心気症
軽い頭痛で「重い病気では?」と過剰に心配したり、インターネットで症状を検索しては、かえって不安を募らせてしまったり…。そんな経験はありませんか。
病院で「異常なし」と診断されても安心できず、次々と医療機関を巡ってしまう。その半年以上も続くつらい不安は、もしかしたら「心気症(病気不安症)」と呼ばれる心の不調かもしれません。
この記事では、ご自身では気づきにくい心気症の具体的な症状や原因、そして心の負担を軽くするための治療法について詳しく解説します。終わらない不安の正体を知り、穏やかな日常を取り戻すための一歩を踏み出してみませんか。
心気症の概要
心気症は、現在では「病気不安症」とも呼ばれる心の不調の一つです。 咳や頭痛など、体のささいな変化をきっかけとして、何か重い病気にかかっているのではないかと過剰に心配してしまう状態を指します。 その強い不安が、長い期間にわたって続いてしまうのが特徴です。
病院で検査を受けて「異常はありません」と説明されても、なかなか安心できません。 「検査で見落としがあるのかも」「もっと別の検査をしないと見つからない病気のはずだ」と考え、次々と医療機関を巡ってしまうこともあります。
心気症には、主に次のような特徴が見られます。
- 重い病気への強い不安 体の調子が少し悪いだけで、重い病気だと思い込んでしまい、その不安が半年以上も続きます。
- 体の感覚にとても敏感になる 軽い頭痛や動悸など、誰にでも起こる体の反応を、危険な病気のサインだと解釈してしまいます。
- 病気の情報を探しすぎてしまう インターネットなどで病気について調べ続け、かえって不安を大きくしてしまうことがあります。
- 日常生活への影響 病気の不安がいつも頭から離れず、仕事や勉強に集中できなくなるなど、生活に支障が出てきます。
ある研究では、健康への強いこだわりを持つ方は、心気症のほかにパニック障害などを併せ持つことが多いと報告されています。 ご本人は体の病気だと強く信じているため、心の不調であるという認識を持ちにくい(病識が低い)傾向があることも、この不調の難しい点です。 年齢や性別にかかわらず、誰にでも起こりうる心の状態なのです。
心気症の種類
心気症には、実は医学的にはっきりと分けられた種類があるわけではありません。 しかし、症状の現れ方は一人ひとり異なり、他の心の不調と深く関わっていることが多いです。
特に、心気症は「強迫性障害(OCD)」と症状が似ている場合があります。 強迫性障害の中でも、病気や健康に関する不安が頭から離れず、安心するための行動を繰り返してしまう状態を「健康関連の強迫症状」と呼びます。
ある研究によると、この健康関連の強迫症状がある方は、心気症やパニック障害を同時に発症しやすいことがわかっています。 また、ご自身の心配が行き過ぎているという認識を持ちにくい(病識が低い)傾向があることも、同じ研究で指摘されています。
このように、心気症は単独で現れるとは限りません。 関連の深い心の不調には、主に次のようなものがあります。
- 強迫性障害(OCD) 自分の意思とは関係なく、病気への不安が何度も頭に浮かびます。 そして、その不安を打ち消すために、体を何度もチェックするなどの行動を繰り返してしまいます。
- パニック障害 特別な理由もなく、突然、動悸や息苦しさといった強い不安に襲われます。
- うつ病 気分がひどく落ち込んだ状態が長く続き、日常生活に影響が出てしまいます。
これらの不調が隠れている可能性もあるため、専門家による丁寧な診察がとても大切になるのです。
心気症の原因
心気症の原因は、まだはっきりとわかっていません。 一つの原因だけでなく、いくつかの要因が重なって起こると考えられています。
主な原因として、次のようなものが挙げられます。
- 物事のとらえ方のクセ 頭痛や耳鳴りなど、体のささいな変化を悪い方向に考えてしまう傾向です。 「これは重い病気の前ぶれに違いない」と、最悪の事態を想像してしまいます。
- 過去のつらい経験 ご家族や身近な人が重い病気になった経験が、不安の引き金になることがあります。 「自分も同じ病気になるのでは」という恐怖心が、心に強く残ってしまうのです。
- ストレスや疲れの蓄積 仕事や人間関係などのストレスで心や体が疲れていると、不安を感じやすくなります。 心の余裕がなくなり、ささいな体の不調にも過敏に反応しがちになります。
- 他の心の不調との関連 ある研究では、心気症と「強迫性障害」が深く関わっていることが示されています。 特に、健康への不安が頭から離れない方は、心気症やパニック障害を併せ持つことが多いと報告されています。 また、ご自身の心配が行き過ぎていることに気づきにくい(病識が低い)傾向があることも、同じ研究で指摘されています。
これらの要因が、その人の性格や生活環境と影響しあい、病気への強い不安を生み出すと考えられています。
心気症の症状
心気症の中心的な症状は、強い不安や思い込みです。 「自分は何か重い病気にかかっているに違いない」と考え、その不安が長く続いてしまいます。 病院で検査を受けて「異常なし」と説明されても、なかなかその不安を拭い去れません。
この強い不安から、次のような行動や体の不調がみられます。
【考えや行動にあらわれるサイン】
- 病気の情報を探しすぎる 自分の症状について、インターネットなどで一日中調べてしまい、かえって不安を大きくする悪循環に陥ります。
- 病院を次々と変えてしまう 一つの病院の診断を信じることができず、安心できる答えを求めて、次々と別の病院を受診してしまいます。
- 自分の体をチェックしすぎる 軽い頭痛や少しの動悸など、誰にでも起こる体の変化を、重い病気のサインだと結びつけてしまいます。
【体にあらわれるサイン】 強い不安やストレスは、自律神経のバランスを乱します。 その結果、体にさまざまな不調があらわれることがあります。
- 頭痛、めまい、耳鳴り
- 吐き気、胃の不快感
- 動悸、息苦しさ、汗をかく
- 手足のしびれ、体のだるさ
ある研究では、健康への強い不安を持つ方は、心気症やパニック障害を併せ持つことが多いと報告されています。 また、ご自身の心配が行き過ぎていることに気づきにくい(病識が低い)傾向があることも、同じ研究で指摘されています。 このような状態が6ヶ月以上続く場合は、診断の一つの目安となります。
心気症の検査・診断
心気症の診断は、まず体の病気の可能性がないか、一つひとつ丁寧に調べることから始まります。 これは、あなたの不安の裏に本物の病気が隠れていないかを確認するための、とても大切な手順です。
例えば、頭痛が心配なら脳の検査、動悸が気になるなら心臓の検査など、症状に合わせた検査を行います。 しかし、心気症の場合、これらの検査を受けても症状を説明できるような異常は見つからないことがほとんどです。
体の検査で異常が見つからなかった後、次はお医者さんとのお話(問診)がとても重要になります。 お話の内容を、世界中のお医者さんが使う心の状態をチェックするためのリスト(DSM-5など)と照らし合わせ、慎重に診断を進めます。
▼お医者さんがお話で聞くこと(例)
- いつから、どんな症状で悩んでいますか 症状が始まった時期や、具体的な内容についてお聞きします。
- どんな病気を心配していますか ご自身が「かかっているのでは」と考えている病気について伺います。
- 心配によって、生活にどんな影響がありますか 仕事や学校、普段の生活に支障が出ていないかを確認します。
問診では、他の心の不調が隠れていないかも確かめます。 ある研究では、病気への強い不安を持つ方は、パニック障害などを同時に抱えていることが多いと報告されています。 また、ご本人は心配が行き過ぎていることに気づきにくい(病識が低い)傾向があることも、同じ研究で指摘されています。 そのため、客観的な視点での診断がとても大切になるのです。
心気症の治療
心気症の治療は、まず医師と信頼関係を築くことから始まります。 「体のどこかが悪いのでは」という、あなたのつらい気持ちを理解し、一緒に問題に向き合うことがとても大切です。 治療は主にお話による治療(精神療法)とお薬による治療を組み合わせて行われます。
- お話による治療(精神療法) 治療の中心となる方法です。 特に「認知行動療法」では、考え方のクセを見直す練習をします。 体のささいな変化を、すぐに重い病気と結びつけてしまう考え方のバランスを整えていきます。 不安を上手にコントロールする力を身につけることが目標です。
- お薬による治療(薬物療法) 不安や落ち込みが強く、生活に大きな影響が出ている場合に用います。 脳の神経のバランスを整えるSSRI(抗うつ薬の一つ)などを使用し、つらい気持ちを和らげる手助けをします。
ある研究では、健康への強い不安を持つ方は、ご自身の心配が行き過ぎていることに気づきにくい(病識が低い)傾向があると報告されています。 また、パニック障害などを併せ持つことも少なくありません。 そのため、体の状態だけでなく、心の状態も含めて一人ひとりに合った治療計画を立てることが重要になるのです。













