多系統萎縮症
最近、歩くときにふらつく、ろれつが回りにくいと感じることはありませんか?その症状、パーキンソン病と診断されて治療しているのに、なかなか改善しないという方もいるかもしれません。もしかしたら、それはパーキンソン病と症状が酷似しているために診断が非常に難しい「多系統萎縮症(MSA)」のサインである可能性が考えられます。
この病気は、脳や脊髄の神経細胞に異常なたんぱく質が溜まり、少しずつ機能が失われていく進行性の疾患です。この記事では、謎の多い多系統萎縮症について、その種類や症状、そして診断の精度を高めるための最新の研究まで詳しく解説します。ご自身の症状と照らし合わせ、正しい理解への一歩を踏み出しましょう。
多系統萎縮症の概要
多系統萎縮症は、脳や脊髄の神経が少しずつ壊れていく病気です。 英語の名前(Multiple System Atrophy)を短くして、MSAとも呼ばれます。
この病気になると、私たちが普段は意識しない体の自動調整が難しくなります。 例えば、以下のような体の働きに影響が出ることがあります。
- 体の動きのコントロール スムーズに動いたり、細かい作業をしたりすることが難しくなります。
- 体のバランス ふらつきやすくなり、転びやすくなることがあります。
- 血圧の調整 立ち上がった時に、急に血圧が下がりめまいを起こしやすくなります。
- 呼吸の調整 寝ている時に呼吸が止まったり、いびきが大きくなったりします。
- 排尿のコントロール トイレが近くなったり、逆に出にくくなったりします。
脳の中でも特に、体の動きをなめらかにする「大脳基底核」や、 バランスを保つ「小脳」などが影響を受けやすい部分です。 これらの神経細胞に「α-シヌクレイン」というたんぱく質が溜まります。
症状がパーキンソン病と似ているため、診断がとても難しい病気の一つです。 そのため診断を助けるための研究が世界中で進められています。 最近では、脳に磁気の刺激を与える検査(TMS)が注目されています。 この検査により、脳の活動を抑える機能が弱まっていることが、 多系統萎縮症の診断に役立つ可能性が示されています。
多系統萎縮症の種類
多系統萎縮症は、最初にどのような症状が目立つかによって、主に2つの種類に分けられます。 しかし、どちらのタイプで始まったとしても、病気が進行すると両方の症状が現れます。 立ちくらみや排尿の問題などの自律神経症状は、共通して見られるのが特徴です。
パーキンソン症状が目立つタイプ(MSA-P)
パーキンソン病と似た症状が中心に現れるタイプで、「MSA-P」と呼ばれます。 主な症状には、以下のようなものがあります。
- 動作がゆっくりになる 着替えや食事など、日常のあらゆる動きが遅くなります。
- 筋肉がこわばる 手足が硬くなり、スムーズに動かしにくくなります。
- 体のバランスがとりにくい 歩行が不安定になり、転びやすくなります。
パーキンソン病とよく似ていますが、手足のふるえは比較的少ない傾向にあります。 また、パーキンソン病の治療薬が効きにくいことも特徴の一つです。 最近の研究では、このタイプの患者さんの脳を特殊な磁気で調べる検査により、神経の活動を抑える「ブレーキ役」のGABA(ギャバ)という物質の働きが弱まっている可能性が指摘されています。
小脳症状が目立つタイプ(MSA-C)
体のバランスを保つ「小脳」の働きが弱くなることで、様々な症状が現れます。 このタイプは「MSA-C」と呼ばれています。 具体的な症状は以下のとおりです。
- ふらつきが強い まっすぐに歩くことが難しく、千鳥足のようになります。
- ろれつが回りにくい 言葉がもつれてしまい、はっきりと話すことが難しくなります。
- 手足の動きがぎこちない コップを取ろうとして通り過ぎるなど、距離感がつかみにくくなります。
最初はどちらかの症状が目立ちますが、発症から約5年が経つと、多くの場合でパーキンソン症状と小脳症状の両方が現れ、症状が似てくる傾向にあります。
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種類 |
主な症状 |
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MSA-P(パーキンソン症状型) |
・動きが遅い ・筋肉のこわばり |
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MSA-C(小脳症状型) |
・ふらつき ・ろれつが回らない |
どのタイプであっても、早期に神経内科の専門医に相談し、適切なサポートを受けることが大切です。
多系統萎縮症の原因
多系統萎縮症がなぜ起こるのか、その詳しい原因はまだ研究の途中です。 しかし、脳の中で起きているいくつかの変化が関係していると考えられています。
現在、主な原因と考えられているのは、脳の神経細胞の異常です。 細胞の中に「α-シヌクレイン」という、特殊なたんぱく質が溜まります。 このたんぱく質が異常な形で溜まると、神経の働きを邪魔してしまいます。 その結果、脳の特定の部分が少しずつ縮んでしまうのです。
特に、以下の部分の神経細胞が影響を受けやすいことがわかっています。
- 基底核(きていかく) 体の動きをなめらかにする場所
- 小脳(しょうのう) 体のバランスを保つ場所
- 脳幹(のうかん) 血圧や呼吸など、生命を維持する自動調整を行う場所
また、脳の情報のやり取りにも問題が起きていることが指摘されています。 最近の研究では、脳の興奮を抑える「ブレーキ役」の物質(GABA)の働きが、 パーキンソン症状が強いタイプの患者さんで弱まっている可能性が示されました。
親から子へ遺伝する可能性は、非常にまれです。 一部では、特定の化学物質などが関係する可能性も考えられていますが、 まだはっきりと証明されているわけではなく、研究が続けられています。
多系統萎縮症の症状
多系統萎縮症は、脳のどの部分が影響を受けるかによって症状が変わります。 症状は大きく分けて、以下の3つのグループに分類されます。
- パーキンソン症状 動きが鈍くなる、筋肉がこわばるなど
- 小脳症状 体のバランスがとりにくくなる、ろれつが回らないなど
- 自律神経症状 立ちくらみや排尿のトラブルなど
最初はどれか一つの症状から始まることが多いです。 しかし、病気が進むにつれて、これらの症状が合わさって現れるようになります。
パーキンソン症状
パーキンソン病と似た症状で、体のスムーズな動きが難しくなります。 着替えや食事など、日常のあらゆる動きが遅くなるのが特徴です。
- 動作がゆっくりになる(動作緩慢)
- 筋肉が硬くなり、手足が動かしにくい(筋強剛)
- 歩くときに足が出にくくなる(すり足)
- 手がふるえる(振戦)
最近の研究では、脳の働きを抑える「ブレーキ役」の物質(GABA)の機能が、 このタイプの患者さんで弱まっている可能性が示唆されています。 このブレーキが効きにくくなることで、動きの調整が難しくなると考えられます。
小脳症状
体のバランスを保つ「小脳」の働きが悪くなることで起こる症状です。 まっすぐに歩くことが難しくなり、千鳥足のようになることもあります。
- ふらついて、まっすぐ歩くのが難しい
- 話すときにろれつが回らない
- 物をつかもうとすると、手が震えたり通り過ぎたりする
コップの水をこぼしてしまったり、字がうまく書けなくなったりします。 細かい作業が苦手になるなど、生活の中で不便を感じることが増えます。
自律神経症状
体を自動で調節する自律神経の働きに問題が生じます。 この症状は、病気の比較的早い段階から現れることが多いのが特徴です。 特に睡眠中の大きないびきや呼吸の乱れは、重要なサインの一つです。
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症状の種類 |
具体的な例 |
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血圧の調節 |
急に立ち上がると強いめまいや立ちくらみがする(起立性低血圧) |
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排尿の悩み |
・トイレが近くなる(頻尿) ・尿がもれる(尿失禁) ・尿が出にくくなる(尿閉) |
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その他の症状 |
・頑固な便秘 ・汗をかきにくくなる ・声がかすれる、いびきが大きくなる ・夢を見て大声を出す、手足を動かす |
これらの症状は生活の質に大きく影響を及ぼします。 気になる症状があれば、早めに神経内科の医師に相談することが大切です。
多系統萎縮症の検査・診断
多系統萎縮症の診断は、症状がパーキンソン病と似ているため、非常に慎重に行われます。 一つの検査だけで診断することは難しく、医師による問診や診察、複数の検査結果を総合的に判断します。
まず、医師が症状の経過や体の状態を詳しくお聞きし、神経の状態を丁寧に診察します。 その上で、診断の助けとするために、主に以下のような検査が行われます。
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検査の種類 |
何を調べるか |
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画像検査(MRI) |
脳の形を詳しく見ます。特にバランスを司る小脳や脳幹が、年齢に比べて小さくなっていないかを確認します。 |
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自律神経の検査 |
立ちくらみ(起立性低血圧)の有無や、汗のかき方、膀胱の働きを調べ、自律神経の機能低下を評価します。 |
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筋電図検査 |
肛門の筋肉(括約筋)の働きを電気信号で調べます。この検査で異常がなければ、他の病気の可能性が高まります。 |
これらの検査に加えて、診断の精度を高めるための新しい検査も研究されています。 その一つが、頭に磁気の刺激を与えて脳の働きを調べる「経頭蓋磁気刺激法(TMS)」です。
最近の研究では、このTMS検査によって、多系統萎縮症の患者さんで脳の活動にブレーキをかける機能が弱まっている可能性が示唆されています。 特にパーキンソン症状が強いタイプでは、この傾向が見られることがわかってきました。
このように、様々な角度から体を調べることで、より正確な診断につなげていきます。 気になることがあれば、どんな小さなことでも医師にお伝えください。
多系統萎縮症の治療
現在のところ、多系統萎縮症を完全に治す治療法はまだ見つかっていません。 そのため治療の目標は、現れている症状を和らげる対症療法が中心となります。 できるだけ穏やかな日常生活を送れるようにサポートすることが治療の目的です。 治療は、お薬による治療とリハビリテーションなどを組み合わせて行います。
症状ごとの治療法は、主に以下のようになります。
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症状の種類 |
主な治療法や対処法 |
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パーキンソン症状 (動きが遅い、筋肉が硬くなるなど) |
・筋肉の力や柔軟性を保つためのリハビリ ・パーキンソン病の治療薬(レボドパなど) ※効果には個人差があります。 |
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起立性低血圧 (立ちくらみ、めまい) |
【生活習慣の工夫】 ・急に立ち上がらず、ゆっくり動く ・水分や塩分を適切にとる ・弾性ストッキングを着用する 【お薬による治療】 ・血圧を安定させるお薬 |
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排尿のトラブル (尿が出にくい、もれるなど) |
・膀胱の働きを助けるお薬 ・ご自身で管を使って尿を出す「自己導尿」 |
これらの治療と並行して、新しい治療法の開発に向けた研究も進んでいます。 最近の研究では、脳の働きを調べるTMS(経頭蓋磁気刺激法)という検査が、 治療法の開発にも役立つのではないかと期待されています。
この検査により、パーキンソン症状が強いタイプの患者さんでは、 脳の興奮にブレーキをかける神経(GABA作動性神経)の働きが、 弱まっている可能性が示されました。 この発見が、未来の新しい治療薬の開発につながることが期待されています。 治療は多岐にわたるため、神経内科の専門医とよく相談することが大切です。 一人ひとりの症状に合わせた計画を立てていきましょう。













