外リンパ瘻

突然の難聴やめまいに襲われ、原因がわからず不安を感じていませんか。外リンパ瘻は、くしゃみや頭部外傷などをきっかけに内耳の液体が漏れ出し、聞こえや平衡感覚に異常をきたす病気です。

国内の年間発症数は約1万人と推測され、真珠腫性中耳炎の患者さんの約7%に合併するとも報告されています。この記事では、外リンパ瘻の原因や特徴的な症状、検査から治療までの流れを詳しく解説します。

ご自身の状況と照らし合わせることで、症状への理解が深まり、早期受診や適切な治療に向けた次の一歩を踏み出すきっかけになるでしょう。

外リンパ瘻の概要

外リンパ瘻とは、音を感じ取る「内耳」と鼓膜の奥にある「中耳」を隔てる膜(正円窓膜・卵円窓膜)に穴が開き、内耳の液体(外リンパ液)が漏れ出してしまう病気です。

この外リンパ液は、聞こえや体のバランスを保つうえで欠かせない働きをしています。そのため、液体が漏れ出すことで内耳の機能が乱れ、突然次のような症状が現れます。

・突然の難聴(片方の耳に起こることが多い)

・めまい、ふらつき

・耳鳴り

・耳が詰まった感じ(耳閉感)

真珠腫性中耳炎など、中耳の病気が進行して骨の壁に穴が開くことで発症するケースもあります。実際に、真珠腫性中耳炎の患者さんの約7%に、骨の壁に穴が開くタイプの外リンパ瘻(迷路瘻)が見られたという報告もあります。※

国内の年間発症数は約1万人と推測されており、決して稀な病気とはいえません。症状の改善には早期の診断と治療が大きく関わるため、異変を感じたら速やかに専門医へ相談することが大切です。

外リンパ瘻の種類

外リンパ瘻は、その原因や発症のきっかけによって、主に4つのタイプに分けられます。最も多いのは、はっきりした原因がわからない「特発性」で、全体の約45%を占めると報告されています。

ご自身の症状がどのタイプに近いかを知ることは、診断の手がかりとなります。それぞれの特徴を、下表に整理しました。

種類 | 主な原因・きっかけ | 補足

ケガや病気が原因のもの | ・頭部外傷 ・耳の病気 ・耳の手術 | ・特に真珠腫性中耳炎が進行し、内耳の骨の壁に穴が開くことで生じるタイプは「迷路瘻(めいろろう)」と呼ばれます。 ・ある研究では、真珠腫性中耳炎の患者さんの約7%にこの迷路瘻が合併し、そのうちの9割は体のバランスに関わる外側半規管に発生したと報告されています。※

外からの圧力が原因のもの(圧外傷性) | ・ダイビング ・飛行機の離着陸 ・爆風 | ・外部からの急激な気圧の変化が、内耳と中耳を隔てる薄い膜に強い負担をかけ、破れてしまうことで起こります。

体の中からかかる圧力が原因のもの(内因性) | ・くしゃみ、咳 ・強く鼻をかむ ・重い物を持ち上げる ・排便時のいきみ | ・日常生活の何気ない動作で体の中から耳に強い圧力がかかることでも発症します。

原因が特定できないもの(特発性) | 明確な原因やきっかけがない | ・外リンパ瘻の中で最も多く、約半数を占めると考えられています。 ・明らかなきっかけがなくても、突然発症する可能性があることを示しています。

このように原因は多岐にわたるため、発症したときの状況をできるだけ詳しく医師に伝えることが、正確な診断への近道です。

外リンパ瘻の原因

外リンパ瘻は、耳の中の圧力が急激に変化することで、内耳と中耳を隔てる薄い膜に穴が開いて発症します。

原因として最も多いのは、きっかけが特定できない「特発性」で全体の約45%を占めますが、それ以外は日常生活の何気ない動作から耳の病気まで、さまざまなきっかけが報告されています。

具体的には、以下のようなきっかけで耳の圧力が高まり、発症につながると考えられています。

体の中からかかる圧力

・くしゃみ、咳

・強く鼻をかむ

・排便や出産時のいきみ

・重い物を持ち上げる動作

外からの衝撃や気圧の変化

・頭をぶつける、耳への平手打ち

・ダイビング(潜水・浮上)

・飛行機の離着陸

耳の病気や手術

・中耳炎、特に真珠腫性中耳炎

・耳周りの手術後

中でも注意したいのが、真珠腫性中耳炎が進行し、内耳の骨に穴が開いてしまう「迷路瘻(めいろろう)」という状態です。

ある研究報告によると、真珠腫性中耳炎の患者さんの約7%にこの迷路瘻が合併し、その9割は体のバランスを保つ役割を持つ「外側半規管」に発生していました。※

このように、必ずしも特別な事故やケガだけでなく、日常のささいな動作が引き金になる可能性があります。ご自身の症状のきっかけに心当たりがないか、振り返ってみることが診断の一助となります。

外リンパ瘻の症状

外リンパ瘻の症状は、聞こえやバランスを保つ「外リンパ液」が漏れ出すことで、突然現れます。

代表的な症状は、主に以下の4つです。

・突然の難聴

・多くは片方の耳に起こります。

・めまい・ふらつき

・体がふわふわする浮遊感、ぐるぐる回る回転性のめまいのほか、歩行時のふらつきを感じることもあります。

・耳鳴り

・「ザーザー」「ゴーゴー」といった低い音のほか、「水が流れるような音」が聞こえるのが特徴的な症状の一つです。

・耳閉感(じへいかん)

・耳が詰まったような、圧迫されるような感覚を覚えます。

これらの症状には、外リンパ瘻ならではの変動パターンが見られます。

例えば、くしゃみや咳、鼻をかむ、排便でいきむといった動作をきっかけに症状が現れたり、悪化したりします。また、横になると症状が和らぎ、立ち上がると悪化するなど、姿勢によって症状の強さが変わるのも大きな特徴です。

なお、真珠腫性中耳炎が進行し、内耳の骨に穴が開くことで外リンパ瘻(迷路瘻)を発症するケースも少なくありません。ある研究では、真珠腫性中耳炎の患者さんの約7%に迷路瘻が合併し、その9割は体のバランスを司る「外側半規管」に発生していたと報告されています※。めまいの症状が強く出る背景には、このような病態が隠れている可能性があります。

外リンパ瘻の検査・診断

外リンパ瘻の診断は、症状がメニエール病など他の耳の病気と似ているため、慎重な判断が求められます。そのため、丁寧な問診と複数の検査結果をパズルのように組み合わせ、総合的に診断を下していきます。

診断の出発点であり、最も重要なのが「問診」です。「いつ、何をしている時に」症状が始まったのか、くしゃみや鼻かみ、力仕事といったきっかけはなかったか、といった情報が診断の最大のヒントになります。

問診で外リンパ瘻が疑われた場合、診断を確定するために、以下のような検査を段階的に進めます。

・聴力検査・平衡機能検査

難聴の程度やタイプを調べたり、めまいが内耳の不調によるものかを客観的に評価したりします。

・瘻孔(ろうこう)症状の確認

耳に軽く圧力をかけ、めまいや特徴的な眼の動き(眼振:がんしん)が誘発されるかを見る検査です。外リンパ瘻に特有の反応がないかを確認します。

・CTP検査

耳だれ(耳漏)が出ている場合に限り行える検査です。採取した液体に、内耳にしか存在しない特殊なタンパク質が含まれているかを調べます。陽性であれば、外リンパ瘻である可能性が非常に高まります。

・画像検査(CT・MRI)

リンパ液の漏れそのものを画像で直接捉えるのは困難ですが、原因となりうる骨折や腫瘍、真珠腫性中耳炎などがないかを確認するために欠かせません。

特に、真珠腫性中耳炎が原因で外リンパ瘻が起きている場合、CT検査は瘻孔(穴)の正確な位置や大きさを把握するために役立ちます。この情報は、聴力をできる限り温存するための治療方針を立てるうえで極めて重要です。※

・試験的鼓室開放術

ここまでの検査を行っても診断が確定しない場合の「最終手段」として検討されるのが、手術による直接観察です。

内視鏡などを用いて鼓膜の奥(中耳)を実際に観察し、リンパ液が漏れている箇所を直接探します。もし漏れが見つかれば、その場で穴を塞ぐ治療も同時に行えるため、診断と治療を兼ねた方法といえます。

外リンパ瘻の治療

外リンパ瘻の治療は、まず安静を保って内耳の穴が自然に閉じるのを待つ「保存的治療」から始めます。この方法で改善が見られない場合や、症状が重い場合には「手術治療」を検討するのが基本的な流れです。

1. 保存的治療:まずは安静第一

治療の第一歩は、内耳にかかる圧力を下げ、リンパ液の漏れを止めるための安静です。症状が軽い場合は、これだけで穴が自然にふさがり、回復に向かうことも期待できます。

具体的には、以下のような方法で体を休めます。

・ベッド上安静

頭を少し高くした状態で横になり、内耳の圧力が上がらないようにします。

・生活指導

リンパ液の漏れを助長するおそれのある、以下のような動作を避けることが重要です。

・強く鼻をかむ

・くしゃみ、咳

・排便時のいきみ

・重い物を持ち上げる

・薬物療法

症状を和らげる目的で、内耳のむくみを取る薬や血流を改善する薬、めまいを抑える薬などが使われることがあります。

2. 手術治療:根本原因へのアプローチ

数日間の保存的治療を行っても症状が改善しない場合や、難聴やめまいが重く日常生活に大きな支障をきたしている場合には、手術が選択されます。

手術の目的は、リンパ液が漏れ出している原因の穴(瘻孔:ろうこう)を直接ふさぐことです。

・手術方法(瘻孔閉鎖術)

ご自身の筋膜や軟骨といった組織、あるいは医療用の接着剤を用いて、穴を丁寧に閉じます。

・原因疾患への対応

真珠腫性中耳炎が原因で内耳の骨に穴が開いている(迷路瘻)場合は、病気の再発を防ぐため、病巣を取り除く手術と同時に穴をふさぐことが標準的な治療として推奨されています。※

・聴力を守るための工夫

手術によって聴力が失われるリスクを心配される方もいるかもしれません。しかし、適切な手術を行えば、聴力を支える骨の伝わり(骨導聴力)は81%のケースで温存でき、完全に聞こえなくなる重度の難聴に至る頻度は5%と低いことが報告されています。※

さらに、聴力をできる限り守るため、手術中や手術後にステロイドの点滴を行うことも推奨されています。※

外リンパ瘻は、治療開始が早いほど聴力が回復しやすいことがわかっています。いずれの治療法を選ぶにしても、早期の診断と治療開始がその後の聞こえ方を大きく左右するといえます。