好酸球性副鼻腔炎
「いつまで経っても鼻づまりが治らない」「食べ物のにおいや味がしない」…もしかしたら、それは単なる蓄膿症ではなく、国が指定難病に定める「好酸球性副鼻腔炎」のサインかもしれません。この病気は日本国内に約2万人もの患者がいるとされ、決して珍しいものではなくなっています。
しつこい鼻水や嗅覚障害だけでなく、患者の8割以上が気管支喘息を合併するなど、鼻だけの問題に留まらないのがこの病気の怖いところです。この記事では、その原因から特徴的な症状、そして最新の治療法までを徹底解説します。ご自身の症状と照らし合わせ、適切な対処法を知るための一歩にしてください。
好酸球性副鼻腔炎の概要
好酸球性副鼻腔炎は、治りにくい特殊なタイプの副鼻腔炎です。 鼻の中に「鼻茸(はなたけ)」というポリープがたくさんできます。 この病気は、厚生労働省から「指定難病」に認定されています。
私たちの血液中には、「好酸球」という白血球の一種があります。 本来は体を守る働きをしますが、この病気では鼻の粘膜に集まりすぎます。 その結果、強い炎症が起こり、しつこい鼻づまりや嗅覚障害を引き起こします。
日本では中等症から重症の患者さんが約2万人いるといわれています。 近年、患者さんの数は増える傾向にあり、決して珍しい病気ではありません。
治療では、手術やステロイド薬に加え、新しい注射薬も使われます。 この注射薬(生物学的製剤)で、まれに合併症が報告されることがあります。 しかし、その頻度は非常に低いことが大規模な調査でわかっています。
世界で約100万人が治療を受ける中で、合併症の報告は53件ほどです。 もし起こる場合でも、ほとんどは治療を始めてから数ヶ月以内です。 治療中に気になる症状があれば、自己判断せず医師へ相談してください。
好酸球性副鼻腔炎の種類
好酸球性副鼻腔炎には、明確な種類分けがあるわけではありません。 しかし治療計画を立てる上で、大きく2つの視点で分類します。 それは「再発のしやすさ」と「合併している病気」です。
まず、治療後に再発しやすいかどうか(再発リスク)で分けます。 この病気は手術をしてもぶり返すことがあり、注意が必要です。 リスクの高さに応じて、治療の強さや方法を変えていきます。
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リスクの高さ |
判断の目安となる特徴の例 |
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高リスク群 |
・気管支喘息を合併している ・血液検査で好酸球の数値が高い |
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低リスク群 |
・気管支喘息の合併がない ・血液検査で好酸球の数値が比較的低い |
次に、合併症の有無も重要な分類の視点です。 この病気は、鼻だけの問題ではないと考えられています。 鼻から肺まで続く空気の通り道全体で、同じ性質の炎症が起こるのです。
そのため、以下のような病気を合併することがあります。
- 気管支喘息
- 患者さんの8割以上で合併が見られる、最も関連の深い病気です。
- 好酸球性中耳炎
- 耳の中に粘り気の強い液体がたまり、難聴の原因になります。
- 好酸球性肺炎
- 炎症が肺にまで及んだ状態で、せきや呼吸困難を引き起こします。
- 好酸球増多症候群(HES)
- 全身で好酸球が増え、皮膚や心臓などにも影響が出ることがあります。
これらの「再発リスク」や「合併症」の情報を総合的に判断し、一人ひとりに合った治療を進めていくことが非常に重要です。
好酸球性副鼻腔炎の原因
この病気がなぜ起こるのか、その原因はまだ完全には解明されていません。 しかし、一つの原因ではなく、複数の要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
根本にあるのは、体を守る免疫システム、特に「好酸球」という白血球の異常な働きです。 何らかのきっかけでこの好酸球が鼻の粘膜に過剰に集まり、強い炎症を引き起こします。 その結果、粘り気の強い鼻水や、鼻茸(はなたけ)ができるのです。
現在、原因として有力視されているのは、主に以下の3つの要因です。
- 免疫システムの異常な反応 かぜなどのウイルス感染をきっかけに、免疫が過剰に反応してしまう体質が関係します。 これは「2型炎症」と呼ばれるアレルギー反応に似た仕組みです。 最近の研究では、このような刺激に体が反応して好酸球が増える「反応性の好酸球増多」という状態が、病気の中心にあると考えられています。
- 全身の病気としての側面 この病気は、鼻だけの局所的な問題ではないと考えられています。 鼻から気管支、肺まで続く空気の通り道全体で、同じ性質の炎症が起こるのです。 そのため、気管支喘息や好酸球性中耳炎などを合併することが非常に多くあります。
- 遺伝的な素因 病気そのものが直接遺伝するという報告はまだありません。 しかし、アレルギー体質や気管支喘息になりやすいといった、遺伝的な素質が発症のしやすさに関わっている可能性が指摘され、研究が進められています。
これらの要因が重なり合うことで、好酸球性副鼻腔炎は発症すると考えられています。
好酸球性副鼻腔炎の症状
好酸球性副鼻腔炎では、鼻を中心に特徴的な症状があらわれます。 一般的な副鼻腔炎(蓄膿症)とは少し違う点もあるため注意が必要です。 多くの場合、両方の鼻に同じような症状がみられるのが特徴です。
鼻にあらわれる主な症状 以下のような症状は、この病気を見分ける重要なサインとなります。
- においがしない(嗅覚障害) 鼻茸(はなたけ)が、においを感じる神経を覆ってしまうため生じます。 食べ物の風味がわからなくなり、生活の質が大きく下がることもあります。
- しつこい鼻づまり 鼻茸が鼻の中を埋め尽くし、空気の通り道を常に塞いでしまいます。 そのため口で呼吸することが多くなり、のどの渇きや痛みを引き起こします。
- 粘り気の強い鼻水 接着剤のように粘り気が強く、簡単にはかめない鼻水が出ます。 色は透明なこともあれば、黄土色や茶色っぽいこともあります。
全身にあらわれる症状 この病気は、鼻だけの問題で終わらないことが重要です。 近年の研究では、全身に影響を及ぼす可能性も指摘されています。 肺や耳だけでなく、まれに皮膚や消化器に症状が出ることもあります。
- 咳や息苦しさ(気管支喘息) 患者さんの多くが気管支喘息を合併し、しつこい咳に悩まされます。 ゼーゼー、ヒューヒューといった呼吸音が聞こえることもあります。
- 聞こえにくさ(好酸球性中耳炎) 炎症が耳にまで及ぶと、耳の詰まり感や聞こえにくさを感じます。 粘り気のある耳だれが出るなど、難聴の原因にもなり得ます。
一方で、一般的な副鼻腔炎でよくみられる頬や歯の痛みは少ない傾向です。 もしこれらの症状に心当たりがあれば、早めに専門医へ相談しましょう。
好酸球性副鼻腔炎の検査・診断
「においがしない」「接着剤のような鼻水が続く」などの症状から、 好酸球性副鼻腔炎が疑われる場合、慎重に診断を進める必要があります。 この病気は鼻だけの問題ではなく、全身に影響することもあるためです。 いくつかの検査を組み合わせ、多角的に体の状態を評価していきます。
まず、どのような症状でいつから困っているかを詳しくお聞きします。 気管支喘息など、他の病気にかかっていないかの確認も重要です。 その後、細いカメラ(内視鏡)で鼻の中を直接観察します。 この病気に特徴的な「鼻茸(はなたけ)」の有無や鼻水の状態を調べます。
次に、より詳しい検査で、目に見えない部分の状態を把握します。
- CT検査 エックス線を使って、鼻の奥にある「副鼻腔」の断面図を撮影します。 特に目と目の間にある「篩骨洞(しこつどう)」という部分に、 炎症が強く現れることが多いのがこの病気の特徴です。
- 血液検査 採血をして、血液中の白血球の一種である「好酸球」の数を調べます。 体の中でアレルギー反応に似た強い炎症が起きていると、 この好酸球の数値が高くなる傾向があります。
これらの検査結果は、日本の診断基準に基づいて点数化されます。
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診断のポイント |
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① 両方の鼻に鼻茸があるか |
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② CT検査で、篩骨洞に強い影が見られるか |
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③ 血液検査で、好酸球の割合が高いか |
上記の項目を含んだスコアが一定の基準を超えると、 好酸球性副鼻腔炎の可能性が非常に高いと判断されます。
しかし、ここまでの検査はあくまで「可能性が高い」という段階です。 最終的な確定診断には、手術で取り除いた鼻茸を顕微鏡で調べる、 「病理組織検査」という工程が不可欠になります。 組織の中に多数の好酸球が集まっていることを直接確認して、 初めて好酸球性副鼻腔炎であると診断が確定するのです。
この病気は複雑で、人によって症状の現れ方もさまざまです。 正確な診断を下すことが、臓器への影響を防ぎ、 生活の質を高めるための治療を選ぶ大切な第一歩となります。
好酸球性副鼻腔炎の治療
この病気の治療目標は、つらい症状を和らげることです。 そして、においを感じる嗅覚などの機能を守り、生活の質を高めます。 治療は主に「薬物療法」と「手術」を組み合わせて進めます。 患者さん一人ひとりの状態や再発しやすさに応じて計画を立てます。
薬物療法
お薬による治療は、症状をコントロールするための基本です。 炎症を抑えるステロイド薬と、新しいタイプの注射薬が中心です。
- ステロイド薬 炎症を抑える作用が非常に強く、治療の中心となるお薬です。 飲み薬や、鼻に直接スプレーする点鼻薬を使い分けます。 鼻茸(はなたけ)を小さくし、しつこい鼻づまりを改善します。
- 生物学的製剤(注射薬) ステロイドだけでは改善が難しい、重症な方向けの選択肢です。 炎症を引き起こす体内の特定の物質を、狙い撃ちで抑えます。 デュピルマブなどの薬で、まれに血液中の好酸球が増えることがあります。 しかし、世界で約100万人が治療を受ける中で報告は53件ほどです。 その頻度は非常に低く、ほとんどはステロイド薬で対応できます。
手術療法
薬物療法で効果が不十分な場合や、鼻茸が大きい場合に手術を検討します。 手術は、治療の終わりではなく、新たなスタートと考えることが大切です。
- 内視鏡下副鼻腔手術(ESS) 鼻の穴から細いカメラを入れ、鼻茸を取り除き、空気の通り道を広げます。 この手術で鼻の換気が良くなるだけでなく、大きな利点があります。 それは、手術後の鼻洗浄や点鼻薬が、奥まで届きやすくなることです。
好酸球性副鼻腔炎は、残念ながら再発しやすい病気です。 しかし、手術と薬物療法、そしてご自宅での鼻洗浄を根気よく続けること。 これらによって症状をコントロールし、良い状態を保つことが可能です。 医師と相談しながら、二人三脚で治療に取り組んでいきましょう。













