外傷性くも膜下出血

「くも膜下出血」と聞くと、突然命を落とす危険な病気を想像する方が多いでしょう。しかし、交通事故や転倒などで頭をぶつけることでも起こる「外傷性くも膜下出血」は、頭部外傷でCT検査を受けた方の実に45.3%に見られる、決して珍しくない状態です。

この外傷性のものは、血管のこぶが破裂するタイプとは性質が異なります。しかし、本当に注意すべきは、ケガの直後ではなく、数日経ってから現れる合併症です。脳の血管が異常に細くなり、脳梗塞のような後遺症を引き起こす危険も潜んでいます。

この記事では、外傷性くも膜下出血の正しい知識と、見逃せない症状、治療法について詳しく解説します。あなたと大切な人を守るため、ぜひご一読ください。

外傷性くも膜下出血の概要

頭を強くぶつけると、脳の表面で出血が起こることがあります。 これが「外傷性くも膜下出血」と呼ばれる状態です。

私たちの脳は、複数の膜によって大切に守られています。 その膜の一つである「くも膜」と脳とのすき間に出血が広がります。

この病気は、頭部外傷において決して珍しいものではありません。 ある大規模な研究では、頭をぶつけてCT検査を受けた方のうち、 実に45.3%に外傷性くも膜下出血が見られたと報告されています。 これは頭部外傷で最も多く見つかる異常所見の一つです。

また、頭蓋骨の骨折や脳自体の打撲(脳挫傷)など、 他のケガと同時に見つかることも少なくありません。

「くも膜下出血」と聞くと、脳の血管にできたこぶが破裂する、 命に関わる病気を想像する方が多いかもしれません。 しかし、外傷によるものとは原因や性質が大きく異なります。

外傷性くも膜下出血

脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血

主な原因

頭を強くぶつけるなどの外傷

脳の血管にできたこぶの破裂

出血する血管

主に血圧の低い「静脈」など

血圧が高い「動脈」

出血の量

少ない傾向にある

多くなる傾向がある

このように、出血する血管の種類が違うため、出血量も異なります。 その結果、症状の現れ方や治療法も変わってくるのです。

外傷性くも膜下出血の種類

くも膜下出血は、原因によって大きく2つの種類に分けられます。 頭をぶつけるケガが原因の「外傷性」と、そうでない「非外傷性」です。

この2つは出血する血管や量、そして重症度が大きく異なります。 それぞれの特徴を正しく理解しておくことが重要です。

種類

外傷性くも膜下出血

非外傷性くも膜下出血

主な原因

頭部のケガ(交通事故、転倒など)

脳動脈瘤の破裂など

出血する血管

主に脳表面の細い静脈

主に脳深部の太い動脈

出血量

少ない傾向にある

多くなる傾向がある

重症度

軽症で済むことも多い

重篤になりやすい

外傷性の場合、主に血圧の低い「静脈」から出血します。 そのため、出血量は比較的少なく、症状が出ないこともあります。

一方、非外傷性の多くは、脳の深い部分にある動脈のこぶ(脳動脈瘤)が破裂して起こります。 動脈は血圧が高いため、一度破れると激しく出血しやすいのです。

また、同じ外傷性くも膜下出血でも、ケガの程度によって状態は変わります。 ある研究では、中等度から重度の頭部外傷を負った場合、 軽症の場合と比べて、脳内の損傷パターンがより複雑になると報告されています。 脳挫傷など、他の損傷を合併する頻度も高くなる傾向があります。

外傷性くも膜下出血の原因

この病気の原因は、その名の通り頭への強い物理的な衝撃です。 私たちの脳は「くも膜」という薄い膜で、優しく包まれています。

この膜と脳の間には「くも膜下腔(くもまくかくう)」という空間があります。 頭を強くぶつけると、この空間を走る細い血管が傷ついてしまいます。 その結果、出血が起こり、血液が空間内に広がってしまうのです。

具体的には、以下のような出来事が原因となる可能性があります。

  • 交通事故
  • 自動車やバイク、自転車に乗っている際の事故が挙げられます。
  • 転倒・転落
  • 階段から落ちたり、高い場所から転落したりするケースです。
  • スポーツ中のケガ
  • ラグビーやボクシングなど、頭に衝撃を受けやすいスポーツです。
  • 暴力
  • 頭を殴られるなどの行為によっても引き起こされます。

注意すべきは、ケガの直後だけが危険なわけではない点です。 頭を打った衝撃が引き金となり、後から別の問題が起こることがあります。

その一つが「血管攣縮(けっかんれんしゅく)」という状態です。 これは脳の血管がけいれんするように異常に細くなる現象を指します。 ある研究では、ケガをしてから平均8.4日後に見つかると報告されています。

血管が細くなると、脳への血流が不足し、脳細胞が傷つくこともあります。 まれに、外傷で血管にこぶ(仮性動脈瘤)ができ、後日破裂する場合もあります。 このように、直接的な衝撃と、その後の体の反応が原因となるのです。

外傷性くも膜下出血の症状

頭をぶつけた後の症状は、出血の量や場所によって様々です。 出血がごくわずかなら、何も症状が出ないこともあります。

しかし、出血の量が増えるにつれて、次のようなサインが現れます。 これらは、頭の中の圧力が高まることで起こる症状です。

  • 頭痛
  • だんだん強くなる、ガンガンするような痛みが特徴です。
  • 吐き気・嘔吐
  • 気持ちが悪くなり、実際に吐いてしまうこともあります。
  • 意識がぼんやりする
  • 眠たい感じが続いたり、呼びかけへの反応が鈍くなったりします。

特に注意が必要なのは、ケガをしてから時間が経って現れる症状です。 「脳血管攣縮(のうけっかんれんしゅく)」という危険な状態があります。 これは、脳の血管がけいれんするように、異常に細くなる現象です。

ある研究では、ケガをしてから平均8.4日後に見つかると報告されています。 血管が細くなると、脳に十分な血液が行き渡らなくなり大変危険です。 実際に、この状態になった人のうち約57%に、 脳への血流不足が見つかったというデータもあります。

脳血管攣縮が起こると、以下のような新たな症状が現れることがあります。

  • 手足のまひや、しびれ
  • 言葉がうまく話せなくなる
  • 意識の状態がさらに悪化する

出血が非常に多い場合、脳全体が強く圧迫されることがあります。 これを「脳ヘルニア」と呼び、命に関わる非常に危険な状態です。 呼吸が止まってしまうこともあるため、一刻を争います。

頭をぶつけた直後に症状がなくても、決して油断はできません。 慎重に様子を見て、少しでも異変を感じたら医療機関を受診しましょう。

外傷性くも膜下出血の検査・診断

頭を強くぶつけた後、外から見えない脳の状態を調べることは非常に大切です。 外傷性くも膜下出血が疑われる場合、主にCT検査によって診断を進めます。

CT検査は、X線を使って頭の中を輪切りのように撮影する検査です。 短時間で脳に出血があるか、どこに、どれくらい出血しているかを確認できます。 実際に、ヨーロッパの大規模な研究では、頭部外傷でCT検査を受けた方のうち、 実に45.3%にこの出血が見られたと報告されています。 このことからも、頭を打った後のCT検査は非常に重要と言えるでしょう。

しかし、診断はCTの画像だけで決まるわけではありません。 私たちは、パズルのピースを組み合わせるように、情報を集めて総合的に判断します。

  • 問診 いつ、どこで、どのように頭を打ったのか、詳しくお話を聞きます。
  • 診察 意識がはっきりしているか、手足のまひはないかなどを確認します。
  • 画像所見 CTで確認された出血の広がり方などを、専門的な視点で分析します。

特に、ケガが原因ではない、より重篤なくも膜下出血と見分けることが重要です。 CT画像だけでは、両者の区別が難しいこともあるためです。 そのため、事故の状況などを詳しくお聞きすることが、正しい診断につながります。

場合によっては、「造影剤」というお薬を注射しながらCTを撮影し、 脳の血管の状態をより詳しく調べることもあります。 これらの検査を組み合わせ、的確な診断と治療方針を決定していくのです。

外傷性くも膜下出血の治療

外傷性くも膜下出血の治療は、出血の量や他のケガの状態で決まります。 出血がごくわずかな場合は、安静にして経過を観察することが基本です。 脳が自然に出血を吸収するのを待ち、他のケガの治療を優先します。

しかし、本当に注意が必要なのは、ケガの後で起こる合併症です。 それが「脳血管攣縮(のうけっかんれんしゅく)」という危険な状態です。 ある研究では、ケガをしてから平均8.4日後に見つかると報告されています。

これは脳の血管がけいれんするように、異常に細くなってしまう現象です。 血管が細くなると、脳に十分な血液が届かなくなり、脳細胞が傷つきます。 この状態を「遅発性脳虚血(ちはつせいのうきょけつ)」と呼びます。

実際に、血管攣縮が起きた方の約57%に、この脳虚血が見られたというデータもあります。 脳梗塞のように、手足のまひや言葉の障害といった症状が現れるのです。 このような症状が出た場合、専門的な治療をすぐに開始する必要があります。

  • 内科的治療 点滴などのお薬を使い、脳の血流を保ちます。 また、血圧を適切に管理して、脳への負担を減らします。
  • 血管内治療 足の付け根などからカテーテルという細い管を血管に入れます。 脳の血管まで直接お薬を届けたり、風船で血管を広げたりします。

これらの治療は、症状を伴う脳血管攣縮に対して有効な場合があります。 もし後遺症が残った場合は、リハビリテーションが治療の中心です。 最近では、神経の再生をうながす再生医療とリハビリを組み合わせる、 新しい治療も選択肢として考えられています。