外傷性白内障

スポーツ中の衝突や転倒など、日常に潜む「目のケガ」。その時は何ともなくても、数年後、ときには10年以上も経ってからあなたの視力を静かに奪う「外傷性白内障」の原因になるかもしれません。

この病気は加齢と無関係なため、お子さんや若い世代にも発症します。ある研究では、目を強くぶつけた子どもの15.2%が、将来的に緑内障を合併したと報告されています。ケガしたことすら忘れた頃に、深刻な症状として現れるのがこの病気の怖いところです。

この記事では、外傷性白内障の知られざるリスクや、お子さんの治療で特に注意すべき点を詳しく解説します。過去のケガに心当たりがある方、そしてお子さんを持つ保護者の方は、ぜひご一読ください。

外傷性白内障の概要

目に強い衝撃が加わる「ケガ」が原因で起こる白内障があります。 私たちの目の中には、カメラのレンズの役割を持つ水晶体があります。 この本来は透明な組織が、ケガのダメージで白く濁る状態です。

年を重ねることで進む白内障とは違い、年齢に関係なく起こります。 スポーツ中の衝突や転倒など、思いがけない事故がきっかけです。 そのため、お子さんや若い方でも発症する可能性がある病気です。

ケガの直後から視界がかすむこともあれば、注意すべき点もあります。 それは、数年から10年以上経ってから症状が現れる場合があることです。 ケガを忘れた頃に、視力低下として自覚することも珍しくありません。

治療では手術を行いますが、特にお子さんの場合は注意が必要です。 ある研究では、子どもの白内障手術後に合併症が起こりうると報告されています。 例えば、眼圧が上がる緑内障を発症するリスクがあることが分かっています。 体の成長と共に視力も変わるため、長期的な観察がとても大切になります。

外傷性白内障の種類

外傷性白内障は、原因となったケガの種類によって2つに分けられます。 どのようなダメージが目に加わったかで、水晶体の濁り方や治療も異なります。 ケガのタイプを正しく知ることは、適切な治療への第一歩です。

種類

ダメージのタイプ

具体的な例

鈍的外傷<br>(どんてきがいしょう)

目に物が強くぶつかる

・ボールが当たる<br>・転んで目を打つ

穿孔性外傷<br>(せんこうせいがいしょう)

鋭いものが目に刺さる

・ガラスの破片が飛ぶ<br>・金属片が目に入る

鈍的外傷(どんてきがいしょう)

ボールがぶつかるなど、目に強い衝撃が加わって起こるタイプです。 この衝撃で、水晶体を支える細い糸(チン小帯)が切れることがあります。 また、水晶体を包む袋(水晶体嚢)に傷がつき、濁りの原因になります。 衝撃は目に見えない部分にまで影響を及ぼすため、注意が必要です。

穿孔性外傷(せんこうせいがいしょう)

ガラス片や金属片などが目に刺さり、水晶体を直接傷つけるタイプです。 目の表面だけでなく、奥深くの組織までダメージが及ぶ危険があります。 ある研究では、目に金属片が刺さった場合の治療法が報告されています。 ケガの状態に応じて、手術で水晶体をどう扱うかが変わってきます。 例えば、以下のような3つの選択肢が考えられます。

  • 水晶体を残せる場合 水晶体へのダメージが少なく、異物のみを取り除けるケースです。
  • 水晶体のみを取り除く場合 外傷による白内障が起きており、水晶体の袋は残して手術します。
  • 水晶体と袋を両方取り除く場合 ダメージが水晶体全体と袋にまで及んでいる深刻なケースです。

このように、ケガの状況を正確に診断し、最適な治療法を選ぶことが大切です。

外傷性白内障の原因

外傷性白内障は、その名の通り「ケガ」が原因で起こります。 年齢を重ねて進む白内障とは違い、事故やスポーツがきっかけです。 そのため、活動的なお子さんや若い世代にも起こりうる病気です。

原因となる目のケガは、主に2つのタイプに分けられます。 それぞれ水晶体が濁る仕組みや、注意すべき点が異なります。

ケガの種類

ダメージのタイプ

具体的な例

鈍的外傷<br>(どんてきがいしょう)

目を強くぶつける

・スポーツ中のボール<br>・転んで顔を打つ<br>・事故での衝突

穿孔性外傷<br>(せんこうせいがいしょう)

鋭いものが刺さる

・ガラスや金属の破片<br>・木の枝が目に当たる<br>・カッターなどの刃物

特に注意したいのは、ボールがぶつかるなどの「鈍的外傷」です。 この衝撃は目に見えない部分まで伝わり、後から問題を起こします。 小児を対象としたある研究では、非常に重要な点が示されました。 目を強くぶつけたケガの方が、ものが刺さるケガよりも、 将来、緑内障を発症するリスクが高いことが報告されています。

その研究によれば、目を強くぶつけたお子さんのうち、 15.2%が追跡期間中に緑内障を発症したとされています。 ケガの直後だけでなく、数年後の合併症にも注意が必要です。

一方、穿孔性外傷は、ガラス片などが目に刺さるケガです。 異物が水晶体を直接傷つけ、そこから濁りが生じます。 傷口から細菌が入り、感染症を起こす危険性も伴います。 どちらのケガであっても、速やかに眼科を受診してください。

外傷性白内障の症状

目にケガをした後、見え方に変化があれば注意が必要です。 それは外傷性白内障のサインかもしれません。 症状の現れ方は、ケガの重さや場所によって人それぞれです。

代表的な症状には、以下のようなものがあります。

  • 視力の低下 水晶体の濁りにより、視界がかすんだり、ぼやけたりします。
  • 羞明(しゅうめい) 濁った水晶体の中で光が散乱し、光を異常にまぶしく感じます。
  • 複視(ふくし) ものが二重、三重に見えることがあります。

これらの症状は、ケガの直後だけでなく、忘れた頃に現れることも。 数カ月から、ときには10年以上経ってから自覚するケースもあります。

特に注意したいのは、目の強い炎症を伴う症状です。 ケガの衝撃で、水晶体を包む袋(水晶体嚢)に破れが生じることがあります。 すると袋の中身が漏れ出し、強い炎症(ぶどう膜炎)を起こします。 その結果、目の痛みや充血、急激な視力低下につながるのです。

この水晶体の袋の小さな破れは、実は診断が難しい場合があります。 ある研究では、通常の診察で破れが確認できたのは20%でした。 しかし、超音波生体顕微鏡(UBM)という専門的な検査を用いると、 より高い精度で袋の破れを発見できることが報告されています。

過去の目のケガに心当たりがあり、少しでも見え方が気になったら、 自己判断はせず、必ず眼科で詳しい検査を受けてください。

外傷性白内障の検査・診断

目にケガをした後、少しでも見え方がおかしいと感じたら、必ず眼科で検査を受けましょう。 ケガによるダメージは、目に見えない部分に隠れていることがあるため、詳しく調べることが大切です。

眼科では、まず以下のような基本的な検査で目の状態を確認します。

  • 視力検査 ケガによって視力がどのくらい下がったかを正確に測ります。
  • 細隙灯顕微鏡(さいげきとうけんびきょう)検査 特殊な顕微鏡で目を拡大し、水晶体の濁りや傷を詳しく観察します。
  • 眼圧検査 目の硬さを測る検査です。ケガで眼圧が変動し、緑内障という別の病気を引き起こす危険がないかを確認します。
  • 眼底検査 目の奥にある網膜や視神経という大切な部分に出血などの異常がないかを調べます。

しかし、これらの検査だけでは診断が難しいケースもあります。 特に、水晶体を包む袋(水晶体嚢)にできた、ごく小さな破れです。 この袋が破れると、中身が漏れて目に強い炎症(ぶどう膜炎)を起こし、痛みや急激な視力低下につながります。

ある研究では、通常の診察でこの袋の破れを発見できたのはわずか20%でした。 しかし、手術時に確認すると、実際には約88%の患者さんで破れが見つかっています。 この見つけにくい破れを診断するために、非常に有効な検査があります。 それが「超音波生体顕微鏡(UBM)」という専門的な検査です。

UBMは、8割を超える高い精度で、隠れた袋の破れを見つけ出せることが分かっています。 この研究結果は、正確な診断のためにUBM検査がいかに重要であるかを示しています。 これらの検査結果を総合的に判断し、一人ひとりに合った治療計画を立てていきます。

外傷性白内障の治療

外傷性白内障の治療は、主に2つの方法があります。 進行を遅らせる「薬物療法」と、根本的に治す「手術」です。

けがが軽く、視力にほぼ影響がない場合は点眼薬を使います。 薬で進行をゆるやかにすることはできます。 しかし、一度濁った水晶体を透明に戻すことはできません。

そのため、視力が下がり生活に不便を感じるようになれば、 濁った水晶体を取り除き、人工のレンズを入れる手術を行います。

手術による治療

手術は、濁った水晶体を取り除き、代わりの人工レンズを入れます。 この人工レンズを「眼内レンズ」と呼びます。 手術の時期は、見えにくさの程度によって決めるのが一般的です。

ただし、以下のような場合は早めに手術を検討する必要があります。

早めに手術を検討するケース

白内障が原因で、緑内障など他の目の病気を引き起こしている場合

目の奥にある網膜などの検査や治療のさまたげになっている場合

鋭いものが刺さるなど、重いけが(穿孔性外傷)の場合

特にお子さんが手術を受ける際は、大人とは違う注意が必要です。 体の成長とともに目の大きさや形も変わり、視力も変化するためです。

ある研究では、子どもの白内障手術後の視力の変化が報告されました。 手術を受けた年齢が若いほど、将来、近視が強くなる傾向があります。 例えば、手術時の年齢ごとの5年間の近視の進み具合は以下の通りです。

  • 0歳未満で手術した場合 平均で約-6.0D(ディオプター)も近視が進むことが示されました。
  • 7〜13歳で手術した場合 平均で約-0.8Dの近視化にとどまりました。

ディオプターはメガネの度数のようなもので、数字が大きいほど強い近視です。 このため、お子さんの場合は将来の成長を見越してレンズを選ぶ必要があります。 どの度数のレンズを入れるか、長期的な視点で慎重に判断することが大切です。