。

認知処理療法(CPT)は、科学的な研究でも効果が認められている方法です。 急性ストレス障害だけでなく、同時に起こりやすい気分の落ち込みなど、 他の心の不調にも良い影響が期待できると考えられています。

治療は、一人ひとりの状態に合わせて、これらの方法を組み合わせて行います。

治療の目的

具体的な方法

心を休ませ、落ち着かせる

・安全な場所を確保する<br>・脳と体をゆっくり休ませる

つらい症状を和らげる

・眠れない時や不安が強い時に、気持ちを楽にするお薬を使うことがある

考え方のクセを整え、回復を促す

・認知処理療法(CPT)などの心のトレーニングを行う<br>・専門家と一緒に、つらい出来事への考え方を整理する

回復までには個人差があります。焦る必要はありません。 専門家とよく相談しながら、ご自身のペースで治療を進めていきましょう。