尿路感染症

「おしっこをする時にしみるように痛い」「トイレが異常に近くなった」「出し切ったのにまだ残っている感じがする」――そんな不快な経験はありませんか?これらの症状は、ごく一般的な「尿路感染症」のサインかもしれません。

尿路感染症は、小さなお子さんからご高齢の方まで、性別を問わず誰にでも起こりえる身近な病気です。特に、体の構造上、女性は男性に比べて尿道が短く、ばい菌が侵入しやすいため、より感染リスクが高い傾向にあります。

また、糖尿病がある方は、そうでない方に比べて尿路感染症になるリスクが約2倍に高まることが分かっており、注意が必要です。この記事では、なぜ尿路感染症が起こるのか、その具体的な症状、そして適切な検査・治療方法までを詳しく解説します。

尿路感染症の概要

尿路感染症は、私たちの体の中を流れる「おしっこの通り道」に、ばい菌が入りこんでしまう病気です。この「おしっこの通り道」とは、おしっこが作られてから体の外に出ていくまでの、大切な管や臓器のすべてを指します。

具体的には、おしっこを作る「腎臓(じんぞう)」、腎臓から膀胱へおしっこを運ぶ「尿管(にょうかん)」、おしっこをためておく「膀胱(ぼうこう)」、そしておしっこを体の外に出す「尿道(にょうどう)」が含まれます。これらの通り道のどこにでも、ばい菌がついて炎症を起こす可能性があります。

この病気は、特別な人だけがかかるものではありません。小さなお子さんからご高齢の方まで、性別を問わず誰にでも起こりえる一般的な病気です。

特に女性は、体のつくりとして男性に比べて尿道が短くなっています。そのため、ばい菌が体の外から膀胱に届きやすく、男性よりも尿路感染症にかかりやすい傾向があるのです。

健康な方でも、疲れがたまったり、体調を崩したりすると、ばい菌と戦う力(免疫力)が一時的に下がります。このような時にばい菌が侵入しやすくなり、発症することがあります。

また、おしっこの流れが悪くなるような病気がある方や、入院などで「尿の管(カテーテル)」が長く体に入っている方も注意が必要です。尿の管が長く体内にあると、ばい菌が管を通って尿路に侵入しやすくなるためです。

私たちが日々の診療で参考にしている研究報告では、尿の管が体の中に24時間以上入っている場合に、尿路感染症になる可能性が高まることが示されています。これは、管が長く体内にあることで、ばい菌が繁殖しやすくなるためと考えられます。もし、あなたやご家族が尿の管を入れている場合は、いつまで管が必要なのか、管を抜くタイミングなどについて、医師や看護師に積極的に確認してみるのが良いでしょう。

尿路感染症は、適切な治療をきちんと受けることで症状が改善する病気です。もし体に「いつもと違うな」と感じる不調があれば、放置せずに早めに医療機関を受診してください。

尿路感染症の種類

尿路感染症と一口に言っても、ばい菌がおしっこの通り道のどこに入り込んで、悪さをしているかによって種類が分かれます。それぞれの場所によって、体のサイン(症状)も少しずつ違います。

大切なのは、自分の体にどんな変化が起きているのかを知り、心配な場合は早めに医療機関を受診することです。

  • 膀胱炎(ぼうこうえん)
  • おしっこをためておく「膀胱」にばい菌が入り、炎症を起こす病気です。
  • 症状としては、「おしっこをする時にしみるように痛い」「トイレが近くなる(頻尿)」
  • 「おしっこを出し切った後も残っている感じがする(残尿感)」などが現れやすいです。
  • 特に女性に多く見られます。これは男性に比べて尿道が短いことが関係しています。
  • 腎盂腎炎(じんうじんえん)
  • 膀胱炎が悪化し、ばい菌がさらに上へ上へと進んで、おしっこを作る大切な「腎臓」まで炎症が広がった状態です。
  • ただのおしっこの痛みだけでなく、急な高熱が出たり、背中や腰のあたりが痛んだりします。
  • 吐き気や体がだるいといった全身の症状も伴うことがあります。
  • 重症化すると全身に影響が出ることがあるため、これらの症状があれば、すぐに病院で診てもらうことが大切です。
  • 尿道炎(にょうどうえん)
  • おしっこの出口から膀胱までの細い管である「尿道」に炎症が起きるものです。
  • おしっこをする時に痛みを感じることが多いですが、膀胱炎より症状が軽い場合もあります。
  • まれに性病が原因で起こることもあります。
  • 前立腺炎(ぜんりつせんえん)
  • 男性にだけある「前立腺(ぜんりつせん)」という臓器にばい菌が入り、炎症を起こす病気です。
  • 排尿時の痛みに加え、トイレが近くなる症状や、股の奥の方に不快感や痛みを感じることがあります。
  • カテーテル関連尿路感染症
  • 病気などで、体の中に「尿の管(医療用のカテーテル)」が長く入っている場合に起こる尿路感染症です。
  • 例えば、手術後や入院中に、おしっこを出すための管が一時的に必要になることがあります。
  • 私たちの経験や研究から、この管が体の中に24時間以上入っていると、尿路感染症になる危険性が高まることがわかっています。
  • これは、管が長く体内にあることで、ばい菌が繁殖しやすくなるためです。
  • 大切なのは、尿の管はできるだけ早く抜くことです。
  • 尿の管をすぐに、あるいは1〜2日後に抜いても、尿が出にくくなる(再カテーテル留置)ような困ったことは増えないことが示されています。
  • むしろ、早く管を抜くことは、早くご自身の足で歩けるようになったり、病院にいる期間が短くなったりする良い効果もあります。
  • ただし、管を抜いた後に、一時的に自分でおしっこが出なくなってしまう「尿閉(にょうへい)」という状態にも注意が必要です。
  • もし、ご自身やご家族が尿の管を入れている場合は、いつまで管が必要なのか、管を抜いた後の注意点などについて、担当の先生や看護師さんに積極的に確認してみてください。

尿路感染症の原因

尿路感染症は、私たちの体の中の「おしっこの通り道」に、ばい菌が入り込んで増えることで起こる病気です。健康な体には、ばい菌から体を守る「ガードマン」のような働きがあります。しかし、何らかの理由でこのガードマンが弱まると、ばい菌が侵入しやすくなります。

ばい菌が尿路に入る主な原因は、体の外からやってくることです。たとえば、おしりの穴の周りや性器の近くにいるばい菌が、おしっこの出口である「尿道」から入ってきて、「膀胱(ぼうこう)」へと進んでしまうことがあります。特に女性は、男性に比べて尿道が短いです。そのため、ばい菌が膀胱までたどり着きやすく、尿路感染症になりやすい傾向があります。

ばい菌と戦う体の力が弱まることも、尿路感染症の原因になります。たとえば、体がとても疲れているときや、心配事などでストレスが多いときは、体の免疫システム(ばい菌と戦う仕組み)がうまく働きません。このような時には、いつもなら防げるばい菌の侵入を許してしまうことがあります。

特定の病気の治療も、原因となることがあります。たとえば、ある病気では、体の免疫(めんえき)が自分自身を攻撃してしまうことがあります。このような病気の治療で、モノクローナル抗体(めんえきの働きを抑えるお薬の一種)を使うことがあります。このような免疫を抑えるお薬を使っていると、尿路感染症にかかりやすくなることが、研究で報告されています。

また、糖尿病(とうにょうびょう)という病気を持っている方も、尿路感染症にかかるリスクが高くなります。ある研究では、糖尿病がある方は、そうでない方に比べて尿路感染症になるリスクが約2倍になることが分かっています。糖尿病があると、体の中で炎症や感染症が起こりやすくなるため、注意が必要です。

その他にも、おしっこの通り道に石がある「尿路結石(にょうろけっせき)」や、おしっこが出にくいといった病気がある場合も、ばい菌がおしっこの通り道にとどまりやすくなります。おしっこを我慢しすぎたり、水分をあまりとらなかったりすることも、ばい菌を洗い流す機会を減らしてしまい、感染につながることがあります。

私たち医師は、皆さんが普段から手洗いをしっかりすることや、水分をこまめにとることをおすすめしています。何か気になることがあれば、いつでも相談してくださいね。

尿路感染症の症状

尿路感染症にかかると、体はさまざまなサインを出します。普段のおしっこと違うと感じたら、それは体が助けを求めている証拠です。これらの症状は、ばい菌がおしっこのどの部分にいるかによって少しずつ変わります。

多くの場合、おしっこをする時に不快な症状から始まります。例えば、「おしっこがチクチク痛い」「じんじんしみる」といった痛みを感じることがあります。また、「トイレに行く回数が異常に増える(頻尿)」、「おしっこを出したのにまだ残っている感じがする(残尿感)」といった症状もよく見られます。

おへその下あたりが重苦しく感じたり、なんとなく不快だったりすることも少なくありません。普段と違う尿の見た目にも注意が必要です。「おしっこが濁っている」「血が混じってピンク色や赤っぽい色になっている」といった変化があれば、体の中で炎症が起きているかもしれません。

もし、ばい菌が腎臓まで進んでしまった場合は、体のサインがさらに強くなります。急に高い熱が出たり、ゾクゾクと寒気がしたりします。わき腹や背中の下の方が痛んだり、体がだるくて起き上がれないほどになることもあります。これらの症状は、病気が悪化しているサインですので、すぐに医療機関を受診してください。

特に注意が必要なのは、普段から糖尿病という病気がある方です。私たちの診療経験や研究報告によると、糖尿病のある方は、そうでない方に比べて尿路感染症になるリスクが約2倍に高まることが分かっています。糖尿病があると、体の免疫力が少し弱まり、ばい菌と戦う力が十分に出せないことがあるためです。

また、多発性硬化症などの病気の治療で「モノクローナル抗体」という特別な薬を使っている方も、尿路感染症にかかりやすい傾向があります。これは、一部のモノクローナル抗体(例えばオクレリズマブなど)が、体のばい菌と戦う力を弱めてしまうことがあるためです。

体にいつもと違う不調を感じたら、自己判断せずに早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けることがとても大切です。早期に発見し、治療を開始すれば、ほとんどの場合、症状は改善に向かいます。

尿路感染症の検査・診断

「おしっこが痛い」「トイレが近い」など、体にいつもと違うサインが出たとき、私たちはその原因を探るために検査を行います。 どんなばい菌がいるのか、どこで悪さをしているのかを知ることが、あなたに合う治療を見つける第一歩です。 私たち医師は、体からのメッセージを注意深く読み解きます。

尿検査で原因を探る

診断で一番大切にするのが「尿検査」です。 おしっこを調べることで、体の中で何が起きているかが分かります。

  • 尿定性検査
  • 試験紙を使い、おしっこにばい菌と戦う白血球や血液が混じっていないかを素早く調べます。
  • 体に異常がないかを確認する、最初のチェックです。
  • 尿沈渣検査
  • おしっこを機械で分けて、ばい菌や炎症を起こしている細胞を顕微鏡で詳しく数えます。
  • 病状の詳しい様子を知るための検査です。
  • 尿培養検査
  • おしっこのばい菌を育てて、どんな種類かを特定し、どの「お薬(抗生剤)」が一番効くのかを調べます。
  • 結果が出るまで少し時間がかかりますが、最適な治療のためにとても重要です。

その他の検査と大切なお話

症状が重い場合は、「血液検査」で体の炎症の具合を確認します。 また、おしっこの通り道に「石」がないかを調べる「超音波検査」を行うこともあります。

そして、私たち医師は、患者さんのお話(問診)をとても大切にしています。 いつから、どんな症状があるかなど、詳しく教えてください。

特に、手術などで「尿道カテーテル」というおしっこの管が体に入っていた経験も、大切な情報です。 研究では、この管が24時間以上体内にあると、尿路感染症になりやすいことが分かっています。 しかし、最近の研究から、手術後すぐに、あるいは1日から2日後に管を抜いても、また入れ直す心配はほとんど増えないことが示されています。 早く管を抜くことは、早く歩けるようになり、入院期間が短くなるという良い効果もあるのです。 ただし、管を抜いた後に一時的におしっこが出にくくなる「尿閉(にょうへい)」にも注意が必要です。 私たちは、これらの検査結果と患者さんのお話を総合的に見て、診断し、一人ひとりに合った治療へとつなげていきます。

尿路感染症の治療

尿路感染症にかかってしまったら、一番大切なのは、体の中にいる悪いばい菌をしっかり退治することです。そして、おしっこの時の痛みや熱といったつらい症状を和らげることも、治療の大きな目的となります。

1. お薬(抗生物質)での治療

多くの尿路感染症では、「抗生物質」という種類のお薬を使います。抗生物質は、尿路に住み着いたばい菌を退治し、数を減らすためのお薬です。

医師から「〇日間飲みましょう」と指示されたら、症状が良くなったと感じても、必ず最後まで飲み切ることが大切です。途中でやめてしまうと、ばい菌が完全にいなくならず、再び元気に増え始めて、症状が悪化してしまうことがあります。

ばい菌が体の中に残ってしまうと、お薬が効きにくい「耐性菌」という強いばい菌ができてしまう可能性もあります。これは、せっかく治療したのに、また困ったことになってしまうので、注意が必要です。

2. つらい症状を和らげる工夫

高熱が出たり、おしっこをする時に強い痛みがあったりする場合は、解熱鎮痛剤(ねつや痛みを和らげるお薬)を使って症状を楽にすることもあります。

また、水分をたくさん摂ることも、とても大切です。

  • 水分摂取
  • 体を流れるおしっこの量が増え、悪いばい菌がおしっこと一緒に体の外へ洗い流されやすくなります。
  • 「尿を出す」ことは、ばい菌を追い出すことにつながるのです。

3. カテーテルを使っている場合の注意点

手術の後などで、おしっこを出すための管(「尿道カテーテル」や「おしっこの管」と呼ぶこともあります)が体の中に入っている方もいらっしゃいます。この管が原因で尿路感染症になることもあります。

私たちが日々参考にしている研究報告では、この尿道カテーテルが体の中に24時間以上入っていると、尿路感染症になる可能性が高まる傾向があることが分かっています。そのため、管は必要以上に長く入れておかないことが望ましいとされています。

最近の研究では、手術が終わってすぐに、あるいは1日から2日後に管を抜いても、

  • 再カテーテル留置率
  • 一度抜いた管を、また入れ直す必要が生じることはほとんど増えない という良い結果が示されています。

さらに、早く管を抜くことは、

  • 初回歩行までの時間を短くする
  • ご自身の足で早く歩けるようになる
  • 入院期間を短くする
  • 病院にいる期間が短くなる といったメリットもあることが分かっています。

ただし、管を抜いた後、一時的に自分でおしっこが出なくなってしまう「尿閉(にょうへい)」という状態になることもあります。これは、おしっこが体の中にたまってしまう状態です。もし、尿道カテーテルを入れている場合は、いつまで管が必要なのか、管を抜くタイミングやその後の注意点について、医師や看護師に積極的に確認してみましょう。私たち医療スタッフも、尿閉に気をつけながら、管の早期抜去を進めるようにしています。

4. 再発を防ぐための生活習慣

治療を受けて症状がなくなっても、安心して終わりではありません。尿路感染症を繰り返さないために、普段の生活習慣を見直すことが大切です。

  • トイレを我慢しない
  • おしっこをしっかり出すことで、ばい菌を体の外へ洗い流しましょう。
  • 体を清潔に保つ
  • 特にデリケートゾーンを清潔に保つことが、ばい菌の侵入を防ぎます。
  • 水分をこまめに摂る
  • 治療中だけでなく、普段から水分をしっかり摂りましょう。

もし、また「いつもと違うな」と感じる不調があれば、放置せずに早めに医療機関を受診してください。早期に発見し、適切な治療を始めることが、体を守る一番の方法です。